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高校デビューに失敗して異世界デビュー  作者: バイブルさん
10章 手と手を繋いで ~キセキ~
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219話 女勇者の邂逅

 懐かしい風景の中で美紅は立っていた。以前は起きてる時も寝てる時もよく夢見た場所であった。最近、徹と再会してから、まったくと言ってもいいほど見なくなっていた場所、徹と出会った境内に立っていた。


 美紅が見つめる先には、幼い頃の徹が鬼の幼い美紅から逃げるように一定の距離を取って走り続けながら、振り返る徹は優しい笑顔で幼い美紅を見つめているのを見て、目を細める。


 走る幼い徹に追い付けなくて無理したのが祟ったのか、石畳の浮いている所で足を引っかけてしまい、幼い美紅は転んでしまう。

 転んだ幼い美紅に気付いた幼い徹は駆け寄り、手を差し出す。幼い美紅はそれが嬉しくて、笑顔で手を取って何かを呟く。それを聞いた幼い徹は、騙されたっといった顔をすると今度は立ち位置が入れ替わり、幼い美紅が逃げ、幼い徹が追いかける形になった。


「こんな未来もあり得たかもしれない。そして・・・」

「絶対にないとは言わないが、その、もしもがあったとしても、その未来には辿りつけないだろうな。それは自分でも分かっているのではないか?」


 美紅は、誰っ!っと言って振り返るとそこには、剣道小町という言葉が似合いそうな切れ長な瞳の強き意思を持ち合わせていると思わせる美しい美紅より年上といった女性がいた。


 美紅の質問に答えず、歩き近寄ってくる女性は大きな胸を歩く度に揺らし、美紅は色んな意味で眉を揺らした。


「おそらく、徹とこんな事ができた世界があったとして、徹は幸せになれただろうか?この世界で確かに徹はお前を認めた、が、それが理由で徹は周りの者から距離を置かれて苦しい状況に成り得たとは思わないだろうか。お前を取り巻く世界は幼子が1人で変える事が容易な世界だったか?」


 相変わらず、こちらの話を聞く気がないのかっという女性の言葉だったが、言い返す言葉が見つからない。

 この女性の言う通り、そう長くない時間だけ幸せを噛み締めれるが、きっと徹を不幸にしてしまうっと美紅は理解していた。長く持たせられるとしても小学生になるまでであろう。徹があのような性格だから、小学校に行っても決して美紅を見捨てたりはしなかっただろうっと考えなくとも分かってしまう。だが、子供とは残酷である。自分の衝動を邪魔する者に対する報復は直接にしろ間接にしろ、遠慮せずにやってくる。美紅をサンドバックのようにして笑っていた少年達のように・・・


 それに歯を食い縛る徹をきっと美紅は見つめ続ける事は出来なかったであろうっと思う。自分から徹から距離を置き、また1人に戻る事を選んだろうと分かっていた。


 それでも人は夢を見たいのである、例え、それが言葉通りに儚いとしても・・・


「夢を見たらいけないと言うのですか?」


 核心を突かれて、怒りに染まりそうになりながら、激情を抑えて聞き返す美紅は目の前の女性の正体などどうでも良くなっていた。


「夢、大いに結構。だが、お前のは逃げだろう?」


 美紅を見る女性の瞳にまるで丸裸にされるかのような、何もかも見透かされているように思え、背筋がゾクっとさせられ、我が身、いや、心を護るように自分を抱き締める。

 怯みそうになる自分を奮い立たせるようにして、違うっと伝える。


「何が違うと言うのだ?実際に逃げているだろう?2代目勇者に届かず、敗れ、魔神と戦う心が折れ、こうやって起きようともせず、もしもの夢を眺めてるお前は逃げてないのか?」


 女性にそう言われて、美紅は言葉に詰まる。また何かを護るように身を縮ませる美紅に女性は更に言葉を繋げる。


「しかし、それもまた逃げる為の理由でしかない。本当のところは・・・」

「黙れ、黙れぇぇぇ!!!・・・お願いだから言わないでください」


 美紅は項垂れ、神に許しを請うように頭を垂れる。

 そうする美紅を見えてないかのように口を開く。


「自分が親友と呼ぶ少女に負けたっと思ってしまっている事から逃げている。いや、その少女が徹の心を占めていると思っている事から逃げているのだろう?」


 女性の言葉を聞いた美紅は声を洩らさず、ただ涙する。


 そう、美紅は勇者召喚の場所で徹から話を聞かされ、初代勇者とのやり取りを見ていて、気付いてしまった。徹の心にルナが宿っている事を。我が身を犠牲にしてでも徹を護りたい気持ちがそうさせたのか、徹に寄りそうルナを見た気がしたのだ。


 確かに、あの時はそれを眩しく思い、自分も負けてはいられないと思い、自分も歩き出そうと思った。でも、時間が経過すると徹の心に自分の席はもうないのでは?ルナが座る席しかないのではっと恐怖に彩られ始める。


 それでもっと気持ちを奮い立たせて、挑んだ2代目勇者との戦い。身命をかけて全力で挑むが結局は届かず、徹に助けられる始末。あんな大きな口を叩いたにも関わらず、今までの自分と何が違うっと言うのかと思わされると、奮い立ててた気持ちが渇いた音をさせて折れた。



「本来ならお前は既に目を覚ましている。だが、何故、起きるのを拒否するかなど、明白ではないか?確かに起きたところで、いつもの力は発揮する事はできなかったであろう。でも何もできない訳じゃないだろう?」


 もう反論も何もできなく、グゥの音も出ないとはこういう事かと乾いた笑いを浮かべようとして失敗する。


「とはいえ、私もお前を苛める為にやってきた訳ではないのだよ。私ならお前の力を上手に使い、徹の助けになってやれる。どうせ、起きずに逃げるなら、お前の体を私に預けないか?」

「貴方は、トランウィザードの何かですねっ!危うく騙されるところでした!!」


 トランウィザードの精神攻撃な何かかと判断した美紅であったが、女性は呆れた溜息を吐いて言ってくる。


「そう思いたい気持ちも分かるが、その者はもう既にこの世におらんよ。私はお前の前任者だよ」

「前任者?」


 少し、考え込む美紅であったが、どういう意味か理解に至り、びっくりしたような顔をみせる。


「気付いたようだな。私も勇者なのだよ。名を沙耶という。初めましてだな、後輩」


 最初にあれほど聞いても答えなかった自己紹介をここでやってくる。

 同じ勇者同士である為、そう言われて伺うと同じく勇者だと感覚的に美紅に真実だと伝えてくる。


「今、徹の中で世話になっている。といえ、世話になっているのは歴代勇者全員だがな」

「いつからです?もしかして、トオル君が仮死状態の時ですか?」


 そう言う美紅の言葉に沙耶は頷く。


 美紅はなるほどっと呟く。確かに洞窟で会った時の徹は違和感があった。ルナが逝った事でいつもと違うように見えただけかと納得させてきたが、どうやら、そういうカラクリがあったようだ。


「私は、歴代勇者の中でお前を除いた唯一の女だ。お前の体を扱うのにも遠慮がいらん上に、歴代勇者と魂で繋がっているから色んな知識、勇者の力の使い方などをお前より知っている。きっと徹の助けになるぞ?」


 沙耶の言葉に美紅は激しく揺らぐ。自分が目を覚まして、例え、徹の下へ駆け付けても出来る事など、たかが知れている。だが、目の前の沙耶の力を借りればより多く徹を助けられるっと心が傾く。


「これは徹にも話をしておらんのだが、私は相手の心を魅了する力がある。私に体を預ければ、私越しではあるが、徹の寵愛を欲しいがままに得れる。悪い話ではあるまい?」


 沙耶は、さぁ、私の手を取れ。それだけで契約は成るっと言って優しげな笑顔で美紅を見つめる。


 震える美紅の手が徐々に沙耶に近づいていく。


 これで、私の想いが叶うなら私の体など惜しくなどないと美紅は思う。飛び付くように手を握りたいっと思う傍ら、堰きとめる気持ちがある。それと戦うようにしてゆっくりとしか動けずいる。


 私は何に躊躇している?っと自分に呼び掛けるが明確な答えが得れない。

 沙耶の手を掴めっと自分自身に命令した時、自分の中で過る記憶が溢れだす。


 月夜のドワーフ国の広場で鍛冶ギルドから帰ってくるルナを待ち構えて、同盟を結んだあの夜、お互いの気持ちを伝えあい、自分が禁忌としたものを持ち出しても好きな男に着いていくと言った親友の横顔。


 徹が初代勇者に修行をつけて貰いに行く時に分かれて行動する事になった時にルナに伝えた言葉。Love と Like の違いに気付けてないピュアな親友に美紅は言った。


「私はトオル君のヒロインになりたい。でも、後ろでキャーキャー言ってるだけで護られるヒロインにはなりたくないし、なるべきでもない。私はトオル君と共に歩けるヒロインになりたいのです。ルナさんはどんなヒロインになりたいのですか?」


 あれほど、大きな口を叩いて、なりたくないっと言っていたヒロイン像になる為に手を取ろうとしている自分に激しい怒りを覚え始める。その上、同盟を結び、正々堂々とすると決めたのにも関わらず、安易に力で徹を手に入れようとする自分が許せなくて、歯を食い縛る。

 美紅は震えるように進ませてた手を止め、広げていた手を力強く握り締めると上げてた手を下ろす。


「どうした?私ならお前の望みを叶えてやれるんだぞ?」

「有難うございます。ですが、結構です。自分の願いは自分で叶えてみせます」


 美紅は毅然とした態度で沙耶を見つめ、迷いのない瞳で見つめて、はっきりと伝える。もう、この時点で美紅も気付いていた。沙耶は自分を試しにきている事に、そして、このお節介な先輩は駄目な後輩を立ち直らせるためにここにいると気付いた。

 その美紅を見つめる沙耶はこんな表情もできるんだっと思わせるほど優しげな顔をしていた。

 少し驚いた美紅であったが、背を向けて沙耶から離れていく。起きて徹の下へと向かう為に。


「徹は傷ついている。助けになってやってくれ」

「はいっ!えっと、後、魅了する力って本当にあるんですか?」


 振り返った美紅は少し未練を感じさせるように人差し指で髪を巻くようにして明後日の方向を見ながら聞いてくるのを見た沙耶はお腹を抱えて笑いながら答える。


「ある訳ないだろう?そんな便利な力があったら誰も苦労せんよ」


 騙されたっと顔に出し、人の夢って本当に儚いんですねっと呟くと今度は振り返らず歩き続けた。



 美紅は目を覚ますと天幕の天井が目に入る。

 自分の体内時計がおかしくなってないのであれば、後3,4時間後ぐらいで日の出の時間になりそうな深夜であると判断する。

 寝ていたベッドの上から降りて、 地面に立つと自分の体じゃないのかっと思ってしまうほど、思うように動けない事に驚く。

 自分の胸に手を添え、回復魔法を行使しながら天幕を出ると辺りを見渡すが誰もいないようだが、北のほうでは戦闘をしているような音がこちらまで聞こえてくる。


 北へと動かし辛い体で向かうと放置された馬を発見する。走れないなら馬を使って行こうっと思い、馬を引き寄せ、走らせる。

 とりあえずは勇者召喚の場所を目指そうと思う。そちらに進路を取らせると自分は少しでも戦えるようにと回復魔法に専念しながら、戦場を避けながら北へと向かった。

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