212話 決戦前夜
少し長すぎかな?2つに分けても良かったのですが、切りどころが難しかったので、読み辛いかもしれませんが、ご勘弁を・・・休み前の増量版という事で(;一_一)
気絶する美紅を抱えて、駐屯所にやってくると慌ただしく、ピリピリした空気が、広がっていた。入口に辿り着いた時、門兵に警戒をされ、抱き抱える美紅を見て、武器を構えられた時は少し慌てたが、片割れの兵士が俺の事を思い出してくれたので、穏便に済んだがあわやっといった具合に武器を振り翳されたかもしれない事態になっていたかもしれないと思うと汗を拭う思いだ。
兵士に、みんなが集まる場所へと案内されながら、中の状態を見ていくが、怪我人の数が想像以上に多くて、戦力と呼ぶには辛い状態ではないのだろうかっと感じる。
ある天幕の前に来ると兵士は立ち止まり、少々お待ちくださいと言うと、失礼しますっと天幕の中に呼び掛けると、入れっと言う男の声を聞いてから、中に入っていった。
おそらく、俺が来たけど、どうしましょう?って話と美紅が倒れた事を報告しにいっているのだろうと思い、待っていると急に中が騒然とした雰囲気に包まれたと思ったら勢いよく開き、ティティが飛び出してくる。
「兄様ぁ!本当に兄様です。あっ・・・」
一瞬嬉しそうな表情をしたと思ったら、美紅を見つめて、心配そうに覗き込むが安定した呼吸をしているのを見て、安心したようだが、意気消沈したように溜息が零れる。
ティティの後ろから、出てきたクリミア王女がやってくる。
「トール、来てくれた事は嬉しく思いますが、美紅は大丈夫なのですか?」
「ああ、命には別条はないが、俺の見立てが正しいなら、美紅は魔神戦では、戦う事はできないだろうな」
そうですかっと呟き、先程の兵士に、すぐに美紅が休める場所と医者の手配をと伝えると兵士は走って去っていくと、すぐに取って返すように別の兵士、女兵士がお預かりしますっと手を差し出すので俺は美紅を女兵士に預けて、頼むっと伝えた。
後ろから呼ばれたので振り返るとネリーが俺の後ろにいた。
「無事、合流出来た事は喜ばしいですが、事態は良くはありません。ご報告させて頂きますので、天幕の中へ」
嬉しい気持ちとそれを素直に喜べない気持ちが同居して複雑な表情を浮かべながら俺を天幕の中へと誘った。
中に入ると、エルフ王を始め、ガンツがおり、俺が会釈をすると弱々しい会釈を返される。後ろからティティとネリーが入ると自分の椅子に疲れたように座る。クリミア王女が俺の席を教えると自分も座る。俺もみんなに倣って腰を落ち着けて、皆の顔を見ていくと一様に疲れた表情をしていた。
「では、トール様。では、御報告させて頂きます。まず、現有戦力のお話からで、当初8000の人員を確保して駐屯しておりましたが、今日のお昼の時点で怪我人、死者を差し引いて、4500まで減らしてしまいました。そのうえ・・・」
「轟が来たか。どこまで削られた?」
沈痛な表情から、轟がやらかしたとは分かったが、あの表情から余り聞きたくない話のようだが、聞かないと進まないので先を促した。
「モノの30分ほどで1000の兵力を刈り取って行きました。美紅さんが飛び込んで、引き離してくれてなかったら全滅も有り得るほど、凄まじい力でした」
俺は頭を抱える。何やってんの?轟さん。遠慮も躊躇もする気なかったんだろうが、俺と戦うまで、少しは遠慮して欲しかったっと胸中で愚痴る。
ネリーが俺の様子を見て、少し聞きにくそうに聞いてくる。
「あの、話が前後するのですが、2代目勇者は?」
「轟は、俺と美紅で倒した。魔神側の戦力で轟の存在は考えなくていい」
「本当かね、トール殿?それが本当ならこちらの激減した戦力も頭が痛い話だが、魔神の加護を受けている者が1人になったのは大きい。それとトール殿が来たら聞きたいと思っていた事がある」
エルフ王は轟を下した事を喜びつつも不安要素があるっと呟き、俺を見つめてくる。隣にいるティティが、もしや、あの件ですか?と聞いているところを見て、もしかしたら、これかな?っと思うモノがあったので先に口にする。
「聞きたい事はトランウィザード対策ですか?」
「おおっ、さすがトール殿。既に対策はお持ちなのですかな?」
俺の言葉に希望の光を見たようにエルフ王は目を輝かす。周りにいるメンバーも腰を浮かせて、俺を凝視している。ガンツなど、ないとは言わさんっとばかりに睨んでくる。
「兄様、あるんですよね?対策が」
「あると言えばあるな。と言ってもアイツを異空間から引っ張り出してガチ勝負に持ち込む事ができるというだけで、勝負は戦ってみない事には分からん」
一様にホッとした表情をして各自座り直すが、クリミア王女が、そこは瞬殺だっと言ってくれてもいいのにっと言われるが、さすがに無茶ぶりだろうっと俺は苦笑いをした。
とはいえ、無策ではないというのは沈んでいた皆の希望に成り得たようで、俺も嬉しく思う。俺は左手首に触れて、感謝した。
「まあ、あの変態の対策はともかく、さっきから気になってたんだがテリアはどうしたんだ?」
「彼女なら医療班の手伝いに行ってくれてます。回復魔法が使えるので助かってます」
俺の質問にクリミア王女が答えて、後で顔を出してやってくださいっと言われて俺は頷く。。
そうか、テリアも頑張ってるんだなっと呟き、報告が途中だった事を思い出し、ネリーに続きを催促した。
「申し訳ありません。最近、明るいニュースがまったくなかったので浮かれてしまいました。まだ、予断を許さないというのに・・・すいません、続けます。今、戦える現有戦力は3500を切ってます。怪我人を見捨てる訳にはいきませんので、言い難い事ですが、魔神戦には参加できそうにもありません・・・」
ここで防衛戦するのが精一杯ですっと言われるが、俺もここに来るまでの様子を見ていて、もう戦うのも無理だろうっとは思っていた。防衛戦と言ってもそう長くは戦えないだろう。
落ち込む一同を励ます意味でも明るい情報を提供する。
「そう悲観するなよ。魔神戦は俺達に任せておけよ!」
「あの、兄様?俺達とおっしゃいましたが、兄様以外にどなたが?」
俺の言葉から俺が気付いて欲しいっと思っていた言葉にティティはしっかり気付いてくれて、心でありがとうっと伝える。
「まさか、美紅ですか?トールが言ったんじゃないですか!美紅は魔神戦には戦う事はできないだろうっと」
私達を守る為に、そこまで体を痛めた美紅に前線に出ろと言わせませんっと噛みつくように言ってくるクリミア王女だったが、組んだ手に顎を載せるようにして沈痛そうな表情をしながらエルフ王は言ってくる。
「酷いのは承知の上。それしか手がないのであれば、やって貰うしかありません。今回の魔神戦の負けは取り戻す事が叶わない戦いです。私達、人類の未来がかかっているのですから」
しかしっと言い募ろうとするクリミア王女の肩に俺は手を置く。
「クリミア王女の気持ちは至って自然で正しい事を言っているよ。それが人としてね。だけど、為政者としては、それでは駄目だ。エルフ王とて、業腹なんだ」
良く見てごらんっと俺はクリミア王女にエルフ王の手を目配せで伝えると目を見開いたクリミア王女は口に手を当てて息を飲む。エルフ王は握り過ぎて手の甲に爪が食い込み、血が流れていた。
俺達に見られている所を見て、今、そうなっている事に気付いたようでハンカチを取り出し、傷口にハンカチを当てると失礼っと苦笑いをする。
「為政者というのは、そういう事なのです。エルフ王のように情を挟まず、判断して進まないといけないのです。これからはクリミア王女もそうしていかなければならない立場になったのですよ。まあ、ドワーフ国は毛色が違うようですが?」
ネリーがクリミア王女にそう言うと、苦虫を噛み締めるようにして頷くクリミア王女と目を反らすガンツがいた。
「それはともかく、2人とも早とちりですよ。俺が言う、俺達というのは、和也、っと言っても通じないか、初代勇者とその共をした大魔法使いが一緒するという意味ですよ」
そう言うと本当に椅子を蹴るようにして全員が席を立つ。一同、話したい事が一杯と言った感じのようだが、口が思うように動かないようで、深呼吸しようとするが吐く事を忘れたように吸い続けて、混乱が深まる。
よく見るとビックリはしているがいつも通りなのが1人いた。ガンツである。
「ふむっ、美紅達から生きとるとは聞いておったが、敵ではないという認識止まりじゃったが初代勇者が味方してくれるのかの?」
「ああ、アイツはここから先は完全に俺達の味方と認識しても問題ないな。とは言っても、魔神戦にしか興味はないから、こちらがピンチになっても救援はアテにしないほうがいいだろうがな」
それで充分じゃろっとガンツは頷く。
他のメンバーも吐けばいいっとやっと気付いて、胸に溜まっている悪いモノも一緒に出て行けとばかりの大きな息を吐く。
一番最初に持ち直したティティが言ってくる。
「最悪、魔神戦が兄様だけになったら、どうしようっと悩んで、捻りだせる戦力を考えて絶望してましたが、初代勇者以上の援軍はありません。本当に良かった・・・」
堰を切ったようにして、ティティは俺に抱きつき、アーンアーンっと年相応の子供のように泣いた。いつも澄まして、大人たらんとしているティティが俺の為に泣いてくれていると思うと愛しさから優しく抱き締める。
俺はティティの言葉で、ふと思った事をネリーに聞いてみた。
「冒険者ギルドはどうしたんだ?通り道だけしか見てないけど、兵士だけに見えたが?」
目元を拭って、一呼吸置いて、話し出す。
「残念ながら、バックで別れてから一切、何の連絡もありませんので、おそらくは・・・」
きっと、自分が住む街、家族を守る事を優先したのだろう。この場にいる者もその事で感情をどう処理したらいいか悩んでいるようだったので、俺は意識して声を上げて笑う。俺に抱きついていたティティはビクッと肩を震わせて、兄様?っと見つめてくるティティに頭を撫でながら笑いかける。
「いいじゃないか、役割分担さ。冒険者が未来を守って、俺達が未来を紡げばそれで万事オーケーだっ!」
みんな、キョトンとした顔をして、噴き出すように笑みを漏らす。
「どうしてでしょうな、トール殿がそう言うと本当にそれで良いように思えてきますな」
「思えるじゃないさ。そうなんだ、俺達がやる事はシンプルだ。明日、俺と和也達で魔神をぶっ飛ばす。そして、皆がここで防衛して、マルっと解決さ。そうだろう?」
ガンツが笑みを洩らしながら、ガシガシと頭を掻きながら言ってくる。
「トールが言うと本当にくだらない事に思えてくるわい。悩むだけ、時間の無駄じゃ、解散して明日に備えて寝る」
そう言うとガンツは返事も聞かずに天幕を出ていく。
「ガンツの言う通りさ、今夜はもう襲撃はない。休んでくれ。轟が居なくなった事でトランウィザードも明日に備えるはずだ。アイツはチキン野郎だからな」
そう言って、出て行こうとする俺をネリーが声をかける。
「トール様、寝所を用意させましょうか?」
「美紅とテリアに会ってくるからいいよ」
寝る場所は適当に捜すわっと言う俺に、では、ごゆっくりとお休みくださいっとお辞儀されて見送られる。
外に出ると月も綺麗で今日は2つ良く見えていた。その月を見て、あれを見て、ここが異世界だと認識したんだよなっと思い出し、苦笑する。
ルナとザウスとアローラに来て初めて口にしたイノちゃんの鍋を思い出し、センチな気持ちになりかけた時、腹が鳴るというシリアスブレイカーが発動する。
苦笑いをするしかない俺は何やら良い匂いがする事に気付く。この匂いのせいで俺のセンチな気持ちを破壊したんだとヤツアタリ上等で成敗(実食)してくれるわっと肩をいからせながら匂いを辿るようにして行くと兵士達に配給する食事の匂いであった事を知る。
さすがに兵士の食事を取るのは悪いかなっと思っていると俺に声をかけるものがいた。
「トールっ、そろそろ来る頃だと思ったわっ」
探し人のテリアであった。
配給を手伝っていたテリアはちょっと待ってねっと言うと手早く、1人分の食事を用意するとこちらにやってくる。
「どうせっ、お腹を減らしてきたんでしょ?ここだと落ち着かないから向こうで食べましょ」
そう言うとテリアは俺の前を歩き、先導するように行く。俺はその後ろを着いて行った。
少し行ったところの天幕の裏で松明の灯りが届かなく、優しい月明かりに照らされる場所でテリアが腰を下ろして、その隣を手で叩いて座れっと言ってくるのでおとなしく従って座る。
そして、手渡されたパンとスープを受け取り、パンに齧りつくが固かったのでスープに浸しながら食べているとテリアが口を開く。
「さっき、美紅の様子を見てきたわっ。医者は命には別条はないだろうが、しばらくは動けないうえに意識も戻らないだろうっていってたっ」
口に入れたパンを咀嚼して飲み込み、俺の見立てでもそう思ったよっと伝えると、そうっと抑揚のない声で言ってくる。
「そこでさ、テリアに頼み事があるんだ。聞いてくれるか?」
「何?」
月明かりに照らされたテリアの瞳は揺らぐ水面のように波打っているように見えて吸い込まれそうになるが気をしっかり持って耐える。
「俺は前線に出る。だから、美紅を守ってやれない。美紅の事、頼めるか?」
テリアに背を向けて、月を眺めながら俺が言うとテリアは背中に頭を当てて言ってくる。
「うんっ、分かったぁ。私が守り抜いてみせる。だから、だからねっ?絶対に生きて戻ってねっ?お兄ちゃん」
「おうっ」
俺はそれだけしか言えずに固まっていると後ろから聞こえる音を耳にしながら情けなくて溜息が漏れそうになる。
男は女の涙を止めれるかが価値が決まるっと言う言葉に惹かれて、あれだけイメトレしたのに、アローラに来てからだけでも何人も泣かせてきたのだろうかと失笑したくなる。どうやら、俺は主人公には向いてないようだ。
それでも俺は這ってでも、数々の俺に預けられた願いを叶えてみせる。
月を眺めながら、やってみせるさっと心で語りかけるとアイツが笑いかけてくれたような気がした。
魔神召喚まで、後1日。
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