210話 一撃で決める
轟の攻撃を俺は力で対抗せず、流れに逆らわず、轟の力は受け流し、滑るように懐に入ると、アオツキの柄で鳩尾を打ちつける。打ちつけられてたたら踏む轟を眺めながら、俺は口を開く。
「轟、やっぱり、お前は強いな。やっとお前の土俵にのれるようになって、改めてそう思うよ」
「なんだぁ、その俺を押してる自分は更に強いっていいてぇってか?」
俺は轟の言葉を首を振って否定する。
「今、お前と張り合えているのは、借り物の力で戦っているからだ。俺自身の力じゃない。お前の強さは、加護や武具だけのものじゃない。しっかりとした下地がある。以前は力づくで戦っているように思ってたんだけどな」
力づくのように見えるが、剣の時は分かりにくかったが槍になった事で、攻防の妙が見え隠れしていた。それはもう、一種の芸術の領域といってもいいかもしれない。歴史で謳われている三国志などの英傑達は轟のようだったのかもしれないと思わせるほどであった。
「そう褒められちゃぁ、気合いいれねぇーとな。褒めたご褒美によぉ、イッコだけ、俺の質問に答えてくれねぇーか?」
轟に質問されると思ってなかった俺は、少し戸惑ったが、いいぜっと返事する。
「おめぇは、この世界に来てから、何故、戦い続けている。俺もよ、同じ世界にいたから言うが、あそこの常識に染まっていたら、戦うって発想に至っても戦えねぇーだろ?それなのに、お前は戦い、そして、強いと分かっている魔神と何故、戦う。元の世界に帰る為って訳ではねぇって事は分かってる。帰る為の努力をしているようには見えねぇからな」
轟にまさか、こんな質問をされるとは思ってもなかった俺は噴き出すようにして笑いだす。笑われた事に不機嫌な顔をした轟を見つめて俺は、思い出すようにして話す。
「いや、初めは間違いなく、帰る為だったさ。漫画や小説でしか疑似体験できない異世界に来て、興奮してよぉ。異世界を堪能しながら、ゆっくり帰る方法を捜せばっと思ったさ。でもよ、魔神はいるって言うし、その封印に俺と同じ世界の人間、この場合、美紅だがな」
そう言うと俺は離れたところで眠る美紅をチラっと見てから話を続ける。
「美紅を触媒にしてるって聞いたら助けないとって思うのが人情だろ?それをする為に動きまわっていたら、色んな人と出会い、触れて行ったら生まれる縁ってやつが、俺に教えてくれたよ。これはゲームじゃない、セーブもロードもなく、リセットもできない現実だとね」
来た当初の俺は、分かっているつもりでも、どこか浮ついていた。その目を覚ますキッカケになったのが、フレイと戦って、覚悟を見せつけられた時であった。
確かに、和也のやり方に苛立ち、相成れない気持ちになったのは嘘ではない。しかし、一番納得できなかったのは、自分自身の心の持ちようであった。その浮ついた心でいたら、傍にいるルナや美紅がっと思った瞬間、冷や水を浴びせられたように、震えがきた。俺の中で、その当時の俺の世界の狭さが全てで、大袈裟に言えば、その外側にいる者はNPCのように思っていた。
勿論、今はそうは思っていない、だからこそ、今の俺は、
「俺と縁を繋いでくれた人の為に俺は、抗うんだ。俺に縁とは自分が歩いてきた結果だと教えてくれた人の為にな」
「その結果よぉ、死ぬ事になってもか、それは戻る事より大事な事なのかよ?」
俺は轟の言葉に首を横に振り、考え方自体が違うっと伝えると、どうゆうことだぁ?っと聞いてくるので答えてやる。
「何故、元の世界のこのアローラを別物として捉えるんだ?行って帰ってこれるなら、延長線上とは考えられないか?元の世界で、勇者と呼ばれる者達は辛い目にあって来ている事は話だけではあるが聞いている。その過去はないものとして考えたい気持ちも分かるが、元の世界で存在したから今があるんだ。さっきも言ったはずだ、ゲームじゃないんだ、見捨てて、帰ったら、罪悪感と未練で生きてて楽しいって思えないと思うからじゃ駄目か?」
何より、楽しい事やかけがえのないモノと出会い、得た場所を見捨てられねぇよっと轟に伝える。
轟は、まるで海外旅行に行くみたいに考えるとはなっと言ってきたのを聞いて、そういや、俺は海外旅行行った事ないのに異世界転移とか何足飛びしたんだろうっと苦笑する。
「ほとんどよぉ、おめぇじゃねぇっと考えねぇと思うぜぇ?でもよ。罪悪感と未練抱えて生きてもよぉ、つまんねぇっとことは、分かるぜぇ。だからこそよぉ、、楽しい事やかけがえのないモノに出会った場所だからこそ、壊してやりてぇって思う事もあるんだぜ?」
どういう事だ?っと問う俺の言葉を轟は無視をする。
轟は、体を弓になぞえらせるようにして、槍を矢に見立てるようにし、体をしならせていく。
そこに込められている力に驚愕しつつ、再び、轟の意識から半歩ずらして狙いをつけさせないようにして、廻り込もうとすると、見えていたように俺の正面に体を向ける。
「あめぇ!!何度も同じ手を食うかよっ!!」
しならせた体に回転を加えて、槍に伝わらせる。槍はギュオンっと凶悪な音をさせて、俺に襲いかかってくる。
自分を技が3度目であっさり見破られると思ってなかった俺は虚を突かれてたが、カラスとアオツキをクロスした部分で受け止める事に成功する。しかし、俺は胸に衝撃を受けて、吐血する。
「なぜだ、しっかり防いだはずなのに」
「徹よぉ、鎧通しって知ってっか?あれをよぉ、改良加えてあるから、効くだろっ?」
俺は片膝を着きながら堰き込みながら轟の恐ろしさを再認識していた。
くそう、純粋に強いだけでなく、こいつは武術まで網羅してるのかっと聞きたくなるほど、芸達者だ。それにさっきの意識をずらすのもどうやって見破ったっと睨みつけている。
槍を肩に担いで、企みが上手くいったっとばかりにニヤつく轟は、俺の疑問に気付いたようで答えてくれるようだ。
「なんでいる場所が分かったかと思ってる顔だなぁ?それはよぉ、俯瞰に徹してたらよ、目に届く範囲にいるかぎり見逃す事なんてねぇだろうがよ」
いとも簡単な事だっと言わんばかりに言ってくるが、そんな事出来る奴なんて一握りだろうっと俺は口にある血を地面に吐き捨てる。
もし、ステータスが見れるなら、スキルがあるのなら、間違いなく、轟には武術の極みとか、武神とかあるだろうっと俺は断言する。
明らかに、和也とは違うタイプの天才を目の前にして俺は緊張が走る。
やっと、轟の頂きに届いたと思ったら、地力の差を見せつけられる。だが、最初から俺は一人では轟に届かないだろうっと予感はしていた。
轟を見つめる。本当に凄い奴だと思う、できれば、自分の力だけで勝ちをもぎ取りたかった。
小出しに色々やるとアイツは歴代勇者の技などの対策、吸収させてしまうっと俺は理解していた。だから、一撃で決める必要があった。しかも意表をつけてという条件を満たさないと防がれる気がしていた。
組み合わせでシンプルで尚且つ、効果的な方法は1つしか思いつかなかった俺は轟を見つめて、大きく息を吐きだして覚悟を決める。
「轟、俺はどうやら、このままやると俺の負けのようだ。だが、俺は負ける訳にはいかない。1人でやるという拘りは捨てる」
そう言うと俺は轟から10mほど離れているのに片膝立ちをして、カラスを鞘へと戻す。
それを見た轟が目を細めて言ってくる。
「居合かぁ、それとよぉ、徹の中にいるのは、やっぱり、歴代勇者かよぉ?」
「まったく、こっちが勿体ぶる間もくれずに解答ありがとうよ。その通り、轟の見立て通り、俺の中には歴代勇者の魂がいる」
俺が歴代勇者を認めた時、俺の居合に警戒心を宿らせたようだ。焦りたい気持ちもあるが、ここは焦りは禁物と考えないようにする。これは初見の者に、防ぐ事も避ける事叶わずと俺は思っている。だから、初撃で決める。
瞬、沙耶さん、力を貸してくださいっと心で思うと、2人が笑顔で頷き、行け、徹っと言ってくる。カラスに手を添え、目を瞑る。精神を集中を始めると轟も叩きのめしてやるとばかりに構えるだけで、自分から攻めてくる気はないようだ。
「いつでも、きやがれぇ!」
轟の叫びを合図にして俺は飛び出す。俺の足裏で電気が発生すると少し宙に浮いたと思ったら急加速を付ける俺に目を剥いた轟であったが、冷静に飛び込む俺にタイミングを合わせて、斬りつけようとする。
「跳躍!」
そう叫ぶと、俺は轟の背後を取り、カラスを抜き放ち、刃を轟に後は振り抜くだけっといったところで、背中を向けていた轟が前を向けてくる。まさか反応できると思ってなかった俺は、ままよっとばかりに抜き放ったカラスで轟の胸部を下段から切り裂いた。
「まさかぁ、そんな事できるとはぁ思ってなかったぁ」
轟は楽しそうに笑い、俺を見つめる。
「おめぇの勝ちだ、徹」
そう言うと轟は胸から血しぶきを上げて、背中から地面へと倒れていった。
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