208話 星に願いを
師走、本当に忙しいですね。
大掃除って普段掃除してないからしないといけないんですよね。普段からしてる人はする必要ないはずなんですよ。
さて、来週も頑張って、大掃除しますかね(泣)
美紅は轟から受けるプレッシャーに呆けてしまい、轟の動く初動を見逃す。気付いた時には眼前に居り、唇を奪われそうなほど近づけれて初めて反応した。
「おいおい、これからだぜぇ?さっきの元気はどうしたぁ?」
轟は美紅の腹を蹴って吹き飛ばし、美紅は手を地面に着けて滑るように後方に距離を空けられてしまう。
距離にして、30メートルはあろうか距離があるのに轟は槍を突き刺すように振り抜く。
すると美紅のマントが吹き飛び、風に運ばれて後方へ飛んでいくのを横目で見つめる。
今、起こった事が理解はできたが認めたくなかった。美紅の目には槍が自分のところまで伸びてマントを切り裂いたように見えたのだ。
「その槍は伸びるのですか・・・?」
「ああっ?バカかおめぇは、伸びるわけねぇだろうがっ」
轟は如意棒じゃねぇんだぜぇ?っと鼻で笑う。
理屈は分からないが、ただでさえ、リーチで負けているのにこの距離でもあれほどの攻撃ができる相手に距離を取るのは自殺行為と判断した美紅は轟に駆け寄る。
「ははぁ、本当に馬鹿だなぁ。そんな行動したらよぉ?」
駆け寄る美紅に無数の穂先が絨毯爆撃のように迫る。慌てて後ろに下がるが、左胸の部分の鎧に一撃が入り、ひび割れを起こす。
美紅は驚愕の表情で自分の体を調べるが胸のひび割れだけである事に驚く。
(なんなんですか!今、確かに全部、私を捉えたはずです。ですが、実際は胸のひび割れのみ、幻覚か何かなのですか!)
恐慌状態に陥りそうになりながら、美紅はフレイドーラに質問する。
ーいや、今のは気当たりだ。奴のプレッシャーが美紅に本物のように見せている。優秀な者ほど、先読みなどをするようになる。そこに強過ぎる気が入ると、予測できる全ての手口が本物のように現れてしまう。心が弱いものなら本当に死んでしまうから心を強く持つのだ、美紅ー
本来の得物の槍を使うとそんな事ができるようになるのかっと美紅は戦慄する。あの無数の攻撃の中から本物をどうやって見分ければいいのかと美紅は考える。
それを槍を肩に担ぎながらニヤつく轟は小馬鹿にするように言ってくる。
「なんだぁ、本当にもう終いかよ?気当たりにびびってるのかぁ。おめぇ、まさか力には技で対抗するのがセオリーとか考える口かぁ。あんなのはクソが言うセリフだぜぇ?」
美紅はドキっとした。以前、自分も似たような事を言った事があった。力は技には勝てないと言った少女に力だろうが技だろうが強いほうが勝るっと。
それなのに、轟の力に小細工を弄してなんとかしようとしている自分がいた。それをまさか、敵である轟から思い出させられるとは思いもしなかった。そして、同時に気当たりの攻略法まで教えられるとはっとフレイドーラを握り締める。
「礼は言いませんよ?」
「いいぜぇ、俺ぇも一度ぐれぇ先輩らしい事してみたかっただけだしよぉ」
肩を竦めて、なんでもねぇーさっと言う轟を気合いを入れ直して、睨む。
心を研ぎ澄まして、力を溜めると美紅は呟いた。
「行きます!」
「応っ、こいやぁ!」
槍を構え直した轟を確認した私は走り出し、跳躍する。普通に考えたら悪手だが、今の美紅にはこれぐらいしないと踏ん切りが付かない。
轟もその美紅の心中を察したのが、いいぜぇ、試してやるっ、と笑い、槍を上空に向けて構える。
轟に斬りかかる為に下降するとまた無数の気当たりがやってくる。
美紅は、それを凝視すると、腹に堪った気を吐き出す。すると無数にあったかと思った攻撃は十数個まで減った。
それに舌打ちした美紅はそのいくつかをフレイドーラで切り裂くが全て気当たりで、本物が美紅の左足に当たり防具が破壊される。
その衝撃で膝を着いて、轟を見上げる。
「まだ、気合いがたらねぇぞ?おめぇは、徹とルナの傍で何を見てきたんだぁ?」
再び、槍を肩に乗せた轟が挑発をしてくる。
美紅も挑発されていると理解しているが、人は分かっていても自分を抑えられない事柄がどうしてもある。それをピンポイントに突いたかのように抉ってこられる。
美紅は歯軋りをしながら、私を仲間と、友達と、そして、家族と言ってくれたかけがえのない人達と一緒にいただけと言われるのは耐えられない。そして、このままいくと2人の評価も過剰だったかと言われたら、舌を噛み切ってしまいたくなる。それだけは絶対に口にさせる訳にはいかない。
美紅は轟を見つめて、思う。自分は何を考え違いをしていたのかと。
私は、気当たりを攻略するのを目標とどこかで間違って考えていたように思う。だが、本当にすべきことは轟に一撃を入れる事、そして、この男を超える事だった事を思い出す。
美紅はフレイドーラを杖替わりにして立ち上がり、轟を見つめる。ただ、静かに。轟の気当たりに勝つのではない。轟に気合い勝ちをして、逆にプレッシャーを与えるのだと、息を吐きだし、大きく、息を吸い込む。
轟はニヤけた表情を引っ込めて、武人のような清廉な表情をする。
「いいぜぇ、それでこそ、俺ぇの後輩ちゃんだぁ。やりゃ、できるじゃねぇーか。俺にプレッシャーを与えれる。うーん、いいねぇ、食べ応えが出てきたぁー」
そう言うと深く構えると、来いっ!っと呟かれたのが合図になって美紅は飛び出す。
轟が一突きしてくる槍をフレイドーラでなぎ払い、勢いを落とさず、突っ込むと斬りかかるが柄で防がれる。
「いいねぇ、いいねぇ。なら、これならどうするよぉ?」
フレイドーラと柄を起点にするようにして石突きで腹を殴られるようにして真上に吹っ飛ばされる。
無防備な状態で空に上げられた美紅は下で槍を構える轟を睨みつける。
轟は鼻で笑うようにすると美紅に目掛けて、連続突きをする。
「今度はマジもんだぜぇ!」
美紅は舌打ちしながら、フレイドーラで連続突きをなぎ払うが処理が追い付かなくなり、全てを同時に狙えるタイミングで盾でなぎ払う。
なぎ払う事に成功して、着地すると盾が役目を終えたようにひび割れ、軽い音をさせて割れる。
フレイドーラを両手持ちにして、見つめる瞳の赤さが増し、轟にかかるプレッシャーが増す。
轟も途中から気付き始めていた。本人の美紅ですら気付いてない事に。
それは、美紅の防具が破壊される毎に、どんどん動きが研ぎ澄まされている事に、そして、轟は思う。きっとコイツは自分は守るのが得意だと勘違いをしていると。こいつは徹底的なアタッカー。戦う事に純粋に特化した存在。落ち着いて考えれば、勇者は全員そうだったと、口の端が上がる。
こいつらは、攻の美紅、攻守の徹、守のルナ。なんてバランスの取れた組み合わせだったのかと思う。この3人の息のあったトリオと何も考えずに戦いたかったっと、とても残念に思う。
だが、それも叶わぬ願い。それに、次は美紅が全てを賭けた一撃を俺に入れてくると美紅の目が語っている。読まれるのを恐れず、読まれた事を力づくでなぎ払うと。
ならば、俺も全力で応えよう。
「来いよぉ。先手はよぉ、チャレンジャーの役目で待ち受けるのが王者の務めだぜぇ?」
低く、低く、轟は構えを取ると全身に暴れ狂うような力の流れが走り抜ける。
それを見つめた美紅は、短く、ハッっと息を吐くとそれを合図に飛び出し、途中でギアが一段階上がったかと思わせるような加速をつけ、飛び込む。
美紅と轟が交差すると、美紅の残りの防具が粉砕する。
(ごめんなさい。フレイドーラさん)
ーなぁーに、短い間だったが、楽しかったぞ。やれるだけの事をやって、使い手より、先に逝けるという武器の本懐よ・・・-
防具より、少し遅れて、フレイドーラもガラスが割れるような音をさせて、粉のように粉砕して風に舞うと、美紅も倒れる。
美紅に向き合う轟は口の端に垂れる血を袖で拭うと静かな瞳で見つめる。
「おめぇは強かったぜぇ。もし、俺ぇが、加護を受けてなければ、神が生みだした金属の武具を持っていなければのどちらが欠けていれば、美紅、おめぇの勝ちだった」
轟の防具はヒビが入り、軽い音をさせて砕け散ると、片膝を着き、槍に支えられるようにして、立ち上がって胸を張って言う。
「おめぇが、最強の勇者だと、俺がぁ、認めてやらぁ。悔いは残るだろうがなぁ、せめて、俺ぇが一撃で楽にしてやるよぉ」
そう言う、轟が槍を構えてる。
美紅はゴロリっと転がり、仰向けになると夜空を眺める。眺めた夜空に星が流れるのを見て、祈る。最後にトオル君に会いたいっと。
すると、轟が夜空に流れる星を見つめ、舌打ちをすると流れ星から零れるようにして、こちらに来るモノがある事に気付く。何が来たか分からない。分からないのに涙が溢れる。
星空の優しい光に照らされて、柔らかく照り返す、黒一色の二刀を携えた少年が落ちる速度もそのままに地面にクレーターを作って着地する。
そこで起こる粉塵を轟と美紅は見つめる。
土煙の中をこちらに歩いてくる人影が見える。既に抜きはなっている二刀は星灯りに照らされて、漆黒の刃と澄み渡る青い短刀が煌めく。
美紅は嬉しくて涙で溢れさせ、嗚咽を漏らす。
轟は頭を掻きながら、呆れ気味に愚痴る。
「本当によぉ、おめぇはいい時にくるよなぁ。俺ぇの勇者の称号をくれてやろうかぁ?」
「いらねぇよ。勇者と呼ばれるべきは、友達で俺の大事な家族の少女がだけだ。和也もお前も勇者として俺が認めない」
カラスを突き付けた、その少年は誓いを述べるように語り、見つめる。
「俺は、ただ、家族の願いと想いを守り、叶えるだけの者だ」
轟は、爆笑して、笑うだけ笑うと目の前の少年を睨みつける。
「馬鹿か?おめぇ、気付いてるのかよぉ。それが勇者という器すら小さいと言ってるのと同義だぜぇ?」
「なら、俺はそれになるだけの事さ」
少年はなんてことないっとばかりに言う。
嗚咽混じりの声で美紅が少年に語りかける。
「本当にギリギリにしか来てくれないのですから・・・トオル君の馬鹿ぁ」
「悪い、美紅」
徹は人好きする笑顔で美紅に笑いかけた。
美紅はその笑顔を見て、自分の役目は終わったっと意識を手放した。
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