207話 親友の言葉を嘘にしない為に
キャラクター紹介を更新してあります。
大掃除、マジ大変、来週もあるよっと次回予告されました(;一_一)
美紅は轟の周りをフレイドーラを構えてゆっくりと歩き、隙を窺う。真後ろに行っても轟は後ろを振り返らず、それでも斬りかかれる隙など存在せず、顔を顰めて過ぎる。
一周して正面に戻って轟を見るが先程と変わらず、剣を肩にかけるようにして、つまらないものを見つめるようにしていた。
「おい、カス。前と違うってグルグル廻るてぇ事かぁ?お遊戯がしてぇなら、余所でやってくれや」
違うなら、かかってこいっと手で挑発される。
かかってこいと言われても斬り込む隙もないので二の足を踏んでいる美紅は確かにこのまましていても拉致があかないと判断して、ないなら作るしかないと気合いを入れる。
(フレイドーラさん、行きますよっ!)
ー応っ!ー
フレイドーラは炎を纏い、美紅は轟に目掛けて振り下ろす。そこから生まれるかまいたちと炎のコラボレーションの衝撃波が轟に襲いかかる。
「またぁ?これかあ、何度も同じ手を食うかよぉ!」
先程は縦の攻撃に対して、横一閃と切り裂いた轟は今度は縦に縦で合わせて、完全に消滅させる。
「くっだらねぇな、カスがぁ、んっ?ああぁ」
そう美紅を罵る轟の正面には美紅はいず、左手から美紅が現れ、轟に斬りかかる。少し、驚いたような顔をした轟はニヤっと笑うとフレイドーラをなぎ払うようにして斬撃を防いだ。
「つまらねぇ、小細工ではあるがよぉ、確かに、あん時と比べれば、ちったマシになったと言ってやらぁ。だがよ、徹は勿論、あの女神にも届かねぇーよ。エルフ国で会った時の女神にすらな?」
美紅は轟の言葉に唇を噛み締める。力が及ばない事もそうだが、何より、あの2人と共に歩いてきたと思っていた思いを轟にお荷物だっと言わんばかりに言われているのが悔しくて堪らないのだ。
轟は剣を地面に突き立て、美紅を呆れた顔して見つめてくる。
「おめぇは徹に聞いてねぇーのか?俺達を召喚したあの場であの女神が見せた覚悟ってやつをよぉ?」
轟の言葉に美紅は愕然とする。いつもの美紅なら警戒するところを思わず、どういう事ですか?っと考える前に口に出していた。
「本気で知らねぇみてぇだな。道理で覚悟がキマってねぇっと思ったぜぇ。あの女神はなぁ、今、おめぇらがノウノウとしてられる時間を作る為に命を使って存在させてんだぁ。その時間を作ったと徹に言って、迷いもないカッコええ笑顔で徹に笑いかけてたぜぇ。涙1つ見せずになぁ」
美紅は余りの事にフレイドーラを落としそうになる。勿論、ルナが命を賭して作ってくれた時間である事は知っていた。だが、美紅の勝手な思い込みでルナはその言葉を言った時、辛そうに泣いていると考えていた。
しかし、それをまさか轟の言葉で違うと否定されるとはもっと思っていなかった美紅は思考停止状態に追い込まれた。
「これはよぉ、徹も知らねぇ。まあ、アイツの事だから察してるかもしれねぇがよ。あの女神が召喚阻止、延長をする方法がないか必死に捜してなぁ、今の方法以外にないと分かった時よぉ、ボロボロと泣いたんだぜぇ?徹の前では笑顔だったのによぉ。俺がぁ、敬意を払う相手だっと思った3人目の存在だったぁ」
腕を組みながら目を瞑る轟は黙祷をしているように見えた。
轟は決して策を弄してくるやつではないと美紅にも分かっているから言っている事は真実だろうと理解しているが認めたくないという小さな自分がいた。
ルナに人として圧倒的な差で負けたと轟に言われ、何より、一番悔しいのが女として完全に負けたと感じさせられたのが許せなかった。勿論、自分がだ。
きっと、ルナのように死にゆく時に徹に看取られている時は逝く瞬間まで泣いていただろうと思う。徹を気遣って、笑顔でいれただろうかと思うがそのビジョンは思い描けなかった。
轟は思い出したかのように、あの女神の名前を知らねぇっと言って、美紅に尋ねてくる。
「ルナ。アローラ最後の女神だった、ルナです。私を初めて親友と言ってくれた大事な人です」
「へぇ、ルナかぁ。覚えたぜぇ。しかっしよぉ、いい女だったがよ。友達を見る目はねぇ奴だったんだなぁ」
美紅は自分の中で何かが切れる音を聞いた気がした。
(フレイドーラさん、申し訳ありませんが、短いお付き合いになるかもしれませんので、言っておきます。ありがとうございます、貴方がいたから私は全力で戦えます。あの男の喉元に噛みついてでも一矢を報いようと思います)
ー弱気になるなっと言ってやりたいが、こ奴相手ではそんな言葉は気休めだろうな。だがな、徹は悲しむぞ?だから、我が言ってやれるのは死ぬな美紅。武器を置いて逝っていいのは戦場以外であると忘れるなー
「ありがとう」
美紅は声に出して、フレイドーラを見つめて礼を述べる。
視線を轟に戻した時、小馬鹿にして見ていた目が引き締まる。
「へぇ、ちったーええ目するようになったじゃねぇーか」
瞳を真紅に輝かせ、迷いのない瞳を轟に向けると、腹の底から美紅は気を吐く。美紅の裂帛の気合が轟に叩きつけられ、その余波と言わんばかり、木々は揺れ、大地も鳴動しているかのように震えた。
その様子を轟は好戦的な目で黙って見つめる。
美紅は気を吐くのをピタっと止めると辺りは静寂に包まれる。
「行きます」
「こいよ、ガキぃ」
美紅はただ、真っ直ぐに迷いもなく突進して跳躍して轟に斬りかかる。それを片手で持った剣で受ける轟は後ろに押され、顔を顰めると両手持ちに切り替えて踏み止まる。
休ませないとばかりに連撃を入れて、轟を翻弄する。少しづつではあるが轟の反応を超えていく美紅。フレイドーラが生み出す炎が轟を焦がし、ついに生まれる。轟の意識と意識の隙間というスキが生まれた。
「そこぉ!」
美紅は一閃とばかりに胴をなぎ払うようにしてフレイドーラを振り抜くと、さすがというべきか、轟は体勢が無茶苦茶になりつつも剣を挟んでくる。そんな、やっとで挟んだ程度の剣で防げるような攻撃ではない美紅の斬撃を受けて、轟の剣は粉砕し、地面を転がるようにして吹っ飛ばされる。
木々を巻き込んで吹っ飛ぶ轟は先程と違って、無抵抗に突っ込んでしまい、ダメージらしきものを受けたようで、立ち上がろうとするが思わず膝を着いてしまう。
それを見つめていた美紅が呟くように口を開く。
「轟、貴方の武器を使いなさい。貴方専用のがあるのは知っているのですよ」
そう言う、美紅を見つめる轟は少し驚いているようだ。
「まさか、それを知られているとは思わなかったぜぇ?」
感心するように美紅を見つめて、首を鳴らして持っていた折れた剣を放り投げると、来いっと呟く。
目の前で行われている光景に美紅は絶句する。まさか、っと呟き、指先が震える自分を自覚する。気持ちで負けたら駄目だと思っても恐ろしいと思ってしまう事は止められなかった。
掲げた手には長い柄の先に物々しい穂先の槍を持っていた。徹がいれば槍ではなく三国志などでよく見られる戟だと口にしたであろう。
轟の得物が槍であったは意外だったがそれだけならここまで狼狽したりしない。目の前の轟は要所だけを護る物ではあるが防具を着けていた。そこから発する力はその槍が発する力ととても似ていた。つまり、神より生み出し金属で造られた物だと分かる。どんな能力を秘めているか分かったものではなかった。
素の強さであれだけ規格外なのに、武器だけでなく防具まで神が生みだし金属で身を固めてくるというのは既に反則の領域であった。
確か、スーベラは言った。
「2代目勇者、轟が所持している武器です。その武器も神より生み出された武器なのですが、貴方達、徹も含めて一度もご覧になられてないですけどね」
あの言い方だと、トオル君や、初代勇者のように武器だけと思ってもしょうがない。しかし、防具も持ってないとも言ってなかったので嘘を吐かれた訳ではないが、知ってて言わなかったら、かなり性格が悪いと言わざる得ない。
轟は槍を準備運動のように旋回させて、構えると美紅を射抜くように見つめて言ってくる。
「本当はよぉ、徹にお披露目する予定だったがぁ、おめぇの頑張りに敬意を払ってやらぁ。有難く感謝して逝けっ、後輩!!」
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