206話 勇者と元勇者
やはり、大掃除大変っす・・・やっぱり更新は1回になりそうですお。
キャラ紹介の時間をどうやって取るか考え中
初戦を圧勝で済ませて、士気が高まり、良い状態で推移するかに見えたが、どこに隠していたと聞きたくなるほどのモンスターが波状攻撃してくるのを打倒し、追い返すなどを繰り返す度、どんどん疲弊していく。
魔神召喚まで2日後に迫る、夕方、美紅とテリアは視察と士気のテコ入れも兼ねて、兵達を労って廻った。
この波状攻撃で弱った所をフォローに入ったり、大物を相手にして立ち回り勝利してきた美紅を兵達は、勇者と言う者が減り、勝利を運んでくる戦乙女と語るようになった。
この報告を聞いて、昨日の会議で、ムズ痒さと恥ずかしさから否定しようとした時、ユリネリー女王陛下とティテレーネ王女から、待ったが入った。
「美紅さんが恥ずかしい気持ちは理解はできます。ですが、今、我が軍が心折れずにギリギリのところを耐えているのは、まさに、自分達には戦乙女が付いているという思い込みが決して無視できないレベルで彼らの心を占めているのです」
「ええ、兄様が不在の今、美紅さんの我が軍のシンボルと言っていいです。持ち上げられ過ぎと思う気持ちは今は無視してください。私達はもう見栄でも張れば上手くいくならいくらでも張るというほど、追い詰められてます」
差し出された書類を美紅は受け取って、確認すると眉間に皺を寄せる。そこに書かれている数字と報告の内容を見て、ここまで追い詰められているのですねっと呟く。
死者、300名強、重傷者800名弱、軽傷者、多数。戦線に出せる兵、昨日纏めで4500名。
これがただの戦争だったら退却しているところである。色々な見方はあるだろうが、3割切ったら退却という判断をするらしい。それが今の状態は5割弱の兵が戦線に出れない状態であるという報告書だった。
「美紅さんはよくやってます。美紅さんが居られなければ、おそらく既に全滅しているでしょう。ですが、現状、美紅さんの奮闘とその名声が今のギリギリの状態を維持しています。勝手な事を言っていると十分承知しております。美紅さん、貴方を利用させてください」
ユリネリー女王陛下が頭を下げてくる。それに倣うようにティテレーネ王女も、お願いしますっと下げてこられて、美紅は恥ずかしさを飲み込んで、快諾した。
ーふむ、これは、聞いているより酷いかもしれぬなー
フレイドーラは、陣中見舞いしている最中に美紅に語りかける。美紅は声をかけてくる兵に笑顔で手を振りながら答える。
(そのようですね。今朝も出撃があって、だいぶ死者と怪我人が増えたようです。もう戦える戦力は半分になったかもしれませんね・・・)
決して表情には出さないが不安な気持ちにさせられてしまう。
出来る事なら、戦わずに済むようにしてあげたいと美紅は思う。だが、魔神相手に雑魚まで相手にしていたら勝負にすらならずに負けるのが目に見えていた。
かといって、どこかに逃がしてあげるとしても安全な地はなく、魔神に勝たなくては、未来がない。それを分かっているから、ギリギリでここで踏み止まっているのだから。
「ねぇ、美紅っ。このままだとジリ貧よっ、何か良い手はないのっ?」
テリアは美紅にだけ聞こえるように意識して声をかけてくる。
あるなら私が知りたいと言いたいところだが、実のところ、1つだけ心当たりがあった。しかし、それは実現できるかどうかは別の話になるという問題が残る事ではあるのだが。
それは、魔神の手の者、2代目勇者かトランウィザードをどちらでもいいから倒せば、この波状攻撃は止める事ができる。しかし、そんな事ができるなら初めから苦労はしないが、いつかは遭遇するのは間違いない。その時に美紅が挑み、勝つ事が求められていた。
美紅はテリアに弱気になったら相手の思うつぼですよっと伝えて、気休めを言うに留まった。
夕日が沈み、夕食を会議を中断して、取っていると、ティテレーネ王女とテリアの食事の手が止まっている事に周りの者が気付き、心配そうに見つめる。
「2人共どうしたのかね。色々心労が募っているのだろうが多少は無理してでも食べないと駄目だよ?」
心配そうに2人に声をかけるエルフ王だったが、2人の様子が食欲がないっといったものじゃないっと気付き、表情を険しくし、何があったっと問いかける。
2人は顔を見合わせて、ティテレーネ王女から口を開いた。
「どう説明したらいいか分からないのですが、とても嫌な感じがします。どこかで感じた覚えがある何かが迫ってくるような感覚が・・・」
「うんっ、本当になんて言ったらいいのっ?魔神の欠片でもないし、トランウィザードでもないっ、近いけど違うものが隣にいるような気持ち悪さと恐怖が・・・」
この場に居る者達は要領が得れずに困った顔をしているが、1人、驚愕に彩られている者がいた。美紅である。
2人が言葉にした内容である人物が思い付いたのだ。
ティテレーネ王女が直接会った事があって、テリアがないというところで思い付いた人物は1人だ。この2人が感じた物を照らし合わせてこの者以外に思い付かなかった。
近くに来ているのだ、2代目勇者、轟が・・・
外の兵士達の悲鳴が聞こえてくる。美紅は来たっと短く叫ぶとフレイドーラを担ぎ、天幕を飛び出す。
何があったのですかっと声を上げるユリネリー女王陛下の言葉を無視する。反応する余裕がないのである。
表に出ると真っ青な体のラインが出るスーツを纏い、剣を振りまわし、血煙りを上げながら兵の真ん中を悠然と歩く男がいた。震える体を押さえこみ、目の前にいる人物を認識する。2代目勇者、轟だ。
恐怖に侵され、まともな判断ができなくなった兵ががむしゃらに轟に斬りかかる。
美紅は駄目だっと思い、全員、引きなさいっ!!!と叫ぶが、美紅の言葉が耳に入らないようで、武器を構えて轟に特攻し、雑草を刈るように命を刈られていった。
このままだと、一夜で全滅させられてしまうっと思った美紅は、フレイドーラに炎を纏わせて、轟に駆け寄って、飛び込むと下段から掬うようにして、轟の剣にぶつけて、陣地の外に弾き飛ばす。
美紅はその場に居る者達に、貴方達は来てはいけませんっというと轟を追って駆け出した。
吹っ飛ばされた事で何本も木が折れるほどぶつけられたはずなのに、轟は剣を肩に乗せながら、リラックスした様子で立っていた。
やってきた美紅をつまらないものを見るような目で見つめて呟く。
「なんだぁ?どこのどなたさんかと思えば、みそっカスじゃねぇーか?」
おめぇーには用はねぇーよ、徹を出せやっと言う轟の美紅を見る目が敵と認識してない。轟からすれば、一般兵も美紅にも違いがないという認識のようだ。
しかし、そう思われても仕方がないのかもしれない。美紅はエルフ国でいいようにやられ、駄目だしされ、恐怖からがむしゃらに1度だけまともな攻撃をしただけである。それも通じず、殺されそうになった時、徹に命を救われて今があるのだから。
「私はみそっカスじゃない。美紅よっ!」
「ああ?カスが何か言ったか?」
声が震えないように一生懸命意識して叫ぶが轟にはまったく歯牙かけて貰えなかった。
フレイドーラをしっかり握り締める。
「トオル君の事を知りたいのなら、まずは私に勝ってからにしなさい」
「おめぇ、頭ぁ、大丈夫か?やる前から結果見えてるだろぅ?」
美紅はそれに返事をせずに、かまいたちにフレイドーラの炎を載せて放つ。轟はそれを横一線斬り払うと殺せなかった熱と衝撃を受けて、顰め面をする。
「私は以前の私とは違う。舐めてかかると火傷じゃ済みませんっ!!」
「ほぅ、どう違うって言うんだぁ?徹とやる前の準備運動に使って見てやるぜぇ?感謝しろよっ」
轟は剣を構えて、美紅を睨む。
美紅の引けない因縁の戦いが始まる。
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