205話 初戦
土曜、日曜は大掃除の為、キャラ紹介と1日1話になりそうです。
7日目の昼間、拠点として駐屯しているバックと勇者召喚の場所の間ぐらいに8000という兵力を集め、決戦の日に備えていた。
良い事か悪い事か分からないが召喚される日まで、何事もなく過ごせれば良かったのだが、やはり、あのトランウィザードは演出好きらしく、予想通りに各地に散発的にモンスターが街や村を襲う事件の報告が上がってきていた。
その報せが一般の兵まで伝わると出発前には考えなかった問題が浮上してきて、美紅達は頭を抱えながら、ある天幕に集まっていた。
「まったく、落ち着いて考えていれば気付けたはずですが、これは私達の失策ですな」
エルフ王は心底困ったと言った顔をして、眉間に寄る皺を揉んでいた。
周りに居る者も気付かなかったのだから、誰もエルフ王を責める目すら向ける者はいなかった。
「確かに、各街などを襲われて、街の人が襲われるという事は、ここに来ている兵の家族がいるはずと考えられたはずだったのに」
そう美紅が言うように、この場に居る兵達が、家族が住む街が襲われたという報を聞く度に綻びが生まれるようにぐらつき、まとまりが怪しくなってきているのだ。
その事で朝からガン首揃えて、頭を捻っている状態であった。
「やはり、ここから兵を派遣するしかないんじゃないかの?」
「いえ、それをしたら魔神との戦いがままならなくなります。それに、おそらく相手の思惑もそれを狙ったものだと思いますので術中に嵌るだけかと」
ガンツの言葉をユリネリー女王陛下は逆効果を生みますっと伝える。
むぅっと唸るガンツの思いは、この場に居る者全ての思いであった。
テリアが天幕の天井を眺めながら、愚痴るように呟く。
「トールだったらどうするだろうっ?」
「そうだね、きっと、暇してる奴らの尻を蹴って働けっと言ってるんじゃないかな?」
ピンクの作業着にキャップ帽子を反対に被り、黒ぶちの眼鏡をおっさんが決めポーズを取って天幕の入り口で立っていた。
その怪人物を見て、その場の美紅とテリアとクリミア王女を除いて、一様に驚き固まった。
「失礼しますね。各国の王族が居られる所に無作法だとは思いますが今は緊急事態ということで、お許しください」
固まらずに頭が痛そうにしている3人にティテレーネ王女は、どなたですか?問うとクリミア王女が答える。
「我が国の貴族で、コルシアン公爵です。問題があ・・・善良な貴族ですので、遊びに来た訳ではないはずなので、話だけでも聞いてあげてくれませんか?」
コルシアンは、私のどこが問題あるのです?と腕を広げて言う様を見て、この場に居る者達は、なるほどっと納得した。
どうやら、風向きが悪いと感じたようで、咳払いを1つすると、失礼を承知でお願いがあって参りましたっと伝えるコルシアンを見つめ、クリミア王女がエルフ王を見つめると頷くのを確認して、クリミア王女はコルシアンを促した。
「ありがとうございます。入室の許可を得ようとした時に、聞こえてしまったのですが、どうやら、今、起こっている散発的なモンスター襲撃にお困りの様子。宜しければ、僕、いえ、私達がなんとか致しましょうか?」
「なんとかできるのですかっ!」
身を乗り出して問うクリミア王女はコルシアンを睨むように見つめる。身を乗り出していたのは、クリミア王女だけでなく、この場に居る者、全員であった。
「ええ、私達の趣味仲間を頼れば力になってくれます。純粋に力の者も入れば、住人の安全だけは保障すると言って、避難場所を提供するもの様々います。後は彼の伝手を頼ればもっと動かせるでしょう」
この状況下では喉から手が出る勢いで飛び付きたいと思っているが信用していいものかと悩んでいるのが分かる。
美紅達、3人はコルシアンの人となりを変態だけど良い人と知っているから、駄目元で信じるなら賭ける価値があると思っているが、身内びいきではっと問われたら反論する術がなく、黙って見守るという選択を取ったようだ。
悩んでいると、天幕に兵士が飛び込んでくると、コルシアンを2度見してビックリして立ち直ると背筋を伸ばして報告してくる。
「許可なく入出、お許しください。モンスターの一団が勇者召喚の場所の方角がら迫って来ております。ご命令を!」
ユリネリー女王陛下が規模を問うと、目測100ほどで大きなドラゴンも確認されたっと報告してくる。
「美紅殿、テリア殿、申し訳ないが出て貰えるか?後、コルシアン伯爵と言いましたか?先程の提案、甘えさせて貰って良いだろうか?」
そうエルフ王が言うとコルシアンは、はいっと答え、胸に手を当てて、頭を垂れた。
エルフ王が兵に3部隊出撃させろっと命令する中、美紅達とコルシアンは連れだって天幕の外に出るとコルシアンが声をかけてきた。
「トール君はどうしたんだね?」
「初代勇者のところへ・・・」
少し寂しそうに言う美紅に、そうかいっと呟き、美紅に向き合う。
「では、伝言を頼めるかい?こんな事はさっさと終わらせて、初代勇者の事を沢山聞かせて貰うと、出来れば、本人に会わせてっと伝えておいておくれよ」
美紅は遠回しに徹は必ず、美紅の下へと帰ってくると言われたようで、少し気分が持ち直したようだ。
コルシアンの伝言を承りますっと伝える。
また、会おうとコルシアンは言うと美紅から離れて、クラウドがあるほうへと去っていった。
コルシアンと別れて、3つの部隊を引き連れて行くと偵察に出ていた兵が、間もなく、遭遇すると伝えられ、緊張が走る。それを見て、美紅は叫ぶ。
「何も恐れる事はありません。ドラゴンがいるという情報に恐れを抱いている者がいるのでしょうが、それは私が受け持ちます。だから、貴方達は、その周りにいる雑魚を相手にすればいいだけです。貴方達の目標は生きて帰る事ではありません!」
美紅がそう言うと、兵の間でどういう事だっと軽い混乱が起こる。中には死ねと言うのかっと叫ぶ者が出たりするが、笑みを絶やさず伝える。
「まさか、本番はまだなのに、雑魚相手に死ぬつもりなのですか?私が貴方達に与える目標は怪我せず帰れです。こんな前哨戦で怪我するなんて馬鹿がする事と思って気を引き締めて行きなさい!」
雄叫びを上げる者、笑う者達が溢れる。それを眺めている美紅は少なくとも、これで強張って体が動かず不覚を取る者が現れないだろうと、表情に出さずに安堵する。
すると、後ろから大きなモノが羽ばたいてやってくるのに気付き、振り返ると図体の大きさだけならフレイドーラに迫ると思えるドラゴンが降り立つ。その後ろからぞろぞろとゴブリンやオークなどがやってくる。
ドラゴンは美紅を見つめているが廻りの者達が恐慌陥りそうになっているのに気付くと、叫ぶ。
「このドラゴンは私に任せなさいと言ったはずです。貴方達にあの牙が届く事はありません」
その声を聞いて、恐慌状態だったものが波が引くように落ちついていって、各部隊長が命令を出して、ゴブリンやオークの駆除へと動き出した。
美紅はテリアに、兵のフォローをお願いしますっと伝えると、任せてっ、と声を上げて、大神を唱え、現れた狼に飛び乗ると兵達を追って飛び出した。
未だにドラゴンは美紅を見ていると思っていたら、ドラゴンは美紅を見てはいなかった。見ていたのは美紅が持つフレイドーラであった。
ーあの目の前のクソドラゴンは魔神の手の者に脅されて、まだ勝つ可能性のある我らを襲う事にしたらしいぞ、馬鹿にされたものだなー
どうやら、ただ見てただけでなく、フレイドーラと会話をしていたようだ。
(ですが、攻撃が届かない相手と、攻撃が当たれば、もしかしたら勝てるかもしれない相手のどちらを攻撃するかっと問われたら答えは決まったようなものでしょう)
美紅の理屈も理解できるが納得はできないようであった。
とりあえず、今後の事を考えて、ドラゴン相手にも苦戦すると思われたら士気に関わる事なので1撃で決めるつもりで美紅はフレイドーラを構えた。
ー我より強いドラゴンなど存在しない事を教えてくれるわぁ!!-
(貴方より強いドラゴンはいましたけどね)
フレイドーラからそこは空気を読んで、流してくれないか?っと泣き事を、はいはいっと流して、改めて構えて思う。
(行きますよ!)
ー承知っー
飛びかかりながら美紅は考えていた。トオル君、まだ、かかりますか?魔神側は動き始めましたっと、いくら強がってもやはり、徹が傍にいない不安が紛れる訳ではなく、心細いと思いつつも、徹が来るまではっと唇を噛み締めて、ドラゴンの首を一振りで切断して、絶命させる。美紅が絶命させるのを見ていた兵達の称賛の声が響き渡るが満たされない胸の隙間を持て余しながら空を見つめた。
魔神召喚まで5日後。
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