201話 止まらない言葉と心
美紅は突然、話しかけられた事に茫然としていた。あれほど、意思疎通が出来なくて悩み、苦悩していた時は、声を聞くどころか、魔神の欠片と戦った時以来、1度として武器としての力も使えずにきた。それから色々あり、他の事に意識がいっていた事もあるが、気にしなくなった途端、語りかけてきたのだ。呆けるなっというのが無理な相談であった。
ーで、我の力はいらんか?徹より派手な事ができるぞ?-
聞こえていないと思ってか繰り返してくるフレイドーラの声は、どことなく不安そうであった。
美紅は徹に語りかける時に声にする必要がないと聞かされていた事を思い出したので、心から語りかける事にした。
(あれほど語りかけても反応がないので、亡くなったと思ってましたよ。だから、これからは鈍器として使っていこうと誓いを立ててしまったので、もう喋らなくてもいいですよ?)
フレイドーラの存在を全否定する美紅は相変わらず、徹以外には鬼であった。
そんな反応をされると思ってなかったフレイドーラは、あたふたしたイメージを美紅に飛ばす。
ー何をそんなに怒っているのいうのだ。我が何か悪い事でもしたのか?-
まったく心当たりがないとばかりに言うフレイドーラに血管を浮き上がらせる。それを感じたフレイドーラがビビる感情が伝わってきた。
(必要な時に使えなくてどれほど悔しい思いをしたと思うのですか?必要な時に使えない武器など鈍器として使いますから結構です)
ー待て待て、確かに以前は使いたいと思って使えなかったのだろう。それは我が能力の封じ込める時につけた条件を満たしておらなんだからだっー
(条件とは?)
もう既に立ち位置が決まったようなモノで美紅が上でフレイドーラが下といった上下関係が生まれていた。
美紅に問われて、嬉しそうにフレイドーラが語り出す。
ーうむ、それはだな。自分で考えて前に進み出したが、それでも、なお困った事態に陥った時に力を求めたらという条件にしたのだー
(なんで、そんな条件を満たすのが面倒なモノを?)
美紅は呆れ気味に嘆息しながら聞き返す。
ーそれはな、お主は若干・・・?かなりだな、徹に依存しすぎている。惚れているのはいい、だが、自分で歩き出す事を知らねばいかんと思った。徹の言葉を押し退けてでも前に自分で進むという覚悟と力を求めたらっとおもったんでなー
フレイドーラの話し方から美紅は何やら感じとって、間を上手く取ってフレイドーラに声をかける。
(で、本音は?)
ーそんな状況で、我、登場!カッコ良すぎないか・・・あっー
(ガンツさんがいたはずです。きっと神が生み出した金属で造った槌を持ち歩いてるはず、私なら一発で叩き折れる!)
フレイドーラの恐怖が伝わってくるが美紅はシレっと知らない顔をしてガンツを探し始める。美紅を呼ぶフレイドーラの声を無視し続けて、ガンツを見つけて声をかけようとした時に縋るように大声をかけてくるので無視できずに意識を向ける。
ーマジで勘弁してくれ。我が調子に乗り過ぎたと認めるので、我を使ってくれ。我とて徹の力になりたいのだー
(はぁ、分かりました。貴方の力を借りる事にしましょう。ですが、威嚇する方法にアテは本当にあるのですか?)
フレイドーラは自信ありげに胸を張っているイメージを伝えてくる。
ー我に秘策ありだ。任せておけ。ただの人間など、腰を抜かす勢いだー
美紅にとしてもフレイドーラに力を借りれるというメリットは大きいと分かっているので、お願いしますねっと伝える。分かっているのにこういう事をしたのは腹が立ってた事もあるが、調子づかせたら面倒な性格だと見抜いたからであったという事にしておこう。
それはそうと、どうして私の廻りに居る人はトオル君の真似をしたがる人が多いのだろうと美紅は愚痴ると、隣にいたクリミア王女が心配そうに言ってくる。
「あの、美紅。大丈夫ですか?先程から黙って、怒ったり、ニヤけたりしてましたが・・・お疲れなら仮眠でも取られたら?」
慣れない心の会話で表情を出していた事に美紅は今、気付いた。
そういえば、初めの頃の徹もそうだったと思い出すが既に手遅れであった。
心配するクリミア王女になんでもないですよっと笑いかけて、私達もすべき事をしましょうっと、クリミア王女の護衛をする人を少し連れて美紅達はエコ帝国の城へと向かう為に馬車に乗り込んだ。
城に着いた美紅達は止める兵を無視して入っていくと武器を構えて来る者がいるのでフレイドーラに炎を纏わせて、怯えさせるとその横を通り過ぎる。
そうしてやってきた、王の間の扉を礼儀正しく蹴り開けると玉座に座るジョーツと残り少なくなった重鎮達がいた。
毎度の事ながら、無礼者や痴れ者とレパートリーがないのかというぐらい陳腐なセリフを無視した美紅が歩み寄り、ジョーツを見つめ、挨拶するような気軽さで伝える。
「多くは語りません。玉座を降りてクリミア王女に王位を譲りなさい」
ジョーツは歯を噛み締めて、苦渋の表情で汗をダラダラと掻いている。廻りにいる重鎮達は兵はおらんのか!と叫んでいるが美紅は自然体でジョーツを見つめていた。
後ろの扉からぞろぞろと兵が入ってきて、クリミア王女は少し焦った様子で美紅に大丈夫ですかっと問いかけるが、美紅は自信ありげに笑みを見せるのみであった。
(出番ですよ)
ー任せよー
フレイドーラとやり取りを済ませると剣から炎が生まれそれが長く、長く伸びていく。伸びた先には龍の顔が生まれる。元の世界で言う、その龍は西洋のではなく、東洋で語られる龍であった。
王の間でとぐろを巻くようにしてそこに存在する炎の龍を見つめ、恐怖が体を委縮させてか声を上げる者はないが、腰を抜かすモノは現れるなか、美紅は呟くがこの静まりかえった場ではよく響いた。
「このモノに挑んでもこの無能の王を助けたいという愚者がいるなら、かかってきなさい」
カランっと武器を手放す音がすると、1人、また1人、と武器を手放す者が続出して、入ってきた近衛騎士が全員降伏するのにたいした時間は必要としなかった。
再び、美紅はジョーツを見つめると完全に折れたようで項垂れながら言ってくる。
「分かった。玉座を降り、王位をクリミアに譲る。命だけは頼む」
その言葉を聞いた重鎮達は激昂するようにジョーツを攻める言葉に切れたらしく叫ぶ。
「ならば、お前らに王位を譲ってやるから挑んでみれば良かろう!」
ジョーツの言葉に目を反らして、自分は関係ないとばかりに出ていこうとするのを見て伝える。
「貴方達もただの国民になって貰いますので、色々諦めるようにしておいてくださいね?」
頭の悪い重鎮達は自分達の生活を護ろうと反抗してくるので、フレイドーラに龍を顔前に行かせる。
それで、失禁するもの失神する者が多発するが無視して美紅はジョーツとクリミア王女に言う。
「では、兵達に王位を譲った事を表明して貰いましょうか」
「分かった・・・」
そう言うとテラスに行くと野次馬のように兵達が丁度集まっていて、ジョーツは間が悪いと愚痴る。
ジョーツから王位がクリミア王女に移ると宣言させると兵の間で歓迎する声が爆発的に上がる。やはり仕方がなく従っていた者が多かったという事なのだろう。クリミア王女から王位を継いだ事を表明、そして、一部の重鎮達のせいで魔神を召喚されてしまう事を公表する。本当は王も噛んでいるのだが、それを言うとクリミア王女の舵取りが苦労させられるのが目に見えたので伏せる事にしたようだ。
絶望を感じている兵達にクリミア王女は言った。
「このアローラには英雄が居ます。そのうえ、この場には勇者がいるのです。諦めるのはまだ早い。私達が力を合わせたらきっと乗り越えられる、乗り越えねばならないのです!」
そう言うとチラっと美紅を見つめるクリミア王女に聞いてないっと小声で言うが聞こえないフリをされる。
もう引き下がれないと分かると美紅はテラスの最前列に1人立つ。
「魔神は驚異です。それは間違いではありません。ですが、勝てない相手ではないのです。私とこの場にはいませんが皆さんも知っているのではないでしょうか?救国の使者と言われ、3カ国を纏めた少年を!私達は魔神の欠片とはいえ、2度も戦い勝利を収めました。魔神相手に私達2人で挑んで勝てるかと問われたら答えを返す事が困難です。しかし、貴方達の力があれば、ここに断言しましょう。私達は魔神に勝てると!」
兵達からの歓声が凄い事になって、私は一度、間を空ける。
ーふっふふ、また我の出番だなー
待ってっと止めようと思うが間に合わず、フレイドーラは今度は西洋の龍を炎で作ると、我の掌に乗れっと言ってくる。
美紅はもうヤケクソだと呟くとそこに乗ると、フレイドーラに驚いて歓声が止まり、私は続ける。
「だから、私の背中に着いてきなさい。この勇者である美紅の背中に!貴方達に歴史が刻まれる瞬間を見せて上げましょうっ!」
やっちゃった、もう戻れないっと美紅は崩れぬ表情の下でそんな事を考えていた。
ああ、トオル君はこんな感じの気持ちを味わい続けてきたのかっと改めて凄い人だと思う。そう思うと同じ気持ちを味わえている今が少し良いように思えてくる。
分かっている。それがただの逃げである事は・・・
目下で、美紅、勇者っと連呼させながら歓声を上げる兵を見て、美紅は心で泣いた。
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