199話 例え何を犠牲にしても
10章スタートとなります。よろしくお願いします。
「トールさん、とても悲しそうなのに何故笑ってるのでしょう?見てるこちらのほうが胸を締め付けられるような気持ちにさせられます」
本当に締めつけられているかのように自分の胸を押さえているミラを見て嘆息をする。
「おそらく夢を見てるんだろうな。俺の世界で夢は記憶の整理する為に見ると言われている。つまり、コイツは見てるんだろうさ」
俺はその後のセリフを飲み込むと俺はヤレヤレと溜息を吐き、首を横に振る。俺がコイツを寝かせたのは、魔力が枯渇しかけているのに時空魔法なんてものを使ったりしてたから、また深い眠りに陥る前に強制的に寝かせただけだと自分に言い聞かせる。
気付くとミラが俺の顔を見つめて、ニコニコと若干イラっとする笑顔で俺を見つめている事に気付いたが絶対にこっちから触れてやらないと決め、知らん顔をして通し、顔を背ける。
背中越しに視線が当たるのを自覚しているが無視し続けていると焦れたミラが廻り込んで来て、あのイラっとする笑顔で俺を下から覗きこむようにしてくるので、これは意地を張り合ったら負けると俺の経験則が教えていたので抵抗せずにさっさと済まそうとミラに聞いてやる。
「何が言いたいんだ?」
「ん~そうですね。さっき何を言おうとして止めたのかなって」
今度は角度を変えて覗き込んできて、俺の口から言わせようという腹のようだ。あざとい・・・言わなくても分かっているだろうにっと思うがこうなったミラに勝つビジョンが浮かばない。
無駄な抵抗を諦めて、楽になる事にした。
「楽しかった時の記憶を見てるんだろう。それが記憶という夢だと気付いているがそれでも会えて語りあえている事が嬉しくて、悲しいってところだろう。だが、それをする事は無意味じゃない。これは俺の持論だが、分かったつもりは分かった事にはならない。今、コイツは分かったつもりから、分かったになる手順を踏んでるのさ」
これで満足か?っとミラに言うと、はいっと嬉しそうに返事をされて、相変わらず、ミラには勝てないと思わされ、舌打ちをしてしまう。
俺はミラに良い意味での苦手意識がある。無駄に逆らうのは止めておこうと思わされるという意味であるが。
ミラを見つめて、俺は墓まで持って行く覚悟をしている事がある。俺の初恋の人の性格がミラを少し暴力的にした感じだったという事は絶対に漏らすつもりはなかった。彼女の教育の影響かどうしても挑む前に負け癖がついていた。
顰め面した俺を楽しそうに見つめながらミラは口を開く。
「本当に和也はトールさんにはツン・・・ツンデレでしたっけ?素直じゃありませんね。勿論、休ませないという思惑もあったのでしょうが、寝かしつけた理由の1番はトールさんの心の心配をしたからじゃないのですか?」
トールさん、とても張り詰めた顔されてましたものねっと泣いているのか笑っているのか分からない不細工なコイツの頬を撫でて、乱れようもない髪なのに梳いてやっているミラを俺は眺めていた。
確かにミラが言う2つの理由もないとは言わない。まあ、片方は絶対に公言する気はないが。
ミラも気付いてない理由がもう1つある。
久しぶりにアイツを目にした時、俺は眩しさから一瞬目を反らそうとしてしまうほど、アイツの魂の輝きに気付いた。おそらく気付いたのは俺とヨルズだけであったと思う。素養としては美紅ちゃんも気付けたかもしれないがどうやら気付いてはいなかったように見えた。いや、もう1人気付いた恐れがあるものがいただろう。轟だ、アイツであれば、あの輝きに気付く事ができたかもしれない。
話が逸れた。確かに強い魂の輝きを感じた。それはまさにビックバーンが起きたのかと聞きたくなるレベルの輝きであった。だが、その魂はまだコイツの体に定着していなかった。こんな不安定な状態を維持すると定着しなかった魂が離れる恐れがあった。離れるだけならいい。これだけのエネルギーが爆発すれば、コイツは今度こそ、永眠する事になるだろう。
しかも、この魂からの波長が、俺や美紅ちゃんなどから発するモノと物凄く似た感じがする。コイツを担いだ時にどうやったかは分からないがどうやら、触媒にされた勇者達の魂であると俺は確信した。
こいつらについて、はっきり言える事が1つある。生に執着する事は有り得ないからこの馬鹿の体を奪おうと考えているとはとても思えない。同じ勇者であった俺だから分かる。俺だってルナマリアに会わなかったら、生きる為の戦いなどしてこなかったのだから。
奪うどころか歴代勇者達は、この馬鹿の為に力になりたい。もっと露骨な言葉で言うなら糧になりたいという気持ちが俺に伝わってくる。
この魂が定着して、この力を使いこなし始めたらっと思うと笑みが零れる。
コイツだったら、コイツになら、コイツにしか、っと思わせてくれた可能性が今、形になろうとしている事に俺は震えた。
「悪く思うな。俺はお前を利用してでも、ルナマリアを護ってみせる」
口だけ動かして、声を出さずにコイツに問いかけた。
正面に居るミラは、読唇術ができる訳ではないが、俺が褒められた事を口にした訳じゃないと理解したのか、目を伏せて、ごめんね、トールさんっと悲しそうに呟くのを見て、心に軋みを覚えたが俺は意思の力で捩じ伏せた。
それから、しばらく静かな時間が過ぎた。
ミラは馬鹿を静かに眺めながら、俺は木にもたれて目を瞑っていた。
何かを思い出したかのようにミラが俺に聞いてくる。
「そういえば、和也。蓄えるだけ力を蓄えた加護の力はどれくらい持つのですか?」
加護は切ってしまったのでしょう?っと聞いてくるミラを見つめて考える。
どう答えるべきかと悩んだが、誰か1人にははっきり伝えておいたほうがいいと判断して勿論、俺はミラに話す事にした。
「俺の目算だと、ただ生活するなら1年。これからの事を考えると15日はもたないだろうな。まあ、任せろ。上手く調整してみせる」
何も心配ないとばかりに笑みを見せるが、ミラの表情は明るくならない。
「つまり、和也は短期決戦以外では負けが決まってしまうという事なのですよ?」
「そうだな、ミラが思うような勝利条件であれば、俺の勝率はないに等しいだろうな」
どういう事ですかっと聞いてくるミラに俺は、笑うだけで答える気がないっと暗に伝える。さっき、強引に聞き出した事もあり、どうしようかと逡巡しているミラを見つめていると、馬鹿が寝がりを打った。
「どうやら馬鹿が目を覚ますのも近そうだな」
そう言うとどうやら諦めたようで、溜息を1つ吐くと俺から馬鹿に視線を切り替える。
その寝顔を見てミラが、穏やかな寝顔になってると嬉しそうに俺に言ってくる。どうやら自分の中でだいぶ整理がついたようだ。
おまけに魂の定着も終わったようで無駄に輝いていた光はナリを潜めて、コイツの内側から凄まじいエネルギーを感じる。コイツは何人分の魂を受け入れたんだっと驚嘆する。
やっぱり、馬鹿は後先を考えないなっと、呆れながらもやり切った、この馬鹿に会えて良かったと思い、気付いたら俺は微笑んでいた。
微笑みを慌てて引っ込めてミラを見るとどうやら気付かれなかったようでホッとすると、馬鹿の瞼が痙攣するのを見て、本当に起きるなっと思っていると目を開くとミラを見て、微笑み、俺を見て、迷わず、寝たままで俺の脛をつま先で蹴ってくる。
余りの痛みに俺は蹴られた脛を押さえて蹲る。
「1発は1発だっとかカッコつけた癖に、意識を奪うの失敗して2発目叩きやがって!」
馬鹿は自分の方が多くないと納得できんと言って追撃をかけようとしたところを後ろからミラに頭を叩かれてた事で馬鹿は止まる。
「そんな事してる場合ですか?」
ミラがプンプンと怒ってますっとアピールすると、馬鹿は弱った顔して、俺を睨んで言ってくる。
「仕方がない、訓練という名の和也のタコ殴りという調理を始めるかぁ!」
「馬鹿野郎、それはお前だろ?」
俺達はガンの飛ばし合いをしながら、1時間を濃密に過ごせる扉を開いて、馬鹿と一緒に入っていった。
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