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高校デビューに失敗して異世界デビュー  作者: バイブルさん
9章 会者定離(えしゃじょうり)
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198話 和也の思惑と美紅の独り立ち

 後2話で本編200話っと言いたいですが、少しお預けです。

 明日、幕間を入れて、章が切り替わります。

 9章最後の本編になります。よろしくお願いします。

 残心とばかりに和也を打ち抜いた構えで大きく息を吐き出すようにして元の体勢に戻ると我に返ったミラさんが俺に戸惑いながら聞いてくる。


「トールさん!いきなり何をするんですか!」


 若干おろおろしながら、俺と吹っ飛ばされた和也を往復させるが俺は一切ミラさんに反応を示さず、和也を凝視していた。

 口元を拭いながら立ち上がった和也は、俺を見つめて言ってくる。


「1発でいいのか?」

「言い訳ないだろう?これから魔神が召喚されるまでしこたま叩きのめしてやるよっ!」


 そうかっと口の端を上げて自嘲気味に笑う和也に駆け寄るミラさんに少し悪い事したかっと少し思ったが、これでもだいぶ遠慮した結果であった。


「トオル君、どうしていきなりあんな事したかの説明は貰えるのですか?」

「美紅とテリアが冷静に聞く気があるならな?」


 俺がそう言うと目を白黒させて、美紅とテリアはお互いを見つめ合ってから、俺を見て、冷静に聞くから話をお願いしますっと言ってきた。


「なぁ、テリア。なんで和也は魔神の欠片と戦った後、俺達を閉め出したっと思う?」

「だから、トールに自分で少し訓練させてる間に寝るって・・・」


 テリアは和也に言われたままの言葉を口にするが、美紅は何かに気付いたようで考え込み始める。

 俺はテリアに近づいて、頭を撫で撫でして、お前は本当に良い子だなっと微笑んでやると頬を染めながらも馬鹿にされてると気付いたようで手を振り払って怒ってますっとアピールしているが尻尾が揺れてるので台無しだった。


「あの時点で先の未来の事、ヨルズがどこまでの未来を告げていたかにもよるが・・・」


 振り返って、ヨルズを見て俺は言う。


「俺がトランウィザードと初めて戦った辺りからエコ帝国と交渉し出した辺りじゃないかと思ってるんだが、どうなんだ?」

「さすが徹ですね。その通りです。トランウィザードとの辺りまでの予知を伝えてました」


 だろうだと思った。あそこで未来のルナが介入しなかったらあそこで終わっていた事である。

 ここから和也のアローラ、そして、和也の愛する女神をベットしたギャンブルが始まる。


「和也は、予知の段階で俺がトランウィザードに負ける事を知っていた。そこでそういったことを話して未来が確定する事を嫌ったんだ。それは本当に蜘蛛の糸の上を歩くような話だ。おそらく、ヨルズはその時に和也が俺に力を貸して乗り越える予知を与えてたんだと思う」


 俺がヨルズを見ると頷かれる。


「だが、それをする訳にはいかない訳があった。テリアに言った寝るというのも満更嘘ではなく、俺達を閉め出している間に和也はきっと加護を断ち切ってたのではないかと思う。全ては自分からルナマリアに魔神の毒が届かないようにする為に。そして・・・」


 俺は和也を睨みつけるが、どうやら気付かれる可能性も考えていたのか、罪を受け入れて判決を待つ罪人のように静かな目をしてこちらを見ていた。

 そこまで言った時、美紅が飛び出そうとしたのに気付いて、左手を掴んで止める。右手は既にフレイドーラを握り締め、瞳を紅く染め、涙目の美紅が被り振って言ってくる。


「離してくださいっ!トオル君、私はあの人が許せませんっ!!」

「俺と約束したはずだぞ?冷静に話を聞くと?」


 その場に崩れ落ちる美紅をテリアが支えながら、どういう事なの?っと聞いてくる。


「つまり、ルナマリアを辿る縁は何も和也だけじゃなかったって事だ」

「ああ、残念な話だが、ルナちゃんの存在はルナマリアの危機に繋がる。今までの賭けが失敗しても、最悪、ルナマリアだけでも助ける為に、俺がルナちゃんの命を絶つつもりだった」


 和也は自分が表舞台出てこなくていいように、俺達を閉め出したのだ。


「どうだ?思惑通りにいった気分は?」

「そうだな、途中の道程は予想外ばかりだったが、まさか最後は俺が求めた結果に落ち着くとは思わなくて意外過ぎて言葉に困るよ」


 和也の言葉を聞いて、美紅とテリアは歯軋りをして震える体が語るように、ギリギリのところで我慢してるのが分かる。

 俺はふぅっと溜息を吐くと和也に問いかける。


「最初のメッセージの神を殺す覚悟って件は、お前にとってこうなる未来を示唆したお前なりの優しさのつもりだったのか?」

「いや、俺の迷い、免罪符さ」


 和也の瞳に迷いも言い逃れもする気がないと語っていた。和也が放つ静謐な空気が立ち向かう事を決めた男の顔をしていた。

 もうコイツは未来に目を向けていない。ルナマリアが救われるのなら後はどうでもいいと考えている。だからといって魔神をそのままにする気もないのは見ていて分かった。例え、天文学的な数字だとしてもルナマリアに至る可能性を潰す意味でも、このアローラで仕留める気だ。

 振り下ろす拳をどうしていいか分からなくてらしくない事を口走った者がいた。美紅である。


「貴方がどれほど、正しい事を言ったとしても、間違った思いで繋がった貴方とルナマリアさんに正義はありません!そんなものに翻弄されたトオル君と・・・ルナさんが犠牲にして良くこの場に顔を出せますねっ!!」

「間違いから始まって何が悪いというのですかっ!!」


 今まで黙っていたミラさんが激昂する。言い返した相手が和也じゃなくミラさんでどう反応していいか分からなくなった美紅に畳みかける。


「確かに、和也とルナマリアはお互いの始まりは代替行為と嘘で始まりました。ですが旅をしながら絆を深めていって惹かれゆく2人を私は隣で見ていました。そして、ルナマリアの為とアローラから出ていくように仕向けて、僅かに送られてくる加護の名残のような力で死んで生き返ってを繰り返しながら、ルナマリアを本当の意味で救い、自分を終わらせてくれる者を500年、和也は待ち続けたのです。その役目が自分でない事をどれだけ責めたかも知らない癖に!」


 和也が抑える感情を理解するミラさんは抑える事のできない感情を爆発させながら涙を流す。和也を責める美紅に力説する度に瞳から零れる涙が宙を舞う。

 まだ言い足りないとばかりに口を開こうとするミラさんの肩に和也が手を置くと振り返るミラさんに、もういい、ありがとうっと微笑み伝えるとミラさんはごめんなさいっと言って目元を拭われると和也の後ろに下がった。


 俺も美紅の肩に手を置いて口を開く。


「腹が立つのは分かる。だが、俺が和也の立場で美紅やテリアに・・・ルナがそういう目にあってると思ったら、俺はもっと酷い事でもしたかもしれない。分かれとも理解しろとも言わない。今は飲み込んで、すべき事に目を向けてくれ」


 美紅もごめんなさいっと言ってくるので、気にするなっと笑顔を向けて頭を撫でてやる。


 さてとっと言って俺は美紅の肩に手を置いて今後の俺の予定を話す。


「俺はこのクソ野郎と魔神召喚の日までバドってくるわ」


 美紅の分もブン殴っておいてやるからなっと笑いかけると美紅は微笑みを浮かべてくれる。

 微笑む美紅は俺に背を向けて、外へと歩き出しながら言ってくる。テリアも美紅に着いていくようで一緒に離れていく。


「私は、その間、トランウィザードがおとなしくしてるとも思えませんし、アローラ全員が挑まなくてはならない戦いだと思うのでバックに戻って準備をしようと思います」

「そうか、待っていてくれ、俺も駆け付ける」


 振り返って俺に微笑む美紅があまりに魅力的過ぎて、呼吸をするのを一瞬忘れる。


「待ってなんかあげません。私は先に行きます。追い付けるなら追い付いて来てください」


 出入り口から漏れる朝日に美紅の純白の鎧に当たり神々しくも見える美紅がそこにいた。

 そして、美紅が背負うフレイが脈打ったように見えた時、フレイの目覚めに何が必要としてたのかを今、理解した。


「絶対に追い付いてみせる。だから、必死に走れよ?俺は速いぜ?」

「楽しみにしてます」


 俺に会心の笑みを見せるとテリアに行きましょうっと言って連れだって出ていった。


「さあ、時間が惜しい。すぐに始めるぞ」


 美紅を見送った俺は和也に向き直り、和也を通り抜けて扉を潜ろうとした時、和也に声をかけられる。


「骨組みは異存はないが、初日はお前は休め」


 なっ、っと唸って振り返ると俺の鳩尾に和也の拳が突き刺さる。


「そんな状態でやっても意味はない。それに1発は1発だ」


 和也はニヤリと笑い、蹲る俺にしぶといなっと言って首に手刀を入れて意識を刈り取りにきた。

 今度は耐えれなく、俺は意識を闇へと手放した。



「まあ、そういう事だ。ヨルズ、お前にも思惑はあったのだろうが、すまないな」

「いえ、確かに経過はヒヤヒヤさせられましたが、それほど悪い状況には陥ってません。徹には大変申し訳ない話ではありますがね」


 和也とヨルズは今の現状に不満を感じてはいなかった。和也はルナマリアへの想いを成就させる事、ヨルズは神々達の安寧と子の為に身を犠牲にした女神を楽にしてあげる為の目的の為に。


「この馬鹿は本当に只の人間なのか?」


 ヨルズに問う和也は半信半疑と言った感じで見つめながら聞く。


「はい、本当にただの人間です。生物上はですが・・・」


 生物上は?っと問いかける和也にヨルズは微笑みを浮かべて、答えるべきか伏せるべきか迷っているようだが、相手を気遣った意味ではなく、楽しげですらあった。

 それに気付いた和也は苛立ちから舌打ちすると、もういいっと言って徹を抱えると扉を潜って自分の世界へと向かった。

 残ったミラがヨルズに問いかける。


「で、トールさんはどうなのですか?」

「ふっふふ、徹は神々達の祈り、願いから生まれた魂を持つ、神々の愛し子なのですよ」


 徹が消えた扉の向こうを見つめるヨルズは恋する乙女のようだと、ミラは思い、嘆息する。


「和也以上にモテる人と出会う事はないと思ってましたが、和也、貴方が弟のように大事に思う存在は世界、いえ、この世のあらゆる者に愛された存在のようですよ」


 和也もトールさんに負けましたねっとクスクスっと笑い、私にとっても可愛い弟が目的を達せる為に微力ながら力を尽くそうと心に決めたミラは、ヨルズと別れを告げ、和也を追って扉を潜った。

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