196話 死んだアイツにしてやれる事
俺はどれくらいそうしてたか、分からないが、前触れもなく泣きやむとルナが居た場所に転がるルナの私物を掻き集め、俺が作ってやった首飾りを見つけると左手に腕時計を付けるようにして巻いた。
ルナが着てた服を綺麗に畳んで、その中に、やっぱり持ち歩いてたかと笑みが零れる。美紅と何度もやり合い、捨てられ、拾いを繰り返しても持ち歩いていたアニマルガールズの衣装も綺麗に畳んで俺は小脇に挟んで、立ち上がると振り返ると壁の花のように立つ轟がいた。
俺がいたのかっと言うと、ああっと答えてくる。
「俺ぁ、なんにも聞いてねぇーし、なんも見てねぇ。それでいいな、徹?」
助かると俺がそう言うと振り返って出て行こうとする轟の背中に呼び止め、語りかける。
「轟、今度会う時は、手加減も遊びも入れるな。俺が弱くてもそこまでの男だったと思って潰しに来い」
半分だけ振り向いた轟は鋭い視線で俺を射抜いてくるがそれを正面から受け止めて怯まず睨み返す。
「そのつもりさぁ、このたーけぇが。色々、背負い込んでてぇーへんだなぁ?ちと、それが羨ましいねぇ・・・」
それがあれば俺も・・・っと呟きながら遠くを見る目をしたと思ったが一瞬の事ですぐにいつもの小馬鹿にして挑戦的な目に戻り、次会う時は殺し合いだっと手を振って去っていった。
見送った俺は、美紅達と合流してここに連れてこないとなっと左手にある首飾りに意識を向けると時空魔法の使い方からルナの弓の使い方まで頭に入ってくる。そして、やはり、未来のルナが逝った事も知る。
「俺は2度もルナを死なせてしまったんだな」
一度、目を瞑って、黙祷すると深呼吸をして目を開ける。
『徹、私の力を使えば、徹の魔力でも、跳躍は使える。さすがに時を渡ったりするのは無理だがな』
沙耶さんが俺にそう語りかけてくる。
それに俺は充分だと伝える。過去に戻ってもルナを助ける事はできないとルナが残した知識が俺に突き付けている。
俺は座標探査を使い、美紅達がいる場所を探す。すると俺の探査ギリギリに美紅達らしき存在を捉える。
「そこか」
俺はそう呟くと跳躍を発動させる。
すると目の前に洞窟の入り口に到着すると座標探査をもう一度すると奥に10人ほどの人がいる場所を発見するとそこを目指して、俺は歩き始めた。
その近くに行くと見張りをしてたと思われる男に槍を突き付けられて、止まれっと怒鳴られる。それなりの使い手のようだ。だからこそ、俺には勝てないと分かって、叫ぶ事で後ろにいる者達へと警告するという方法を取ったようだが、それでも止まらず進むと灯りに俺が照らされるところまで行くと俺の顔を見たその見張りの男は慌てて槍を下ろす。
「槍を向けた事、申し訳ありません。しかし、使者様、どうやってこちらに?」
そういえば、跳ぶ前に気付いたが結界が張られてたんだなっと思い出し、その疑問は当然だったなっと思いつつも、悪いが美紅を呼んでくれないか?っと伝える。
「はい、分かりました。美紅様をお呼びしてきます」
っと言うと洞窟の奥へと走っていくがすぐに戻ってくる。おそらく、さっきの見張りの声を聞いて準備した美紅がこちらに向かって来ていたのだろうと理解する。
その見張りの後ろには想像通り、美紅とテリアが一緒になって歩いてくるが俺を見て、目を見開いて、一度立ち止まり伺うようにして近寄ってくる。
「トールよねっ?起きたのは朗報だけど、なんだか別人のようよっ?」
美紅は未だに口を開かず、俺を観察していた。そして、俺が小脇に抱えるルナの服に視線がいったと思ったら目を険しくして言ってくる。
「何が合ったというのですか?トオル君」
何があってもダンマリは許さないといった責めるような視線を受け止めても俺は慌てなかったが、横に居るテリアが慌てた。
「美紅っ、なんで、トールが敵みたいに睨むのっ?まさか偽物とでも?」
待って、雰囲気は変わってるけど間違いなくトールだからっと美紅の肩を揺さぶる。
揺さぶるテリアの手を押さえてた美紅は首を横に振る。
「誤解させてすいません。確かに、目の前の人はトオル君です。私はトオル君が小脇に挟んでいる物の説明を求めているんです」
テリアは小脇?っと言って見るとそこにあるルナの服を見つめて、テリアも俺の凝視してくる。
俺はその視線にも動じず、2人に近寄りながら言う。
「ああ、俺も隠す気は勿論ない。話せる事は全部話すつもりだ。だから、その適切な場所へ行く。俺のどこでもいいから触れてくれ」
そういうと美紅は迷いもなく俺の右手の袖を掴む。テリアはどうしたらいいかと一瞬悩んだようだが、ええい、女は度胸っと言って、美紅と反対の左手の袖を掴むと左手に巻いている首飾りに気付いて、これもルナのっと呟く。
「どこに行こうと言うのですか?」
「勇者召喚の場所へ」
そう言うと俺は跳躍を発動させて、再び戻ってきた。
跳躍にびっくりしたのか2人は瞑っていた目を開くと本当に来た事に驚き、辺りを見渡す。
「魔法陣の光が戻っています」
そう呟く美紅に気付き、前は違ったのか?聞き返すと、どうやら3日前に来た時は消えていたそうだ。ルナが残してくれた記憶がその時に破壊していたら止める事もできたと知ったが、それは敢えて教える必要はないだろうと俺は黙る事にした。
美紅とテリアが説明をして欲しいと視線で訴えて見つめてきていた。勿論話すつもりの俺はどこから話すべきかと考えながら口を開く。
「一番知りたいと思っているであろう、大事な事を先に伝えるよ」
俺がそう言うと2人は明らかに身構えて俺を見つめた。
「ルナは逝ったよ」
「えっ?どこに行ったって言うのよっ!」
美紅はやっぱり、そういう事ですかっと唇を噛み締めて堪えるように俯いた。
だが、テリアは、俺の言い回しを自分が信じたい方向であると思い込む事で必死になっている。
「俺がルナの最後を看取った」
否定する言葉を必死に探すがどうしても自分を騙せないという結論に至ったテリアは、いやぁぁぁーと叫ぶと崩れ落ちて泣き始める。
美紅もテリアに寄りそうように泣くのを耐えているところに俺は近づき、ルナが隠し持っていた私物を渡す。
目を見開いて俺を見つめる美紅の瞳には涙が盛り上がっていた。
「ああ、美紅が捨てたり、ルナが拾うという決着が付かない戦いの産物だよ。アイツはやっぱり持ち歩いてたようだ。もう1度着て、美紅と遊びたかったんだろうな」
俺からアニマルガールズの衣装を受け取ると掻き抱くようにして、胸に優しく抱き締めると、耐えていた涙を止める事もできずに溢れさす。
美紅とテリアはしゃがんだ俺にしがみつきながら泣く。
「す、すぐに泣き止みます。だから少しだけこうさせてください」
嗚咽混じりに美紅が言ってくるが俺は2人の頭を優しく抱き締めて、言ってやる。
「いや、中途半端に我慢するな。泣けるだけ泣いてしまえばいい。生きてる奴が死んだ奴にしてやれる事なんて、そいつを悼んで泣くぐらいしかないさ」
悲しいかな、俺達は中途半端に悼んで泣いてやる時間をこまめに作ってやれるような時間がないから、ここで全部吐き出してしまえっと頭を撫でてやる。
俺の言葉に、でも、でもっと繋げる美紅の耳元に口を近づけて、強めの声で命令口調で伝える。
「泣けっ!」
そういうと一瞬ビクッっとさせたと思ったら堰を切ったかのように美紅は声を上げて泣き始める。テリアもそれに釣られるようにして一緒に声を上げながら泣く。
俺はただ、2人を強く抱き締めて、2人が全てを吐き出すまで胸を貸し続けた。
それからどれくらいの時間が過ぎたか分からないが、2人が俺の背中をポンポンと叩く。
「もういいのか?」
「何がもういいのかよっ、一生分っていうぐらいに泣いたわよっ。それより、トールはいいの?泣かなくてっ?」
ああ、俺は男だから安売りはしないさっと笑うが、目元を拭い終えた美紅がヤレヤレといった雰囲気を撒き散らして言ってくる。
「嘘ですからね?テリアちゃん。トオル君は私達に会いに来る前にきっとこれでもかというぐらいに泣いて済ませてから来てるんですからね?」
「それトールらしいかもっ。下手したら私達より泣いてそうだよねっ」
ジト目で見てくる2人に俺は目を反らして頭を掻いて黙秘を貫く。
溜息を吐いた美紅が口を開く。
「それでは、そこに至った経緯を聞かせてください」
そう言われた俺は頷いて、語り出す。ルナがここにやってきて、トランウィザードと轟と出会い、あった事は俺の推測が混じると伝えて、状況説明をした。そして、轟との利害一致から、ルナは魔法陣を調べて、魔神の召喚を遅らせる為に自分の命を賭して、7日という時間を生み出した事を伝える。
「ほっといても魔神は4日後に召喚される。そこにルナの7日を足して11日。そして、今日が1日目にあたる」
「納得はしないけど現状は理解したわっ。でも、納得も理解が出来ない事があるっ!どうして、他世界の女神達は何もしないの?トールをこの世界に連れ込んで人の人生を無茶苦茶にして、説明すら制限があって話せないとかどういう事なのよっ!!」
なんでそんな奴らの為にルナは死ななければならなかったのよっと怒りを露わにする。宣託の巫女であるテリアが言うと胸を打つセリフだ。自分の存在を全否定しかねない事なのに言い切るテリアはカッコ良かった。
美紅は魔法陣を見つめてから俺を見てくる。それに俺は頷いて答える。
「ああ、そのいくらかの疑問を答えて貰うとしようか」
俺は美紅と目を合わせると頷き合うと俺はカラスを美紅はフレイドーラを構えると息を合わせて、上段から振り下ろして魔法陣を破壊した。
そこに光が降り立ち、その光の中に人影が見える。
さあ、もう制限や制約と言った言葉で言い逃れさせるつもりはないぜっ呟いて光の先を睨みつけた。
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