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高校デビューに失敗して異世界デビュー  作者: バイブルさん
9章 会者定離(えしゃじょうり)
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195話 願い

「何から話そうかな・・・そうだ、忘れる前に先にやっとくの」


 凄く穏やかな表情をしながら語るルナだが、辛くないはずがない。今の俺には魂の在り様がはっきりと視て取れる。おそらく、あの経験が俺にそんな眼を与えたのかもしれない。既にルナの魂は霞みのように強い風が吹けば保つ事も叶わず消えるだけっといったギリギリの状態だ。俺も魂が細切れにされたばかりでその辛さは身を持って知っていた。


 そんなルナは震える手を上げて、指先でカラスとアオツキを触れると、やり切ったっといった表情をして、上げた手を落とす。


「これで、カラス達の封印は解いたの。忘れて逝ったら解くのに苦労したはずなの」


 クスクスっと笑うが、弱った体はそれすらも許さないのか堰き込むルナを抱え込み、背中を摩ってやる。


「馬鹿野郎、そんな、どうでもいいような事に力を使うなよ・・・」

「どうでも良くなんかないの。徹達ならなんとか解く事はできるけど、その無駄な時間を費やすのは愚かなの」


 抱きかかえられた俺の胸でどこか幸せそうに微笑むルナに消えないでくれっと願う。

 また一つ、願いが叶っちゃったのっと呟くルナに俺は何も問いかける事もできずに壊れ物を抱えるように更に胸に寄せる。


「よく聞いて欲しいの。魔神が召喚されるまで、4日。そこを私が7日上乗せして11日まで引き延ばしたの」

「前から馬鹿だ馬鹿だと思ってたが、俺が本気になれば4日もあれば充分だったのにっ!!」


 そう、怒鳴る俺に優しく微笑みながら、強がちゃってるのっと笑いながら、でも徹ならもしかしたらやったかもしれないのっと天井に目を向ける。

 その、たった7日間の為にルナを失うなんて、なんて割に合わない代償なんだと俺は歯軋りをする。


「4日でなんとかできる徹なら11日あれば、余裕で鼻歌混じりでやっつけちゃうの」


 俺は当たり前だろ?っと精一杯の笑顔で俺はルナに笑いかけるが堪える事ができない涙がルナの顔を濡らす。零れる涙をかかったルナの顔を何度拭っても濡れる事が堪らなく悔しくて、唇を噛み締めて、口の中に広がる血の味で涙を抑えにかかる。いつまで、泣いている、俺がルナの言葉を遮ってどうするっと叱咤した。


「なら、もうアローラの事は心配いらないの・・・徹が全部救ってくれると私は信じているから」


 でもね、実はね?っと俺に苦笑して、ここだけの秘密にしといて欲しい話なのっと言ってくるので、俺は、ああ、俺達の2人の秘密だっと頑張って笑う。


「徹達と旅をして、何度もアローラの子らが嫌いになりかけた事もあったの。だから、徹達だけが助かるなら他のアローラの子らがどうなろうが知らないのって考えた事があるの」


 酷い女神なのっと言うルナに俺はそんな事ないさっと俺も何度か人間不信になりかけたこともあると言うと、どんな事と聞かれたので肩を竦めながら言ってやる。


「ルナと美紅に春奈えろほんを燃やされたり、シーナさんに思わせぶりでオッパイを触り損ねた時は、この世の不条理を呪ったもんだ」

「それは、間違いなく徹が悪いのっ。それが正しい世の中だとしっかりと理解してなかったの?」


 それを理解させてなかったのは痛いのっと呟くので、何、これからゆっくり俺を教育していけばいいさっと呟くがルナに首を横に振られる。

 勿論、俺も分かっている。認めたくない現実から目を反らそうとしていると言う事を。


「それは、美紅達にお任せするの。ねぇ、徹。お願いがあるの」

「ああ、なんでも聞いてやるさ、月に行ってみたいっていうなら連れて行くし、なんだったら俺の世界に遊びに来るか?」


 無茶苦茶言う俺に苦笑しながら、徹の世界か、いってみたいのっと呟くが首を横に振り、言ってくる。


「お願い、アローラの子らに未来をあげて欲しいの。やっぱり私は見捨てられない。あれほど、ルナマリアに否定されても、降りてきて、何度も嫌いになっても見捨てられないの。それにね・・・今のアローラは徹と一緒に楽しいを一杯した思い出の残る地なの。失いたくないの」

「そんな、ちっさい願いでいいのか?もっと大きな願いはないのかよっ?」


 でかい口を叩く俺を柔らかい笑顔で見つめるルナは、子供のようなヘラっといった表情をして言ってくる。


「それで私のお腹も胸も一杯なの。徹も知ってるでしょ?私は沢山は食べれないの」


 幸せなのっと呟くルナを見て、どうしてこの馬鹿な女神はもっと自分の事を願わないのかと腹が立ってくるが、これがルナだと俺は心で理解してしまっていて爆発できずにいた。くだらない我儘ならいつも言うのに、ここぞっという時は自分を殺している事にも気付かず、他人の幸せを祈る女神が消えて逝こうとするリアルを認められずに拳を強く握る。


「そうだ、会ってからそれなりに経つのに、私は徹の願いを叶えた事ない事も心残りだったの。私の願いは毎日のように聞いて貰ってたのに・・・で、徹の願いを聞かせてくれない?」

「願いなんてどうでもいいさ!お前が助かるなら願いなんていらない・・・」


 そっと俺の口に人差し指を当てると悲しそうに微笑みながら言ってくる。


「女神にも叶えられる願いと叶えられない願いがあるの・・・お願い、徹の想いを聞かせて」


 俺はルナを抱き寄せ、耳元で囁くように願いを伝える。

 すると、ルナの表情がクシャっと崩れて、防壁が決壊したように涙が溢れ始める。


「アホっ、徹のアホは死んでも治らないの。そのブレないのが徹なのかもしれないの。頑張ってみるの。徹の優しい願いが叶うように・・・」


 そう言うとルナの体が薄ら光り出して粒子のように少しづつ上へと上がっていくのを見て、終わりが近づいてきてる事を認識する。


「もう、終わりなの。最後に私の残ってる力と能力の一部をアオツキに移しておくの。少しでも徹の助けになるといいな」


 馬鹿野郎、そんな満たされたヤツみたいな顔をするな。俺はお前に何もしてやってねぇよっと先程引っ込めた涙が再び溢れる。今度は血の味でも抑える事はできなかった。


 光の粒子の上がる速度が上がる中、ルナは微笑みながら言ってくる。


「美紅達にも謝っておいて欲しいの。勝手してごめんって。きっと、怒ると思うから徹、悪いけど私の代わりに怒られておいて欲しいの」


 相変わらず、すぐ俺に押し付けるところがある残念女神がそこにいる。それももうそれで俺の翻弄してくれない。

 任せろよ、いつもの事だっと告げると、えへへっと笑うルナ。

 ねぇ、徹っと俺を呼ぶルナに俺はどうしたっと告げるとこちらを見つめてくる涙に濡れて美しいと思わせる顔がそこにあった。


「初めて会った時、あの世界から出る時に誘ってくれてありがとうなの。私、本当に嬉しかったの。そして、出てきた事を誇れる自分にしてくれてありがとうなの。あっ、もう1つお願いがあったの」


 いくつでも願えよ、俺が全て叶えてやると抱き締めると、さすが、徹なのっと呟く。


「じゃ、もう1つ追加でお願いするの。1つ目は、あの世界から出る時にしてくれた徹の笑顔がもう1度みたいなぁ」

「任せろよ。これでいいか?」


 俺は大きな笑顔を意識するが自分でも引き攣っているのが分かる。俺は自分に笑え、今、笑わなければ、ルナを送れないっと叱咤すればするほど、崩れていく。


「ありがとうなの。私はこの笑顔がまた見たかったの」


 そう微笑むルナを凝視して、瞳に光がない事に気付く。もう見えてない事に今、気付く。


「最後のお願いなのだけど・・・私が消えるまで強く抱き締めていて・・・?」


 俺は、おうっと言うとルナを強く抱き締める。

 ルナは安堵の溜息を吐くと、また幸せだと呟く。


「徹?私ね、会った時からずっと徹に恋してたの。気付いたのは徹が初代勇者と修行に行くと言って別れて行動した時なんだけどね」


 俺は、突然の言葉に目を白黒させる。

 見えてないはずなのに、俺の様子が分かるのか、微笑みながら言ってくる。


「私は卑怯な女神なの。だから、言い逃げするのは仕方がない事なの」


 俺の頬を愛しそうに頬で擦り寄りながら、『大好き』っと呟くとルナを抱き締めていた俺の手が空を切る。弾けるように上を見るとルナだったものが光の粒子になって空に向かって天井を抜けていく。その一部がアオツキに吸い込まれるように入っていくが俺はルナが行った天井を呆けたように眺めていた。


 ルナの言葉が俺の中で木霊する。俺はお前にそんな言葉を贈られるような男じゃない。何もお前にしてやれなかった俺が・・・

 だが、ルナの想いを嘘にしない為に俺はやらねばならない。だから、俺はもう目的を達するまでは涙を流す事はない。

 だから、ルナ、今だけはお前の為に涙する事を許してくれ。


 心の底から俺は雄叫びをあげて、子供のように取り繕わず泣いた。


 そして、魔神召喚までの1日目の始まりを告げた。

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