194話 ユニークジョブ
俺はまどろみに包まれ、そのまま落ちていくように眠りたいという衝動に抵抗せず、眠りに就こうとするが、それを邪魔するように俺の耳元で騒ぐ声がする。
「徹さん、徹さん、起きて!!本当ならもう少しゆっくりしたほうがいいのは間違いないのだけど、そんな悠長な事を言える状況じゃなくなっているよっ!」
「起きろ、徹。お前は起きないといけない」
俺の耳元で騒ぐだけでなく叩いている者もいるようだが、まだ寝ていたい俺は囁かな抵抗とばかりに寝がりを打って逃げる。しかし、次に聞こえる声と言葉で俺の意識は覚醒する。
「いい加減に起きなさい。ルナちゃんと2度と会う事なく、さようならしても良いと言うなら別だけど、その時は貴方との家族の縁は切らせて貰うわ」
決して大きな声ではなかったのに、俺にとても響く声がする。
俺は、ミランダっと叫んで起きるが、真っ暗の世界で、傍にいる、瞬と沙耶さんがいるだけで、ミランダは見当たらない。
不思議に思い、辺りを見渡しながら、首を傾げていると、瞬がやっと起きたっと呆れながら言ってくる。
「徹さん、落ち着いて聞いてね?」
女顔した瞬が強張らせて詰め寄ってくるから、下手な強面の男よりビビってしまって腰が引けるがとりあえず頷く事にした。
「魔神を結界の中から召喚という形を取って、アローラに降臨させようとしてるようだ、いや、既にして、もう止める術がない状態なんだ」
召喚されるのが、今から5日後と僕達は見てるよっと俺に伝えてくる瞬の肩を掴んで揺すりながら聞き返す。
「どうして、魔神といえ、神を召喚する術などあるのか?」
俺に揺すられながら、落ち着いてっと俺の手の甲をポンポンと叩いてくるので我に返った俺はスマンっと言って手を離す。
「普通は無理だよ。でもね、僕達を呼び出していた召喚する魔法陣だけど、あれって正確に言うなら本来は勇者を召喚するモノじゃないんだ。本来は世界を渡れない神のサポートをするものだったんだよ。勇者召喚はそのオプション、ルナマリアだっけ?が少しイジって勇者を選別する召喚システムを組み込んだものだったんだよ」
つまり、本来の使い方をすれば、魔神を召喚できるのは道理だと瞬は言っているようだ。
もしかして、魔法陣を破壊するように示唆されていたのはこれの事だったのかと悔しくて地面を叩く。
「確かに、魔神が召喚されるのは大変な事ではあるんだけど、良く考えて?どう考えてもやり過ごす事ができない相手だよ?やる場所がどこかの違いぐらいしかないよ。それが理由なら、後5日あるんだ、徹さんの体調を万全にする事を優先したんだけど、僕達の恩人でもあり、徹さんが家族と認めるこの人が知らせてくれた事を聞いた以上、そのまま寝かせておく訳にはいかなかったんだよ」
「うむ、それを知った私達が黙ってたと徹が知るときっと恨む、いや、それに感づいて起きなかった自分を攻め続けるだろうな」
2人は俺に悲しそうに言ってくる。説明をする事が辛いと言わんばかりにそこまで言うと俯いてしまう。
俺は2人の様子にうろたえてしまってどうしたらいいか分からなくなった時、俺を起こした声が聞こえてくる。
「ありがとう、2人とも、後は私から説明するわ」
「ミランダ!やっぱりミランダなんだな?なんで、俺に語りかけられてるんだ?」
どこから声をかけられているか分からなくて辺りを見渡すがミランダを見つける事ができず、思わず舌打ちしてしまう。
「私の事なんてどうでもいいのよ。トール、よく聞きなさい。今、美紅ちゃん達は魔神の手の者に結界に閉じ込められて動けないわ。けど、心配するなっていうのもおかしな話だけど、本当に命に別状もなく5日後には勝手に解けるわ」
食糧なども潤沢にあるから本当にそこは問題ないのっと俺に言ってくる。
「美紅ちゃんの動きを封じられているのは困った事ではあるのだけど、それ以上に問題なのがルナちゃん。ルナちゃんはトールが魂の修復が済んでる事に気付いて、美紅ちゃんと合流しようと移動中に勇者召喚の場所に違和感がある事に気付いちゃうとそこに今、近づいて行ってる。おそらく今夜に到着するぐらいの距離に来てるわ」
「さっきの話だったら、そこにはあの2人がいる可能性が高いじゃないか!」
ルナが危ないっと俺は慌て出すが、ミランダが少し大きめな声で、落ち着いて最後まで話を聞きなさいと怒られる。
俺は拳を力一杯握りながら落ち着けるように念じながら深呼吸をするような真似をする。
「トールが言うように、2人はそこにいるわ。でもね、ルナちゃんがその2人と戦いだすという未来になるならまだ救いがあると思っているわ」
そういうミランダに俺はどういう事だよっ!と噛みつくが、ミランダは俺の怒気にも意にも介せず、あっさりとそうなったらルナちゃんは逃げれるからよっと言ってくる。
「そう、危ないと思ったら結界を張られようが拘束されようが魔法を封じられる前に時空魔法を使えば逃げる事だけなら容易い。でも、それをなんとか回避して魔神召喚に何かできる状態になったら、ルナちゃんが取ろうとする行動が問題なの。そうなる可能性が私は高いと見てるわ」
「確かに突然、ルナは強くなった。それでも轟に勝てるほど強くはないし、そこにトランウィザードもいるならどうにもならんだろ?」
そうね、確かにルナちゃんは勝てないでしょうねっと言うミランダに眉を寄せる。俺の言葉を容認するのに何故、ルナが2人をどうにかして魔神に介入できると言うのだろうかと考えるが分からない。
「1人、トランウィザードと言うのね?そちらはルナちゃんに本体を攻撃されるのを嫌って逃げると思うわ。そして、2代目勇者は、きっと1人になったらルナちゃんを邪魔しない。あの男は魔神召喚を阻止はともかく邪魔して時間を引き延ばす行動を妨げる事はしないはず」
俺はミランダに何故っ!っと言いつつも、なんとなく答えが分かってしまっていた。ミランダは少し悲しそうな声で、2代目勇者はトールに固執している。貴方が完成する時間を稼ぐ為に邪魔しないわっと言ってきた。
その悲しそうな声に耐えきれなくなった俺は質問する事で逃げる。
「その2人の行動予想はそれでいいとして、何故、魔神召喚にルナが関わると救いがないんだ?」
「召喚を邪魔するだけとはいえ、相手は魔神。それを引き寄せる力は既に動き始めて止めるのが叶わない状態にある力を押し留めるのは凄いエネルギーがいるわ。トールが召喚される魔神、そして加護を受けし者と戦う為の時間を得る為に、あの子、ルナちゃんはきっと最大限の時間を得る行動を取ると私は予測の段階だけど断言するわ。最大に行使しようとしたらどうなるかはトールもよく分かっているでしょ?」
そうだ、そんな事をしたらどうなるかなんて分かり切っている。俺は使えもしない魔法を無理矢理使って、魂が細切れにされ消滅しかけた。そこで制御ができるルナが全てを解き放ったらどうなるか・・・
「ミランダ!どうやったら俺はここから出れる、起きれる?」
「まずは目を瞑って、そして、目の前に指が引っかけられるものがあるとイメージする。そこに指を添えて、開くイメージをしなさい」
俺は声に導かれるままにイメージして、俺は現実の世界へと帰還した。
目を覚ますと俺の傍にはシーナさん、クリミア王女、そしてエルフ王がいて、起きた俺を見て驚き喜んでくれていた。
「トールさん、おはようございます。起きてくれて本当に良かった」
そうシーナさんは笑顔で俺を見つめながら目の端に涙を浮かべる。クリミア王女は俺の手を握りながら嗚咽を我慢して、それを眺めるエルフ王は、うんうんっと嬉しそうにしていた。
「すまない、心配かけたようだ。ゆっくりと礼を言いたい、だが、時間がないんだ」
俺は本当にすまないっと叫ぶとベットから飛び降りると何故、カラスとアオツキを持っているのかも疑問に思わず、エルフ大使館を飛び出した。
置いてきぼりを食らって3人は目を点にして見送ってしまうが、徹が無事に起きた事を素直に喜ぶ事したようだ。
「ヤレヤレ、起きた早々、相変わらず忙しい御仁だな。トール殿は」
「ええ、でも、先程のトールの目が気になります。何か追い詰められたような瞳をされてました」
ハンカチで目元を拭いながらそう返すクリミア王女の言葉にエルフ王は頷く。
「ですが、トールさんならきっとギリギリ間に合うのでしょうね。誰かの救いであり続けるかのように自分を示し続けてこられてますから」
そう言う、シーナの胸元から光が漏れている事に気付いたクリミア王女はそれを伝えるとシーナは胸元から取り出したのは徹の冒険者ギルド証であった。
「まさか、本当にこんな事が・・・」
そう言うシーナの言葉にクリミア王女とエルフ王は顔を見合わせるとシーナが持つ冒険者ギルド証を覗き込んで息を飲んだ。
冒険者ギルド証の職業が開拓者から『hero of Goddesses (女神達の英雄)』と書き変わる瞬間を3人は目撃する。
そう、それはアローラ史上3度目とされるユニークジョブの発現される歴史の証人となった瞬間であった。
エルフ大使館を飛び出した俺は、どっちだと廻りを見渡すと透ける格好の瞬が現れて、北だよっと指を差す。
そう言われた俺は空を駆ける。全てのモノを無視して真っ直ぐに最短距離でと全力で飛ぶ。
「徹さん、道案内は僕に任せて、飛ぶ事だけ考えて!」
俺は助かると言うと全力を出す自分を制御する。
ただ、その先にルナだけを思いながら俺は空を駆けた。
どれくらい飛んだか分からないが、瞬に呼び掛けられる。
「徹さん見えてきたよっ!」
そう言われて、俺は廻りの景色に意識を向けると、遠目に地下に降りれそうな入口があるように見えた場所へと俺は残る魔力を振り絞るように加速する。
入口がはっきり見えると俺は我慢できずに叫ぶ。
「ルゥゥナァァァァ――――!!!!!」
勢いを落とさず、半開きになってるドアも無視して突っ込み、粉砕して転がるように中に入ると倒れるルナが目に入る。その前で仁王立ちする轟が俺を見つめていた。
俺は獣のように叫びながら飛びかかり、カラス達を抜く事も考えずに飛び込む俺の行動と動きに目を見開いた轟は俺に殴り飛ばされるが、飛ばされる前にお土産だと言わんばかりに蹴りを入れられてお互いの間に距離が生まれる。
「おめぇぇ!が今する事は俺とやることかぁ!そうだと言うならいくらでも付き合ってやらぁ!だが、いいのかよぉ?」
轟は俺に歯を剥き出しにして、怒髪天とばかりに怒りながら叫びながら、ルナに視線をやるのに釣られて見ると、ルナが息絶え絶えといった有様で俺を呼ぶのに気付く。
俺は我に返り、後ろから轟に攻撃される恐れも考えもせずにルナへと駆け寄る。
「すまんっ!今、蘇生魔法をかける!!」
そう言って、ルナに掲げるように魔法を行使しようとする手をルナが包むように押さえてくる。
「ありがとうなの。でももう使うだけ無駄な魔力なの。それに徹の魔力も枯渇間際なのに気付いてるの?もう倒れて美紅達を心配かけたら駄目なの」
もう存在も希薄になりつつあるのに、嬉しそうに微笑むルナに俺は涙を流す事しかできなくなっていた。
「徹と沢山話したい事が一杯あるけど、時間がないの。私の残りの時間だけ、徹の時間を私にくれない?」
「10年だろうが100年だろうが好きなだけ付き合ってやるよ。だからよぉ、だからよ・・・」
俺はその後の言葉を嗚咽を抑え切れなくて続けられなくなる姿を見て、ルナはしょうがないのっと苦笑いしながら、ありがとうなのっと言ってくる。
ルナが語ろうとする言葉を一字一句聞き逃さないとばかりに俺は唇を噛み締めて、嗚咽を無理矢理抑え込む。
胸に溜まっていた空気を吐き出すと、俺を見つめ直してきたルナが語りかけてくる。
アローラの最後の女神との始まり、終わりを迎える為の俺達の閉幕のベルが鳴るまでのエンドロールが始まる。
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