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高校デビューに失敗して異世界デビュー  作者: バイブルさん
9章 会者定離(えしゃじょうり)
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193話 徹に未来を~Moon sink~

 連載停止っと活動記録に書いて、しばらく本当にしようかと本気で悩みました。今回の話は、高校デビューの話を考えだした時の重要ポイントとして考えてた話の1つで、話を書きながらも何度も変えようかと悩んだお話の為です。活動記録の一番古いヤツで変えようかと書いていた内容はこの話をどうするかという話でした。

 読んだ方がどう思われるか分かりませんが、これがバイブルが描いた高校デビューのストーリーです。

 馬車を操りながら、メイドから掻っ攫うように奪ってきたサンドイッチをハムハムと美味しく頂きながら寄ってきた小鳥にお裾分けをあげてるほど、私はご機嫌で鼻歌が漏れる。

 それはそう、徹の目覚めが決まったようなものだと分かった事で安心したからに他ならなかった。勿論、徹は無事に助かると信じて疑ってなかった訳だが、やはり、大丈夫とはっきりと分かるのは、大きな違いがあった。


 嬉しくてホクホクとした顔をして御者席で浮かれていた私はある事に気付き、愕然とする。


「ど、どうしよ・・・勢いで出てきちゃったけど、美紅達とすれ違ったら・・・」


 道が一本道である保障もないし、素直にバックに向かうかどうかも分からない。どうしたらいいかと今更悩み始める。これは、ピンチなのっと頬に汗が流れるのを実感する。

 でも、私はちゃんとこういう時の対処方法を徹に叩きこまれているのだと、胸を張る。


『道に迷ったり、どうしたらいいか分からなくなった時は駄目元で近くの人に聞いてみる』


 辺りを見渡すが、木、そして、木、で、またまた、木の森の中。ザウスもいない有様。私の心の隙間に風が吹いたような気がした。

 御者席の私の隣を見るとあげたパンをまだ突いている小鳥さんがいたので、私は瞳を輝かせる。


「小鳥さん、美紅達はどこにいるの?」


 私の問いかけに首を傾げる小鳥さんに倣って、私も傾げると食べかけのパンを咥えると飛び立って行ってしまう。

 何かが芽生えるのかと、一瞬、思わされたがどうやら一方通行だったようで脱兎の如く逃亡されてしまった。


「パン分けてあげたのに!食い逃げ反対なのっ!」


 食い逃げ、駄目、絶対に!という標語を今日から立てた私は、取り立てをする為に小鳥を追いかける事にする。行き先など、私の時空魔法の座標探査を使えば、使えば?

 そこまで考えて、私は気付く。


「そうか、座標探査で調べたら美紅達がどこにいるか分かるの」


 私は小鳥さんが飛びだった方向にありがとうっと叫びながら手を振った。


 すぐに私は精神集中して座標探査を開始する。

 今の私では、馬車2日分ぐらいの距離しか網羅できないが、調べても美紅達らしき反応はなかった。いないっと分かって嘆息しながら、まだ現地にいるのかもっと呟いていると、少しおかしい反応がある場所に気付く。


 存在が不安定なモノが2つと漠然としか分からないが、とても大きな存在が現れそうな予兆みたいなものを感じさせる。

 ドワーフ国で見せられた地図を思い出しながら、その場所を照らし合わせるとどうやら勇者召喚の場所らしいと分かる。


 場所が場所だけに気になった私は、どうしようかと迷うがとても胸騒ぎがする気がしていた。

 美紅達の居場所も分からない事だし、少しだけ寄り道する程度の距離の誤差しか出ない事から、私は一度見に行く事にした。



 バックを出て、3日目の夜に勇者召喚の場所に到着する。本来ならもっと早く着けたはずなのだが、入り組んでいて、時間がかかったうえ、馬車の車輪が壊れるという運がない事が続いた為であった。

 本当に運がなく、泣く泣く、持ち物の選別をして、必要最低限の荷物を持つと馬を馬車から外して乗馬してここにやってきた。


 到着して、地下に降りて行く入り口を前にして私は嫌な予感が止まらない。本来なら、徹の目覚めを待ってなんとかしたいところだが、せめて、美紅達がいればと思うが、調べた結果、どうやらまだ現地に居る事が座標探査で分かっているが、迎えに行って帰ってくる時間をかけたら、手遅れになる、いや、既に手遅れな可能性が見え隠れしていた。

 そんな状況で、選べる選択肢は2つ、このまま、背を向けて逃げる事と、もう1つは・・・

 私は後者の選択を選んで、地下へと続く階段を降りて行った。



 降りて行くと昔、ルナマリアから見せられた通りの造りの魔法陣が光源・・を薄ら放っていた。

 私は神経を尖らせてながら辺りに視線を走らせながら、口を開く。


「隠れてないで出てくるの。いるのは分かっているの」


 弓を私の左側に向けて構えると、あの耳障りな老人口調が聞こえてくる。


「困ったのぅ。あの勇者のお嬢ちゃんの足止めを成功させたと思ったら、ノコノコとお前さんがくるとはのぅ?」


 美紅に何かしたと言うトランウィザードに弓を放つと狙い違わず、命中させると、軽い爆発を起こして、粉砕して空間の裂け目から新しい体を出してくる。


「今からする質問にちゃんと答えないと問答無用に隠れてる本体を無数の矢で射抜くの」

「問答無用で撃っておいて良く言うのぅ。なぁーに結界で足止めしてるだけでな、3日後には無効になってしまうもんじゃ」


 命の心配もないわっと厭らしい笑い方をしながら言ってくる。

 嘘を言ってるようには聞こえないが、このまま逃す必要もないと判断した私は、質問に答えてくれてありがとうなのっと呟くと弓を引き絞る。


「ヤレヤレ、女神なのに、いや、女神だからなのか、あっさり掌を返すのぅ?」

「私は少なくとも相手を見て判断してるの」


 肩を竦めて、酷い女神もいたもんだとニヤリと笑うと私の後ろに向かって口を開いた。


「この女神はとことん、私と相性が悪すぎる。後を任せましたよ、轟くん」


 騙されるかと矢を放とうとした時、後ろから感じた覚えのあるプレッシャーで硬直する。

 そんな私を見たトランウィザードは楽しそうに口の端をあげると姿がブレたと思ったら、霞がかかるようにして消えていった。

 もうトランウィザードなどどうでも良く思えるプレッシャーの主を見る為に硬直した体を無理矢理動かして後ろを振り返る。

 すると、出入り口にもたれ、足でとうせんぼするようにして、目だけをこちらに向けている轟がいた。

 轟が居る事で私は入る前に感じていた可能性を言葉にする。


「魔神をここに召喚する気なの?」

「ああ、もう、女神さんもよぉ、気付いてるだろうがな、魔法陣を破壊してもどうにもならねぇーぜ?」


 もう召喚を止める術なんてねぇーよっと吐き捨てるように言ってくる轟の言葉を私は否定する言葉を持ち合わせてなかった。

 轟は頭をガリガリと掻いて、顔をこちらに向けて来て、私と目を合わせて言ってくる。


「止める術は確かにねぇ!が、遅らせる方法ならあるんじゃねぇーか?女神さんよぉ?」


 いきなり、轟は何を言い出すんだと睨みつけるが、大きく息を吐くと私の疑問に答えてくる。


「別に心入れ替えてぇって話じゃねぇーよ。俺はよぉ、魔神、世界とかどうでもええんよ。俺にとってイットウ大事な事はよ・・・徹だ、強くなったアイツと戦う事が全て、それ以外の事なんてよぅ、些事だ、些事」


 本当にどうでも良さそうに手を振って言ってくる。

 徹は無事かっと聞かれて反射でそろそろ目を覚ましてるはずなのっと答えてしまうと、本当に嬉しそうに笑う轟が言ってくる。


「アイツは確かに、強くなってきてらぁ。だがよ、まだ自分ってのを引き出せてねぇ。俺の見立てだとよ、後ちょっとで化けるとこまで来てると見てる。その、後ちょっとの時間がねぇ、だからよぉ、召喚を遅らせられねぇーか?」


 轟の徹への執着は本物だと私は疑ってない。という事は今、魔神召喚されると困るという言葉は何より本気だと私は感じた。


 少なくとも、今、轟は私と敵対する気がない事を信じて、背中を向けて、魔法陣を調べ出す。

 やはり、思ったように、今、魔法陣を破壊しても手遅れと分かる。せめて、後2日早く着いていれば、破壊して、処置すれば召喚阻止もできただろうが・・・


 そして、調べても調べても、行き着く答えは1つしかなかった。それ以外の可能性を必死に模索するが全て裏切られて、肩を落とす。


「答えは出たようだなぁ?で、どうよぉ?」


 そう、声をかけてくる轟を振り返ってみるが、ボヤけて良く見えない。

 私を見て、目を一瞬見開いた轟は目を反らして目を瞑って、そうかぁっと言って黙る。


「何度考えても、いくらできないと分かっても実行する方法考えても、これ以外に方法を見つけられなかったの」

「徹と戦うのがイットウだったけどよぉ。お前さんともヤルのも楽しみにしてたんだがよぉ」


 本当に残念そうに吐き出すように言う轟を見て、目元を袖でごしごしと擦る。

 轟は明後日の方向を見つめながら、聞いてくる。


「どれくらい伸ばせる?」


 私がその方法を使うと疑いもせずに聞いてくる轟に苦笑しながら伝える。


「魔神が召喚されるまでに4日、そこで私が力を行使して7日増やすのが精一杯なの」


 11日かぁっと溜息を吐くように言う轟からいつでも発しているプレッシャーが希薄になる。


「徹は仕上がるかねぇ・・・」

「間違いなく、轟、貴方を超えて、魔神なんてポイなの」


 私は会心の笑顔で言い切ると、それは結構なことだぁっと轟は笑う。


 そして、私は再び、轟に背を向けて、召喚を遅らせる為に動き始めようとすると、轟が声をかけてくる。


「直接は手が出せねぇ。だがよ、俺で出来る事なら何だってやってやらぁ」

「ありがとうなの。行使し終えたらお願いがあるから聞いて欲しいの」


 分かったっと言うと私の後ろ姿を凝視するように見つめながら腕を組んでる轟を背に私は覚悟を決めて、言霊を唱え出す。

 唄うように唱える言霊を発しながら、アローラに降り立ってからの事を思い出していた。


 冒険者ギルドで受けた依頼で、ちょっとした遺跡調査だがらとシーナの色仕掛けで安請け合いして行った時、最奥で上半身半裸の胸の豊かな女性が現れて飛び付いた徹に怒鳴ったが、幻覚で抱きついていた相手がミイラだったと分かり、ミイラから逃げ回る徹を見て、笑い転げた事などあった。


 勿論、笑い話だけでなく、悲しい事、辛い事も一杯あっただけど、全てが愛しい時間であった。

 これからも、その時間を築いて行けると信じていた。

 モスの街で魔神の欠片を倒した時に言った、『俺達の時間はこれからも続かせてみせる!!!』という言葉を私も強く思い、信じていた。


 ごめんなさい、徹。徹の言葉を曲げたくないから、その俺達から私を外して欲しいの・・・

 私はもうここまでのようだから。


 私の全てを賭してやっと魔神の召喚を7日遅らせるのがやっとなの。今の徹では魔神は勿論、轟にも勝つ事はできないの。

 きっと、私がこう言ったら、俺が何とかして見せると力強い言葉をくれると分かってる。その言葉に寄り添いたいという気持ちも強い。でも、未来からきた自分は何をしにきたのかと思うとその選択肢だけは選べない。

 色んな分岐をしても、徹の死んでしまう要因が私だった。でも、このルートだけでも私が徹を救う自分であらねばならない、ありたいと願う。

 そんな事しても決して徹は喜ばないと知っている。これは私の我儘だ。

 だがら、我儘を通す私を許して欲しいの、女神なのに何一つとして願いを叶えても上げられないだけでなく、いつも迷惑ばかりかけてきた駄目な女神を・・・


 そして、私は親友の2人を思い出して、思いよ、届けと願い、託す。

 徹をよろしく頼むっと、きっと2人は私の事を許してくれないかもしれないけど、このお願いだけは聞いて欲しいなっと思う。


 言霊の唄はついに最後となる言葉だけとなった時、私は自分の存在を全てかけて高らかに唄うと、膝から力が抜けて仰向けに倒れる。


「もう立つ事もできそうにないの・・・」

「そうかぁ、見届けさせて貰ったぁ、お前さんの覚悟をなぁ。で、俺に頼みたい事ってなんだぁ?」


 轟もこんな目ができるのかというほど、静けさ、いや、何か思い出しているような空虚な瞳で私を見つめながら言ってくる。

 轟から視線を外しながら私は言う。


「徹に会えて嬉しかった。勝手してごめんって伝えて欲しいの」


 私は轟に伝えてと、そちらを見ると轟は出入り口のほうを見て、迷いもなく言ってくる。


「そりゃ、聞けねぇな。そういう言葉は自分で伝えるもんさぁ」

「酷い、約束と違うの!」


 大声を上げて、弱った体が付いて行けずに堰き込んでしまう。

 相変わらず、こちらを見ずに私にはっきり聞こえるように呟く。


「来る!」


 その言葉と同時に今、一番会いたくて聞きたい声が聞こえてくる。私の名前を絶叫してる力強い声に私はただ、涙を流した。

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