192話 徹の目覚めの予兆
美紅と別れてから2日後に徹の剣の打ち直しが終了した。
ガンツとデンガルグはちょっぴりだけ、上手に溶岩で焼けたようで、私の回復魔法をもってしても、ベットから起き上がれないようだったので剣だけ受け取って美紅と合流する為に、一旦、バックに向かう事にして出発した。
私は出発する時にガンツが言ってた言葉を思い出していた。
「ルナよ。ワシらから剣を受け取って余所見した時に少し下がって眺めたじゃろ?あの時、後ろに溶岩がきてるのに気付いとったんじゃないのか?」
ああ、これは違うの。これじゃない。
ベットで、横になりながらガンツは私にこう言ってきた。
「打ち直して、分かったが、神の生み出し金属とは恐ろしいものじゃ。これほどのポテンシャルが隠されとるとは、想像できんほどにな。ワシらは自分でも鍛冶馬鹿と分かっとるつもりだが、2度と神の生み出し金属と関わり合いを持ちたいとは思わん。あれは人の手に余る。鍛冶師を腐らせる」
デンガルグもきっと同じ事を考えておるじゃろっと横をみるが高いびきしながら寝る姿にガンツは溜息をついて、まあ、ええわいっと気を取り直して話を再開する。
「それはともかくじゃ、ワシらは最高の仕事をした。それゆえに、その二刀は人が扱える領域を超えとる」
いくら、カラスがサポートしてくれるとはいえ、トールが扱えるか微妙な賭けじゃなっと苦虫を噛み締めたような顔をしてくる。
きっと、徹なら使えるから問題ないのっと伝えて、立ち上がろうとした私をガンツは止める。
「まだ、話の途中じゃ。せっかちじゃの。もっと言いたい事があるが重要な事が1つある。その鞘に納められとる状態から最初に抜いた者に自動で最適化される。だから、うっかりだろうが、事故じゃろうが、抜いてしまうと全てがフイになるとしっかりと理解して行くんじゃ」
私はその言葉を聞いて、自分の顔が引きつるのが分かった。どうしよう、きっと、うっかりしてしまいそうなのっと頭を抱える。
ガンツに相談しようっと顔を向けるとガンツもデンガルグ同様に高いびきを掻いて寝ているのを見て、イラっとした私は間違ってないはず。
さすがに怪我からくる疲労と回復魔法の効果のせいだと分かる私は大人の対応で許してあげる事にした。
ガンツには赤、デンガルグにはピンクのリボンで髭を束ねるだけで許してあげた。目を覚ました時、2人はどうなるだろうと思い、少しすっきりした私は旅支度を手早くして馬車に乗り込んだ。
結局、相談もできずに私はやらかしてしまいそうな自分をなんとかする為に、封印することにした。私にしか解除ができないようにしておけば問題ないっと思い、試しに抜こうとして抜けない事に満足して、バックへの旅路を急いで馬にムチをいれた。
「あっ、封印失敗して、試し抜きで抜けちゃってたら、危なかったなの」
ガンツが心配したのは、こういう事かと落ち込みかけるが忘れて強く生きる事にした。
出発してから2日目のお昼過ぎにバックに到着した私は、迷わず、エルフ大使館に行くと丁度、庭でお茶をしていたエルフ王とクリミア王女を発見するとダッシュして近づいて声をかける。
「お腹が減ったの!美味しいご飯を用意するように言って欲しいの!」
私を見て、挨拶をしようとしていた2人が虚を突かれた顔をして、苦笑して言ってくる。
「挨拶してからでも良いだろうに・・・」
エルフ王は肩を落として、溜息を吐いて、クリミア王女はツボに入ったようでクスクスと笑って止まらないようだ。
「美紅もテリアもいなかったから移動中、保存食で美味しくないご飯ばかりだったの!火急速やかにお願いするの。徹の部屋で待ってるからよろしくなの~」
そう言うと、返事も聞かずに徹のいる部屋へと走っていった。
「なんて気ままな子なのだろうね。ニャンコみたいな子だ」
そう呟いたエルフ王の言葉を聞いたクリミア王女はやっと収まりかけた笑いのツボが再び刺激され、今度は涙まで零れるほど笑いを堪える姿に癒されたのか、ヤレヤレと言うと近くにいるメイドに、用意してやってくれっと伝えると嘆息して、冷めかけのお茶に口を付けた。
エルフ王達と別れた私は、徹の部屋に行くと最近会ってなかった人と再会した。
「シーナ、久しぶりなの」
「お久しぶりです。ルナさん」
冒険者ギルドの受付嬢のシーナが徹の手を握っていた手を神速で離して何事もなかったかのようにこちらに笑顔を向けてくる。
「今、なんで徹の手を・・・」
「冒険者ギルドからどうしてもトールさんに打ち合わせしておきたい案件が出てきまして、伺ったら、会わせてくれないという事態に陥りまして、困りましたが、私がトールさんの担当受付嬢である証明と今日、会うついでに落とされていたトールさんの冒険者ギルド証を渡そうとしているのが決め手になって入れて貰いましたが、大変な事になってますね・・・」
シーナは聞いてもいない事をペラペラと説明し出す。ジト目でシーナを見つめるが、まったく表情に崩れを起こさせる事ができず、さすが、伊達に冒険者ギルドで受付嬢をしてないのっと呟くとニコっと笑みを返される。
「心配ないの。徹はきっと目を覚ますの」
そう言うと私は、打ち直された剣を徹に抱かせるようにして持たせると異変に気付く。
「あれ?これはどういう事なの」
私はそっと徹の頬に触れると目を閉じて精神集中を始める。
徹の中に神気を這わせて調べると以前より強い魂の力を感じた。成長だとしてもこれはおかしい。魂の成長はそう簡単に起こる事ではない。それこそ、昨日、子供だったのに、寝て起きたら老人になりましたぐらいにおかしい事である。
しかも、この強さは強い魂が何人いるの?と聞きたくなるレベルの破格の成長を見せていた。
ここまで魂の力が戻っていたら目を覚ましそうではあるが、強い魂に肉体が適応してないようでゆっくり馴染ませているところのようだ。
だが、もう徹が目を覚ますのは時間の問題でしかなくなってホッと肩の力を抜いてシーナに笑いかける。
「本当に心配なくなったの。徹の魂の修復は済んでるの。後は体が馴染むのを待つだけ、1,2日で起きるから、急ぎの用がないならここで待ってればいいと思うの」
「本当にですか?魂の修復なんてそう簡単にできるのですか?」
シーナは半信半疑で聞いてくる。
私は苦笑しつつ、シーナの気持ちも理解できるので、大丈夫、徹だからしょうがないのっと笑いかける。
そんな説明になってない言葉を聞いたシーナはそうですかっと優しい顔をして笑みを浮かべると、今度は堂々(・・)と徹の手を優しく両手で握り、祈るように額をあてた。
ちょっとだけ、ムッとした気持ちがあったのは否定しないが、事情も碌に理解できず、死んだように眠る徹を見ていて心配してたと思われるシーナの行動に目を瞑る事にする。
徹の無事を祈っているのはこの場に居る者だけじゃないっと私は気付く。私の親友の美紅やテリアに知らせてあげようと思い、シーナに聞く。
「美紅達には会った?」
「いえ、私がきたのは昨日ですが、会ってませんし、クリミア王女の話では、ルナさん達とここを発ってから一度もこられてないようです」
となると、エルフ王の頼み事がまだ済んでないか、帰ってきてるところだろうっと思うが、早く知らせたいという気持ちを抑えられない私は、こちらから向かおうと決める。
「シーナ、エルフ王とクリミア王女に徹がそろそろ目覚めるって伝えておいて欲しいの!」
「ルナさんはどうするのですか?」
徹が時折する大きな笑みを意識して私は笑う。
「美紅とテリアに少しでも早く教えてあげるの!」
そう言う私を見つめるシーナは微笑んで、いってらっしゃいっと冒険者ギルドで良く見た笑みで私を見送ってくれる。
部屋を出ようとしたら、食事を運んできてくれたメイドに出会い、その皿に乗っているサンドイッチを掴むと、有難うなのっと叫んで、エルフ大使館を飛び出すと再び馬車の旅を再開した。
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