190話 停止した魔方陣
馬車に揺られて3日目のお昼前、私とテリアちゃんはエルフ王の要請により、大量なモンスターによって、調査を断念している調査員の協力をする為に向かっていた。
「ねぇ、美紅。エコ帝国の馬鹿達は何をしてるんだと思うっ?」
「難しいですね、本当にエコ帝国の重鎮達が考えてやっているというなら想像はできるのですが、おそらく、いえ、間違いなく魔神側の者、トランウィザードが噛んでるとなると想像が付きません。ただ言えるのは、エコ帝国の重鎮達は知らずにやらされてるでしょうね」
耳心地のいい言葉を並べられて踊らされているのでしょうっとテリアちゃんに言うと、そんな馬鹿ばかりでよくまかり間違っても国の舵取りできたわっと言うテリアちゃんに苦笑する。
実際の話をするなら廻せてなかったのだろうと私は思う。首都の治水工事や、スラム街の寄せ集めぷりが語っていた。他の街はエコ帝国に見切りを付けて自立するように国民が主導で頑張っていたから、首都より良い生活ができていたのであろう。
そういう下地があったからクリミア王女が一旦、信用を得たらクリミア王女という旗の下、急激に人が集まり、エコ帝国に危険視されるほどの存在になってしまったのであろうが、全ては自分達から出た膿だとは考えた事もないんだろうなっと思うと嘆息する。
そんな馬鹿な人達の事はどうでもいい事、申し訳ないですが、その馬鹿な人達の対応は兵士さん達におまかせする気満々だったので本当にどうでも良かった。
普通のモンスターもまったく問題がない。数がどれほどいようがどれくらい時間がかかるという違いでしかない。
問題は、そこにトランウィザード、もしくば、2代目勇者が居た場合である。2代目勇者とは策を弄しても勝てる気がせず、トランウィザードはあの擬態をなんとかする術は今の所、ルナさん以外、打つ手がない状態である。出てきた時点で負けが確定してしまうジョーカーである。
私はテリアちゃんから視線を外して、流れる景色を見ながら思う。あの2人が出た時点で全力で逃げるしかないと。
今の時点で、あの2人に挑むのは無駄死にするに等しい。
しかし、この心配は杞憂になると私は思っている。おそらく、2人共そこにはいないだろうとなんとなく感じていた。
利用してる相手を護るほど暇でないであろうし、トランウィザードと戦った時にもしかしてっと思った事がある。
それはトオル君が問いかけた言葉に反応した枷っという言葉だった。
加護という絶大な力を振るえるのに何か制限、もしくば代償があるのではっと思ったのである。2代目勇者にもそれがあるとしたら、おそらく、それは後者の代償が必要なのだろうと思う。
制限なら2代目勇者は自重しそうではあるが、代償なら気にせず使いそうだと思うからである。あのやりたい事をやっていると体現している2代目勇者が自重しているようには一切見えなかった。
とはいえ、気にしないと言ってもエコ帝国の重鎮達の為に動くとは思えない。トランウィザードは損得を考えて、2代目勇者は面白みがないという理由で動かないだろうと私は結論を出した。
「そろそろ、お昼じゃないっ?」
考え事をして自分の世界に耽っていた私は、テリアちゃんに言われて、時間を意識して空を見ると太陽の位置からも言われたように、いい時間のようだと気付かされる。私は兵士さんに、お昼を告げて、馬車が停め易い所で停めて貰うと火を起こして簡単な料理を作り始める。
できた料理を配膳するとテリアちゃんが食事を見つめながら言ってきた言葉にドキっとした。
「ねぇ、美紅っ。最近、手抜き料理が多いうえに、味付けも雑になってないっ?」
「えっ?そうかな、そうじゃないと思うんだけどな。ちょっと失敗しただけだよ?」
動揺から普段と違う話し方になってジト目でテリアちゃんに見つめられる。食卓にトオル君がいないから、ついつい手抜きになってるのをテリアちゃんに見抜かれていたようだ。ルナさんなら絶対気付かなかっただろうにっと思いつつ、今晩はしっかり作ろうと心に決めた。
食事が済んで、現在地を知る為に兵士さんに地図を出して貰う。地図を睨めっこしながら説明を受けてた。
今いるのはこのあたりですっと指差された場所を見ると移動してきた距離と時間で換算すると、2日もあれば問題なく着けるだろうと思った。そして、現在地の近くに勇者召喚する場所も近い事に気付き、提案する。
「申し訳ないのですが、私の我儘を聞いて貰っていいでしょうか?」
兵士さんは、はぁ、どういったことでしょうかっと聞いてくるが、テリアちゃんは地図と私を往復させると気付いたようで、私は反対しないわっ、と言ってくれる。
「地図を見る限り、勇者召喚する場所が近いようですが、どれくらいかかりますか?」
「ここからだと1時間とかからずに行けますが、そこに行かれたいのであれば、寄り道程度で済ませて頂けるなら特に問題はありませんよ?」
私は、有難うございますっと伝えて、頭を下げて感謝を伝える。
では、出発の用意をしてきますっと兵士さんが言うと地図を片付けて馬車のほうへと歩いていったのを見てから、テリアちゃんが話しかけてくる。
「多分、行っても何もないんじゃないっ?」
「ええ、私もそう思います。踏ん切りを付けるという感傷ですよ」
テリアちゃんにそう言うと納得してくれたようで、調理道具の片付けをする為に私から離れて行った。
私はテリアちゃんには、ああ言ったが、実のところ気なる事があったから見るだけでもと思ったのである。
まず、トオル君に他世界の女神と初代勇者からそこを壊すように示唆しているという話を聞いた時から、見てみたいと思っていた。勿論、テリアちゃんに言ったように踏ん切りを付ける意味合いもあるのも否定はしない。
そして、これはこじ付けだろっと聞かれたら答えに窮する事ではあるが、エコ帝国の重鎮達が何やらやっている場所から2日と離れてない場所で何かしているのは偶然なのかと私は思う。どうにも気持ち悪さがあるので見て安心したいというのが本音だ。
実際、感傷だと認めたくない自分の気持ちを納得させる為に気にしてるだけなのかもしれないっと苦笑する。
そして、馬車で出発して、勇者召喚する場所に到着すると私は辺りに気配がないかと神経を尖らせながら、兵士さんに案内されるまま、地下へと続く道へと入っていった。
「今は名残もありませんが、ここにも小さな城があったそうです。500年ほど前に破壊されたと記録にあります」
そう聞いた私は、2代目勇者辺りが壊したのかと思った。
だが、実の所、破壊したのは轟でもトランウィザードでもない歴代勇者であった事を美紅は知る機会はこないが特に問題にはならなかった。
城があったとかどうでも良かった私は気のない返事をしながら、地下へと続く降り続けて、懐かしくはないが、見覚えのある部屋に到着した。
継ぎ目のない石畳に描かれたといっても塗料などで書かれているのではなく、何でこう出来たのか分からないが一筆書きといった感じで削るというより、そこの石を消失させて描いたようにツルツルであった。
その魔法陣のようなものを見つめながら自分の記憶にある場所との差異を感じていた。
「この魔法陣は薄ら光ってた覚えがあったのに・・・」
「はい、私もそう伺ってましたが、それが消えた事で勇者召喚が成せなくなったのではないでしょうか?」
私が何故、光っていた事を知っていたのですか?と問うと、各国の城勤めの者なら大抵知ってますよっと返される。それを聞いて、エコ帝国はどうでもいいところは広める事で信憑性を出させる為に開示させていたのだろう。
そっと魔法陣がある場所の床に手を這わせる。冷たい感触が掌に返ってくるのを感じて眉を寄せる。
それに気付いたテリアちゃんがどうしたのっ?と聞いてきたので、
「いえ、この魔法陣の部分も機能してた頃は、人肌程度に温もりがあったのに冷たくなってたので、やはり、もう使えないのですねっと思ってました」
辺りを見渡しても何も目新しいモノも思い出を呼び起こすモノもないなっと思っていると兵士さんが声をかけてくる。
「まだ気になられる事もあるかもしれませんが、そろそろ・・・」
申し訳なさそうに言ってくる兵士さんに、ごめんなさい、行きましょうっと伝えるとホッとした顔をして、馬車の用意してきますっと言って駆け出して部屋から出て行った。
職務に忠実な人だと苦笑して、先に行くテリアちゃんの背中を追いながら部屋を出ようとした時、何故か私は振り返った。どうして、振り返ったのかも自分で分からないが振り返った以上、もう一度辺りに視線を飛ばすが何もなかった。
「美紅っ!何してるのっ?早く行くわよっ」
地下への出入り口でテリアちゃんが叫んで呼ぶので、今、行きますっと返事をして、今度は振り返らず、テリアちゃんが待つ外へと歩き、馬車に戻ると目的地を目指して出発した。
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