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高校デビューに失敗して異世界デビュー  作者: バイブルさん
9章 会者定離(えしゃじょうり)
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184話 恐怖は克服するモノ?乗り越えるモノ?

 夢も見ない深い眠りから覚めて、横を見ると、ミザリーの土下座から、私の朝の始まりを告げた。

 今の心境を端的に言えば、最悪の目覚めをさせられたと言えるだろう。

 私は溜息を一つ吐くと、ベットから上半身起こし、ベットを椅子のように座るようにして、ミザリーと向き合った。

 聞かなくても何故こんな状態になっているかは、寝起きの頭ですら、明確に分かっているが、聞いてやらないと、ずっとこのままな予感がヒシヒシするので問題を処理することにする。


「爽やかな目覚めで最初に見るものが貴方の土下座なのですか?」


 本来、エルフ国では土下座などの習慣はなかったが、兄様が主に美紅さんに謝る時に多用してるのを見た、兵士や国民の間に爆発的に広がり、新しい文化のように、『泣きの1手、ここが下がれない勝負所っ!』というサブタイトルが付くほど浸透してしまった。

 兄様には色々良い影響を与えてくださいましたが、これは明らかな悪い一例であった。だが、しかしです、兄様に1度はされてみたいと思いがあるのは秘密である。


「無理を言って、お伴をさせて頂いている身で、役目を果たせず、のうのうと寝ていた自分を恥じるばかりです」


 そんな事だろうっと思ってはいたが、言葉にされて言われると更に残念な気持ちにされる。

 少し、見直したところもあったが、こういう所は相変わらず、不器用ぷりであったが、今までなら、力押しで納得させるように持っていくしか術はなかったが、今のミザリーなら言う事を聞かせられるかもしれない方法に思い付き、行動に移す。


「休む時に休んで何が悪いのですか?必要な時に寝ていたら叩き起こしてましたよ?」

「そ、それはそうかもしれませんが、姫様より先に寝てしまった私は・・・」


 私を見つめて、歯を食い縛って羞恥に耐える姿を見て、ここでオロオロしないだけ、やはり成長しているミザリーを嬉しく思いつつ、ミザリーから視線を切って、天幕の天井を見ながら呟く。


「上役がなんとも思ってない事をいつまでもグチグチと言っている副官ってどう思うんでしょうね?まして、上役がそうする事が正しいとまで言っているのにも関わらず・・・兄様ならなんて言うでしょうか?」


 それを聞いた瞬間、ミザリーの顔から血の気が引いていくのが目に見えて分かった。この頭の固い副官希望の今後を思い、追い詰める、もとい、引き下がり、融通を効かせるという事を学ばせる為に爆弾を落とす。


「兄様が目を覚ましたら、そんな副官が供をさせてくださいと言ってきたら、どうしますか?っと聞いてみましょうか?」


 きっと面白い解答が得れますよっと言外に伝えて、笑みを見せると汗をダラダラと流し、半泣きのミザリーが今日一番の土下座をして言ってくる。


「もうグダグダ言いません。角ばった対応も失くしていきますので、どうか、どうか、その質問をしないで頂きたく・・・」

「はい、はい。しないであげますから、立ち上がりなさい。私はお腹が空きました。朝食の手配をお願いできませんか?」


 はっ、只今!っと飛び起きると天幕を駆けて出て行くミザリーを苦笑で見送った。



 ミザリーが出ていた後、私は山を昇る為に以前、兄様と初めて会った時に着ていた冒険者風の服に着替えていた。

 本当は、この服は兄様と会った記念として、ずっと仕舞っているつもりだった服である。勿論、似た服を作らせる事もできたし、出来合いの良い服も手近で用意させる事は簡単であった。


 胸のボタンを止める為に動かす指が上手く動かないせいで、ボタンを止めるのを何度となく失敗する。自分が震えているからだという事は分かっている。

 決して病気などで震えているのではない。私は怖くて震えている。


 私は人並み以上に度胸は据わっていると自負しているつもりだが、この恐怖は1人になると抑える術が思い付かない。誰かがいると強がりでなんでもないフリをする事ができるが自分の思うままにコントロールできない感情に翻弄される。


 認めよう、私は、兄様へのこの気持ちを失ってしまう事が怖くてしょうがないのである。

 ユグドラシルにあんな大きい事、何度でも恋すると言ったが、できなかったらどうしようっと恐れ逃げ出したくなっていた。

 覚悟の支えになればという、思いから弱った心の補強の為に仕舞っていたこの服を持ちだしたのである。


 恐怖から私は、愚かな事を考え出してしまった。

 内なる自分が、叶うか分からない恋だから、失くした事を理由に逃げれる良い口実じゃないのかっと、なんと甘美な響きであろう。

 皆の為、世界の為に自分の想いを投げ打って、献身した宣託の巫女。これほど簡単で綺麗に纏められる結末があろうか。

 思わず、手を伸ばしそうになった自分に嫌悪する。


 私は、そんなお手軽な未来なんか、御免被る。

 私は、最高の恋をした。そして、最高の結果を得る。

 そして、私が求めるのは、絶対でもなく最適でもない。馬鹿と言われていい、そんな未来を勝ち取る事はできないと賢者に言われようが私は最高を求める愚者でありたい。


「私は自分の言葉を曲げません」


 声に出して呟いて、自分に逃げるなと戒める。

 すると、震えが止まる。

 私は、肺に溜まったモノを吐き出すようにして、大きく息を吐き出して、新鮮な空気を取り込むと、天幕の外からミザリーが呼ぶ声がする。


「姫様。食事の用意が整いました」

「すぐに行きます」


 着替えを手早く済ませると天幕を出て、ミザリーに案内を任せて着いて行った。



 食事を済ませると、ゆっくりこれ以上休憩するような精神的なゆとりは私も持ち合わせてなかったので、ゴビに案内を頼んで、すぐに出発した。


 件の狼がいる山の麓に着くと、ユリネリー女王陛下が見送りに来てくれていた。私はユリネリー女王陛下に挨拶をすると挨拶を返しながら、辛そうな顔をして声をかけてくる。


「本当に行かれるのですか?今なら取り返しが付きます。女王としては、行って頂きたいと願いますが、1人の女としては、引き返して欲しいと願ってます。決断は変わりませんか?」


 苦悩に満ちた声で伝えるが言葉を伝えて出してから、あえて、表情を消して、私の考えに影響を与えないように配慮されていた。

 櫛で梳るという事はどういう事か知っているのは、教えた本人を除けば、私とユリネリー女王陛下のみであった。

 私は笑みを浮かべて感謝を述べてから、伝える。


「お気持ちは嬉しく思います。ですが、私は行きます。今ある私の胸に息づくこの思いに背を向ける訳にはいかないのですよ」


 そう、揺るがぬ思いを声にして伝えると、そうですかっと無表情を維持して言ってくる。ユリネリー女王陛下も何が正解かと考えあぐねているのだろう。


「もう、何も伝える言葉もありません。ですが、1つだけ、御無事でお帰りになられる事をお祈りしております」


 ユリネリー女王陛下は臣下達の前だというのに、深々と頭を下げた。

 慌てた私はユリネリー女王陛下に頭を上げるように伝える。


「頭ぐらい下げさせてください。私は貴方と仲良くしておきたいのです。そう、色々と」


 ユリネリー女王陛下の物言いに眉を潜めると、私と対立してやり合うと、気付いたらトール様が誰かに取られてたという事態になりそうだから、喧嘩したくないのですよっと笑われて、私も笑い返す。


「その意見には私も賛成ですよ。細かい話は帰ってからという事で」


 行ってきますっと伝えると、ゴビに案内をお願いしますっと声をかけて、ユリネリー女王陛下に見送られて、ミザリーを連れだって、狼がいる山を昇る為に歩き出した。



 お昼まで昇り続けて、お昼を簡単に澄ませて更に1時間ほど昇る。

 やはり山登りになれてない私とミザリーは案内役を買って出てくれたゴビ達の足を引っ張り続けたが、目的の狼が眠る場所に辿り着いた。


 そこにはドラゴンサイズの大きな黒い狼が寝ており、その大きさもそうだが、恐れ多いという気持ちにさせられる。

 これを見た人はこの狼に神聖な物を感じるのは当然だろうっと思う。

 ここで棒立ちしていてもしょうがないと思った私は、櫛を片手にゆっくりと近づくと金縛りにあったかのように体が動かせなくなる。

 正面を見ると寝ていたはずの狼が片眼を開けて、私を見つめていた。


「ワシに何か用か?宣託の巫女よ」


 声なき声が私の中の芯をとても低い声で響かせた。

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