○×話 貴方達の願いと私のお願い
とある山の中腹にある木々の間に大きく拓けた場所がある。その場所の真ん中に少年、1人分といった大きめな岩が鎮座している。
そこに向けて手を伸ばすと見えない壁、結界が行方を妨げる。これは力では破壊できないし、できたとしても、それをしたら、ここに来た意味を失ってしまう。
私はカバンから小さな宝玉を取り出し、右手にしっかり握り込み、全力で力を込める。込められた力に耐えれなくなった宝玉は軽い音を鳴らして、割れると私の掌を傷つけるが構わず、更に握り込む。
握り込んだ事により、血が溢れ腕に垂れるのを見てから、結界に右拳でゆっくり押し出すようにして前へと進むと触れている位置から激しいスパークが発生して私の身を焦がして行く。
凄まじい痛みと衝撃が襲うが、来ると分かっている痛みで、この程度のものに眉を動かすようなヤワな精神はしていない。
戸惑いも迷いもなく、そのまま腕を結界へと侵入させていき、徐々に肩、頭部、胴体と最後に足を侵入させる。
激しい痛みと裂傷による傷で血をだいぶ失ったが、目的を完遂させるのに問題はないと判断した私は、結界の中の景色を見るがてら、目的地を捜す。
辺りを見渡すと、見る人が見れば、牧歌的な村といったように見えるだろうが、私の目では、寒々しい終わってしまった村にしか見えない。
間違いなく、ここに連れてこられた、彼、彼女達は、さぞ絶望を感じた事であろう。
誰も住んでない村を一瞥して、再び辺りを見渡すと中央のほうに森の中に拓かれた場所らしきモノが見える。おそらく目的地ではないかと思い、そちらに向かって歩き出す。
木々を抜けて行くと光に照らされて明るいのに温かみを感じない場所に辿り着く。そして、ここが目的地だと悟ると私は中央の場所に胡坐を掻いて、心を研ぎ澄まし、精神集中を始めた。
精神集中を初めて、しばらくすると、私の廻りに力の奔流というべきモノが私に、とぐろを巻くように絡みついてくる。
1つに見えるが7つの人の精神が連結したもので、私を締めあげるようにして語りかけてくる。
「ごめんね、静かに寝ていたところを起こされて怒っているのは分かるわ。でも私の話を聞いて欲しいの」
私の話を聞く気もないのかと思ったら会話不能になり力の権化になっているものが大半のようで、本当に私を殺そうと締めあげてくるが私は必死に耐えていると、その中の2つが私を締めあげるモノ達を抑え始めてくれて、締めあげられて息も碌にできなくなってた体が求めるままに空気を求めた。
「助かったわ。まさか会話ができないレベルまで壊れてしまっているとは思ってなかったのは私の見通しが甘かったわ。でも、貴方達だけでも会話ができる状態だったのは良かったわ」
私はその2人を見つめる。
1人は12,3歳の男の子で可愛らしい顔した中性的で保護欲を掻きたてるタイプの子と、20歳を迎えたかどうかの女性で、鋭利な刃物を連想させる美人でとてもスタイルが良く、和を感じさせる格好をすればきっと映えた人物だろうと思わせた。
ただ、それだけ恵まれたモノを持ち合わせている2人であったが共通して、酷い絶望、いや、強い未練を感じさせる目をして私を見つめていた。
「お願いをしにきたつもりだったのだけど・・・どうしても気になるの。貴方達の未練、いいえ、願いを聞かせて」
私に問われた2人は声を揃えて、心の底からの願望を私に告げる。その答えを聞いた私は血の繋がらない家族を思い、本当にあの子ったらっと笑みを浮かべる。
「貴方達の願いを聞いて本当に良かった。貴方達の願いと私のお願いは同じモノなのだけど、聞く必要はないかしら?私のお願いを聞いてくれる?」
2人の答えを聞いた私は、力強く頷くとカバンから取り出した刃が広い短刀を取り出すと、流れる血を指で掬い、刀身に文字を書き殴ると自分の前に突き刺すと自分の生命力を高めてエネルギーへと変換して、臨界まで溜めると叫ぶ。
「私が放つ力で空いた穴から、私の大事なあの子の下へ向かって上げて!」
私の声と共に放出された力により、結界に穴を穿ち、その穴を目指して2人は5人の心を連れて飛び出して行った。
それを見送った私は、息絶え絶えといった有様で呟く。
「最後の仕上げを・・・」
その日、西へと2つの光るモノが飛んでいった。1つ目が飛び出してから、しばらく経った後に飛びだったその光を追いかけるように流れた星があったと目撃者は語った。
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