182話 過去と向き合うべき者と鍛冶馬鹿達
私達は、ファーブニルとの戦いに勝利を収めて、黒いモヤを通り抜けて、スーベラ、ガンツ達がいる場所へと戻ってきた。
「本当に戻ってくるとは思ってませんでしたよ」
帰ってきた早々、キツイお出迎えをしてくるスーベラは手を横に振ってモヤを吹き飛ばす。
私達の様子を羨望の眼差しで見つめて、悔しそうにしていた。
「ファーブニルが相手なら最初に言っておいてくれたら、ここまで手こずったりしなかったの」
事前に知っていれば、戦い方を考える事ができて、もっと余裕があったはずである。
私がそう言うと、そっぽ向いて言ってくる。
「聞かれもしない事を答える必要などありません」
絶対、行く前に言い逃げした事を根に持ってるっと思い、美紅と目を合わせるとタイミングを合わせたかのように溜息を吐き、それが面白くて微笑みあう。
でも、そのスーベラの言動と行動を見ていて、入る前と今と比べるとだいぶ人間味が出た、いや、戻ってきたと言うべきなのだろう。飾った感情ではなく、溢れた感情を見せているように見えた。
「ファーブニルが護っていた、貴方の短剣は本当に貰っていっていいの?」
「駄目だっと言ったら素直に返すのですか?どうせ使う予定もなく、取り戻すつもりもなかったものです。お好きにされるといいですよ」
確かに、返せと言われたら困ったが、そんな言い方しなくてもいいのにっと思いつつ、見つめていると手に持っていた短剣を後ろから奪われる。
ガンツとデンガルグであった。どっちが自分のかという、恐ろしく醜い争いを始める。
そんな様子をスーベラと共に呆れた顔して眺めていると溜息を吐いた美紅が近寄っていくと両方取り上げると盾で2人を叩きつける。
地面に叩きつけられた2人は、怒りに任せて立ち上がり、何するんじゃ!と息を合わせて言うが、美紅の絶対零度の視線を浴びるとお互い目を合わせるとおとなしくその場で正座をする。
「鍛冶師から見れば、違いがあるのでしょうが、ここで喧嘩して何が生まれますか?何の為にこれを手に入れたのかを思い出してください。貴方達の道具欲を満足させる為だけはないんですよ?」
はい、ごめんなさいっと土下座を自然にさせられる2人を見ていたスーベラが私に言ってくる。
「何なんですか?彼女は。あの頑固そうなドワーフをああも、あっさり調教された人のようにおとなしくさせられるのですか?」
「ああ、なった美紅を止められる者はいないの。でも、もしかしたら徹なら多少抵抗できる・・・やっぱり無理な気がするの」
傍にいたテリアが、ああなる予兆を感じた時点で逃げないとああなるのは防げないっ、っとガンツ達を直視するのを避けながら言ってくる。自分もされた事があるから見るに耐えないのであろう。
美紅は両方を背中に隠し、右か左か選びなさいといい、渋々、美紅が言うように選んだ2人、お互いのモノを睨みつけながら、むぅっと言い合っている2人を見て嘆息してる美紅を眺めながら私はスーベラに語りかける。
「私が貴方の生まれた世界に行く時に言ったセリフ覚えてる?」
「徹を譲らないってヤツですか?それが何か?」
私の言葉にウンザリしたような表情を見せたスーベラだったが私は美紅を見続けながら話す。
「うん、それ。その言葉には嘘はないけど、それはあくまで私の想いであって、徹の意思じゃないの。決めるのは徹なの」
「い、いきなり、何を言い出すんですか?それがどうしたの言うのですか!」
スーベラは私の真意とその言葉で揺れる自分に戸惑って、声を震わせる。
今度はスーベラの瞳を見つめながら言う。
「ねぇ、スーベラ。いつまで自分の時を止めたままでいるの?後悔もやり残した事を成すのは今ほど良い時はあったの?貴方ほど魔神を見つめ続けている人はいないの。だから、分かるはず、今を逃したら貴方は魔神と向き合う事ができるチャンスが巡ってくるって思えるの?」
おそらく、スーベラは徹を見つめる事になったキッカケは私と共にアローラに来たから、おまけを見るようにして見ていたのではないかと思う。その後、徹は何度も傷つき、体も心をボロボロにしながらも立ち上がり、進む徹に目を奪われ出したのではないかと私は思っている。
だから、私は言ってやりたかった。徹を理由にしていい、貴方が目を反らした現実と向き合う時ではないかと。
そして、徹を信じてベットしても、徹はきっと後悔させないのっと胸を張って言いたい。
私の思いよ、届けっとばかりに見つめるがスーベラは目を反らして、考えておくわっと言うに留まった。
やっぱり徹のようにはいかないのっと内心、ヘコミながら私は美紅達の所にいって声をかける。
「美紅、お疲れなの。ガンツ達も我儘言わずに、手にしたモノが物足りないのなら、自分の腕でカバーするの。できないなら、自分の腕が相手より劣ったと言う事なの」
2人は、やってやるわいっと鼻息荒くして外に繋がる扉に向かって行く。
美紅とテリアは呆れながらガンツ達の後ろを歩いて出て行った。
私は出る時に振り返り、またね、スーベラっと言ったが返事はなく、私は肩を竦めて、扉を潜った。
アローラに帰って、村の入り口まで戻った私達は馬車に乗り込むと、あれほどブツクサ言っていた2人だが、急ぎ、ドワーフ国に戻り、この短剣を形にして、徹の武器を打ち直したいと騒ぎ、テリアに早く馬車を出せと煩く騒いだ。
「もうっ、何なのっ。さっきまで、2人で喧嘩してたと思ったら息を合わせて、早く行くと煩いしっ、騒ぐだけ騒いだら、お互いトールの武器を眺めながら、ああでもないっ、こうでもないっ、って煩いしっ」
「多分、今までは打ち直すモノが本当にあると実感がなかったから、冷静だったのでしょうけど、実物が目の前に現れて、抑えが効かなくなっているのでしょうね」
御者をするテリアの頭を撫でながら美紅が慰めつつ説明をしてあげているのを横目で私は見ていた。
私も手に入れて、今になって生まれた疑問があった。
「どうやって、この短剣を槌にするの?」
普通の槌じゃ、打ち直せないという事は、短剣から槌にするのも無理じゃないのかと今更ながら気付いた。
その疑問を口にすると美紅もテリアも、あっ、っと声を上げるところを見ると2人も気付いていなかったようだ。
困っている私達を鍛冶馬鹿の2人が胸を張って言ってくる。
「確かにのぅ、普通の方法では造れんわい。しかし、神より生れし金属と言っても溶岩の熱には溶かされるんじゃ。溶岩の中でも溶けず、崩れない土があるんじゃが、それで成型を作ってその中に入れた状態で溶岩で熱しながら隙間を埋めるように溶かせばできるんじゃ。本来ならこの方法はあんまり使いたくはないんじゃがな。こればかりは仕方がないのじゃ」
ガンツは造り方に不満があるが、徹の剣を打ち直す為だから仕方がないと嘆息する。
デンガルグはガンツの説明に補足をいれてくる。
「ちなみに小僧の武器も同じように鋳造で造られておる。だから、このように存在はともかく、剣としてはナマクラなんじゃよ」
ここまで変な手が入ってないとやりたい放題じゃなっと2人は笑い合う。
そこまで聞いて、テリアは何やら気付いたようで、否定して欲しそうに2人に聞く。
「それを打ち直そうという事は、トールの武器も溶岩で熱さないと打てないって事じゃないのっ?」
「当然じゃろ、勿論、溶岩の火口でっと言いたいところじゃが、さすがにそこにいるだけで死んでしまうんでの。近くに溶岩の小川といった場所があるんでな、そこを利用してやるんじゃ」
デンガルグがそう説明してくる。
その説明を聞いた私はある危険というか、命に関わる事実に気が付いた。
「それって、ちょっとでも火口が荒れたら、死んじゃうんじゃ・・・ないの?」
「その時はその時だの。その時は山に嫌われるような鍛冶師だったというだけだわい」
絶対そんな理由で助かったり、助からなかったりしないって私は思って、2人に告げるが、2人してどっちでもええわいっと言われて絶句する。
「何故か、何を言っても無駄な気がしてきます。それにそれ以外の方法もないようですから、ガンツさん達が言うように山に好かれる鍛冶師だと信じるしかないようです」
「まさにっ、その道に突き抜けた存在ってきっと馬鹿ばかりなんでしょうねっ」
美紅は頭を抱えて考えるのを放棄し、テリアはトールのオッパイに対する執着で命を惜しまない姿を思い出したら、言っても無駄って納得しちゃったと言うのを聞いて、私も沈黙するしかなかった。
男は馬鹿ばかりだと、私達3人ガン首揃えて溜息を吐いて、煩い2人を早くおとなしくさせる為に、ドワーフ国への旅路を急ぐ事にした。
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