178話 捨てても残る未練
遅くなりました。178話になります。よろしくお願いします。
獣人国に2日目の朝、テリアの故郷の里の近くまでやってくると以前と少し変わっている事に驚いた。
「あれ?関所みたいなのが無くなってるし、その前はほとんど森といった感じだったのに切り開かれ始めているといった感じがするの」
辺りを見渡すと切り株がちらほら見える。
関所の人が2人づつしか通れないような狭い門があったところなど、破壊されていて、以前いた兵士の姿も見えない。
テリアは捨てた里といえ、この展開は予想してなかったので心配そうにあたりを見渡していた。
「もしかして、どこかに攻められたのでしょうか?」
「そ、それは少なくともないと思うっ。廻りと接点をほとんど持たない里だったからっ、好かれる事も嫌われる事もなかったはずだから・・・」
何より、この里は貧乏だからっと襲う価値がないっと項垂れるようにテリアは言う。
デンガルグがボソっと言う。
「まあ、襲うとなったら貧乏だからとか関係ないだろうがな。何より、人が襲った保障もないじゃろ?」
テリアの表情に亀裂が入るように歪む。
その様子を見ていたガンツが溜息を吐きながら、デンガルグの後頭部を力一杯殴りつける。
ウゴっと呻き声を上げながら、しゃがみ込むと声なき雄叫びを上げて痛みを耐えていた。
「まったく、分かっていながら意地悪を言うんじゃないわっ!テリア、安心するとええ。これは意図的に狙って壊されたもんじゃ、攻めてきた奴がやったんじゃったら、えらく悠長な奴らじゃろうな。じゃから、住民が自分達でやったことじゃ、問題ない」
ガンツがワシャワシャとテリアの頭を撫でる。それで安心したのか少し涙目になって、有難うっとガンツに礼を言う。
私はデンガルグに近寄って回復魔法を唱えると効いてきたようで、ふぅっと一息吐いて、助かったわいっと言うだけでテリアに謝る気配のないデンガルグの後頭部、ガンツが殴った場所を同じだけの力を入れて殴る。
2度目というせいか、痛みが凄いらしく、地面にのた打ち回りだす。
「言ってはならない事とやっちゃいけない事の境界線はしっかり分けるのっ!」
この場合、テリアにごめんなさいなのって言うんでしょ!と、メッっと怒る。
「おじ様に対する制裁はそれでいいと思いますが、この場合でメッはどうなんでしょ?台無しな気がしますが・・・」
「なんでもええわい。この馬鹿は鍛冶以外だと本当にろくでもないからのぅ。すぐ忘れて似たような事するわい」
ヤレヤレ呆れるっと呟くガンツを見つめて、自分も鏡を見た方がいいのっと思う。
どうして、自分の廻りには徹を含めて近くに居る男は学習しないのばかりなのだろうっと嘆くが、ここに徹がいれば、お前にだけは言われたくないわ!っと叫んでいただろう。
「もうっ、いいわっ。とりあえず、社を目指しましょうっ。入ればイヤでも分かるわ」
ドワーフ2人に呆れたテリアはいつもの自分を取り戻したようで、言葉通り、里へと続くつり橋を目指して歩き出すので私達は追いかけた。
里に入ると土木道具のスコップやつるはし、木を切り倒す為のノコギリなどを整理している住人と遭遇する。
近くに行くと住人達はテリアに頭を下げる。
下げられると思ってなかったテリアは少し動揺したようだ。
「もう私に頭を下げる必要はないのよっ?もう予言を読む事はないんだからっ」
「いえ、今のはそういう意味で下げたのではありません。テリア様が言われるようにもう予言はないのでしょう。実際に泉にも行けましたから」
答えた男は、そこで一旦切ると再び深く頭を下げる。そして下げたまま、話を再開する。
「私達は妄信的にロトトの言葉を信じ、予言がなければ生きていけず、この村から出ていくのは恐ろしい事と刷り込まれてきました。ですが、テリア様、そしてそのお仲間の皆さんのおかげで、一部の者は目を覚ましました。テリア様が出て行かれる時に何も言えなかった事に対する非礼を詫びたかったのです」
お帰りなさいませ、テリア様っと言われたテリアの瞳から涙が零れる。
まだ頭を下げ続けている男は、続ける。
「トール様がロトトという畏怖を砕く為に、私達の手で吊るし上げさせることでそれを成しました。そこで止まってた思考にひび割れが起きた。そして最後に言ったセリフが私達の心を揺り動かしました」
そう言う男の言葉を聞いた時、きっとあのセリフだっと分かった。
「テリアが我慢してるから、暴れたりはしないがな、俺はお前らが大嫌いだっ!その事をしっかり覚えておけよ!」
徹は思ったままの事を言葉にしただけのものであったのだろうが、だからこそ、感情をそのままぶつけられた者達の凍結していた心に強く響いたのではないかと私は思った。
「とても、子供のような感情の発露でした。でも、だからこそ、何も取り繕ってない言葉に私達は打ち抜かれました。そして、何故、悪くないテリア様が我慢しているのだろうと思って、やっとそこで私達がテリア様にとって重しになっていた事に気付けました。今まで有難うございました。しかし、私達はもう自分達の足で歩き出し始めています。もう我らの事を気にされる事もありません。捨てた里かもしれませんが、いつでも帰ってきてください」
そう言うとやっと顔を上げる住人達は泣いているテリアに今度は右往左往する事になった。
「大丈夫ですよ。嬉しくて泣いているだけですから。それよりも貴方達が持っている道具は、橋の向こうの開拓する為のものですか?」
まだ動揺しているようだが、話しかけてきた男が返事をする。
「え、はい、もうこの狭い村に拘る必要性がなくなりましたので橋の向こうに新たに村を作ろうと動き出してます」
美紅はそうですかっと優しげな視線で見つめて微笑む。そして、テリアに良かったねっと抱き締める。
そして、美紅は、住人達に失礼しますねっと言うと涙を拭くテリアを肩を掴んで社のほうへと歩き出す。
しばらく歩くと美紅はポツリと言う。
「この気の回し方は姉ぽいですよね?私が一歩リードです」
「ずっこいの、そのやり口は酷いのっ!」
私はすぐにそれがテリアの徹をお兄ちゃんと呼びたいといっていたことを利用した言葉遊びだと理解して乗っかる。
テリアも自分を笑わせる為にやってくれていると理解したようで苦笑を浮かべて私達を見つめていたが・・・あれ?美紅?っと私は美紅の目を見て疑問に思う。
「私をお姉ちゃんと呼んでいいんですよ?」
まさか、半分ぐらいマジなの?美紅っと驚愕していると、テリアも雲行きがおかしいと感じたようで抱き締められながら戸惑っていた。
それを見ていたガンツがポツリと呟いた声がが私達によく響いた。
「なんじゃ?この3人で一番年上はテリアじゃないのか?そんな薄い胸板しとるから、てっきり年下かと思っとったぞ?」
そう言ったガンツは私と美紅のダブルパンチを顔面に受けてノックアウトされる。
「胸で年齢を判断しないのっ!」
「女の年齢に触れる時は慎重に!」
「「そして、貧乳はステータス!!」」
徹が居たら決して言えないセリフを気絶するガンツに叩きつけると、私と美紅は力強い握手をする。やっぱり私達は友達だ。
テリアは、タハハっと苦笑し、デンガルグは嘆息して呟く。
「いくつになっても成長せん奴じゃの。同じような理由でミーアに何度やられても学習せん奴じゃ」
「多分っ、ガンツはお前にだけは言われたくないと怒鳴る気がするわっ」
まさに似た者同士だと私は心で嘆息すると気絶するガンツの足を掴んで社の奥にある泉へと引きずりながら歩き出した。
泉に着くとガンツにどうやって入るの?と聞こうとした時、以前と同じように上空に光の扉が現れる。
「どうやら、歓迎して貰えてるようなの」
自分でそう言いつつも、多分違うんだろうなっと思っている。
「それならご招待される事にしましょう」
そう言うと美紅はガラスのような透明な階段を昇り始める。
躊躇せずに昇る美紅を見上げるとみんなの顔を見て言う。
「じゃ、私達も行くとするの」
みんなが頷くのを確認すると私達も美紅を追いかけて階段を昇り始めた。
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