177話 出戻り
今週も明日は更新が遅れるかもしれません。遅れても日付が変わる前には更新するつもりです。
エコ帝国との2回目の交渉の場を終えて、馬車に乗り込んだ私達は、今日の結果と今後の話を始めた。
「やはり、エコ帝国側は何やらやっておるようですな。我らの要求を断りにくい状況なのは分かりますが、あまりに素直に対応しすぎですな」
今日の交渉の場の様子をエルフ王が一言で纏める。
一応の抵抗のような事はやってくるが大根役者が過ぎて、笑う事もできない。
交渉の場に私、クリミアとエルフ王しかいない事すら文句を付けてくる気すらない有様である。念の為にティテレーネ王女とユリネリー女王陛下に出発を待っていて貰った事すら無駄になってしまった。
「これだと、明日にでも、お二人にも出発して頂いても良さそうですね」
私が言うとエルフ王はそうですなっと頷いてくれる。
エルフ王と打ち合わせをしながら、私は違う事を考えていた。
本当なら明日以降の交渉の持っていき方を考えないといけないと分かっているがどうしても、少しでも気を抜くと、仮死状態で眠っているトールの事を思ってしまう。あの日、以降、暇を作ってトールの傍で見つめている。
ここに集まった人達は正直、身分だけであれば引けは取らないであろうが、能力というものであれば、私はここにいる人に勝てると胸を張れるモノがないと言えるほどの人達がトールに何もできる事を思い付けないのに、私は必死にできる事はないかと考え続けてしまう。
神であるユグドラシルですら、今できる事がないっと言い切ったのに、でも、でもっと自分に問いかけ続けていた。
「またトール殿の事を考えておられるのですかな?」
「す、すいません。今はエコ帝国との交渉の話をしなくてはいけないのに・・・」
私は赤面して頭を下げるが、エルフ王は手を軽く振って、大丈夫ですよっとニッコリっと笑いかけてくれる。
「エコ帝国との交渉など、特に話し合う必要性すらありませんよ。もう、これは時間稼ぎの出来レースです。裏で何をやっているかは、部下達の報告があってからでも良いでしょう。そう、信じて待つだけです」
エルフ王の信じて待つだけっと言う言葉が私の中に吸い込まれるように浸透する。
そうか、私に足りてなかったのは信じるという気持ちだったのかと理解する。馬車の窓から自分が生まれて育った城を振り返る。
私は、あそこで生活する内に信じるという事を否定して生きてきた。あそこで信じるというのは愚かな行為であると自分の考えを疑った事すらなかった。ある一面では正しかったが、それはあくまで、この国の王族、貴族が輪をかけて信用に値しなかっただけという事に気付けてなかった。
そして、国を出て、モスの街で人と触れ合い、信じる事はいいことだと理解したつもりでいたが、心を揺らされて慌てると、その大事な事すら忘れ、疑ってしまっていた。このままトールは助からないのではないだろうかと・・・
それに引き換え、皆は、その気持ちを押し殺して、きっとトールはここで終わらないと信じて、トールが目を覚ましてから助けになると信じた各自の思いを形にする為に動き始めようとしている。
なら私がすべき事は決まっていた。
トールを信じる事である。
信じる事しかできないじゃない、信じる事が出来るんだっと言う事を胸に刻む。
そう、トールを、自分を信じられると思えると一気に世界が広がったように感じる。今まで見えていなかったモノがはっきりと見えた。
「エルフ王。私が城に居た頃に調べた時のキナ臭いと感じた施設や場所をこちらでも部下を使って調べさせてみます。何か手かがりが掴めるかもしれません」
城に居た頃の事で役に立つ事はないと思っていたが、毒でも使い様では薬になるかもしれないと考えを切り替える。
当時の私程度が知れた事だから、関係ないかもしれないが、こうなったらシラミ潰しである。
「お願いします。私達は私達で出来る事でトール殿の一助になりましょう」
ニッコリと笑うエルフ王を見て、きっとエルフ王は悩んでいる私に気付かせるキッカケを意図的にくれたと思う。私もニッコリと笑い返し、今後の事を話し続けた。
しばらくするとエルフ大使館に到着して、馬車から降りると旅支度を済ませたユリネリー女王陛下とティテレーネ王女が私達の帰りを待っていた。
「お父様。クリミア王女、お疲れ様でした。交渉のほうは予測通りだったでしょうか?」
「はい、ユグドラシルが言うように何やらやっているという雰囲気はありました。向こうは逆転の目があると判断して、適当にやっているのが伝わり、裏でやっている事は早めに掴んだほうが良さそうです」
ティテレーネ王女はやはりそうですかっと頷くがユリネリー女王陛下は静かな表情で聞いているのみである。興味がないのではなく、問題はここからだと分かっている為だろう。
「もうすぐに出発されるのですか?」
「ええ、どこまで時間に余裕があるか分かりませんので」
「もう、行くのかね?パパはとっても寂しいよ?」
先程の大人の余裕はどこに行ったとばかりの娘にデレデレな親馬鹿全開のエルフ王を見て苦笑する。
「ティテレーネ王女は一旦、エルフ国に帰り、ユリネリー女王陛下と共に山の頂にいる狼のところですか・・・そういえば、ルナさん達はどちらに向かわれたのでしょう?」
「我が国の予言の一族の里と言われたテリアさんの故郷です」
今まで黙っていたユリネリー女王陛下が答えてくれる。
そういえば、テリアちゃんはティテレーネ王女と同じで巫女だったと聞いた事があった。普段の彼女を見てると想像しづらいのではあるのだけどっと苦笑いをする。
ティテレーネ王女は、ユリネリー女王陛下の言葉を引き継いで言ってくる。
「その里にある空間の歪からエクレシアンの女王との面談するのが第一の目標だそうです。その先はエクレシアンの女王次第でしょう」
そろそろ、獣人国に着いた頃でしょうねっとユリネリー女王陛下は呟いた。
クラウドを出てから3日が経った昼下がり、私達は国境を越えて獣人国に入国していた。
御者をしていたテリアが、若干不貞腐れるようにして言う。
「まさかっ、こんなに早くに出戻りする事になるとは思ってなかったわっ」
その気持ちは良く分かるが、致し方がないので我慢して貰うしかない。
クラウドを出る時に、獣人国を目指せと言われて途中まで分かれ道がなかった為、特に何も思わず、旅をしていたが、国境を越えるのが間近となった時、ガンツにどこかと正確にねっと追及するといとも簡単に分かり易い説明をする。
「テリア、お前の故郷じゃ」
言われた時のテリアの虚を突かれた顔は横に居て少し笑ってしまったが、テリアの里で思い当たるのは2つしかない。
1つは、既に去ると言っていたのであそこに言っても意味はないだろう。ならば可能性は1つであろう。
「エクレシアンの女王に会いに行くのですか?」
美紅がガンツに問いかける。私もそれしか思いつかなかった。リルはもうあそこにいないはずだし、リルに協力を求めるならユグドラシルを経由したほうが早いはずである。
「そうじゃな、確かそんな名前じゃったと思うわい」
適当に覚えてたガンツは気楽に答える。きっと近くに行ったらカラスに聞こうと思っていたと思われる。
槌を持ってない時のガンツは余り信用しないようにしたほうがいいかもしれないっと思う。
「徹から聞いたけど、エクレシアンの女王は別に神とかじゃないから、徹の武器に張り合えるような金属を生み出したりできないの。だいたい、エクレシアンの女王は・・・あっ」
そこまで言って、私はある可能性にぶつかる。
美紅も私の言葉を聞いていて閃いたようである。
「カラスも同じ結論に行き着いたようじゃ。仮に違ったとしても、心当たりを聞く相手として申し分ないといっとったよ」
なるほど、これは会うしかないと私も思ったっと同時にあの苦い思い出を思い起こした。
「今度は絶対に会って貰うなの!」
美紅とテリアは私の言葉を拾って微笑むと私も微笑み返した。
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