幕間 最後の勇者
勇者のお話です。
幕間、最後の勇者です。よろしくお願いします。
夕日が差す神社の境内に膝を抱えるように座る少女がいた。見た感じ、中学校に入学したの?してないの?といった年齢に見えるが実は15歳の少女だった。膝を抱えてる姿を見てるともっと幼く見られてもしょうがないような体躯、成長の兆しが見えないスタイルをしている。肩まで伸びた黒く艶やかな髪は膝を抱える少女の顔を隠して表情などが分からない。表情なども気になりはするが、もっと違和感を感じさせることがあった。それは、少女の身なりである。
神社の境内にいる人物とは思えないような、中世を思わせるような武器、防具を着ていた事、冒険者と言われるとしっくりくる姿だった。しかし、その武器、防具は整備がされてるといった雰囲気もなく、倉庫の奥にあったものをそのまま無理矢理着せられた感がする。実際、鎧もサイズが合ってないようでブカブカで横から少女の仕立ての悪いツギハギが目立つ服が良く見える。
境内の風景にブレが生まれる。少女があっと呟くと辺りは真っ白な空間になった。少女がいた場所は境内ではなかったのだ。少女の姿が違和感ではなく周りの景色が本来の違和感で本物ではなかった。少女の思いがその風景を創り出していた。ここはそういう場所なのだ。
少女はまた境内の風景に戻すためにこのイメージを強く思い出せる出来事を振り返る。
私の名前は美紅、アローラに唯一絶対神のルナの力を触媒に10年前に召喚された勇者だった。神託を信じるなら最後の勇者らしい。正直、勇者とか最後とかどうでもいいただ帰りたい。とはいえ、元の世界でも良い環境だとは言い難かった。私は近所の子達にはイジメられ、親には距離を置かれ、夜中に親が私の事が気持ち悪いと言われて、ショックを覚えた。見た目が醜いとか化け物ような体躯をしている訳ではない。客観的に見て、少女は愛らしい、同じ年頃の子より背が低いぐらいしか特記するような事はない、遠目に見る分には。
近づいて、よく見てみると瞳の色が若干紅く見える。しかもこれは、感情が高まるとより紅くなっていく。特に泣くと少し離れても分かるぐらい紅さが増してそれが化け物のように見えるというのが言い分らしい。生まれ持ったものであるその眼をいくら言われようが私にはどうしようもない。縋りたくとも、親があの調子では逃げ場はなかった。
そして、ある日、大きな転機がきた。
毎日苛められ、今日は神社の境内で男の子3人に囲まれる。
「気持ち悪いやつ」
「お前なんか人間じゃない」
「化け物どっかにいちゃえ」
子供とは残酷な事でも平気で口に出してしまう。大きくなるにつれ理性、体面といったものが言わせないようになっていくが、この年頃の子にそれを求めるのは無理はあったかもしれないが、残酷なのは変わりなかった。
私は、いつものように殴ったり蹴られたりするのを体を丸めるようにしてじっと耐えて男の子達が飽きるのを待つ。しかし、痛みを我慢できる訳でもなく痛みのため涙を零す。
その様子を見てた3人のボス的な男の子は、
「眼が真っ赤になった!化け物、死ね!」
どこか楽しそうに振り上げる拳に私は恐怖して眼を瞑る。
すると、殴られる音はするのに痛みがこない。不思議に思い、ビクビクしながら薄目を開けると見たことがない男の子がボスの子を殴り飛ばしていた。周りの子もびっくりしてたようだが、ボスの子を助けるために乱入した男の子に殴りかかった。相手は3人、いくら乱入した子が強くても勝てる道理はない。殴ってる回数よりも殴られてる回数が何倍も多くても、倒れても倒れても、その男の子は立ち上がった。いくら殴っても立ち上がる男の子を相手に疲れ始めた3人の男の子達は、
「お前、なんなんだよ!気持ち悪いんだよ!」
我先とばかりにボスの子が逃げ出す、それに釣られるように他の子達も逃げ出した。
そして、振り返って私をみた男の子は腫れ上がった顔に大きな笑顔をのせて、私に話かける。
「大丈夫か?立てるか?」
思わず私は目線を男の子に合わせてしまう。
私の眼を見た男の子は、おっ!と声を上げて私を見つめる。真っ赤になった眼を見られて気持ち悪いと思われてしまった、と慌てて目線を下げようとした私に、
「ウサギさんのような綺麗な赤色だね」
その言葉を聞いて、弾けるように男の子を見た。男の子は突然動いた私を見て驚いたようだが、その表情は先程と変わらず大きな笑顔をしたまま、私を見ていた。今まで、私の眼を見て好意的な事を言ってくれた人はいない、一番まともな人で生まれつきだからしょうがないだ。まして、綺麗なんて言われた事などなかった。しかし、褒められた事のない私はどう反応したらいいか分からなくてまごついてといると男の子が先に行動した。
そっと私に向かって手を差し出してきた。夕日を背に差し出される手は年相応に小さい手のはずなのに私にはとても大きく見えた。
「俺と一緒に遊ぼ~」
とても気安く私に声かける。自分でも分かるぐらい震えた手を男の子に差し出すが迷い、戻すか男の子に近づけるか躊躇してると、男の子が手をぐっと伸ばしてきた手に捕まり、起こされる。
その日は二人でかくれんぼをして遊んだ。疲れてきて、休憩するがてら男の子の事を聞いた。
どうやら、男の子は引っ越ししてきたばかりのようで探検気分で神社にきたらあの場に遭遇したようだ。歳も同じ5歳。
日が暮れ始め、帰ろうということになった。私は男の子と明日も一緒に遊んで欲しいと思ったが断れるのが怖くて言えないが諦めきれず、視線を足元と男の子を往復させることしかできなかった。
そんな私を見てハテナを頭の上に乱立させてそうな顔をした男の子がいたが分からなかったのか、諦めて考えるのを放棄したようだ。そして、
「明日、昼ご飯食べたら、境内に集合な」
悩みもなさそうな大きな笑顔を私に向け、相手の都合も聞かずに約束を取り付ける。でも私は嬉しくて、今まで初めてかもしれない自分の嬉しそうな声で、
「お昼に境内で」
少し恥ずかしかったけど、返事して頷いた。
そして、途中まで一緒に帰る道で、男の子は音程ハズレで酷い歌詞のオリジナルの歌を口ずさみながら歩いた。でも、私にはとても温かい歌のように感じられた。私も真似をして家路に向かった。
お互い別れて、家路に向かい、辺りに人の気配を感じない道に差しかかった時に起こった。
アニメの魔法少女達が魔法を使う時に描かれる丸い模様のようなものが足元に大きく光輝いて現れた。それに恐怖した私は逃げようとしたが足がまったく動かない。恐怖で竦んでるという訳ではなく張り付いて取れないといったほうが正確な感じでその場から離れられない。
光の輝きが私を包むように強くなっていく。
光が完全に私を包む前に私から漏れた言葉は、
「男の子の名前聞くの忘れちゃった」
これが、この世界で最後に残した言葉になった。
そして、私はアローラに召喚された。
連れられてきた王宮で戦闘訓練を施されるが訓練はできても戦う事がまったくできず、諦められたようで、王宮に軟禁される。
飛び出して元の世界に帰りたいとは思っていても外が怖く、特に何もされない事が救いと感じて軟禁を受け入れてた。
召喚されてから10年の歳月が過ぎた。
王に呼ばれ、王の間で膝を付かせられると、周りの衛兵に抑えつけられながら服を脱がされ、村人が着てるようなボロのシャツとズボンに履き替えさせられて、カビの匂いがするブカブカの皮の鎧を着せられ、腰に刃こぼれした長剣を下げさせられる。私は怯えてしまい抵抗もできずに着せかえられてしまう。
着替え終わった私を見た王が
「これより、魔神封印の儀式をするために旅立ってもらう」
それを聞いた時、私は戦いを強いられると感じて身を固くするのを見た王がため息をついて、私に告げる。
「お前に魔神討伐をさせるのはとうに諦めておる。戦わせるつもりではない。封印の儀式のために、お前の力がいる。その準備がやっと済んだので現地にいってもらう」
護衛に近衛騎士を50名付けるから安心しろとも私に言ってくる。
戦わなくてもいいと分かり、ひとまず胸を撫で下ろす。冷静に周りを見渡していれば、きっと気付けただろう、私を見つめる目がにやついたものがあったことに。
「このまま、旅立ってもらう、準備はこちらで済ませているので出るがよい」
言われるがままに連れられて、馬車に乗せられ国を立った。
そして、現地の山深いところについた。この世界の地理はさっぱり教えられてないが国を出てから10日かかった。近衛騎士に場所を聞いてみても、教えてもらえず、知っても使う機会はないだろうにと言われた。どういう意味だろう。
近衛騎士に連れられて奥へと行くと召喚された時を思い出すような術式が書かれた場所についた。そのまま連れられ、術式の真ん中に連れられてくると、そこでじっとしてろと命令される。
近衛騎士が術式から出るといた事に気付かなかった黒ローブの者が術式を囲むように現れてた。近衛騎士が手を上げて、黒ローブに始めるように指示を出した。
術式が輝きだした。召喚された時のように足は動かない。どうせならこのまま元の世界に戻してくれないだろうかと思った。
すると、近衛騎士が声をかけてきた。
「最後に教えてやる。これはお前を触媒にして魔神を封印するための術式だ。つまり人身御供だ。お前が生きてる間は封印は継続される。だから1年でも長く生きてくれよ?」
馬鹿にするような声音で私に叩きつけてくる。
私は頭の中が真っ白になるのを感じ、包まれた光の先も真っ白になって2度混乱した。
そして、今に至る。
この世界に閉じ込められてそろそろ1週間を迎えようとしている。
ここには私を傷つけるものは存在しないが1人は寂しい。寂しさを紛らわせるために男の子が歌ってた歌を口ずさむ。
ウサギさん、ウサギさん、どうして眼が紅いの?
それはね~
続きはなんだっただろう?
思い出せない私は壊れたオルゴールのように同じところを繰り返した。
そんな世界に閉じ込められて心が壊れそうになっている少女の世界の壁にヒビを入れて手を差し出してくれる未来があると知るのはもうすぐの事である。
差し出された手を握り返した時、少女の運命が奏でられる。
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