175話 揃う史上最高の2大鍛冶師
一晩経って、クラウドに向けて出発すると、美紅が言ってくる。
「今回はマッチョの集い亭、いえ、ミランダさんと会うのは避けましょう」
私は、獣人国に行く前に気合いを入れる意味でもミランダの食事を食べる気満々だった為、美紅に詰め寄ってしまう。
「どうしてなの?クラウドに、ううん、私達が帰る場所はあそこなのっ!近くに来て行かない理由が分からないの」
前の騒動があった時のように帰れない理由があったのなら渋々引き下がっただろうけど、ミランダを避ける意味なんて分からない。
御者をしているテリアが、私を呼ぶので美紅に追及するのを一旦止めてみると、悲しそうな目を私に向けてくる。
「ルナ、私はなんとなく分かるかもっ。ミランダにとって、トールって可愛い弟であり、息子みたいな感じだと思うっ。そのトールは今は・・・それを知られない為に会うのを避けたいって美紅は思ってるんだと思うっ」
なんとなくっ、無駄な気遣いになりそうな気もするんだけどねっと言ってくるテリアは、ミランダに隠し事が上手くいく気がしないしっと肩を竦めてた。
再び、美紅を見てみるとテリアの言葉を否定も肯定もしてこない。テリアの言うように美紅はそのつもりのようだ。
美紅の気持ちも分かるがミランダが仲間外れみたいでイヤだっと思った私は言う。
「私はミランダに隠し事をするのはイヤなの・・・」
「じゃ、ミランダさんに、今、トオル君は仮死状態でどうなるか分かりませんと言えばいいのですかっ!確かに、トオル君は無事、目を覚まして、また語り合えると信じてますが、知らないほうが良い事を敢えて伝える必要はないでしょう?」
勿論、美紅の言い分は分かる。徹の状況をミランダに伝えたところで何も変わらないだろう。そして、きっとミランダは徹の事を心配するだろうというのは間違いない。
だから、美紅が言っている事は間違ってない。間違ってないから間違ってしまっている美紅に私は教えてあげる。
「徹が私達に気を使って、加護のことや、魔神の事を伏せて抱えていると知って、美紅は徹に感謝したの?私は感謝なんてしなかったの。水臭い、もっと私達を信じて欲しかったって思ったの。相談されてたからといって何が変わったかと言われたら、私達が悩む時間が増えたぐらいかもしれない。それでも私は話して欲しかった。美紅は違うの?」
私の言葉を聞いて、美紅は目を大きく見開き、私を見つめた。拳を握り締め、唇を噛み締める美紅を黙って見ているとテリアは嘆息して、大番狂わせねっと呟く。
それまで、黙って置物のようにジッとしていたガンツが口を開く。
「加護とか事情がさっぱりなとこはあるがの、今回はワシもルナがいっとる事が筋が通ってると思うぞ?トールが、お前達がそこまで慕う相手じゃ、あるがままぶつかってええんじゃないかの」
美紅は咀嚼して飲み込むように深呼吸をして握ってた拳を解く。
「そうですね、私が先走ったようです。私にとってもミランダさんは姉であり母です。いらない遠慮した事を怒られますよね」
そういって私に微笑んでくる美紅に私は、うんっ!と力強く頷く。
「一応ぉ、ミランダってムキムキのマッチョの男よっ?まあ、私もそっちのほうがシックリくるから困るんだけどねっ」
私達、3人は顔を見合わせるとクスクスっとしばらく笑い続けた。
「おい、どういうことじゃ?女じゃないのか?名前からして、えっ?本気でどういうことじゃ?」
完全に置いてけぼりを食らったガンツはおろおろとまだ見ぬミランダに恐怖したのであった。
それから、クラウドに着いたのは朝というには遅く、昼には遠い中途半端な時間に到着した。
「先程いっとったミランダか?は、後廻しにして、デンガルグを回収するとしようかの」
どうせなら、昼時に行ったほうが飯にありつけるじゃろ?っと言われて、反論する言葉などない私達はガンツが言うようにグルガンデ武具店を目指して、馬車を走らせた。
到着して店に入ると誰もおらず、いつも通りだと思ってしまうあたり、かなり不味いのではっと思いつつ、耳を澄ませるとカーン、カンっと槌を打つ音がするところを聞くといるようだ。
美紅が息を吸い込むのに気付く。隣にいた私は軽く耳を押さえる。
「美紅です!おじ様、少しよろしいでしょうかっ!!」
美紅が大きめの声で言ったが、相変わらず、槌の音は一定のリズムを崩さず打ち続ける。
トオル君ならこれぐらいの声で言ったら気付いて貰えるのにっと眉を寄せる。
ガンツが美紅の前に出ると、ワシに任せろっと自信ありげに言うところを見て、相当な大声を上げるつもりだと思い、耳を押さえようとすると、大声なんぞ上げんわっと嘆息される。
どうするのだろうと思っていると口を開いた。
「デンガルグ?ミーアがきてるぞ?」
私達に話しかけるような声で言うと、奥で派手にこけたような音が響くとガラガラっと何かが崩れる音がしたと思ったら、奥からドタドタっと大きな音をさせて誰か出てくると思ったら、いきなり跳び上がって出てきたデンガルグがジャンピング土下座を決めると、頭を擦りつけて叫ぶ。
「勘弁してくれぇ!!ワシはまだここでやりたい、いや、やらねばならん事があるんじゃぁぁ!!まだ、帰りとーないっ!!!」
土下座をするデンガルグをガンツはもう笑うのを堪えるのが大変とばかりに顔を歪めて必死に耐え続けている。
美紅がおじ様?っと戸惑いながら声をかけると、デンガルグはそっと顔を上げるといるのが、キョトンとどう対応していいか困っている私達とデンガルグと目があった瞬間に笑うのを我慢する防壁が決壊したようで、ぶふぅっと噴き出すと、ガハハハっと笑いだす。
「ガンツ、てめぇ、またやりがったなぁっ!!」
「いくつになっても、頭が上がらんようじゃのぅ」
どうやらツボに入ったようで笑い続けるガンツ。
涙目のデンガルグがガンツの胸倉を掴んで叩き出すが、ガンツの笑いを止める事は叶わず、ちぃっと舌打ちして胸倉を掴んでいた手を離す。
「で、何の用じゃ?お前が理由もなくわざわざ、クラウドまで来てワシに会いこんだろ?」
「うんむ。ワシもお前の顔なんぞ見ずに済むなら溶岩にでも飛び込む覚悟があるわい。この武器を打ち直す仕事をしてみたいとは思わんか?」
アオツキをデンガルグに渡すと、これは小僧の武器だろっと呟く。
「お前も耄碌したという事かの?鞘から抜かずとも業物と分からんのか?」
デンガルグはガンツを見て鼻で笑うと、ガンツはまあ、抜いてみろっと言われて、本当に耄碌したのか?っと顔を顰めながらも鞘から抜くと目を見開く。
「びっくりしただろう?そんな剣で完成しましたっと弟子が持ってきたら、ナマス斬りにして溶鉱炉に放り込むじゃろ?」
テリアが勿論、剣をよねっ?っとガンツに聞くと、いや、弟子をじゃっと言われて、ズコズコとテリアは引き下がって、鍛冶って命がけなのねっと呟くのが聞こえたが、絶対にそれは違うっと私は思った。
「目の前で子供の粘土遊びかと聞きたくなる剣を直に見ているのに、それでも業物だと思ってしまう。この剣はなんじゃ!」
鬼気迫る雰囲気でガンツに詰め寄るがガンツはしてやったりっと言った顔をして口を開く。
「神が生み出した金属で造られた剣らしい」
「しかし!」
「目の前にある」
「だが!」
「アテはある」
「これを?」
「うむ、くるか?」
「ここでお預けされたら、ワシは暴れて邪魔してやるわい」
2人は納得したようで、力強く握手をして男臭い笑顔を浮かべる。
そして、何事もなかったように外に出ようとする2人をテリアが叫んで止める。
「待てぇっ!!!何なの?今ので会話が成立する訳っ?ふざけてるのっ?」
私も美紅もやっと心を追い付いてきた。あれはどう聞いても会話が成立しそうにない。私もふざけてるのかと思ってしまった。
「ガンツ、ちゃんと話さないといけないの。これは失敗できない話なの」
私はガンツに言い含めるように言うとガンツとデンガルグは顔を見合わせてからガンツが口を開く。
「今の話は、デンガルグが、しかし、そんな物が存在するのかっと言うから、目の前にあると答え、だが、それを認めたとして、そんな物を打ち直すのにワシらが使っているような槌などじゃ無理じゃろっと言うから、心配するな、アテはあるっとワシが言ったら、これを打っていいのかっと聞いてくるから、うむっと答えて、一緒に来るかっと言ったんじゃ」
隣でデンガルグも頷いている。
私達は呆けて見ているとデンガルグが言ってくる。
「一流の職人になればのぅ、同じ道の者なら多くを語らんでも何を疑問に思うとか分かるもんじゃ」
だから、あれで通じると2人して頷く。
私は絶対に嘘だと思う。単純にあの2人が仲が良くて、付き合いが古くて分かるだけだと思った。
ふと、デンガルグが美紅をジッと見ている事に気付いた。美紅も気付いて、どうかしましたかっと問うと美紅の瞳を見つめて言ってくる。
「嬢ちゃん、鎧と盾はどうした?」
デンガルグの言葉に、あっという顔をして、言葉を選ぶようにして言う。
「その、戦闘で盾も鎧も破壊されました」
一発で破壊されたとは言い辛い美紅はその言い方で留めたが、デンガルグには筒抜けのようで、はぁっと溜息を吐かれる。
「本当なら、フレイドーラを作った時に渡す予定の防具があったんだが、ワシが寝ている間に嬢ちゃんはどっかに行ってもうたからの」
あの時は申し訳ありませんでしたっと頭を下げる美紅に、まあ、ええわいっと言って、少し待ってろっと言うと奥に入って行くと、真っ白な前の鎧と盾と形が似た物を抱えて持ってくる。
「今度は表面加工をオリハルコンでやっておる。色は前と同じじゃったが、ここに置いている間に遊び心に火が点いて、剣と同じように白を基調に色々やってみたが、性能は折紙つきじゃ」
ガハハハっと笑うデンガルグを冷たい目で見つめる美紅。さすがにあれは派手だと感じているようだ。
「色を前と同じように普通の鋼色にしてくれませんか?」
「ふむ、断る!」
気持ちが良いぐらいあっさりと断ってくるデンガルグに美紅は目が点になる。
「なるほどのぅ、デンガルグにしては見た目が上手くいっとるの。これは断るのが職人じゃの」
ほぅ、お前も分かるかっと言うと美紅の左手を掴む、デンガルグ。
当然じゃろ?っと言いつつ、美紅の右手を掴む。
すると、2人は息が合っている動きで美紅を奥へと連れて行く。
「「奥で微調整しようかのぅ」」
楽しそうなドワーフ2人の共演という狂宴が始まろうとしていた。
美紅が私達を見て、助けてっと言ってくるが、私達は目を反らす。
「大丈夫。命も貞操も心配ないの。ただ・・・」
「職人達の玩具になるだけっ・・・」
史上最高の2大趣味人が覚醒した瞬間であった。
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