174話 徹のいない旅
本日から新章の9章になります。
よろしくお願いします。
ガンツに拉致られるようにして馬車に放り込まれるとテリアに御者をやれっと言うとガンツも乗り込んでくる。
意味もなくこんな事をする人じゃないというのは分かっていたので抵抗せずに連れられて来た。美紅は徹の傍から離れるのがイヤで少ししてたが、本気に逃げ出す気はなかったようで、今はおとなしくしている。
御者をさせられたテリアに、クラウドに向かえと言うと本人も乗り込んだ。
私と美紅、そして御者をさせられているテリアは、これからガンツから説明があるものと思い、私と美紅は見つめ、テリアはこちらに意識を向けながら馬を走らせる。
ガンツは腕を組み、目を瞑って胡坐を掻いたまま、ジッとしていた。きっと何から話すか考えているのだろうと思って、待つ事にする。
馬車が出発して、メインストリートを抜けて、首都バックを抜けても、その体勢のままのガンツに不審に思っているとイビキを掻く音が聞こえて来て、前のめりになっていた私と美紅は気が抜けて、顔から床に打ちつけてしまう。
御者をしていたテリアが叫ぶ。
「いつになったら話すって思ってたらっ!寝てるってどういう事よっ!!」
激情のままに騒いだテリアの声に怯えた馬が暴走して、止める為に必死に手綱をテンパリながら操るハメになる。
馬の暴走とそれを鎮める為にバタバタした音で目を覚ましたと思われるガンツが口を開く。
「なんじゃ、馬もまともに扱えんのか?しょうがないのぅ」
ワシが代わってやると、腰を上げようとしているガンツに馬を脅かさないように意識した声でテリアが叫ぶ。
「違うわよっ、私達を連れ出した説明があるものだと思って待ち構えていたら、寝てるって分かったら思わず叫んじゃったのよっ!!」
「馬の近くで叫ぶとは常識知らずじゃのぅ」
テリアはうがぁーっと頭を掻きむしる。
「この際、寝てた事はどうでもいいです。ガンツさん、カラスに何を言われて私達を連れ出したのですか?」
美紅はくだらない事だったら踵を返してでも徹の下へと帰ろうと考えてそうな目で問いかける。
ガンツは、むぅっと唸ると腕を組む。
そのガンツの様子を見ていて、閃くモノがあって問いかける。
「もしかして、面倒とか思ってるの?」
ニカっと笑い頷くと気持ち良いぐらいに頭が痛くなる解答をしてくる。
「何度も同じ説明するの面倒だからクラウドで全部したらええかと思っとった」
面倒だと思っている時の徹と同じ目をしていたから、もしやっと思っていたら案の定、同じ事を考えていたようだ。
私は少し呆れながらも仕方がないとばかりに説明するように説得しようとしたら、美紅が動いた。
フレイドーラを抜くと、私がアッと言った時にはガンツの首元に剣を添えていた。
「ガンツさん、申し訳ないですが、今の私は余裕がありません。面倒がらないで、話して貰えますか?貰えますよね?」
ゆっくりと押し込むとガンツは冷や汗を流しながら逆に後ろに下がり言ってくる。
「分かった、分かった。ちゃんと説明するわい」
そう言うと美紅はおとなしく剣を下げる。
「お前さんは本当にトールの事になると見境がないのぅ?」
ブツブツ言うガンツに美紅は一睨みで黙らせると話を促す。
ふぅっと溜息を吐くと渋々、話始めた。
「カラスから聞いたが、元々は3カ国の交渉の為じゃなく、カラス達の強化をワシに依頼する為に会おうとしておったんじゃろ?」
そう言われて、私と美紅は頷き、テリアはやっと話が始まったとばかりに片耳だけピコンっと立てて、馬を再び走らせ始める。
「まあ、正確に言うなら、デンガルグの力も借りようとしておったようじゃが、ワシが居ればヤツなんぞ、邪魔だけだろうっと思っとるんだが、カラスがの~」
何やら、デンガルグの悪口というか愚痴に発展しそうな予感に包まれた私は、美紅を見ると少しづつ目が据わり出しているのに気付き、ガンツを止める。
「デンガルグの事は今はいいの。それより、カラスの話を頼むの」
もっと言いたかったっという顔をするガンツに呆れる。ガンツとデンガルグは仲が悪そうに思っていたが、意外と仲良しなのかもしれないという意味で呆れてしまった。
「まあ、お主らも知っているように、カラスとアオツキは神が生み出した金属で打たれてたモノだと聞いておる。それを本格的に打ち直そうとなるとそれと同等もしくば近しいモノでないと打てんのじゃ。その心当たりが獣人国にあるらしく、向かう前にクラウドでデンガルグを拾って行こうという事なんじゃ」
なるほどっと私は頷くが美紅はまだ納得しきれないようでガンツに問う。
「打ち直す金属が必要なのは分かりましたが、私達が選ばれた意味は何故なのですか?」
「カラスが言うには、そこに入るには資格が必要になるらしいのじゃ、いくつかあるんじゃが、ある程度の強さか、神を宿した事がある者かだそうじゃ。そう言う意味ではエルフの姫さんも入れる事になるらしいが、入ったはいいが殺されるそうじゃ」
ある程度?っと私が聞くと神と張り合えるかどうかだそうじゃっと言われて、初代、2代目勇者のような例外を取り除けば、確かに私達しか存在しないだろうと思う。
美紅も漸く納得したようで、諦めたように嘆息する。
「ところで、カラスから聞いたんじゃが、お主は女神だそうじゃな?」
特に疑いもなく、普通に聞いてくるガンツに驚き、喜びに震える。
初めて、素直に女神と認められたと・・・
「そうなの!私は女神。アローラの最後の女神のルナなのっ!」
私は胸を張って、鼻息荒く、ムフンっと腰に手を当てて宣言する。
「カラスにそう聞いた時にワシもカラスに聞き返したんじゃが、神が生み出した金属がって言うなら、ルナに出して貰ったらええじゃろ?っと言ったら言葉を濁されたんじゃが、どういう事じゃ?」
「前に徹に聞いた事があるの。人は十人十色、色んな人がいるって意味らしいの。きっと神も千人千色で色んな神がいると思うの」
私は明後日の方向を見つめると太陽が目に入り、日の傾きから、そろそろ、どこで野営をするか考えたほうがいいかもっと目を細める。
ガンツは顔をこっちに向けない私から美紅に切り替えて聞く。
「つまり、ルナは金属を生み出したり、そのアテがないということかの?」
「えっと、そういう事なのでしょうね・・・」
「基本的にルナに神としてのスペックを求めたら酷だわっ」
美紅が言葉を濁して、テリアがトドメを刺してくる。
私は夕日が目に沁みて涙が零れる。そう決して悲しくて泣いているのではないのである。
日が沈もうとするタイミングで私達は野営の準備に取り掛かった。
あのまま、強行軍したら深夜には到着できたが時間に余裕のある旅をしている訳ではないが、深夜に着いたからと言って何ができると言う訳でない。
無駄に疲れるという事になるだけだという事で野営にする事になった。
いつも通り、美紅とテリアが料理の準備に追われている時に、今日はガンツと一緒にテントを立てていた。
ガンツの木槌使いは完璧であった。徹なんて時々自分の指に打って痛がったりしているのを思い出し、少し寂しく思っていると杭を打ちながらガンツが語りかけてくる。
「トールの事を考えておったんじゃろ?」
こっちにまったく視線を寄こしていないのにどうして気付かれたのかと思っていると続けて言ってくる。
「語りたい相手がおらん時の顔をしっとたよ。ワシもその気持ちは分かるんでの。もう、語る事も語られる事もできんからの」
おそらくザバダックの事を言っているのだろうと理解する。
「じゃが、トールとはまた話せる。決して死んだりはせんよ。必ず、お前さん達の前に帰ってくる。あの寝坊してる奴が起きてきたら言ってやる事でも考えてまとめておけばえぇ」
「ガンツ、ありがとうなの」
ガンツは黙して木槌を打ち続けて、最後の杭を打ち終わる。
タイミングを計ったかのように、テリアが食事ができたよっと声をかけてきたので私達は美紅達の暖かい食事を頂く為に向かう事にした。
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