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高校デビューに失敗して異世界デビュー  作者: バイブルさん
8章 Road like yarnー糸のような道ー
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173話 私は何度でも恋をする

 ガンツさん達を唖然として見送って、最初に我に返ったのはお父様であった。


「ふむ、ガンツ殿から説明を求めるのは無理そうですね。ユグドラシル様は、事情をご存じなのですか?」

「はい、知っております。カラスは自分とアオツキの力を十全発揮する為に必要な物を取りに獣人国に向かいました」

「でしたら、我が獣人国が総出でお力を・・・」


 ユリネリー女王陛下が協力を申し出ようとするが、ユグドラシルは首を横に振ってから答える。


「お気持ちは嬉しいですが、どれだけ人がいようと何の役にも立ちません。これをできる資格があるのは、あの3人だけでしょう。いえ、本来なら徹もできたことですが、後、ティテレーネも資格だけではありますので、行く事はできました。この子では入るだけで中で足を引っ張り、死んでしまうのが目に見えて分かってますが・・・」


 悔しいが1対1で戦って勝つのもかなり状況と運が必要とするほど、私は弱いので、拗ねた表情でユグドラシルを見つめるしかできなかった。


「今、武器であるカラスなどを強化する時なのですか?今はトールを助ける為に何かできる事がないか考える時ではないのですか!」


 クリミア王女が内から溢れる感情が制御できないのか激しい身振りでみんなに訴える。

 兄様の事が心配すぎて、普段なら気付けてそうな事に気付けず、取り乱しているようだ。私もユグドラシルに体を預けて、第三者的な視点で見て落ち着いてなければ、同じように取り乱したかもしれないと思う。


「クリミアよ、貴方の気持ちは良く分かる。しかし、先程も言った事ですが、私達からできる事は何もありません。なんでもいいからっと言う話になれば、そうですね、徹の無事を祈るぐらいでしょうか?では、私達がすべき事は、徹が無事帰ってくる事を前提で動く事ではないでしょうか?」


 我に返ったクリミア王女は打ちのめされたかのように項垂れた。そんなクリミア王女の肩に手を置いて、ユリネリー女王陛下は口を開く。


「貴方が言った事はこの場に居る達の心の内の思いを代弁しただけです。そんなに落ち込まないで」


 そう慰めるとユリネリー女王陛下はユグドラシルに向き合うと聞いてくる。


「トール様の無事ばかりに頭がいっていたので、失念してましたが、どうしてトール様はあのようになってしまったのですか?」


 言われて、私もその事に気付いていなかった事を今更ながらに気付く。

 クリミア王女も同じように、驚いたような顔をしているが、お父様は終始落ち着いた態度でいたので、とっくに気付いていて、誰も気付かなかったら聞く気があったのだろうと分かる。


「徹は2代目勇者に呼び出されて、会話の流れで戦う事になってしまいました。徹本人も今はどう逆立ちしても勝てないのは分かっていたので、必死に切り抜けようとしましたが、避ける事もカラスやアオツキの力を使っても防ぐ事が叶わない攻撃をされます。そこで制御が一度も成功した事のない魔法を行使しました。その魔法の制御を失敗した反動で魂の力をごっそり持って行かれてしまって今に至ります」

「それしか方法はなかったのでしょうか?トール様はその結果を考えずにこんなことを?」


 そう言ってくるユリネリー女王陛下にユグドラシルは答えた。


「はい、これ以外に助かる可能性はなかったでしょう。カラスやアオツキを破壊する覚悟で行っても、カラス、アオツキと共に滅ぼされていたでしょう。勿論、徹は制御を失敗すると理解して、自分の身がこうなる可能性も理解した上の行動です」

「相変わらず、無理をされる。トール殿はそんな細い可能性を信じて生を繋ごうとされたのか。確かにトール殿だったら、きっと大丈夫じゃないのかと信じさせてくれますな」


 お父様は、エルフ国での兄様の事を思い出して、少し困ったように眉を寄せているのに、妙に嬉しそうな顔をしている。

 気を取り直して、お父様はユグドラシルに質問する。


「トール殿がどうしてそうなったかは理解しました。ユグドラシル様は最初にこう言われました。貴方達にして貰いたい事があると、ルナさん達はガンツ殿に連れて行かれた事でしょうが、私達には何を?」

「まず、エルフ王、そして、クリミアよ。貴方達はエコ帝国との交渉を気付かれないように時間を稼ぎながら交渉を進めてください」

「どうしてですか?早めに決着付けた方がトールの状態の情報も漏れる心配も少なくなるし、後顧憂いもなく行動できるのでは?」


 クリミア王女の言葉は、この場にいるみんなも同じ思いだったようでユグドラシルを見つめる。


「確かに、そのほうが良いのは分かります。ですが、どうやらエコ帝国の王、その取り巻きが何やらきな臭い事をやろうとしてるようなのです。あの者らだけでやっているなら、放置したのですが、魔神の手の者が暗躍している可能性があるのです。決着を急いで、暴走も怖いですが、交渉中であれば居場所がはっきりしますが、終わってしまうと居場所が掴めなくなる恐れがあります。阻止も大事ですが、何をしようとしてるかも大事な話なので、交渉を引き延ばしつつ、向こうがコソコソやっていることを調べて欲しいのです」


 あの馬鹿共はまだ何かをやろうとしているのかっと怒りを覚える。まだ誰かの介入を受けての行動だろうが、今までの事を振り返ったら、怪しいと気付けるだろうにっと苛立った。


「そして、ユリネリー、そして、ティテレーネには別件があります」


 ユグドラシルは私の胸に手を当てて説明を始める。


「まず、ユリネリー、貴方の国には神聖視された狼がいますね?」

「えっ?はい、我が国にある山の頂きに眠る狼がいますがそれが何か?」


 どういう用件なのか分からず、首を捻りながら聞き返している。


「その毛を集めて欲しいのです」

「お待ちください。あの狼は触れる事も叶わないところから、神聖視された原因です。どうやって毛を集めるというのですか?」


 触る事もできない狼なんているんだと、少しびっくりしながら私は聞いていたがユグドラシルは勿論、知っていたようで、一つ頷くと言ってっくる。


「その方法は私の樹から作られた櫛で神を宿した事がある者がくしけずると集める事ができます」


 なるほど、私の役目と言う事かと理解する。


「ですが、その毛で何をされるのですか?」


 クリミア王女がそう聞いてくる。

 みんなそれが疑問に覚えたようで、ユグドラシルの言葉を待った。


「これから作られる服を徹の為に用意する服です。これで作られた服は信じられないほど丈夫になります。きっと今後の徹の為になるはずです。今回のように制御を失敗しても、ここまで酷い事にならない為の処置でもあります」


 これが私が貴方達にお願いしたい事ですっと言われるとみんなは自分のすべき事をする為に、ユグドラシルに一礼すると部屋から飛び出していった。


「さて、ティテレーネだけに伝えなくてはならない事があります」


 とても悲しそうな表情で私を見つめてきた。



 昼間の事を思い出しながら夜風に髪を揺らす。私は窓の外を眺めながら、ユグドラシルに伝えられてた事を考えていて、何が一番大事か再認識を繰り返し、答えが出るとユグドラシルに呼び掛けた。


「答えは出ましたか?」

「はい、私は行きます」


 そう答えると分かっていたが、その選択をさせる自分を攻めるように辛そうな顔をしていた。


「貴方はくしけずる度に徹への恋心を失っていくのですよ?」

「勿論、それを理解した上です。私にとって兄様が全てです。失うのは心を引き裂かれるように痛い。でも、それを守る為に兄様の為にできる事をしないのは自分が許せません、だから、私は行きます」


 私は迷いもない顔をして私を見つめるユグドラシルに微笑みながら、それにっと繋げる。


「兄様への今ある恋心を失っても、恋する心が失う訳ではないのですよね?」

「ええ、その通りですが?」


 私が迷いのない顔をして、微笑む事に度肝を抜かれつつ、私の質問を肯定するが要領を得ないようで不思議そうな顔をされる。

 だったら問題はない、私はそう思った。


「どうして、そんなに迷いのない顔ができるのですか?」


 ユグドラシルから質問される。

 私は誇るように言った。


「私は、何度だって、兄様に恋をするからですよ」


 ユグドラシルは驚いた顔をして、微笑む私を見て、強い子ですねっと微笑み返された。

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