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高校デビューに失敗して異世界デビュー  作者: バイブルさん
8章 Road like yarnー糸のような道ー
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172話 制御できなかった代償

 ハチの巣を突いたかのような騒ぎが起きて2日目の夜、少し落ち着きを見せ始めたエルフ大使館では、この状況がエコ帝国に漏れぬように厳戒態勢を水面下で進めて、情報漏洩防止に努めていた。


 私は、ティテレーネ、エルフ国の王女、国では宣託の巫女と呼ばれている。

 明かりも点けずに窓の外を何を見るとなく、ジッと見つめ続けて、どれくらいの時間が経過しているか、分からない。

 色々、これからの事を考えなくてはとは思ってはいるが、今日の昼にもたらされた話を聞いてから、そこより先に進めなくなってしまっていた。


 昨日、エコ帝国との交渉で完全勝利を喜んでいたのにっと思い、その後、兄様と別れてから、ほんの2,3時間で天国から地獄に叩き落とされたような事態が起きた。

 エコ帝国との交渉の結果に浮かれていた私達は、扉を蹴破るようにして入ってきた美紅さんのが抱えているモノを見て、その場の者は全て等しく凍りついた。

 あの自分の感情を兄様以外には極力見せない美紅さんが、なりふり構わず、涙を流しながら、兄様の名前を連呼しながら、血だらけの兄様を守るかのように抱き締めながら崩れ落ちながら、助けてっと呟いた時、その場にいた者の硬直が解けた。


「すぐに部屋を用意しなさい!」


 近くに居たメイドに命令をする。

 ルナさんは兄様の容態を見る為に近づくと険しい表情をする。確かに、意識を失って血だらけの兄様を見て心配な気持ちがあるのは間違いないが、ルナさんの表情は大袈裟に思えた。

 どう見ても、以前、エルバーンを守って傷ついた兄様のほうが酷かった。それよりも酷い2代目勇者との戦いによる怪我のほうが酷かった状態を回避させたルナさんであれば、問題がないように見えたのに、あの表情は何なんだっと私は激昂しそうになる自分を抑えて、兄様が倒れた事を外に漏らさないようにお父様と協力して、廻りに命令を飛ばしているユリネリー女王を押し退けて、近づこうとすると、お父様に肩を掴まれる。


「気持ちは分かるが、女王に失礼だぞ」

「いえ、今はそんな事を気にされなくても結構です。私もトール様の容態を知りたい。でも、トール様の成した事を無に帰す事は許されないという気持ちも強いのです。私が護り、ティテレーネ王女が知るで良いのです」


 今は、やれるものがやるしかないのですっと唇を噛み締めるユリネリー女王を見て、頭に昇っていた血が落ち着いた。


「申し訳ありません、ユリネリー女王陛下」


 良いのですよっと苦笑いされ、さあ、トール様の容態を把握に努めてくださいっと言われて、私は改めて、兄様に近づく。


「ルナさん、兄様はどうなのですか?何故そこまで悲壮な顔をされているのです。明らかに以前、負った怪我のほうが酷いではありませんか!」


 冷静に聞こうと思っていたが不安から徐々に言葉がきつくなってしまったが、ルナさんはまったく気にした様子もなく、必死の表情で魔法を唱えながら答える。


「確かに、怪我自体は今までもっと酷いのもあったの。でも、今回は、見える怪我は問題じゃないの。徹の魂が消えそうになってるせいで、回復魔法も蘇生魔法もほとんど効果がないの!」


 人に影響を及ぼす魔法はその者の魂に働きかける事で効果が及ぶ。だから、魂の強い者ほど魔法は強くなるし、効果も増す。同時に抵抗もできるという、魔法の本質とも言えるのが魂である。

 そんな大事な魂が消えそうになっていると言われて、頭が真っ白になりそうになるが、唇を噛み切って痛みにより意識を保つ。


 メイドが部屋を用意できましたっと私達を呼びに来る。部屋へと兄様を運ぼうとする美紅さんと魔法を行使しながら向かうルナさんを追いかけながら、聞く。


「なんとかならないのですか!」

「治りが悪い状態でもいいから、魂がある状態で体が完治すれば、持ち直す可能性はあるの・・・だけど・・・」


 私はとうとう、我慢できずにベットに寝かされた兄様を横目にルナさんの魔法を邪魔になるのを考えずに、肩を揺さぶって、だけど、なんですかっと噛みついてしまった。


「今の状況では、徹は朝までもたないの・・・」


 必死に我慢していたと思われるルナさんの瞳から涙が溢れる。

 その言葉を聞いた私は膝を折って、絶望という感情を産まれて初めて知ってしまった。

 クリミア王女とテリアさんはお互い抱き締め合って、悲しみにくれているのを他人事のように眺めていると感情が追い付いて来て、私の涙腺が決壊しようとした時、体から弾かれたような感覚に襲われる。実際に自分を水面の向こうから眺めるように見ている状況が出来上がると、私が見つめる私がみんなを見渡し、口を開く。


「まだ、諦める時間ときではありません。まだ打てる手は残されています」


 突然、話し出した私にビックリしたみんなが私を注目する。


「徹はまだ死なずに済む可能性が残っていると言っているのです。徹はこんな志半ばで逝くような男ではありません」


 ルナさんがまさかっと言う表情で問いかけてくる。


「もしかして、ユグドラシルなの?」

「その通りです。緊急処置として、今はティテレーネの体を借りて貴方達に語りかけてます」


 兄様の寝てるベットに泣き崩れていた美紅さんが、跳ね起きるように顔をあげると、私に飛びついて来た。


「どうしたら、トオル君を助けられるのですか?私は何をすればいいですか!」


 力加減ができなくなっているようで、私を激しく揺する美紅さんの形相に引いてしまいつつ、体が元に戻ったら、色んな所が痛い事になってそうだと憂鬱になる。

 ユグドラシルは、冷めた目で美紅さんの手を軽く弾くだけで美紅さんの拘束を解く。


「落ち着きなさい。今、慌ててできることなどありません。後、ルナさん、それ以上、回復魔法を行使をしても無駄といいますか、徹が持ち直した時に大変な事になりますから止めなさい」


 美紅さんは床にペタンと座り、放心したように私を見つめ、ルナさんは魔法を止めると腕で涙を拭うとこちらに顔を向けてくる。

 他の者達も私に顔を向けて、今まで一言も発さなかったガンツさんが語りかける。


「つまり、お前さんはトールの命を繋ぐ方法に心当たりがあると判断してええんじゃろ?」

「残念ながら確約どころか、5分5分も保障できない、細い可能性を示す事しかできないですが・・・」


 ガンツさんの言葉に返答する私はこんな憂いを帯びた表情ができるんだと場違いな感想を抱いてしまう。


「説明をしたいのですが、今は時間がありません。少なくとも、明日の朝を迎えた段階で徹が死んでしまう事態にはしないと約束するので、私に任せて貰えませんか?処置が済んだら、貴方達にやって貰う事があります。ですから無理矢理でもいい、休んでください。それが徹を救う可能性を上げるのですから」


 ユグドラシルは廻りを見渡す。とりあえず、みんなは打てる手がない以上、僅かな可能性でも縋りたいと思ったようで頷くを確認して、口を開く。


「それではまた会いましょう。ティテレーネ、その時はまた体をお借りします」


 私は自分に頷く。

 すると、私の体へと自分が戻って行くのを感じると視界がクリアになる。と同時に体の節々に激痛が走る。やはり痛めていたようだ。


 ルナさんが黙って兄様を見つめていると、何かを感じとったようだ。


「本当にユグドラシルは手があったようなの。なんらかの処置をしてるようなの」


 ルナさんの言葉を聞いて、張り詰めていた空気が少し緩んだ。

 私は、痛い体を気付かせないようにして、手を叩いて注目を集める。


「ユグドラシルの言う通り、今、私達は何もできません。そして、すべき事はあると示されていますがそれは今ではありません。その時の為に私達は休みましょう。それが今、すべき事です」


 そう言うと、年長組の2人は何も言わずに率先するように出て行った。

 私に近づいてきた、ユリネリー女王陛下は、私に、今日はこちらにお世話になっていいかしらっと言ってくる。兄様が心配である事といつユグドラシルが現れるか分からないから近くにいたいと思っているのだろう。

 勿論、私は了承してメイドに部屋を用意させようとするとクリミア王女も願い出てきたので、そちらも用意するように追加した。

 私も部屋へと戻ろうと歩き始めるが、眠れるだろうかと不安を抱えて、廊下を歩いて行った。



 一晩明けて、朝になるが、眠りが浅く短かったせいか、頭に鈍痛があるが、いつユグドラシルから連絡があるか分からないと思い、気合いを入れて、みんなが集まる食堂へと向かう為に身支度を始めた。


 食堂で食事を済ませたが、誰も席を立とうとせずに、チラチラと私を盗み見ていた。

 気持ちは痛いほど分かるが、見られている私は居心地は最高に悪かった。私も早く、置かれてる状況を知りたいと思う。

 ユグドラシル!早く来てください。色んな意味で私は願った。



 その願いが叶ったのはそれから時間が経ち、昼食が済んだ時に突然にやってきた。

 私はまた水面の向こう側に行くと、入れ替わったと気付いたルナさんが、近くにやってくる。


「で、徹はどうなったの?」


 ルナさんが問いかけた事で、みんなもそれに気付いて集まってきた。

 ユグドラシルは、1度、目を閉じて、何かを纏めるように考え込んで、一息吐くと口を開いた。


「とりあえず、徹は今、仮死状態にしてあります。これでしばらく時間を稼げるでしょう」

「それで、トオル君に何をしたら助かるというのですか!」


 机を叩き割るのかと思わせる叩き方をしながら立ち上がる美紅さんを一瞥して首を横に振る。


「徹に直接する事は何一つありません。私ですら、これ以上は何もできません。後は徹の魂の強さの輝きを信じるのみです。そして、ガンツに伝える事があります」


 ユグドラシルは視線を彷徨わすとガンツさんは堂々と前にでてくる。


「ワシに何かようか?」

「ええ、っと言っても私じゃなく、カラス、徹の武器が貴方と話、頼みたい事があると言っています」


 カラスを握ってあげてくださいっと言われると躊躇なく握り締めるガンツさんを見てると、ふむっと言ったと思ったら、カラスを鞘に戻し、アオツキも抱えると、ルナさんと美紅さんの襟首を掴んだっと思ったら引きずり、テリアさんに、お前も来いっと言うとスタスタと扉の外へと去って行った。


 廊下から、ルナさんの声が聞こえる。


「何なの??説明して欲しいのっ!」


 その声に反応したのか分からないが、ユグドラシルは微笑む。

 私も色々、説明して欲しいっとユグドラシルに苦情をあげるのが精一杯であった。

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