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高校デビューに失敗して異世界デビュー  作者: バイブルさん
8章 Road like yarnー糸のような道ー
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171話 その頃、美紅は・・・

 私は、また1つ屋敷を破壊し終えると、その場にいたエルフの工作員から声をかけられる。


「美紅様、これが最後の屋敷でした。お疲れ様でした。後の事はこちらにお任せください」

「そうですか、では、よろしくお願いします」


 様付けで呼ばれるというのは思ったより、精神的にキツイものだと今日はっきりと身を持って知る事になった。トオル君がイヤそうな顔をするのもよく分かるっと溜息をこっそり吐いた。


 合法的にエコ帝国の貴族の屋敷を破壊できたのは、ここだけの話、とってもスッキリした。

 勝手に呼び出して、道具のように扱われ、終いには本当に道具として結界の触媒にされた私の心には、自分で気付いている以上に鬱憤が溜まっていたようだが、それ以上に貴族の屋敷を探索する過程で奴隷を何度か見る機会があって、拷問を受けた形跡などは普通というように至る所で見られたし、体の部位が全て無事な者が存在しない屋敷すらあった。

 他にも色々、奴隷と言えばといったら想像できるものは全てと言っていいほどレパートリーが存在した。


 中でも一番、見てキツく、涙した光景を私は生涯忘れないであろう。

 奴隷仲間だったと思われる者の死体を涙を流しながら齧り付く女性を見た時、私は涙を流し、胃の中の物まで吐いてしまった。

 もう、あの女性は元の生活には戻れないだろう。助け出しても会話にならないだけではなく、ずっと虚空を見つめて笑い続けた。


 思い出すだけで気が滅入ってくるので戻ろうっと出口のほうを見ると、トオル君とエコ帝国とのやり取りを放送で聞いたと思われる住人が野次馬をしていた。

 ざまーみろっなどと、余り綺麗な言葉ではないが叫ぶ住人の気持ちも理解はできたので見なかった事にして私は通り過ぎる。

 屋敷跡を出た所で、丁度、その奴隷がいた屋敷の担当だったエルフの工作員が待っていた。

 私に一礼すると近寄ってくる。暗い表情が良くない情報を持ってきたと思った時、今、思い出してた奴隷の事のような気がした。


「美紅様、申し訳ありません。あの女性が舌を噛み切って命を断ちました」


 事後処理で目を離した時に噛み切ったようで、見つかった時には手遅れでしたっと私が気にしていた事を知っていたのでわざわざ報告にきてくれたようだ。

 私は目を瞑って冥福を祈ると、報告にきてくれた工作員を労う。


「お疲れ様でした。予定の仕事を早めに切り上げて、今日はゆっくり休んでください」


 有難うございますっと一礼すると踵を返し、工作員は帰って行った。


 私はこのまま、その女性を追い詰めた貴族の下に行って八つ裂きにしてやりたい衝動に襲われるが、耐える。そんな事をしたら、みんなの頑張りを台無しにしてしまう。そして、またこの国は迷走したら、もう手に負えなくなる可能性を捨てきれない。

 何より、奴隷や、横領に関わった者にまともな者がいないので、このままにしておいても国の益にはならないと判断して、鉱山や、治水工事での強制労働が決まっている。しかも、男、女問わずである。ただ。15歳以下においては、1度だけチャンスを与えられ、平民に落とされて、生活を全うできるのであれば許される事になっているが、どんな小さい軽犯罪であれ、犯すと問答無用で強制労働が課される事が決まっていた。

 つまり、調べを聞く限り、首都にいる貴族でそれを免れる者はいないということらしい。クラウドにも少数いるらしい。


 ちなみに、コルシアンさんは勿論除外されているが、その過程で聞いた情報でびっくりな話があった。実はセシルさんは、元奴隷だったのである。どんな経緯でコルシアンさんのメイドになったのかは分からなかったが、今回の奴隷騒動で心がやさぐれそうになっている為、聞く機会があれば聞いてみたいと私は思う。奴隷だった人でも楽しく生きている人がいたと思いたいという自己満足からである。


 無性にみんなに会いたいという衝動に私は襲われた。

 どうやら、私もだいぶ精神的に参ってきていると自覚すると、今、一番会いたい人の声がする。


「待たせたか?」


 私は振り返り、トオル君?っと廻りを見渡すが、誰も傍にいなくて、一瞬、姿を消して遊んでるのかと思っていると、今度は違う男の声がした。


「いきなり呼び付けたんだぁ、これぐらいは許してやるぜぇ?」


 私はこの声を聞いた瞬間、体が委縮するのを感じる。再び、廻りを見渡すが、誰もいないと思った時に自分の首に下げた石から聞こえている事に気付く。

 トオル君が持っている石から私に届いているのかと握り締めた。


 街に放送していた石はオルソンさんが隠し持っていた物で伝えられていた。最悪、トオル君の石を壊されても放送を継続する為のブラフと私に連絡する為の2つの意味でトオル君が持っている物は相手に晒すという手段を取っていたのだが、理由は分からないが、どうやらトオル君はその石をまだ持ったまま行動をしているようだ。

 そして、トオル君と相手は、話を続ける。相手は聞き間違えてない自信がある、2代目勇者、轟のものだ。


 トオル君がわざわざ、2代目勇者に会いに行くとは思えない。最初に呼び出したっとも言ってたところが証明している。

 会う相手が相手だけにトオル君も緊張して、石を手放す事を忘れていたのであろう。


 私は廻りを見渡し、高い場所を探すと丁度、前方に時計台があり、あの上だったらよく見えそうだと判断すると、時計台へと向かって走り出した。



 時計台の一番上の傾斜がキツイ屋根に縋りつく。

 エコ帝国との交渉が終わってからの時間で行ける場所はきっと首都バックのからそう離れた場所じゃないと私は思い、トオル君の無事を祈る。

 片手で尖がってるところを掴んで、もう片手で石を耳に当てながら、廻りを見渡し、小さい変化も見逃さないとばかりに捜す。


 石から聞こえる会話では、どうやら、2代目勇者は戦う気があってトオル君を呼び出したようではないらしい。しかし、あの気まぐれな男がどこで掌を返すか分からないと思うとヒヤヒヤして堪らない。


 そして、会話が進むと、どうやら2代目勇者はトオル君が交渉したり、交渉以外にしていた事を眺めていたと知る。私も傍にいる時もあったが、まったく見られているとは気付いていなかった。


 トオル君がシンシヤ王女の名前を出した辺りから、2代目勇者の言葉の端々から不穏な響きが伝わる。


「トオル君!それ以上は聞いちゃ駄目っ!」


 この魔法は一方通行で無駄と知っていたが、我慢できずに石に向かって叫んでしまう。

 私の祈りも虚しく、トオル君は聞いてしまう。

 そうすると2代目勇者は、ツマミ食いをするっと宣言して、トオル君に剣を抜けっと叫ぶと、剣と剣が打ち合う音が響き渡る。


 慌てて、廻りを見渡すが何も発見できなかったが、私はどうしても北門のほうに圧迫感があるように感じる。根拠はそれだけだったのに、私は北門を目指して、走り出した。

 とてもじゃないがジッとしてられる余裕はなかった私は、屋根を跳び移りながら北門にいるはずのトオル君を求めて走り続けた。


 北門までの距離を半分踏破した頃、耳に添えてた石から、トオル君の切羽詰まった声が響く。


「いちかばちか、これしかないっ!!」


 トオル君は何をしようと言うのっと歯を食い縛って、もっと早くっと自分の足に叱咤した。


「右手に火を!左手にも火を!合わせて、ほの・・・」


 そこまで聞こえると、自分の持っていた石が軽い音をさせて割れる。

 向かっている先を見つめると、とても大きな火の鳥が地面に向けて落ちて爆発と炎が激しく立ち昇るのが目に入る。

 こっちに向かうのが正解だったと思うが、間に合わなかったと漠然とした悔しさに包まれた。


 炎が収まるとそれ以降、最初に感じた、圧迫感すら感じなくなる。戦闘が終わったっと理解するとトオル君の身は無事かと思い、願いながら走り続けて5分後、城壁の向こう側に到着する。

 切れる息も無視して、廻りを見渡すと、焦げているが真っ白の騎士服を着ている少年が倒れているのが見える。顔も見えない距離なのにトオル君だと私は気付いた。


 駆け寄るとやはりトオル君で、切り傷多数で、両手は火傷で酷い有様で倒れていた。生きてるのが不思議なほど、衰弱していた。


「絶対に死なせませんからっ!」


 私はトオル君を抱えると回復魔法を行使するが、私の回復魔法ぐらいでは、時間を引き延ばすぐらいしかできずに唇を噛み締める。


 このまま、ここで魔法を唱えてたら手遅れになると判断した私は、トオル君を抱えると、なるべく揺らさないようにして、ルナさん達がいる大使館を目指し、走り出した。

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