170話 迂闊な言動
城を飛び出した俺は、メインストリートを1人で歩いていた。
ポケットに手を突っ込み、中にあったものを取り出すと皺クチャになった紙を開く。
『北門の外の城壁前で待つ』
そう書かれていた。
差し出し人に心当たりは1人しかいない。何故なら、この手紙は日本語で書かれていたし、日本語が分かるのは、おそらく、アローラでは4人しかいないはず、美紅は平仮名がやっとであるから、除外、和也なら有り得るが、アイツが召喚場所を破壊するまでっと言っている以上、言葉を曲げるとは思えないから、ここには来てないはずだ。となると選択肢は1つになる。
だが、こんなタイミングで俺に接点を持ってくるヤツとはとても思えない。アイツの要望をまだ叶えてないのは分かってるはずだし、それを先払いとばかりに我慢ができなくなっての行動ならあの場に乱入してやりたい放題しただろう。
正直、会いに行きたくはないが、放置するともっと恐ろしい事になりそうだし、例えばルナ達を連れてくると引けない戦いになりそうだと俺のカンが言っていた。悔しいが全員でかかっても、まだアイツには届かないと言う事が分かっている俺は素直に自分1人で向かうしかないと判断して今、向かっていた。
俺は北門に到着して、門を抜けると根拠はないがなんとなく、こっちっと思って左に折れて歩いて行くと、真っ青なライダースーツに身纏った長身な男、できれば、今一番関わり合いを避けたい者がいるのを発見する。
意識した事ではないが、近づくにつれ、歩幅が小さくなっていく。背中越しなのにプレッシャーを受けていると悔しいが認めた。
「待たせたか?」
「いきなり呼び付けたんだぁ、これぐらいは許してやるぜぇ?」
俺は隙を見せまいと身構えて轟を睨みつけるが鼻で笑われる。
轟は無警戒に俺に近づいてくる。
俺は全力で警戒して、アイツは無警戒で俺を鼻で笑う。これが今の俺達の正しい力関係である。
「で、何の用なんだ。悔しいが、まだお前と戦えるような状態じゃないぞ?」
「ん?そんな事は分かってるさぁ。ただよ、そろそろ、ツマミ食いぐらいしたいと思ってはいるがな」
カラスに手を添える俺を見て、笑って言ってくる。
「ツマミ食いする時はちゃんと剣を抜く時間くれてやるってよ。だから、いちいち反応すんなやぁ?」
背中に伝う汗が冷たいのか熱いのかも分からないまま、荒くなりそうな呼吸を落ち着かせて、ゆっくりとカラスから手を離す。
「そうそう、自分をコントロールしないとなぁ?さっきのエコ帝国とやりやったカッコええ、徹を俺は目の前で見てみたいぃ~」
手拍子を付けて歌われて、馬鹿にされていると分かるが反応を示すような余裕は皆無であった。
たいした反応がない事に飽きたのか嘆息すると言ってくる。
「まあ、徹も強くなってきて、力の差をはっきり分かるようになれば、余裕もなくなってくらぁーな?それでも目力が失われない辺りが、お前はイケてるぜ?」
普通はそこで心が折れるからなぁっと、楽しそうに笑われる。
早く解放されたい俺は、再び聞く。
「それで、用件はなんだ?俺はお前の相手をするほど余裕はないんだが?」
「そう急くなよ。今日のおめぇのエコ帝国とのやり取りを見てたんだがよ、良かったぜぇ?ボンクラの集まりだとはいえ、あれでも国を動かしてた奴らを手玉にとって自分の思い通りに進ませるだけじゃなくてよ、交渉の外で、スラムに住む奴らにも手を差し伸べて色々、面白そうな事やってんなぁ?」
どうやら、今回の事をずっと見られてたようだが、ずっと気付かなかったのかと戦慄する。同時にあの時に感じた視線は轟のモノだったのかとも納得する。
「治水工事とかにも口出してるそうじゃねぇーか。国でも興す気かぁ?」
「お前はどうだったんだ?」
俺がそう言うと、初めて、俺を据わった目で見つめる。睨む事はあったがあれほど感情が籠った目を見た事はなかった。
喉が渇いて辛くなってきてるが、俺は腹に力を入れて負けずに言う。
「エコ帝国の治水工事はシンシヤ王女の没後、手を加えられた事がないようだ。そのシンシヤ王女が健在の頃、轟、お前も手伝っていたのだろう?」
「誰から聞いた?」
腹の底から響くような声で俺に問いかけてくる。
俺は素直にシンシヤ王女の子孫のコルシアンさんの名を告げると、そうかぁっと言って視線を元に戻す。
その様子を見て俺の本能が危険信号を鳴らす言葉を口にするかどうか悩む。だが、自分の欲求を抑えられなくて、言ってしまった。
「お前が魔神に手を貸す理由は納得はしないが理解はできる。だが、話を聞いた時からずっと疑問に思ってた事がある。お前なら魔神の加護を受けなくとも、エコ帝国を1人で滅ぼせたんじゃないのか?」
俺の言葉を明後日の方向を見つめながら聞いていると思ったら、ゆっくりと腰にある長剣を抜く。
「やっぱり気が変わったぁ。ツマミ食いしていく事にするわぁ。待ってやるから剣を抜いて構えろや」
「せめて、答えろよ!何故だ」
俺はカラスに手を添えると震える体に喝を入れながら轟を睨みつける。
「徹よぉ。俺によ、聞きたい事があるなら、力づくで聞いてこいよ。俺を地面に膝を着かせるか、倒したら教えてやらぁ。抜けぇぇ!とーおる!!!」
その言葉に反応して、カラスとアオツキを抜いて構えると、轟が斬りかかってくる。
轟が斬りかかってくるコースを読み、その軌道にカラスとアオツキを配置して防ぐ。目で追っていると斬られて終わりだと理解して、カンだよりでかわし続けるしか今は手がない。
「良く避け、良く防ぐとはなぁ、さすがは徹だ。俺が見込んだだけはあるがよぉ?避けれず、防げない攻撃はどう対処するか見せて貰おうかぁ?」
先程よりも早い動きで俺に接近すると左手首を掴まれたと思ったら空に放り投げられる。
「体勢が整う前に、入れるこの攻撃をどうする!!」
轟から発せられるプレッシャーが跳ね上がる。
何かを纏ったようにカンが知らせてくると剣も勿論、真空波ですら届きそうにないのに、全力で俺の警報が鳴り響く。
うらぁっと叫んで振り抜くと轟の剣は砕け散る。
俺に向かって絶望的な力の塊が飛んでくるのを感じる。
「いちかばちか、これしかないっ!!」
ー止めるのだ。主、まだ制御できてないアレに主が耐えれるか分からないぞー
止めてくれるカラスの言葉を無視して俺はアオツキを仕舞い、カラスを両手持ちに構えて、叫ぶ。
「右手に火を!左手にも火を!合わせて、炎魔法『不死鳥』!!」
カラスに炎が纏いつき、それを振り抜くと轟を目指して、火の鳥、不死鳥が襲いかかる。
「おもしれぇ、おもしれぇーぞ、徹ぅ!!!」
轟の力を飲み込んで不死鳥が轟も飲み込んだ。
俺は叩きつけられるように地面に落ちると、炎に包まれた轟を見つめる。
「クソッタレがぁ!」
そう叫ぶと轟に襲いかかってた炎が消し飛ぶ。その中から両膝に手を置いて、息切れをする轟の姿があった。
「惜しかったな、徹。もうちょっとで膝を着かせられたのになぁ?とはいえ・・・」
俺の様子を見て嘆息してくる。
両手は火傷のせいで真っ赤になり、衝撃波で俺の頬に切り傷ができ、血が流れている。
「制御できない力じゃ、次はねぇーな。まあ、今回はこれぐらいで満足しておいてやるぜぇ?ただよぉ、もう、俺が待ってやる気があっても、時間が許さなくなるかもしれねぇーぜ?」
どう言う事だっと声にしようとするが、声帯もおかしくなっているようで声が掠れた声が出ただけであった。
踵を返して去っていく轟の背中が見えなくなると同時に俺は倒れた。
傍らでカラスが俺を案じる叫び声がしていたが、意識を保てず、俺の視界は闇に包まれた。
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