166話 登り始めた大人の階段
今日も帰るのが遅くなりそうだったのですが、早くに目を覚ましたので書ききってしまいましたので更新します。
俺は徹夜をして眠い目を擦りながら、2日目のオルソンの報告を受けながら、奴隷のエコ帝国での立ち位置を法で示す言葉と取引のされ方から奴隷の値段などの報告書を読んでいた。
「こちらが、目ぼしい貴族の所有する奴隷についての報告書です。まあ、私らも綺麗な仕事してきてるつもりはありませんから、大きい事を言える立場じゃありませんが、あいつらはゲスですな。自分達は選ばれた者達であるという考え方に疑問すら感じてませんからね」
仕事とはいえ、あんまり見たくはなかった光景が多かったと、素と思われるトーンで言われて、俺も少し胸が痛くなった。
「すまない、嫌な役をやらせた」
俺は頭を下げて言うとオルソンは慌てて、言ってくる。
「使者様が悪い訳じゃないですよ。必要だから調べさせたんですよね?俺達はそれを生かしてくれると思って調べました。だから、謝らないでください」
そう言われて、俺は謝る事ではなく、これを生かす事が何より報いる方法だと自分に戒めた。
受けるべき報告はまだあるし、今の奴隷の事でも頼む事はまだある。俺は立ち止まっている時間はない。
「報告書に書かれてる奴隷の現在の人数はだいたい合ってるのか?合ってるなら、エコ帝国方式の値段の付け方でこの奴隷全部の総額を試算してくれ。それと治水工事の件の報告も頼む」
「はい、試算はやっておきます。治水工事の件ですが、使者様もお聞きになられたかもしれませんが、どうやら数百年は少なくとも国からの介入による工事はなかったようです。時折、決壊したら、そこに住む住民がとりあえずの補修工事をして凌いでいるのが現状です。国の予算として治水工事に予算は当てられてはいるようですが、工事はされないのに予算はしっかり使われてます」
俺は横領か?っと聞くと頷かれる。
「それは、予測か?それとも確証があっての話なのか、その辺をしっかり知りたい」
「確証ありです。こちらに金の流れを調べた結果の纏めがあります」
俺の手では掴めないぐらいの厚みのある書類の束をオルソンの後ろにいた部下が俺の目の前に置くと、ざっと100年分ありますっと言われる。
「よく短期間で調べ上げたね。美紅、この資料のここ、10年、いや、5年分でいいから纏めて置いてくれないか?」
「そう言われるかもっと思い、10年分のモノも用意させて頂いておりました」
さっと出してくるオルソンにビックリして、優秀だねぇっと笑うと、澄ました顔して、お褒めに預かり光栄ですっとスカしてくる。
ふと、素の顔に戻ったオルソンが聞いてくる。
「まったく関係のない事ですが、使者様は私が煩わしくありませんか?」
オルソンの言葉を聞いた俺は何を言ってるんだっと思い、見つめる。
「いえ、ですね。こうやって色々気を廻して色々やると上役にいつも煙たがられてたのに、私から見て、使者様はちっともそう思われてないように見えて不思議に思いまして」
「ああ、はっきり言って、仕事出来過ぎて、上役からすればイヤかもしれないな。この奴隷の法の穴の突き方とか、そのまま読むだけでも良さそうに書いてくれてるしな」
手に持っている報告書を掲げて言う。
「でもな、少し前ならいざ知らず、もう、自分を抑えなくてもいいんじゃないか?あの宰相もいない、そして、ティティが表舞台に出てくると昔の考え方で凝り固まってるヤツなんて排除対象だ。俺はオルソンの正道を行けばいいと思うぜ?」
あって2日目の男が言うセリフじゃないのかもしれんがなっと苦笑すると、目を見開いて驚いている。
「いえ、有難うございます。使者様にそう言って貰えると味方を万を得た気持ちです。まだ、後1日あります。私がどれほどの男が見てください。そして、私で役に立つ事がありましたら、いつでもお声をおかけして貰えるのをお待ちしていると覚えておいてください」
オルソンがそういうと失礼しますっと言って、部屋を出て行った。
俺は美紅を見つめて、俺はそんな大層なヤツじゃないんだがなっと肩竦めて笑いかけると笑みを返される。
首を鳴らして、気持ちを切り替えるとベルを鳴らしてメイドを呼ぶとネーブルを呼んでくれと伝える。
メイドと入れ替わりするようにしてネーブルは入ってくる。
「もう表で待っててくれたのか?」
「まあ、そんなとこです。早めの行動をウチは心がけてますんで」
じゃ、報告を聞こうっと言おうとすると、ネーブルが頭を下げているのに気付き、聞く。
「どうした?何か問題でも発生したのか?」
「いえ、先程のオルソンとの会話を少々聞いてしまいました。その謝罪とお礼をお伝えしたかったのです。オルソンは体感としてもご理解を得られておられるかと思いますが、とても優秀なものです。ですが、まだ若い事もあり、なかなか認められない鬱憤があるのに気付いておりましたが、年が私のほうが上といえ、立場が同じ私から言っても効果がないと思い、今まで、モヤモヤしておりましたところ、使者様の言葉で救われたようで、先程出てきた時の顔が入隊直後のオルソンのような目をしておりました。本当に有難うございます」
そうかっと呟き、でも、俺は事実を言っただけだといい、ネーブルの勘違いを正してやる。
「だけどな、立場が同じだろうが、下だろうが、言葉で認めていると示す事に無意味なんて絶対にない。ネーブルの一言が救いにきっとなったはず、いや、今からでも絶対に間に合うって俺が保障する」
俺はガンツがザバダックに後悔した姿を思い出しながら、力強く言う。ザバダックもガンツじゃなくても、同じ鍛冶仲間に応援されて、背中を叩かれていたらあんな事にはきっとなってなかったと俺は思う。
ネーブルがホッとした表情が母親のように見えたので、思わず言ってしまう。
「なんか、オルソンのおかんみたいに心配してるんだな」
一瞬で顔を赤くして怒ったネーブルは、机に書類を叩きつける。
「ウチは、あんな大きな子がいるような年じゃないっ!」
ノシノシと聞こえそうな音をさせて、ネーブルは去っていった。
「トオル君、あれは女性にとても失礼ですよ」
そう言いつつ、物流の資料は私が預かりますねっと言って書類の山から取っていくと選別を開始する。
俺は乾いた笑いをして、疫病関係の資料を取り出すと読み始めた。
2日目の夜、俺達4人は書斎でお茶を飲みながら、お互いの結果報告をしていた。
「ルナ、テリア、2人共お疲れ様。明日1日も頼むな?ルナはだいぶ、治療と火葬が進んでるみたいだな。ネーブルの資料から見て、びっくりしたぞ?テリアは聞いた内容を分かり易く纏めてくれてて助かった」
俺は2人の頭を撫でながら言ったが、喜ばれるより、心配される。
「トールっ、アンタ、目の下にクマができてるわよっ。大丈夫なの?」
「大丈夫、大丈夫。今日はちゃんと寝るから、明日のティティ達との擦り合わせでミスったりしたら目も当てられないからな」
そう言う事言ってるんじゃないんだけどぅっとブツブツ言われる。
ルナはそれでも心配したままの顔しているところを見るとどうやらテリアとは別件のようだ。
「どうしたんだ?ルナ」
「んっとね。なんて言ったらいいか分からないんだけど、獣人国の時もちょっとだけ思ったんだけど、今回のは、その時とレベルが違うの。どうして徹がそこまでするの?徹は国を興したいと思ってるの?」
ルナにそう言われた俺は、お茶の水面に映る自分を見つめる。少しは変わったのだろうかと少し思い、口を開く。
「ルナ、多分さ、明後日の会談の時、俺って正装に着替えて出席すると思うんだ。これでも3カ国統合最高責任者様だからな?」
自嘲混じりに言う。
ルナはそんな事聞いてないのっと言ってくるが手で待てと示して続きを語る。
「きっと、俺は正装に着せられてる感バリバリの坊やみたいになると思うんだ。だからと言って、いつも通りの格好でその場に行くのは不適切だろ?」
渋々、俺の話に合わせてくれて頷いてくる。
「それと同じさ、慣れない、らしくなくとも、奴隷解放を訴えたのは俺だ。例え、ハリボテだろうが、俺はそれを貫く為の矛が用意しないといけない。猛攻してくる勢いを凌ぐ盾が必要だ。そして、相手の戦場ではなく、自分の戦場を用意して引きずり込まないといけないんだ」
裸では戦えないんだよ、戦えたとしても、それは冒涜だっとルナに伝える。
ルナは、いや、ルナだけではなく、美紅もテリアも目を点にして驚いていた。思わず、尻ごみして俺は聞く。
「なんだよ?どうしたって言うんだ?」
「トオル君がそこまで考えているとは思ってなかったもので・・・」
「うん、誰かが擬態で徹になってるのかと一瞬疑ったの!」
「トールっ、落ちてたモノでも食べたのっ?ぺっ、しないと駄目よっ!」
3人のあんまりの言い様に俺は怒りからプルプルと震えているのを自覚した。
「ほっとけっ!俺もたまには色々考えるんだっ!」
俺は先に寝るっと叫ぶとネーブルの真似をするように部屋を出て行った。
トオル君が出て行くのを見て、私は、ああは言ったが、正直、トオル君が自分と同じ年であると思えない目をしていたのを驚いていた。端的に言って、トオル君が大人に見えたのである。それも頼れる理想の男の大人にである。
男子三日会わざれば刮目して見よっと言う言葉があるらしい。前にトオル君がテリアちゃんに子供呼ばわりされて言ってた言葉を聞いて、意味を聞いた事があった。男子、3日会わなければ、見違える成長をしているという意味らしい。それを聞いた時は、気持ちの持ちようで、そのつもりで頑張れっと言う意味の謂れなのだろうと思っていた。
勿論、そういう意味もあるのだろうが、まさか、目の前でそれを見せられるとは思ってなかったのである。
初日がどこなのか分からないが、気付いた今、トオル君の人間としての成長を目のあたりにして私は驚き、そして寂しさを感じていた。
トオル君に置いて行かれたような気がしたからである。実際はそんな事はないのであろうが、凄く遠くに行ってしまったような錯覚を受けてしまったのである。
ルナさんは興奮気味に胸を張って言ってくる。
「さすが徹なの。いつも頑張ってる徹が私は大好きなの。だからと言って負けてられな・・・いの・・・」
顔にびっしりと汗を掻いて、ギギギっと音がしそうな動きでテリアちゃんのほうを見つめる。
興奮してやってしまったと顔に書いているがテリアちゃんは溜息を吐いて言ってくる。
「もうっ!ルナがトールの事が好きなのって気付いてないの本人ぐらいだからっ!ついでに言うなら美紅も廻りから見てたらバレバレよっ?」
トールも好かれてるのは分かってるけど、仲間や友達としてと勘違いしてるから、気付かないみたいなのよねっと嘆息する。
バレバレですかっと呟いた私はきっと顔は真っ赤になってると鏡を見なくても分かった。
苦し紛れに、テリアちゃんはどうなのですかっと聞くと、テリアちゃんも顔を赤くして言ってくる。
「本人には言わないでねっ!私はトールの事、お兄ちゃんって呼びたいといつも思ってるっ。普段は頼りないのにっ、困ったらいつも傍で笑って見守りながら助けてくれるっ、優しいお兄ちゃんっ。だから、ティテレーネ王女が兄様っと呼んでるのが凄く羨ましかったっ」
指を捏ねながら言ってくるテリアちゃんが余りに可愛くて抱き締めてしまう。どうやらルナさんも同じ気持ちらしく、近くに来て悶えていた。
「うーん!テリア、可愛いのっ!徹だったらきっと、呼ばせてくれるの」
「駄目だからねっ、言ったら絶対、バラすだけじゃなく、絶交だからねっ!」
テリアちゃんはこれ以上はないっというほど顔を赤くして目を廻しそうになっていた。
そういえば、テリアちゃんの家族の話を聞いた事がない事に気付く。おそらくいないのか、聞いても楽しい事ではないのであろうと思う。
そんな状況でトオル君は最高の家族に思えるのは当然かもしれない。私も少しでも方向性がずれたら、そうなっていた可能性もあったと思う。
そうか、テリアちゃんがトオル君の妹なら私は・・・
私はそこまで考えて、頭の中のヒューズが飛んで、ショートした。
駄目だ、深く考えると私の心がまだ耐えれないとドキドキする動悸を落ち着かせようと深呼吸する。
少し、落ち着いたのを自覚すると2人に声をかける。
「まだ明日があります。休める内に休んでおきましょう。本番の明後日の為に」
そう言うと私はトオル君がいる部屋に向かおうとしているのを見たテリアちゃんが声をかけてくる。
「ここは宿と違って個室を貰ってるのよっ?まさかトールに夜這いに行くのっ?」
テリアちゃんは分かってて、ゲスい笑顔を向けてくる。
私は踵を返して戻る。
「そんな訳ないでしょ!ちょっと間違っただけです!」
顔を真っ赤にして、自分に充てられた部屋へと歩いて行く。
もう、トオル君のせいで今日も眠れぬ夜になりそうだと、ここに居ないトオル君に怒りをぶつけた。
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