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高校デビューに失敗して異世界デビュー  作者: バイブルさん
8章 Road like yarnー糸のような道ー
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165話 交渉の矛と盾

 俺は書斎にある本棚から、奴隷法から市場の市場調査の報告書から手当たり次第調べようと思い、選別してると美紅達が戻ってきた。


「トオル君、すぐに人が来てくれるそうですから、集めるだけで、本を開くのは我慢してくださいね。で、どんな本を集めているのですか?」

「ああ、エコ帝国の考え方を知るには、法やしきたりを知るのがいいんじゃないかと思って、その辺りの事と、物の流れだな。物流が良くないから市場に商品が出回らない、その一番の原因は何かってな、感情も大事だが、理屈を絡ませない感情は、ただの暴力だから、色々知らないといけないんだよ」


 そうですかっと美紅に言われて、俺は付け足すように言う。


「後は治水関係と疫病とかはどうかを知りたいと思っているから、医者とか土木関係の人に話を聞きたいな」


 それからっと言いかけた時、扉をノックされて、中断して、どうぞっと入室を許可する。

 扉を開いて入ってきたのは、ほっといたら立ったままでも寝てしまいそうなボサボサの頭をした眼鏡をかけたヒョロっとした男と、食堂のおばちゃんといった感じのする恰幅の良いおばさんが入ってきた。共にやはりエルフであった。


「エルフ王からの指示で伺いました、オルソンとネーブルです。お初にお目にかかり光栄です。救国の使者様」


 無精髭を生やした男がオルソンで、三角巾に頭に付けているのが女がネーブルらしい。


「紹介有難う、俺はトール、よろしくお願いしますね。2人だけですか?少し少ないので困るんですが・・・」

「いえ、チームで動いているので、もっといます。全員で来ると部屋に入りきれませんので各チームの代表で私達がきました」


 オルソンは俺にそう答えて、困った顔して頬を掻いていた。


「それはすまない。いきなり、失礼かもしれないが、貴方達は何ができる方なのですか?得意分野みたいなのをお聞きさせて貰っていいですか?」

「まず、私のほうの分野としましては、法、公共事業関係、後は大きな声では言えませんが、間諜などもやっております」


 最初にオルソンが答えてくれる。そして、ネーブルが続いて、口を開いて説明を始めた。


「ウチは、農業、物流の特に食糧関係と医療関係も少し齧ってます」


 そう言って、特化してるのが各自そうというだけで、他の事もだいたいで良ければ調べられますと言われて、エルフ王のチョイスに感謝した。


 俺はまず、オルソンに奴隷についての法と街の出入りについての纏めたものの製作とその穴がないか調べて欲しいと伝え、治水工事はどの程度されてて、起こってる水害などの被害の規模をお願いし、最後に、


「できればでいいです。この首都で奴隷が実際にどんな扱いを受けているか、いくつか調べられませんか?それも、できれば・・・」


 俺の言葉を聞いて、オルソンは分かりました、やってみますっと言うと部屋から出て行った。


 次にネーブルに向き合った俺は、滞っている物流の原因と出廻っているものリスト、特に貴族が買っている物と住民が買っている物の違いを知る為に差別化してくれないかっと告げる。


「後、北門のほうのものは見られた事ありますか?」

「あれは酷いですねぇ。ウチもアレを見た時は、気分が悪くなりましたよ」


 思い出したのか、顔を顰めるネーブルに頼む。


「あの状況を見る限り、まず間違いなく、何度となく疫病が発生してると思われます。規模がどれくらいで今までどのように対処していたかなどを調べて貰えませんか?後、あそこで炊き出しをしたいと思いますので協力してくれる人を捜して欲しいのです」


 どれくらい人数いるんだい?っと聞かれ、俺は10人ぐらいお願いしますっと伝えると、あいよっと言われて、選別できたらこちらに寄こすっと言って部屋を出て行った。


 そして、俺はみんなを見渡し、頭を下げる。


「3人には、面倒な事を頼む事になるけど、手伝ってくれないか?」

「勿論なの。邪魔だから、外で遊んでてっとか言われたら暴れるところだったの」

「ふっふふ。そうですね、私も勿論、お手伝いさせてください」

「貸し1だからねっ。で、何をしたらいいのっ、トール?」


 3人は笑顔で気持ち良く了承してくれて、嬉しくて微笑む。


「まず、テリアは、ネーブルさんが連れてくる炊き出し部隊と一緒に行って貰いたいんだ。でも、テリアのメインは炊き出しじゃない。炊き出しを食べている人達から、働くならどんな仕事がいいとか、行けるならどこで住みたいとかを聞いて、情報を纏めて来て欲しいんだ」


 なんで、それが必要なのか分からなかったようだが、分かったっ、答えると腕が鳴ると呟いていた。


「次にルナ。かなり肉体労働になるが、よろしく頼む。あそこにいる怪我や病気をしてる人達を魔法で治療できるだけして、治った人達に、死体を一か所に集めるように頼んで欲しいんだ。あのまま放置していい事ないからな。ある程度纏まったら、火で燃やして、火葬してやってくれ」


 いつもなら確実に愚痴るレベルの仕事量だが、任せてなのっと鼻息荒く頷く。


「そして、美紅・・・情けない話だが、俺とここで調べ物と上がってくる報告書の纏めを付き合ってくれ。確実に俺ではパンクするのが目に見えているからさ」


 美紅はクスクス笑って、分かりましたっと言ってくれて、ホッとする。


 俺は仕切り直すようにみんなの顔を見渡す。


「期限は3日、本当はもっとかけたいところではあるが、俺達には時間がないから、この辺りが限界だろう。付け焼刃になるだろうが、やれるところまでやってから、エコ帝国と交渉スタートだ。みんな、よろしく頼むな?」


 さあ、各自、やるべき事をっと思ったが、ある事に気付いて、ルナと美紅を呼び止める。


「そうだ、その前にお願いしたい事があるんだ。きっと、ティティは俺がああ言ったから、既にガンツとネリーには連絡入れて、見に行く手筈を進めていると思うんだが、そう滅多な事はないと思うんだが・・・」

「分かりました。視察の警護をして欲しいってことですね。任せてください」


 俺の言わんとした事を理解してくれて、快く了承してくれる。


「じゃ、改めて、各自のやるべき事をよろしく頼む」


 最後にもう一度俺は頭を下げた。



 書斎から出た私達は、トオル君に頼まれた警護をする為に、再び、会議室に戻って来るとティテレーネ王女に少し驚かれるが入室を許可して貰う。


「まさか、すぐに戻ってくるとは思ってませんでしたが何かありましたか?」

「いえ、トオル君が王女ならきっと、既に2カ国と連絡取って、視察に行く準備に入っているだろうと言って、皆さんの警護に私達を寄こしました」


 集まり次第、すぐに行かれるつもりだったのでしょ?と伝えると兄様にあっさり見抜かれてましたかっと苦笑してくる。


「お二人がきてくれるなら、私も行っても大丈夫そうだね」


 エルフ王が、のほほんっとお茶を飲みながら言ってくる。

 そのタイミングを見てたかのようにドアをノックして失礼しますっと言ってメイドが入ってくる。


「お客様が全員集まりになられました」

「分かりました。では、行きましょうか」


 王女はそう言うとすぐに立ち上がり、扉へ歩いて行く姿を見て、エルフ王はヤレヤレと苦笑しながら、お茶の残りを飲み干すと私に言ってくる。


「せっかちな娘でスマンね。トール殿に残念に思われたのが堪えたようで必死なのだよ」

「いえ、お気持ちは良く分かります。しかし、トオル君が言うようにあそこを知らないのと知っているのでは交渉の場で対応が大きく変わるのは間違いないかと思いますので、ああ言うしかなかったのも事実です」


 そうだね、私もどうやって気付かせようかと思っていたから渡りに船だったよっと笑うエルフ王を見て、しがらみに固められてない王は名君だったと今、初めて気付く。他人を思いやるがゆえ、身動きが取れなくなる、お人好しというのがこの王の本質なのだろうと私は理解をした瞬間であった。


「ゆっくり話してていいの?とっくにお姫様いっちゃったの」


 少し困った顔をしたルナさんに言われて、のんびりし過ぎてた事に気付く。

 エルフ王に行きましょうかっと言うと、二コリと笑い、そうしようっと言うとやっと重い腰を上げて、王女の後を追いかけた。



 応接室に行くと、先に行ったティテレーネ王女とユリネリー女王、ガンツさん、そして、ここにきてるとは思ってなかったクリミア王女もいた。


「お待たせしました。そして、お久しぶりです、皆様、お変わりがないようで何よりです」

「お久しぶりです。先程、ティテレーネ王女にお話聞かせて貰ったところ、護衛して頂けるとのこと、助かります。この面子を護衛するとなると部隊がって言うぐらいの人が欲しいところでしたが、貴方達2人がいるなら問題もないですし、文句を言う者もいなくて助かります」


 ユリネリー女王は二コリと笑い、近くにいる兵に、アニマルガールズが護衛をしてくれるので部隊は連絡を取る少数を残して、大使館に戻るように命令を出す。その兵が外へ連絡に行くと、外からミクニャン!ルナピョン!と叫ぶ声がすると、ルナさんが、出番なのっ!っと言って、懐から取り出そうとしたモノを見て、驚愕しつつも腕を抑えて、首を振る。

 おかしい、マッチョの集い亭で寝てるルナさんが脱いだ服に仕舞われていた危険物を発見して、ベットの下に仕舞ってきたはずのものが何故ここにあるのかと恐怖した。


「トールに挨拶したかったけど、アレを見たトールはきっと怒っているのでしょうね・・・」

「ええ、でも、だからと言って、誰構わず当たり散らす事はないので視察が終わった後にでも呼んできますよ」


 クリミア王女は勿論知っていた事であったようだ。聞くところによるとそれも立ち上がる要因にもなってたそうであるが、生まれてからずっと見てて麻痺してる部分があったようで、モスで暮らすようになって、あそこのおかしさが浮き彫りになったと語った。


 ガンツさんは、目を瞑り、話に介入してこないので見ていたら、エルフ王がかわりに答えてくれた。


「ガンツ殿には私がその事を話したら、護衛も付けずに1人で見に行ってしまったから分かっているよ」


 まるでトイレにでも行くような気軽さで行くから、まさか行ったとも思わず、帰ってくるのが遅いと思っていると、見てきたっと言った時は本当に慌てたよっと苦笑して教えてくれた。

 さすが、トオル君が友達と呼ぶ人はどこかおかしいのか凄いのか分からない人ばかりな気がする。そっと自分の得物の剣にそっと触れて私は思う。一段落したらガンツさんにもこの事を相談してみようと思った。


「では、時間が惜しいので出ましょう」


 ティテレーネ王女はみんなを見つめて、頷くのを確認すると行きましょうっと私とルナさんに言うと大使館から出発した。



 市場に着くと、朝より閑散とした空気に包まれながらも少ない客の取り合いするガラクタを売る者と相変わらず無気力な者がその場にいた。


「これが市場なのですか?スラム街の物乞いとの違いが分かりません」


 顔を顰めたティテレーネ王女は呟く。


「私は目が見えませんが腐臭がはっきりしてますから、まともな物は売られてないようですね。後、この匂いは・・・」


 険しい顔をするユリネリー女王は、今の段階では言及を控えましょうっと言うとクリミア王女は何を言おうとされたか理解したようで暗い顔をしていた。


 エルフ王とガンツさんは既に知っている事なので、黙って着いてきてる。知るべき、若い世代にそのままのものを感じて欲しいと思っているのだろうと私は考えていた。



 そして、北門付近に到着して、ティテレーネ王女とユリネリー女王はその場で固まってしまう。


「なんですか!これは、まるで街の中なのに、戦場跡のようで、そのうえ、まるで人が・・・」


 ティテレーネ王女は絶句して口元を押さえて目の前の光景を凝視する。

 おそらく、続きの言葉はゴミのようにと繋がるのだろうと思う。さっきも見た時、私も同じように思ったからよく分かった。


「人の死の香りが強くします。そして、先程、感じた匂いがここでは更に強くなりました。これは廃薬ですね」


 そう呟くユリネリー女王を見て、廃薬とはなんだろうっと思っているとクリミア王女が辛そうな顔して話す。


「ユリネリー女王はご存知でしたか。知らない人がいるようなのでお知らせると一時の快楽を得れる薬で、その効果のせいか空腹感もボケるそうです。そして、多用すると精神が壊れていきます。残念な事に食糧を買うより安く手に入ってしまって空腹を紛らわせる為に住民が買う者が後を絶ちません」


 困った事に中毒性が高くて依存してしまう、やっかいな薬なのですっと悲しそうに言ってくる。

 テリアちゃんが言っていた、腐臭以外の匂いというのはそれの事だったのだろうと理解する。


 それからしばらく黙ってその光景を見つめていた。

 特にティテレーネ王女はショックが大きかったようで目端に涙が滲んでいたのに気付いた。

 後ろから数名の人がやってくるのが目に入る。


「あっ、美紅っ!」


 そう言って手を振ってくるのはテリアちゃんであった。


「もう準備が済んで行動始めたのですか?」

「うんっ、あっ、それとトールが情報が一気に上がってきて、パニックになりかけて、美紅に早く帰ってきてくれっ、って泣き事言ってたわっ」


 私達はこんな場だというのに、その様子を思い浮かべてクスクスと笑ってしまう。

 私達の話を聞いていた他のメンバーの顔にも笑みが浮かぶ。

 急いで戻らないと思い、声をかけようっと思った時に重要な事を伝えてなかった事を思い出す。


「トオル君は3日で調べられるだけ調べて、エコ帝国と交渉の場に立ち会おうと考えてます。皆様にも歩調を合わせて頂けるようにお願いします」


 そう言うとその場の人達は頷いてくれる。


 一度、エルフ大使館に戻ってから各自の大使館へと思っていると、途中でガンツさんがワシはここでいいと言ってスタスタと歩いて行くのを見て、みんなで苦笑して見送る。やっぱり、トオル君が友達と言う相手は変な人が多いですっと呟くとその場で笑いが起きた。

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