157話 未来の私からの贈り物
「私のせい?」
未来の私に言われて、問い返した。
私にそう問われて、流れる涙をそのままに伝えてくる。
「ええ、過去の私、つまり貴方が原因で徹は死んでしまう。今の私が死因だというなら過去を変えたら良かったのではっと思うでしょうけど、私の時空魔法で、未来予知、いえ、そこまでの精度はないわね、未来予測が正しい。過去に飛ぶ前に幾通りも試したわ。結果はどうだったと思う?全ての徹の死亡原因に私が絡んでいたのよ?」
私は絶句する。
自分の存在が徹を死なせる要因になるなんて、考えたくはないが、わざわざ、未来からきた自分が徹の不幸になる未来をでっち上げるとは考えられない。
待って、もしそうなら、私を排除、もしくば、殺していてもおかしくないはずなのに、説明してくれている訳は何故なのだろう。
「私が原因なのに、どうして私を排除したりしなかったの?」
「徹の死亡原因は私の我儘や癇癪が原因で仲違いして、みんながバラバラになったりした。酷い予測では、徹は誰の助けもなく孤独な状態で魔神に挑んで人知れず、死んでしまうという未来もあったわ。自分の世界でもないのに、元の世界へ逃げ帰っても誰も文句言う相手がいなかったのに、仲違いしても、特に美紅、テリア、そして私の未来を勝ち取る為に身を投じて行くのよ。色んな未来があったわ。でもね、全ては予測の域を出なくて、徹を助けられるという確実性に欠けていたわ。だから、自分が知る未来の分岐点を変える事が一番、徹を救えると信じた」
そこで私は疑問に覚えた。
「徹をこの時代で救ったら、貴方の未来で徹は存在できるの?」
変えた過去は本当に未来を変えるのだろうかと思って聞くと未来の私は首を横に振る。
「時空魔法を手に入れた時に分岐してしまった時点で不変である事を理解したわ。勿論、絶望もした。2000年何をしてきたのだろうと思ったわ。でもね、私はその時、徹が生き残って進む未来を見るだけでもと、思って未来予測を可能な限りしたわ。その結果が0、全てが愚かな私が原因で徹は死ぬ。そんな未来しかないなんて、私は認めたくなかった。もう自分の歴史の徹は助からなくても、徹が助かる未来を作りたかった」
止まらぬ涙をそのままに笑う私を見つめ、胸が張り裂けそうだった。2000年経っても徹の事を思い続け、今いる徹は本当の意味で自分の知っている徹ではない。例え、自分の未来に徹が戻ってこなくとも救う事が全てなのだろうと痛いほど理解できた。
未来の私は涙を拭うと一呼吸吐くと言ってきた。
「良く聞きなさい。愚かな私よ。今回、貴方が飛び出してたところを魔神の加護を受けた2代目勇者とは違う者が徹達を襲います。そして、徹が死んでしまいます」
そう言われると私は踵を返し、徹の下へと駆け出そうとした時、未来の私に先回りして叩き伏せられる。
「落ち着きなさい。確かに緊急ではあるけど、今の貴方が戻っても助かる確率はかなり薄いと言わざるえません」
「だったらどうしたらいいっと言うのっ!!あっ、未来の私が一緒に戦えば、勝てるの?」
その事に気付いた私は聞き返すと、溜息1つ吐いて言われる。
「確かに、今の私なら魔神の加護を受けし者と魔神を同時に相手にしても渡りあえるでしょう。ですがそれができない理由が2つあります。1つは私が歴史に関与するとどんな反作用が起きるか分からないという事です。最悪、魔神より性質の悪いモノが生まれる可能性もあり、それは避けないといけないので、この時代の者だけでやらねばなりません」
やる気を出して修行したら2000年後には魔神だけでなく、2代目勇者も同時に相手にしても戦える強さになると言われてびっくりするが、今の私にはできない相談の為、項垂れる。
私はもう1つは?っと聞き返すと、弱った顔した未来の私が言ってくる。
「どうやら、世界は異物を嫌うらしくて、今まで、それに対抗して踏み止まってきましたが、そろそろ限界のようなのです。私はもう存在してられる時間はありません」
「すぐにでも、元の時代に戻らないと駄目なのっ!」
静かに未来の私は首を横に振り、言ってきた。
「時空魔法というのは燃費が悪いのですよ。特に時を越えるというのは莫大な魔力を必要とします」
そう言う未来の私の姿が透けて見えた気がした。
「世界が私を消そうとする力に抗っているうちに戻る魔力など、既に使いきってしまいました」
そうする事が自分にどういう影響があるなど、百も承知だっただろうにと思う。今の私でも理解できる話なのに、未来の私が理解できなかったとは思えない。
さっき、透けたように見えたのは・・・口にしようとしたが止める。もう未来の私には時間がない。無駄口に使わせていい訳がない。
「そこで、貴方が戻る事で徹が生き残る可能性を上げる方法があります」
未来の私は胸元から黒い紐を引っ張り上げると、ひび割れたオレンジの石がついた物を取り出す。
2000年も経っているに、大事にしてたのだろう。この石が普通にそんなに長い時代耐えれるはずがない。
「徹も気が利かない人だったから、紐だけじゃなく石にも硬化魔法使っていてくれたら良かったのにっと何度思った事か」
私も何度も使おうとしましたが、どうも徹以外には使えないようでモドキが精一杯でしたっと呟く。
そして、貴方も持ってますね?っと問われた私は同じように胸元から石を取り出すとそれを渡すように言われる。
思わず、身構える私に嘆息すると言ってきた。
「それが如何に大事なんてイヤというほど理解してます。獲ったりしませんから貸してください」
私は渋々、渡すと優しく握る未来の私を見て、胸が痛くなった。
「今からこの石に私の経験を吹き込みます。時空魔法の使い方から、ルナマリアが残した弓の使い方まで、勿論、知識だけなので使えないものも沢山あるでしょう。神力も魔力も今の貴方は私と比べると天と地の差はありますからね」
しれっとこき下ろされたが反論はまったくできなかった。
時空魔法を会得した事もそうだが、さっき廻り込まれた時に感じた実力差に文句が付けようがなかった。
そして、苦笑いした未来の私が、私に近づいて、私の目元を指で拭う。
「そろそろ、もう泣くのは止めなさい。愚かで泣き虫な昔の私よ」
そう言われて、自分の顔に触れると本当に泣いていたようだ。いつから泣いていたのだろう、自分で泣いているという自覚もないままだった自分に苦笑する。
未来の私は、石を両手に祈るように握ると目を瞑る。
そうすると、石に向かって、凄まじい神力と魔力が吹き込まれて行くのが視認できる。神力や魔力が目で見える状態など、理屈では分かるができるようなものじゃない。
2000年後の私はどれだけ凄いのかと目の前で叩きつけられているようだ。
「凄いの・・・」
「凄いか・・・私は、幸せな時間では決して努力はしないでしょう。だから、私は凄いと思える状態にない事がいいのかもしれませんね。貴方はこうならないように頑張ってね」
色々、矛盾した事を言われるが言いたい事は伝わった、私は頷く。
未来の私は、私に石を名残惜しそうに返すと微笑む顔が一瞬透ける。
「これで私ができる全てです。後はこの時代の私に任せます。その石から得れる知識と力が貴方を助けてくれると信じてます」
「ありがとうなの。きっと未来を変えてみせるの!!」
私は、石から得れた知識により、徹のいる場所を捉えると魔神の加護を受けた者と思われる者との交戦中である事を知る。
「今、行くの!徹、待ってて!」
そういうと全力で走り出した。
過去の自分を駆けて行く背中を見つめて、そして空を見上げてポツリと呟く。
「ねぇ、徹。これで良かったよね?私、頑張ったよね?」
自分の手を見ると透けて出しているのを見て、自分に残された時間が少ない事を知る。
やっと自分もみんなの下へといけると涙が零れる。
すると、自分の肩を触れる少年の手に気付き、振り返ると驚く。
「ずっと寂しかったの。2000年もずっと1人で・・・いっつも遅刻ばっかりのアホ。でもギリギリ間に合ったから許してあげるの。やっと・・・」
そう言うと私は少年に抱きついた。
優しく抱き返されてた私は満たされた気持ちのまま、光に包まれた。
誰もいなくなった場所に落ちていた黒い紐とオレンジの石が粉々に砕け散って砂のようになった物が風に運ばれて、飛んでいった。
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