154話 殺さない覚悟
さて、帰ろうとした時に車の運転席に私より先に着席しているモノがいました。
そう、奴の名はカメ虫!
触れるな危険な奴が私を待ち構えてました。
死線を乗り越えるような攻防戦の末、撤退させる事に成功しました。匂いもない状態で完全勝利です!
地域で名前が違うっと聞いた事あるのですが、クサ虫と言うところもあると聞く、あの野郎です。
ミドリに、楽しい会話にならないっと言われて、思わず、帰りたくなったが、踏み止まる。
美人に会った早々、困った顔して、楽しくない会話が始まると言われて、帰りたくなったという話なら、後で3人に愚痴を言って騒げばいいと笑えるが、今のミドリのセリフが、俺が否定して欲しい内容であると言う事を示唆してると思えてならない。
「やっぱり、そうなのか?」
「それが確実な手であるのは間違いはないのです」
俺の顔を見て、辛そうに言ってくるミドリには悪いが、今の俺は表情を取り繕えるほど、余裕はなかった。
おそらく、今の俺の顔には一切の感情が現れてない、いや、絶望という虚無が現れているのだろう。
「どうして、ルナを殺すのが最善な手なんだ?」
「徹、最善ではありません。確実な手です。今までの事で、魔神は私達で言う、毒の塊だと言う事は理解してますね?」
俺はミドリの言葉に頷き、先を催促する。
ミドリは溜息なのか、話す間合いを取るための息継ぎか分からない仕草をすると続けた。
「植物の世界の話ですが、ある森のある木の枝に生っている果物の1つが病気になりました。どうするのが正しいと思いますか?」
「その実を取ってしまえばいいんじゃないのか?」
俺がそう答えると、そうですねっと答えると続けた。
「ですが、その病気の感染力が強かったら?枝を切ってみる、その木そのものを、そして・・・」
そこまで言われるとさすがの俺でも理解できて、歯を食い縛る。
「そう、森そのものを消してみせます。その病気の大きさ、強さの度合い次第で、切り捨てるのが確実な手になりうるのです」
言っている意味は理解はできるが納得はしたくなかった。納得すると言う事はルナを殺す事を容認する事に他ならなかった。
「スーベラから毒は世界を渡るという話は聞きましたね?世界を渡る方法は2つあります。1つは、魔神の力で強引に開けた次元の扉を抜けていく方法、もう一つは取り込んだ神の縁がある神がいる世界へと跳ぶ方法です。ルナさんの場合、もっとも強い縁のある神がいる場所を知っていますか?」
知っている訳がないだろうっと言おうとするが、俺は気付いてしまう。俺が知ってる世界など、2つしかない。1つはアローラで、もう1つは・・・
俺の驚愕する表情を見て、ミドリは辛そうな顔をして言ってくる。
「そうです。元の徹が住んでいた世界にいます。徹が、ルナさんを殺さない選択を選ぶと言う事は、元の世界の家族、友人を殺す事になるかもしれないのです。さあ、徹ならどうしますか?」
ミドリの言葉が俺の胸に突き刺さる。
勿論、ミドリは嫌がらせで俺に言ってる訳ではないのは分かっているが、俺にルナと元の世界にいる大事な人達と天秤にかけろと言われて、じゃ、そっちですっと答えられる訳はなかった。
ミドリはそんな俺の様子を見て、迷いつつも言ってきた。
「今の段階では、ルナさんを魔神が取り込もうとするかは、分かりません。ルナさんは加護を使った事がないので、もしかしたら、取り込まれない可能性はありますが、ここでなんとかしないと、徹のいた世界を救う術はありません」
確か、スーベラも加護を使ってないからっとは言ってたのを思い出す。それと同時にあくまで可能性でしかないと言っていた。
そのうえ、今、ミドリから例え、ルナさんに取り込まなくても、俺がいた世界も滅ぶと言われてしまう。
先程のミドリの植物の話が的を得ていると、俺は感じた。ルナを殺す事も世界を救ううえで、ただの1手に過ぎないという事を・・・
「ミドリ・・・本当にルナを殺さずに魔神をなんとかする方法は用意してないのか?もし、用意してないというなら、俺はお前達が用意している術を引っ繰り返しても阻止するかもしれないぞ!」
俺の言葉を聞いて、沈黙をしばらく保って、俺を睨むように見てくるので、負けるかっと俺も頑張って視線を合わせ続けると、突然、ミドリは脱力させると、諦めたかのような声で言ってくる。
「さすがと言うしかないですね。やっぱり男の子だなっと思いますよ、徹」
優しい微笑みを見せて言ってくるのに、豆鉄砲を食らった鳩のような感じになっていたが、次第に期待が押し寄せてくる。
「と、言っても、私が言った方法が一番確実なのは間違いないんですよ?ルナさんを助けて、魔神を本当の意味で何とかする方法なんて夢物語のようなものと分かった上で、それを選択する以上、失敗したら、徹、貴方がルナさんの命を断つ覚悟があるなら、細い蜘蛛の糸で繋ぐような可能性の話で良ければ、教えますよ?」
ルナを自分の手で断つ事などできるか分からない。でも、俺はルナを殺さずに済む可能性を知らずには前に進めない。
「俺はルナを殺さない!絶対に成功させるから、教えてくれ。頼む、ミドリ」
俺は、深く頭を下げて、ミドリの沙汰を頭を下げたまま待った。
肩に触れる手に気付き、前を見ると、本当に困った子っと呟き、俺を見つめるミドリがいた。
そして、そっと抱き締められて、俺はミドリの豊かな胸に顔を埋める。
「貴方の事が本当にたまらなく愛しく思います。その心の輝きがとても綺麗でいつでも眺めています。多分、徹、そして、美紅さんも少し感づいてますが、徹が運命を転換させる子とルエンから聞いて、それで女神に見つめられていると思っているようですが、正解のようで不正解なのです」
どう言う事なんですか?と聞き返すと、ミドリは笑みを深くする。
「今の理由だけなら、男神も眺めているのが道理です。一応、協力はしてくれてますが、経過確認以上のチェックをしてません。女神は、貴方の心、いえ、魂の輝きに惹かれて見つめているのです」
人間の女性は本質を見ようとする者が少ないので、貴方の良さに気付かないものが多いですが、女神となるとそうじゃないっと微笑まれる。
照れ臭くて、自分の顔が赤くなっているのを自覚する。
それに気付いたミドリは、フフっと笑うと、口を俺の耳元に近づけて、言ってくる。
「徹、よく聞いてください。貴方がなんとかする可能性ですが、初代勇者が残し、今の貴方の愛刀のカラスとアオツキを十全に力を引き出し、使いこなせば可能性が生まれます。二刀の求められた力は何かはルエンから聞きましたね?」
「カラスが思いを繋ぐ剣、アオツキが連鎖を断つ剣って言ってましたが・・・」
なんとなく分かるが、分からないという気持ちの悪い説明だったと俺は思うが、ミドリは頷くと言ってくる。
「それが全てです。言葉として伝えられるものとしては全てです。仮にそれ以上の言葉があったとしても無意味。その先は徹、貴方が理解しないといけないのですから」
俺がなんとかするしか手がないという重責がかかる。だが、それでいい。俺が望む結果を呼び寄せられるなら俺は何だってやるし、何だってなってみせる。
やる気を出した俺を見て、俺の頬とミドリを頬を寄せて触れるようにして言ってくる。
「まずは、二刀の眠る力を解放させるところから始めなさい。時間はそれほどありませんが、頑張ってください」
そういうと、俺から離れる。
「ありがとう、俺を信じてくれて、きっと応えてみせる!」
そう告げる俺をニッコリと笑うと、空間が光に包まれる。
「徹、いつでも見守ってますよ」
包まれた光の中でミドリの言葉を聞いて、俺は、おうっと片手上げて答えた。
気付くと俺は洞の中で立っていた。
やるべき事を見つけた俺は、いつまでも呆けてられない。
ルナ達と合流して、まずはクラウドに戻り、あの頑固なドワーフを説得するところから開始しないと気合いを入れてた。
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