153話 宣託の間へ
俺は鳥の鳴き声を目覚まし時計にして爽やかな目覚めをした。
梳くほどの髪はないのに梳いてみる。
古い俺を脱ぎ捨てて、今日から俺は新しいニュートールとしての始まる。そんな俺を祝うかのように、朝日が優しく俺を照らす。
美しい世界を見つめていると扉が開き、美紅が入ってくる。
俺の顔を一瞥すると顔を背けて、肩を震わせる。
「おはようございます」
「ああ、おはよう。今日はとってもいい天気だなっ」
どうやら、ニュートールを見て、眩しくてこちらを見れない癖に感動に打ち震えているようだ。
まったく罪作りな俺だなっと自嘲する。
美紅が前を向ける為にはまだ時間がかかると思っていると再び扉が開き、テリアとルナが入ってくる。
テリアは俺の顔を見ると爆笑してくる。
「駄目っ!気合い入れて我慢すると決めたのに、我慢でき、出来る訳がないっ!!」
お腹を抱えて、肩を震わせながら、トールに殺されるっ!笑い過ぎて呼吸が、呼吸がっ!っと蹲る。
ルナは俺の肩をポンと叩いて、ナイフとフォークを取り出して、どっかで見覚えある構えをすると、淀みなく話す。
「『俺が徹!これにあり!死にたいやつからかかってこい!』さすが徹なのっ!」
ついに臨界突破したようで、口がワナワナと震えると涙をポロポロと零れ出し、お腹を抱えて床を転がる。
俺は再び、外の朝日を見る。あれほど美しいと思った太陽もウザいものにしか見えてこず、俺は呟く。
「どうやら、まだ寝ているようだ。現実がこんなに酷い世界な訳がない」
そう言うと俺はベットにモソモソと戻り、ベットのシーツの中で丸くなって、現実逃避をした。
それから1時間後、散々笑った事でやっと持ち直した2人は、白々しくも寝ている俺を揺すって、ごめんね?と言ってくる。
「トールも男なんだからっ、もういい加減機嫌を直すっ!」
「そうなの、さっさと起きてないとご飯が食べられないの!」
あんまりな言い草ではあるが、いつまでも、スネてても時間の無駄である。
仕方がないので、起き上がって、着替える事にするが、今、思ったが俺は着替える3人がいたら部屋を出るか、背中を向けたりするが、何故、こいつらは普通にジッっと見つめてくるのであろうか?
まあ、今まで気にしなかった事をとやかく言うのもアレだから言わないがちょっと視線が気になる着替えを済ました。
「じゃ、飯を食いに行くか」
そういうと待ってましたとばかりに2人は喜ぶが、先程から会話に絡まない美紅を見ると未だに肩を震わせて背中を見せていた。
「暇なら俺でも見てろ!とか・・・頑張って、私の腹筋・・・!」
どんなけ、面白かったんですか?美紅さん・・・
食事をなんとか済ませた俺達は、エルフ城を目指して歩いていた。
「今更だけど、今、城にはティティもエルフ王もいないんだよな?宣託の間に入れて貰えるかな?」
今、思い出した事をそのまま独り言のように呟くと、美紅がそうですねっと呟いて返事してくれる。
「エルフ国では神聖な場所とされているようですから、宣託の巫女の許しがなければ入れられませんっと言われるかもしれませんね」
どうしようっと美紅と頭を悩ましながら歩いていると、不思議そうな顔をしたルナが聞いてくる。
「どうして入れないと思うの?徹はユグドラシルの使者として認められてるんだから、ティテレーネの許しがなくても入れて当然じゃないの?」
盲点を突かれた気分でルナを見るが、明るい情報であるのは間違いなかったが神が認めているからといって、人が認めてくれるかは別問題である。
「前の宰相みたいなのが幅を効かせてないといいけどな・・・いたら、とっくの前にティティに排除されてそうだから、薄い可能性でしかないか」
「徹は心配症なの。そんなに悩みまくってたら・・・ハゲる?」
ルナは男に言ってはならない三大言葉を放つ。
早い、小さい、ハゲる、この3つは鉄板ではないだろうか?何がって?聞くなよ、分かってるんだろう?
俺は、かつてない怒りに震える。
「ルナ、オヤツ1回なしな」
俺が放つ怒気に驚き、俺の言った意味を理解すると絶望した。
「と、徹、どうしてそんなに怒ってるの?」
伺うように聞いてくるところを見ると、どうやら男の触れてはいけない三大言葉を知らないようだ。
美紅が呆れ気味ではあったが、ルナに簡単に説明してくれる。
「今のルナさんのセリフは、昨日の夜、食べ過ぎたなって思っている女の子に、あれ?太った?って聞くような事をサラっと言ってしまったのですよ。男の子は若いうちから、頭皮の心配をするものだとミランダさんから教えて貰いました」
近いような遠いような説明だが、ルナに伝わったようだ。
しかし、ミランダ・・・何を色々と美紅に仕組んでるの?メッチャ、美紅が耳年増になってる予感しかしないんですが?
アワアワしてるルナを見て、嘆息して、次からは気を付けろよ?と伝えて、鼻を軽く摘まむ事で許してやる事にした。
呆れた様子のテリアが言う。
「まったくっ、トールは小さいっ!」
人間がっと続いていたが俺の耳には入ってなかった。
「上等だっ!その喧嘩買ってやるっ!」
テリアとじゃれ合いながら、俺達はエルフ城へと向かった。
王城に着くと、案内役が到着するまで待たされた事以外、問題もなく、代理責任者としている宰相の部屋へと案内された。
小太りで頭皮が薄いが、とても人好きする穏やかな人物が新しい宰相らしい。
新宰相は俺達を暖かく歓迎してくれた。
「今日はどうされましたか?」
新宰相にソファに座るように勧められて、俺達が座ると、そう聞いてきた。
俺は単刀直入に話を切り出す。
「実は、宣託の間に入れて貰いたいんですが、いいでしょうか?」
「ええ、それは勿論、問題はありませんが・・・あっ」
何故、確認されるのだろうと言った顔をしたところを見るとルナが思ってたように入れて普通らしい。
しかし、新宰相は、途中で何かを思い出したようで申し訳なさそうに言ってくる。
「申し訳ないお話なのですが、トール様が入られるのはまったく問題はないのですが、お連れ様が入るにはやはり、姫様の直接の許可がないと少々問題がありまして」
本当に申し訳ないと思っているようで、汗が大変な事になって必死にハンカチで拭いていた。
「責めるつもりは、まったくありませんので、事情だけ教えて頂けませんか?」
新宰相は、少し迷った顔をしたが、諦めたようで話をしてくれた。
「実は、前任者の事がありまして、まったく繋がりはなくとも、風当たりが強いのです。まだ就いて間がないということもありまして、突かれると困った事になりますので」
今回の代理責任者を指名してくれたのはティティらしく、王宮で微妙な立ち位置の新宰相の足場固めになればと考えてしてくれたのが嬉しく感謝しているそうだ。
まあ、ここで了承したら、越権行為だとか騒ぐ輩を抑える力がないから、ごめんなさいってことなんだろう。
「後、その、ですね?お連れのお二人は以前、城を全壊間際まで追い込んだ事で危険視する者が少しばかりおりまして・・・」
そう言われて、俺とテリアが2人を見つめると明後日の方向を見つめて、一切、目を合わせてこない。
その少しの者が困った事に権力を持ってるパターンらしい。
そういう事情なら無理は言えないので、俺だけで行ってくる事にする。
「分かりました。では、俺だけを入れるようにお願いできますか?」
俺がそういうと、鈴を鳴らして、来たメイドに案内を頼むと伝えると言ってくる。
「大変申し訳ありませんが、トール様だけでお願いします。皆様は、料理長にお願いして、美味しいデザートでも作って貰いますので、それを食べながらでも、お待ちください」
心底、ホッっとした顔をした新宰相を見て、きっと苦労してるんだろうなっと俺は苦笑した。
俺は宣託の間の前まで案内されて、1人で入っていくと、いつ見ても大きな樹が俺を出迎えてくれた。
前と同じで洞から俺は入っていくと以前感じたのと同じ膜を抜けたと思ったら、上下すらどちらがそうなのか分からなくなる空間にやってくると俺の目の前に少し困った顔をしたミドリが俺に言ってきた。
「会えて、嬉しく思いますが、あまり楽しい会話にはなりそうにありませんね」
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