151話 ユグドラシルの眷属
いきなり飛ばしてくる見た目だけはガキのヤツが言ってくる。年がいくつとか知ってる訳じゃないが、ガキっぽくする仕草にあざとさを感じたから俺が勝手にそう思っているだけではあるが間違ってないと思う。
「いきなり、しようと思ってた質問より違う質問したくなる挨拶を有難う。で、運命を転換させる子ってのはなんだ?」
「やっぱりそこから気になる?」
えへへっと、また鼻の下を擦りながら言ってくる姿があざとかった。
はっきりと言ってやる。
「可愛い子を演じた女の子は、一定の男には通じる。ああ、間違ってないさ。同時に可愛げのある感じの男の子を演じたら、母性本能を刺激してやられる女もいるだろうが、どっちにも共通して言えるのは同性には効果がないだけでなく、イラつかせる原因にしかならねぇーよ。普通にして、話せ」
「ちぇっ、つまんないの。確かに、後ろの子達にもあんまり効果ないみたいだし、演技しても意味なかったら馬鹿みたいだから、いいよ?止めて普通に話すよ」
ルナ達もどう反応したらいいか分からないような顔をしている。まあ、夢で導かれて、来たら透ける体の小さな男の子がいて、どう反応したらいいか分からないのは当然だろう。
俺達をつまらなさそうに見つめて、表情が削ぎ落ちる。さっきまでニコニコしていた営業マンが、一瞬で素の表情になったかのような、ある種の恐怖を覚える。
これを見て、思い出してしまった。
コンビニに入って、ホットスナックを入れ忘れてたのを、伝えると素の表情になった女店員の小さい事グダグダ言うなよって雰囲気をバリバリに出されて、悪くないはずなのに、こっちが悪い空気にする目を思い出した。
2つに共通しているのは、営業スマイル。つまり、こいつは・・・
「お前はユグドラシルの眷属か何かだろ?」
俺の言葉に目を白黒させたガキは絶句する。
どうやら見立てが合ってたようで、俺は攻勢に出る。
「不貞腐れず、仕事をしろ。ここで俺に情報を与えるのがお前の仕事なんだろ?自己紹介をしっかりやって、俺に与えられるだけの情報を全て与えろ。ユグドラシルに苦情をあげれば、やる気が出るか?」
「くっ、感がいいとは聞いてたけど、ここまでいいとは思ってなかったよ。分かったよ!僕の名前はルエン。お察しの通り、ユグドラシルの眷属さ」
見立て通り、ユグドラシルの眷属だったようだ。まあ、俺も確固とした自信があった訳じゃない。ここはエルフ国でユグドラシルの管轄な気がしたのと、このガキ、ルエンが木を媒体にして現れているような気がしたから、イメージで言っただけである。
前々から薄々思っていた事ではあるが、1つの国に1神という感じでいるようだ。しかも、結構、昔からそうあったようだが、ルナはそれなのに気付かずいたようである。今も、俺を見て、凄いの!徹っと喜んでいる。
いいのか、おい、アローラの最後の神よっ!
まあ、いつもの事で流すのが辛くなってきて、涙が零れそうである。
「で、運命を転換させる子ってなんだ?」
「そのままの意味さ。本来あるべき未来を変える可能性がある子ら、正確に言うなら君が転換させるキーで君の背中を追いかける子らを全て混ぜて、運命を転換させる子ら、と呼ぶんだよ」
本来あるべき未来?
俺は凄く嫌な予感がしてきた。
「本来あるべき未来って何だ?既にどうなるか分かっているように聞こえるが」
「その通りさ、君達に直接関係ある話だとアローラは滅ぶ運命にあるよ」
「ちょっと、待つの!それだったら私達がやっている事は道化って事になるの?」
俺はその可能性を既に感じていた。勿論、ルエンの言い回しからも感じていた事ではあるが、だいたい、複数の女神に期待され、見つめられる事態が普通ではない。それを引っ繰り返す可能性が俺が絡む事で生まれるのではないかと思ってはいたが、自意識過剰かと思って流していたが、満更否定したものではないと理解して頭を抱える。
ルエンはルナの言葉を受けて、ヤレヤレという顔をする。
「だから、言っただろう?運命を転換させる子らっと。運命を覆すのは無理であるというのは神にとって動かない事実だという思いは分かるよ?でもね、時にして神ですら動かせない運命を動かしてしまう存在が生まれる事があるんだよ」
過去にも数例あったけど、タイミングが合わなかったから発現もせず、その時代の覇者や偉業を果たす程度で終わったんだけどねっと付け足す。
「それがトオル君ですか?」
美紅がルエンに問いかけると頷かれて、やっと分かった?っとドヤ顔される。
「お前は、神達と違って、制限なくペラペラ喋れるんだな?」
「そうでもないよ?ギリギリのラインで制限はかけられているけど、神同士ならともかく、格下の存在に神は制限をかけるのが難しい・・・このあたりから話せなくなるようにはかけられてるよ」
俺は、今のセリフで閃くものがあったので、ルエンに聞く。
「今から聞く事を答えられないなら頷くだけでもいい。毒か?」
ルエンは目を白黒させてるが、大袈裟に溜息をついて、頷かれる。
その答えを聞いて、毒の正体の断片かも知れないが理解する。
神はそんなものに狂って、戻れなくなってしまうのか・・・人間ですら克服できるものなのにと思ってしまう。
それほどに神にとって業が深いものなのかもしれないが・・・
「そこまで理解したのは驚きだけど、今の段階じゃ答えは出ないよ。で、そんな事を聞きたくて僕を捜してた訳じゃないんでしょ?」
驚き、呆れて疲れたような顔をしたルエンに話を進めようかっと提案される。
俺も今の段階でこれ以上は無理な気がする事もあって、本来の目的の話を聞く事にする。
俺はカラスとアオツキを見せて聞く事にする。
「この二刀の事は知っているか?」
「勿論、知っているよ。君が思っているように精霊の力が宿っているよ。もっと正確に言うなら、僕達の長の存在そのものの力が宿ってるね」
「長というはっ、ユグドラシルの事じゃないのっ?」
テリアがそう聞くとルエンが、違うんだなーとイラっとする表情をして言ってくる。
「君達に分かり易く言うと、ユグドラシルは女王なんだよ。長というのは一族を束ねる者って事だね」
多分、そんな感じだろうと思っていたから特に慌てず聞いていた。
「ついでに言うなら、その剣に宿る者が長の人格だよ」
カラスを指差しながら言ってくる。
「もっとも記憶はなく、性格が似た誰かって感じになってると思うけどね」
ーなるほどな、我の性格はフレイドーラとだいぶ違うと思っていたがそういう訳があったかー
他人事のように考えるカラスに笑みが零れる。
気持ちを切り替えて、再び聞き返す。
「長がそこまでしたのは、何故だ?頼みに来たのは和也、初代勇者か?」
「そうだね、頼みに来たのは確かにそうだね」
引っかかりを感じる言い方をされ、聞き返そうとすると続けられる。
「長が何をしたのかを聞きに来たんじゃないのかい?」
俺は苦虫を噛み締めるように頷く。
おそらく、聞いても答えない気がする事をしつこく聞いて、話を途中で切り上げられたら面白くないので我慢する。
「長はね、その二刀に目に見えない力に干渉できる力を宿す為に自分の存在を使ってキッカケを与えたんだよ」
キッカケ?そのものの力じゃないのか?っと俺が疑問に思っている最中も話は続く。
「だから、その二刀はまだ未完成と言える。それが完成形になるのが僕達、精霊の悲願とも言える。なにしろ、長の存在をかけてまで造られた剣だからね」
「どうしたら、完成する?そして、どんな完成形を目指して造られた剣なんだ?」
ルエンは俺を睨むようにして、伝えてくる。
「完成させるのは君次第さ。完成形かい?長と初代勇者が言ってた言葉で良ければ言ってあげるよ。カラスは思いを繋ぐ剣、アオツキは連鎖を断つ剣。だそうだよ」
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