144話 ワビ湖
どこにもいかないのは寂しいので、友達と豪華な料理を食べに行こうかと思います。何をですか?焼肉ですが・・・?
またか?と思ったそこの貴方!バイブルの尊厳を切り崩さないでください!
豪華な食事=焼肉 の公式しかない人と残念な視線で見ないで・・・
日が昇りだした辺りで俺達はコルシアン邸に到着すると前回同様、俺達を待っていると思われるコルシアンさんが玄関先でうろうろしていた。
近寄ると俺達の存在に気付いたようで嬉しそうに駆け寄ってくる。
「待っていたよ。今回は御者が用意できなかったけど、馬車は扱えるよね?」
ええ、問題ありませんっと告げて、コルシアンさんを見つめると目が血走っていた。
絶対、楽しみ過ぎて、寝れずに悶々としてたと俺は確信した。
コルシアンさんの姿を見て、テリアがぼやく。
「あの人っ、あのピンクの格好で来る気なのっ?」
「前回の時もトオル君に同じ事言われてましたね。色々、無駄だと諦める事になりましたが・・・」
「ああいう人だと思えば問題ないの」
3人に言いたい放題に言われているのを聞こえているはずだが、まったく動じないあたりが、大物だなっと思わされる。
そんな事はどうでもいいとばかりに出発を急かしてくるコルシアンさんは俺達に声をかけてくる。
「早く、荷物を積み込んで、すぐに出発しようじゃないか。500年、誰にも触れられてないモノを見に行く為に!」
俺の背中を押して、荷台に各自の荷物を積みこませる。
積み終わると御者をする俺の肩を後ろから手を置いて、行き先に指を指す。
「まずはモスの街へ、レッツゴーだよ!」
徹夜明けのテンションマックスのコルシアンさんに騒がれて苦笑しながら、馬車を出発させた。
「出発したら5分としないで寝ちゃったの」
荷台の荷物に挟まれるようにして気持ち良さそうに寝るコルシアンさんを見つめているルナが呆れるように言う。
お前が言うなよっと俺は思ったが、俺も成長している、簡単に口にしたりはしない!
「モスの街ですか、魔神の欠片と帝国によるダメージの回復はどの程度まで進んでるでしょうか?」
「そうだな、モスの人達を見た限りでは頑張ってそうだから、半分ぐらいは治ってそうな気がするよな」
壊れた建物を思い出し呟く。
「まあっ、最悪、非常食で1週間は持たせられるだけは買ってきてるから、それで凌げるけどねっ」
「でも、できるなら、あんまり食べたくないの・・・」
まあ、日持ちさせる為にパサパサだったり、塩や香辛料を沢山使われていて味が濃いからな。個人的には干し肉は好きなんだがね。
「モスの街に行く以上、できれば、クリミア王女に挨拶に行ったほうがいいですね」
美紅にそう言われて、会える程度の余裕があるといいがっと思いつつも、そうだなっと答えておいた。
昼になったので俺達は食事を手早く済ませると出発する。
「この子は馬車に乗って5分としないで寝ちゃったね」
気持ち良さそうに寝ているルナを見つめて言うコルシアンさんを見て、俺達3人が爆笑した。
空が茜色になり、夜まで猶予がなくなった頃、モスの街に到着した。
街を見渡すと正直びっくりした。もうほとんど復興したと言っていいレベルまで進んでいた為である。
よく目を凝らせば、傷跡はしっかりとして存在しているが、まだ1カ月と経ってないはずなのに、よくここまで直せたものだ。
「クリミア王女は良き統治者のようだね。信頼を勝ち取れてないとこう上手くはいかないからね」
私が聞いていた話では、壊滅に近いように聞いていたから、まあこのレベルまでは半年はかかるだろうと思っていたよっとコルシアンさんは言う。
まったく同感で俺もそれぐらいかかると思っていた。
「瓦礫の撤去が済んで、テント暮らしをしているのではと思ってましたから、食糧調達も宿も諦めてましたが、なんとかなるかもしれませんね」
美紅も嬉しそうに眺めながら言ってくる。
自分達が体を張って、はっきりとした結果が出た場所を自分の目で見たのが今回が初めてだから余計に嬉しいのだろう。
俺達が宿を探しつつ、周りの復興に見ていると声をかけられる。
「あれぇ?そこの色男はこないだの子じゃねぇか?姫様に会いにきたのけ?」
色男とは俺の事か?と嬉しさを隠さず振り返ると見覚えのある恰幅の良い女性が腰に両手を当てて俺達を見渡していた。
「サラさんでしたよね?先日はお食事を有難うございました」
美紅はそう言うと頭を下げる。
ルナとテリアも思い出したようにつられて頭を下げていた。
「クリミア王女に会う時間が取れるなら会って行こうとは思っていたけど、ワビ湖に行く途中で宿と補給の為に寄ったんだよ」
「あらら、そうけ?宿はアタシが案内してやるよぉ。ついてきな」
サラさんの案内により、機能している宿を紹介して貰い、感謝を伝える。
照れたように手を振って言ってくる。
「帝国に魔神の欠片から助けてくれてたぁ人達にそう言われると逆に申し訳なくなるよぉ。そうそう、姫様にはアタシから来てる事を伝えて、会う時間を作れるか聞いとくさぁ。まあ聞かなくてもだいたいはどうなるか分かるけどさぁ」
かっかかっと豪快に笑うサラは手を振って、クリミア王女に会いに行く為に街の中心へと向かって行った。
俺達は宿の手続きを済ませて、荷物を部屋に置くと下が騒がしい事に気付き、降りて行くと頬を赤くして息を弾ませるクリミア王女がそこにいた。
「あっ、本当にトールです。食事はお済になられましたか?」
そう言ってくるクリミア王女に、いえ、まだですがっと言いつつ、宿屋の主人を見る。
「大丈夫ですよ。サラさんからこの可能性があるからギリギリまで待ってくれっと言われてましたから」
食事の準備は待っていてくれたようで、気兼ねなくいけるとほっとするが、見た目に反して、細かいところまで気が廻る凄い人だと思う。
「コルシアン公爵、お久しぶりです。豪華な食事とはいきませんが良かったらご一緒にどうですか?」
「御呼ばれさせて頂きますよ。私は無駄に高級な食事は喉が通らないほうなので単純に美味しい料理のほうが好みですよ」
それが縁でミランダと会ったと俺達を見て話す。
時々、昼のランチを食べに来ていると聞いて、びっくりした。
「では、サラ達が腕を奮ってくれてますので、ご招待します」
さあ、行きましょうと言って俺達を案内してくれた。
到着して、料理の準備はもう少しかかるということなので客間で今回、俺達がモスの街に立ち寄った理由を説明していた。
「前に言われていた初代勇者の足跡を追うと言っておられた事ですね。あれからすぐに獣人国での立ち回りを聞いていたので、どうされたのだろうと思っておりました」
「そうなの!獣人国で私と美紅は活躍したの。そう、アニマ・・・」
ルナは、フゴフゴ言わせて口を抑えに来ている美紅の手から逃れる為に抵抗をしているが美紅の目が必死すぎる。
「なんでもないので、お気にされず」
「そうなんですか?分かりました」
クリミア王女の余りの引き際の良さに眉を寄せる美紅は怪訝な顔をしていた。
「それで、貴方はその時に何をされていたのですか?ミクニャン」
クリミア王女の意地悪な笑顔に美紅は撃沈する。
既に手遅れだったのですね・・・と項垂れる。
「なんだい?ミクニャンという素晴らしい響きは?」
さすがというべきか名前だけで嗅ぎつけるその嗅覚には恐れを抱きます。
クリミア王女は凄く良い笑顔をしてコルシアンさんに説明する。
「私も実物は見てないのですが、ウサギと黒猫の衣装を着たアニマルガールズという正義の味方が獣人国で大活躍したという話がありまして、その名前がルナピョンとミクニャンと言うのですよ」
「本当なのかねっ?」
凄い食い付きを見せるコルシアンさんは身を乗り出してくる。
「本当なの。私はこのウサギのやつで、美紅がこの黒猫のやつを着て頑張ったの!」
「っ!!!捨てたはずの衣装が何故ここにっ!!」
捨てるとこを見つけたから拾って洗濯して持ち歩いてたのっと笑うルナはいつ使う日が来るか分からないしねっと言われた美紅は絶望したようだ。
放心したように立ち竦むコルシアンさんが活動を開始したかと思ったら、迷いのない瞳でジャンピング土下座を決めると叫ぶ。
「どうか、どうか!そのお姿を拝謁願えませんか!アニマルガールズの降臨を是非にっ!!」
俺はその姿を見て9.9の点数を上げてもいいと思った。初めの放心が無ければ間違いなく10.0のパーフェクトだった。
すげなく断る美紅に絶望したコルシアンさんが辞世の句を謳い始めてうろたえる美紅がいたりして食事を待つまでの時間を楽しんだ。
「なるほど、ワビ湖の真ん中にある小島に行かれるのですか。しかし、あの周辺のお噂はお聞きになられてますか?」
食事が済み、お茶を飲みながら明日の予定を話をしているとクリミア王女にそう言われる。
勿論、俺は何の事か分からないから3人とコルシアンさんを見るが誰も知ってる風ではない。
「お知りになられてないなのでお伝えしますが、小島周辺に近づくと水竜が現れるそうです。一時、漁をしようと提案した時に言われたのですが、近づくだけで襲われるそうなので、断念しました」
岸から釣りをする分には、まったくの無害らしいのですがっと伝えられる。
正直、どれくらい強いか分からないから、どうしたものかと思っているとルナが呆れた様子で俺に言ってくる。
「徹、もしかして、どれくらい強いんだろうっとか思ってたりするの?前に言ったと思うけど、フレイドーラより強いドラゴンは存在してないと思うの。最大の可能性を考えても同等以外ないの」
3人で挑んで勝てないドラゴンなんていると思わないっとルナに言われ、考えるだけ無駄とまで言われるが、何事も例外はあるだろうっと思うが正直、フレイより強いドラゴンが存在はしない気がする。
「確かに皆さんにかかったらドラゴンのほうが逃げそうですね」
そう言うとクリミア王女は笑う。
俺は空に浮かぶ月の位置を見て結構な時間になっていると気付いた。
「そろそろ、お暇させて頂きますね。明日は朝から移動になりますので」
「そうですか、名残惜しいですが、旅のご無事を・・・あっ」
とても残念そうに言っている最中にクリミア王女は何かを思い出したように少し慌てた顔をした後、頬を朱に染めて言ってくる。
「皆さんと楽しくお話をしていたら、お頼みしたい事を伝えるのを忘れてました」
どうしたのだろうっとクリミア王女を見つめるとコホンっと咳をする。
「3カ国統合最高責任者のトール様に3カ国と繋ぎをお願いしたいのです」
またムズ痒い肩書が現れ、苦笑するが、いいですよっと安請け合いをする。
「各国と対話の機会を設けて欲しいというお願いを伝えて頂きたいのですが・・・」
「分かりました。各国に充てる手紙を書きますのでそれを持って行けば、話を聞いてくれると思いますよ」
有難うございますっと嬉しそうに言われて照れながら、書くモノと紙を用意して貰えますか?と伝える。
自分の机の引き出しから取り出した紙とペンを渡されると俺は早速書き始める。
クリミア王女が嬉しそうに受け取った手紙が理由で恋する王族の3人による、キャットファイトが開始される火種となる事を俺は知る機会はないが起こってしまう。
そして、今度こそ、お暇をして俺達は宿にも戻って、寝てしまう事にした。
次の早朝に出発して、昼前に到着したワビ湖を眺めて、中央付近にある目的地の小島を見つめた。
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