141話 僅かな光明
早く本編を書きたかったバイブルが急ぎ2つ目の更新させて頂きます。
終盤の最初の1話をよろしくお願いします。
俺は正直、どのように話したらいいか分からず、御者をしながら後ろから突き刺さるような視線に晒されながら馬を操っていた。
テリアの里ではジジイを理由にして一旦逃げる事に成功したが、今はただの移動時間、いくらでも話せるのでは?という思いから特に美紅からの視線が痛い。
スーベラと話をしていた内容は今、話すのは避けたいというのが俺の本音だ。
あの時、スーベラにルナを殺せるか?と問われた後、の話が問題であった。
俺はその時の事を思い出しながら打開策がないかと頭を捻りながら、無言の催促をする美紅達に渋々話始めた。
スーベラの言葉に絶句した俺を嘲笑うように見つめられる。
持ち直した俺が言い返す。
「何故、殺すという選択肢1択にしようとするんだ。手は他にもあるだろう!」
そう、吠えるように言う俺を残念そうに見つめるスーベラは言い含めるように言ってくる。
「では、どんな手があるのでしょうか?少なくとも、私は自分でも100年かけて捜し、それの10倍じゃ足らない時を見守り続けましたが、その答えを出して成功したものが皆無なのですよ?それを徹様ができるというのでしょうか?」
再び絶句させられる俺に昔話をしましょうか?と言われ、スーベラの独白が始まる。
「私がエクレシアンの女王と言われるのは、この世界とは違う場所でエクレシアンという国があり、私はその国の最後の女王だったからです。とても豊かで温暖な地だった国でした。国と言っても、とても小さく、クラウドより少し大きいというぐらいの弱小国でした。しかし、その弱小国は明らかに軍事力が劣っているのにも関わらず、攻められる事すらありませんでした」
普通は攻められて占領したいと隣国は思うのではと俺は思っていると顔に出てたようで、クスリと笑われる。
「ええ、徹様が思うように隣国は常に歯軋りをさせられてきました。そこまでして我慢してきたのは何故か。それは、エクレシアンに女神の存在があったからです」
遠い目をしたスーベラは続ける。
「女神と言っても実のところ幼い神で、神としての力は乏しかったのです。知っていますか?神の姿はその格を表すバラメータになっているという事を」
中にはハッタリで誤魔化す神も居ますから決めつけはいけないのですが、と言ってくる。
「その幼い神は強い力がないが、天候を緩やかに穏やかにする程度の事ができる神でした。しかし、他国からすれば、神に護られし国に手を出すのは恐ろしかったようで、安寧の時代が長く続きました。が、しかし、人の技術、魔法などが発展していくと傲慢になっていき、神を恐れなくなりつつあったそんな時、我が国で裏切り者が現れ、その神が無害であると他国に情報を売り渡すという事件がありました」
今まで、抑えられていた欲望が堰を切ったかのように他国が動き出したという事は俺にも理解できた。
「それはあっけないほど、あっさりと占領され、蹂躙されました。王城に居た者は私を残して殺されるなり、逃げるなりしたようで隣国の兵士に神が居る部屋まで追い詰められました。そこで現れた隣国の王は言いました」
『神を渡せ、それは私達が上手に使ってやる』
「神は恐怖を覚えたようです。それはそうでしょう?まるで道具のように扱われるような発言をされれば神でなくても恐れるものです。まして、神と言っても人と大差ないほどにしか戦えない幼い神、恐れた神は私に加護を与えました。私もまた、この国を奪われるものかと思い、加護を受け入れて隣国を押し返す事に成功します。それほど加護の力とは絶大のものだったのです」
たった1人で隣国の規模が分からないが10や20などあり得ないはずだから、一騎当千など生温い強さだったのだろうと推測できる。
和也や轟の強さを考えれば、おかしくは・・・
そこで俺は疑問に覚えた事を聞こうとするが先に話が続いてしまう。
「神の加護により追い返した時は感謝をしました。ですが、徐々に神の様子がおかしくなっていくのに気付いた私でしたが、部屋から1歩も出ない神に確認もする事できず、国を立て直す事にかまけてしまいました」
今、思い出しても悔しいのか顔を顰めるが一瞬の事だった。
「神の様子がおかしいと気付いた時には、もう手遅れになってしまっていました。魔神の誕生です。魔神は狂喜に彩られたかのように笑い続け、そして泣きながら世界を壊して行きました。勿論、私も足掻きましたが、仕留め切れずに私を残して世界が終わった時、魔神は世界を渡りました」
そこからは見守るようになったらしい。その中には魔神を討伐に成功するものもいたそうだが、毒は他に移る事で新たな魔神を作っていったようだ。
そう語っているスーベラは冷笑を浮かべる様が板に付いてるように見えたところはそうやって見てきたのだろう。無駄な事をっと。
俺は希望の光を今の話を聞いた事と疑問に思っている答え次第で先に進めるかもと思ったので疑問に思った事を聞いてみる。
「スーベラ、お前は加護を貰う前は戦える女王だったのか?」
「まさか、戦うどころかナイフすら持った事もありませんよ」
スーベラの話が誇張されてなければ、スーベラと和也達の力は僅差の差ぐらいにしかないように聞こえた。和也達のポテンシャルは勇者としての素養がある以上、普通じゃないのにスーベラと大差ないという事は・・・加護を受けた者は等しく同じ強さを得るという事にならないだろうか?
加護はお互いの供給から成り立っているというスーベラの会話が正しいのであれば、その供給が止まれば、毒の成長が止まる、もしくば栄養が取れずに死ぬ生き物のように朽ちる可能性はないだろうか?
「スーベラ、今の毒に加護を受けている人物は、轟以外に誰がいる?」
「後、1人いますね。それはご自身でお調べになられたらいかがですか?」
絶望せず、まだ諦めない俺に呆れて投げやりに言ってくる。
「スーベラは今も加護を受けているのか?」
「いいえ、今は生命維持がやっとの名残で生き繋いでるだけで、今の私は徹様の一太刀もいなす事もできませんよ」
失笑するように俺に言ってくる。
俺は可能性がある事だけ知れたからもうここにいる必要はないと思った。
これはカンだが、和也が残した足跡になんらかのヒントがあるような気がしている。じゃなければ、スーベラに会えとは言わないだろうし、きっと続きがあるはずである。
関係ない事ではあるが、もう1つ気付いた事があったからスーベラに言う事にした。
「なぁ、さっき、なんでお前の胸に惹かれないって話だけど、やっと分かったわ。スーベラ、お前は生きながら死んでいるんだな。さすがの俺も死人のオッパイには燃えられないのは当然だったよ」
俺の言葉に目を剥いて固まるスーベラに背を向けて俺は光の扉へと出ていった。
俺は毒の話を徹底的に省いて、3人に話した。正直、ちぐはぐになっているのは自分でも気付いているがしょうがない。
「徹・・・難しくて良く分からないの・・・」
「今のはっ、明らかにトールの説明が下手っ」
ルナはいつも通りでテリアは俺の説明を自分なりに補完して納得してくれた、が、もう1人は騙されてくれなかった。
俺だけにこっそり聞こえるように美紅が聞いてくる。
「トオル君、何をぼかしたのですか?」
そう言ってくる美紅に俺は目を伏せると軽く頭を下げる。
「すまん、今は言えない。はっきりしたら必ず話すから・・・」
隠し切れるとは思えなかったので、今できる最大限の気持ちを伝える。
美紅は溜息を吐くと、俺の目を覗き込んで言ってくる。
「私達は、どんな事があろうともトオル君の味方です。どんな結果になろうとも必ず伝えてくださいね?」
俺の言葉を容認して、美紅は2人に黙るという事では共犯ですねっと言われて、申し訳なさで居た堪れなくなる。
次は俺達の素性の話をテリアに説明か・・・
俺は既に気疲れで寝てしまいたいと思いつつ、馬車を操りながらこの話は夜でいいよなっと先送りにした。
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