幕間 帝国との駆け引きと先達の義務
これが幕間最後のお話になります。
次話から終盤の8章のスタートになります。
7章のキャラクター紹介は3連休を使って、作る時間を探したいと思いますので少々お待ちください。
エコ帝国へ書簡を送る前に王都を囲むように3カ国の兵を出す事にした。勿論、戦争をするつもりはないので威嚇である。何事もハッタリは必要という事が3カ国の中で私とユリネリー女王陛下が強く押し、ドワーフ国のガンツさんとお父様を黙らせた。
「しかし、威嚇が目的というのは分かるが、本当に戦争に発展したりせんか?」
「ゼロとは言いませんが、今のエコ帝国にそれはできませんね。今、討って出て正直勝ち目はありません。仮に勝てても次がないうえに国民、レジスタンスの力が強くなってきているこの状況下では私達に滅ぼされるか、自国の民に滅ぼされるかの2択なのは分かっているはずです」
だから、エコ帝国は敵がレジスタンスだけの時に潰そうと躍起になり、街を1つ捨てる覚悟をしたのだから。
威嚇の目的もあるのだが、他にも色々相乗効果を狙っている。
「理屈は分かるが、少々やり過ぎな気がするがな」
顎鬚を撫でながら目線を反らしながら言ってくるガンツさんを見て、溜息を吐く。
「今までの関係を壊す意味でもこれは必要です。普通に行ったら、向こうのお馬鹿さん達は力関係が逆転してる事も気付かずに強気な交渉をしてきて、無駄に時間がかかると分かりませんか?ああ、ドワーフ国は鍛冶をするのが生きがいであまり外交をされてこなかったのでしたね。向こうの首脳陣に会えば、私の言っている意味が痛いほど分かりますよ?宰相ですら馬鹿丸出しでしたから」
以前に余りにも舐めた対応してきたので半泣きになるまでやり込めた事を思い出し、冷笑する。
それを見たガンツはブルっと震えると近くにいたお父様にこそっと声をかける。
「お前のとこの姫は怖いのぅ?」
「ああ、トール殿の事になると、ちょっと親である私ですら怖い。今回の事もトール殿に舐めた事をした事に実は怒り心頭だ。でも・・・そんな私の娘も世界一可愛い!」
親馬鹿を炸裂させるエルフ王を残念そうに見つめるガンツの後ろにユリネリーが現れ、肩を叩く。
「大丈夫です。私は姫ほど怒っておりませんから、最悪滅ぼそうとか考えておりませんよ。キッカケは最悪でしたがトール様に会える場を用意してくれましたから、ジワリジワリ弱らせていくだけです」
どちらの話もしっかり聞き逃さず聞いていた私はユリネリー女王陛下の言葉を概ね同意だ。
特に兄様に会うキッカケをくれた事だけは感謝しているから私もユリネリー女王陛下と歩調を合わせたほうがいいのかと少し悩んでみる事にした。
「ユリネリー女王陛下、夜逃げのように逃げる貴族達などの対応はどうされます?私のほうは既に草を放ってますが?」
「それは有難いですね。こちらは出入り口になりそうなところを全て抑えてあります。100%は無理でしょうが逃げるを安易にさせないように兵を配置済みです」
私はふっふふっと笑うとユリネリー女王陛下も同じように笑ってくるが、光を宿さない目が笑っていない。向こうも私の笑い声からきっと同じ事を思っているだろう。
私達、2人にとってエコ帝国との交渉など前哨戦でしかない。
本当の戦いは兄様の隣の席である。レパートリーに王族の席は1つで充分であるとお互い思っているのは、はっきりしていた。
この時、2人の頭にはクリミア王女の事は視野に入ってなかった事を仲良く舌打ちする未来があるとかないとか。
「で、どうするんじゃ?お主らが封鎖が済んだという事はすぐに動くということでええんじゃろ?」
ガンツさんはやはり、交渉の仕方が単純ですねっと思う。だが、この裏表のないところが兄様と友達になれる人柄なのだろうと私は少し嬉しく思う。
「いえいえ、私達から乗り込んだりしませんよ?向こうから泣きついてくるか、交渉を持ちかけてくるまで待機です」
私達は侵略者じゃないんですからっとニッコリと笑いかけるとガンツさんに引かれる。
私の言葉をユリネリー女王陛下が継いでくれる。
「そうですよ?私達は自分から謝りに来るのを根気よく待ってあげる心優しい人達なのですから」
「確かに、こっちの義があると言える状態ではあるが、お主らが言うやり方は悪人のそれじゃないのか?」
私はユリネリー女王陛下にそんな事ないですよね?と聞くと、どこがおかしいと言うのでしょうか?っと厚顔無恥な返事を返される。
お父様がガンツさんの肩を叩いて慰める。
「あの2人に一矢報いる言葉など捜して碌な事ないと思うぞ」
ガンツさんはムムムっと唸っていると名案が浮かんだような顔をすると、ドヤ顔して言ってくる。
「今の話を他人に話されても問題ないということかの?勿論、エコ帝国側は論外として身内なら問題ないじゃろ?」
「勿論です。私達は正義で恥じる必要などありません」
そう言って胸を張るユリネリー女王陛下の言葉に私も力強く頷くとガンツさんが被せてくる。
「なら、今度トールに会った時に詳細を伝えておくわい」
私とユリネリー女王陛下は無表情になると阿吽の呼吸で意思疎通をするとガンツさんを挟むように立つ。
「どう言えば、その言葉を飲み込んでくれますか?」
「何をする気じゃ、わ、ワシは脅しには屈せんぞっ!」
「脅しなんて酷いですわ、私は女王として誠意をお伝えしようとしてるだけですのに・・・」
必死の訴えに頑なな態度のガンツさんにショックで泣いてる振りだと気付かれているようで、ワシは泣き真似などに騙されん!と怒鳴られる。
「お父様、3カ国の同盟に亀裂を入れる訳にはいきませんのでなんとしてもガンツさんを説得してみせますので、何か変化があれば、ちょうば・・・説得部屋まで連絡をください」
ユリネリー女王陛下もお願いしますと言うと、ガンツさんを連行して部屋を出ていく。
「ワシは無実じゃ!冤罪じゃ!弁護士を呼べ!!」
ガンツさんの叫び声が廊下に響き渡った。
部屋にいたエルフの近衛兵が私に確認してくる。
「エルフ王、良いのですか?」
「ん?ああ、今は何もする事がなくて待つのみだからね、3人は遊んでいるだけだよ、多分ね」
私が言い切らないところで顔を思わず歪めたがすぐに元に戻してきた。
さて、本当にエコ帝国はどう出てくるんだろうね?娘の言うように仕掛けてくるだけの余裕はないと思うが、窮鼠猫を噛むと言う。
娘はとても頭が切れるがやはり年若い。どうしても経験が足りてない所があるのは否めない。
私の愛する娘の行動をただ見守っていたいと言う気持ちに嘘はないが、保険ぐらいかけるぐらいなら問題はないだろう。
先程、声をかけてきた近衛兵を呼ぶ。
「悪いけど、足の速い馬で走ってくれる兵を用意してくれないかな?行って貰いたい場所があるんだ」
私がそう言うと返事をするとすぐ扉から出ていった。
トール殿のAランク騒ぎの時にひょんなことで知り合った、あの人に頼んでみますか。頼まなくても動いてそうな気がするが、何かあれば、協力を惜しまないと言うこっちのスタンスを伝えるだけでもきっと意味はあるだろう。
これからは若い世代に任せてと言いつつも、こっそり力を貸すのが先達としての義務であろうと思う。
そこで思わず、笑いが漏れる。
「私はまだそこまで、おじさんじゃないつもりだったんだけどね」
いきなり呟いた言葉にびっくりした兵達にすまないと謝ると、送る予定の手紙の製作を開始した。
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