幕間 2代目勇者 後編
昨日、ああは言ってましたが本当に一番長くなったと思います。
いつもより長めで読みにくいかもしれませんがご容赦を。
スッキリしない日々を過ごす内、良く眠れない日が多くなってきていた。
ここ2,3日もよく眠れず、イライラしたので訓練をサボって昼寝でも決め込もうと思い、前から目に着けていた、人目から隠れやすそうな庭園の死角を目指して歩いて行った。
目的地に着くとゴロンと横になると凄く気持ちが良く、意識を失うように俺は眠りについた。
それからどれくらいの時間が経ったのだろうか?
突然、女の短い悲鳴が聞こえてきたが無視してそのまま寝入ろうとすると腹に強い衝撃が走り、腹にあった空気を全部吐き出させられる。
空気を求めて喘いでいると、俺の腹の上にペタンと座っている女というより、やっと幼女と呼ばれるのが終わったぐらいの幼い女がそこにいた。どこのお姫様だ?と言いたくなるドレスを着て、目はパッチリとして愛らしく、瞳はブルーで将来が約束されたような可愛い顔をしている。栗色の長い髪を後ろで二つに分けた髪を編んで降ろしている。出るとこはまったく出てなく、真っ平らで、まあ、この年ならそんなもんかと俺は嘆息する。
俺はいつまで乗ってやがると威嚇する。
「あら、ごめんなさい。あれ?私は貴方を見るのは初めてだわ、お名前は?」
俺の威嚇にも気付いてないかのように、俺の名前を聞いてくる。しかも、こいつは相変わらず、俺の上からどこうとしない。
再び、ガンを飛ばしながら威嚇してみるが暖簾倒しで効果はなく、向こうも再び、名前を聞いてくる。
俺はなんだかどうでも良くなり、名前を伝える。
「トドロキ?長いわね、いいわ、今日から私は貴方の事をロキと呼ぶわ」
俺の威嚇はスルーするわ、俺の名前は勝手に改名するわ、そのうえ、未だに俺の上からどかない、このガキをビビらす為に俺が勇者だと伝える。
しかし、驚くどころか、なんとそいつは喜び話しかけてくる。
「貴方が召喚された勇者なのね。貴方、いえ、ロキにお願いがあるの。私は王の妹のシンシヤ。貴方と同じ年の16歳よ。で、お願いなんだけど、私には城の中で協力してくれる人がいないの。色々調べたい事があっても改竄された情報しか手元にこない。でも、ロキだったら国のしがらみに左右されずに動ける。しかも、勇者としての権限でやりたい放題。これぞ、私が求めていた人材。おおっ、神よ、感謝します」
シンシヤは相変わらず、俺の上に居て、空を見上げて神に感謝を告げているが俺から見て明らかに神なんか信じてないけど都合の良い事を押し通そうという奴がよくやる目をしてるが隠す気がゼロの為、腹が立ったりせず、嘆息しか漏れない。
そんな事より、俺は今、驚愕な事実の波に晒されていた。
俺と同じ16歳だと?俺の心の中は風速50m級の台風に晒され、俺は島で孤立して茫然としているような心境だった。
どう見てもやっと10歳、いや、善処したとしてもやっと中学生といった風のこのガキが・・・と放心している最中もシンシヤは俺に、あれよこれよと話し続けていたが、ここに心非ずといった俺は適当に相槌を繰り返した。
「じゃ、そう言う事で、明日の訓練が済んだら私の部屋に来てね」
そういうと、やっと俺の上から退くが、俺は何の事か分からず、聞き返す。
「さっき、ロキは頷いてたでしょ?私が知りたい事を調べる為に動いてくれるって?」
そんな面倒な事をする必要を感じない俺は、くだらないっと言うと今まで飄々としてたシンシヤは激怒する。
「くだらない?ロキが食べている物はどこからきてると知っているの?今、国民は今日、食べる物もままならない生活をしてるの。誰かに助けて欲しくても誰も助けてくれない。泣いても何も変わらない。助ける義務のある国の中枢の者は自分が肥える事ばかりを考えている!」
その激しい怒りと言葉に俺は打ちのめされた。元の世界で幼かった時の自分の事を言われているかのように思ったのだ。
だからこそ、俺は苦し紛れに、ならお前はどうなんだ?食べる物を食べているだろっと罵る。
しかし、シンシヤは臆せず言い返してきた。
「私が飢えたら、国民の生活が良くなっていくなら、いくらでも飢えましょう。喜んで餓死もしましょう。ですが、私が飢えたところで何も変わらない。私が餓死したら、国に憂う者はどれだけ残り、動けるのでしょう?私が道を作り、どれだけいるか分かりませんが国を憂う者が進む道を歩けるようにするのが私の役目。最初にも言いましたが、今の私は無力です。今もせめて自分で動いて調べようと思って、城からの脱出を図ろうとしましたが、窓から出るのも失敗して落ちる始末」
そういうとシンシヤは上を見上げる。
俺も釣られて見ると丁度俺が寝てたあたりの上の手すりにシーツで作ったと思われるロープが垂れていた。あそこから落ちてきたのだろう。
「お願いです、ロキ。貴方だけが私の思いを形にできる可能性なのです。ロキ、私と契約をしましょう。私が国を立て直す事ができたなら、私の存在全部をロキにあげましょう。私にはこれだけしかありません。お金などや、名誉などを用意したとしてもそれは国から切り分けただけのもの、私の物ではない。これで我慢してくれませんか?」
迷いもない事を言うと思ったら自分の価値では労働の対価に見合わないかもしれないという思いから苦笑いをして自信なさげにするシンシヤに俺は小指を差し出す。
俺の行動が理解できないシンシヤに俺の故郷でやる約束の交わし方を伝える。
「怖い歌ですね。ますます約束を守らなくてはいけませんね」
『指切りげんまん。嘘ついたら針千本飲ます、死んだらゴメン』
そして、指を切った。
俺が家族以外で初めてした約束。そしてこれが最後の約束になった。
それから数か月経ち、俺は普段は真面目に訓練に出て、国の心象を良くし、終わるとシンシヤに会いに行き、頼まれた内容をこなす為に各地を走り回った。
時にはモンスターの群れに飛び込み、住民の生活を脅かすモンスターの駆除をした。不正をする貴族の内偵調査をする為に間諜の真似事をしたり、力づくでやったり色々やっていた。
最近はモヤモヤすることもなく、良く眠れるし、飯が美味いと感じる。
認めるのは癪だがシンシヤと出会ってから世界が優しく見えるようになった気がする。
そして、今日も俺からの報告を聞いた後、シンシヤの方の進捗を聞かせて貰っていた。
「ロキのおかげで、治水工事が進んで、田畑の収穫率が良くなったみたい。すぐに育つ訳じゃないから、飢えがなくなるとは言わないけど、国民に希望の光が芽生えたと思うの。ありがとう、ロキ」
水害の心配もグッと下がったしねっと嬉しそうに言ってくるシンシヤを直視できず、そういう契約だっと呟いて、目を反らす。
「忘れたりしてないわ。むしろ楽しみにしてるぐらいだもの。だから、最後まで付き合って、私を貰ってね」
小指を立てて、約束したでしょ?と微笑まれる。
チラっとしか見なかったのにシンシヤの笑顔を見た瞬間、自分の顔が熱くなったのを自覚した。
更に悪い事にそれをシンシヤに気付かれた事が拍車をかけて、俺は戦略的撤退を余儀なくさせられた。
俺が扉を開けて出ようとした時、後ろからシンシヤに声をかけられる。
「また、明日ね」
俺はその言葉に振り返らず、後ろに向けて手を振るだけして出ていった。
部屋へと戻る道を歩いている最中、自分の口の端が上がっているのを自覚していたが、戻せない、戻す気がない自分がおかしくて更に上げて、自分の部屋に戻るとベットに飛び込んだ。
今夜も良く眠れそうだ。
今から思えば、当時の俺はだいぶ調子に乗って周りの様子に無頓着でありすぎた。だから、俺は失敗した。
シンシヤの政策が国が無視できなくなり、表面上はシンシヤに賛同するようになってきた頃、俺は王であるシャークに呼び出されていた。
「訓練中だったらしいが、悪いな、轟」
俺は気にすんなっと言い、手を振る。シンシヤの用事をやってる最中だったらキレてたかもしれないがなっと心の中で自嘲する。
「訓練の様子を聞く限り、順調に覚醒していると聞いている。そこで他国の事であるが、ある洞窟に住みついたモンスターで困っているから勇者の力を貸してくれと打診があったのだ」
場所を聞くとエルフ国で、少々遠いなっと思った。しかし、ここで俺が直接、恩を俺に感じさせるように仕向けて、シンシヤと交渉になった時に俺の借りを返せと遠回しに言えば、強硬な姿勢は取れなくなると打算を働かせて、受けてもいいと伝える。
王は嬉しそうにしていた。まあ、コイツにも貸しができると思えば、お得だなっと口の端を上げた。
その日の夜、俺はシンシヤの寝室の手すりに降り立つと俺が来た事に気付いたシンシヤが窓を開ける。
「どうしたの?こんな夜に?」
俺が夜這いに来たとか疑わないのかと少々呆れるが、俺がエルフ国の洞窟のモンスターを狩りに行くと言う話を伝える。力試し的な意味もあるようだと伝えた。
「他国とは言え、困っている人を助けに行く意義はあるわ。さすがロキ!いい男ね」
嬉しい事を言ってくれるが打算塗れな俺は正直、眩しくて目を反らした。
よく見るとシンシヤは夜着で少し透けた服、ネグリジェと言ったか?を着ていて、色気出すには早いだろうと馬鹿にする事で誤魔化す。
「私も数年もすれば!」
と、鼻息が荒いシンシヤに無理だなっと斬り捨てて怒らせ、楽しんでから部屋へと戻った。
シンシヤとの夜のふれ合いの次の日に出発したが目的地には2週間かかってついた。
俺一人で向かっていれば、全力でいけば往復3日でいけたものをっと思う。500名の兵を連れてだとどうしても移動距離も落ちる。
一か月近く、シンシヤを1人にしてしまうと知っていたら受けなかったものをと歯軋りをする。
目的地にある洞窟を前にして、着いてこようとする兵達に、お前らは邪魔だから外で待てと伝える。
あれこれと使命やら命令やらと煩いので2日して出てこなかったら好きに入ってこいと言うとやっと黙ったので俺は洞窟に入った。
中にはたいしたモンスターはいなく、さっさと終わらせようと奥に進むと明らかに罠がありますよっといった部屋に入る。
俺は押し通ると決めると床を踏み抜くと落とし穴があった。
躊躇せず、飛び込むと先を行く道が2つに別れる。俺は細い道をあえて選び、出口に到達する。
着いた先は広い場所であった。その真ん中でこれっといった特徴がない老人がいたが明らかにボケたジジイが徘徊してここにいますという選択肢だけは外す必要はありそうであった。
俺が近づくとジジイが腰を深く折って頭を下げてくる。
「初めまして、今代の勇者、轟よ」
見た目に反して若々しい声で呼びかけられる。
「まずは私に貴方に危害を与える気がない事を示す意味でも正体を明かしますので攻撃をされないようにお願いします。私は魔神の手の者です。貴方を勧誘しにきました」
俺は呆れて、馬鹿だろっと伝え、シンシヤを裏切る気がないので聞く耳持たずに剣を抜こうとする。
「まあ、正直、今は聞く耳がないだろうとは分かっておりました。ですが、貴方はまたここに私に会いに来ると予言しましょう。その時にまた会いましょう」
そう言うとジジイは姿が霞んだと思ったら姿を消していた。
もうここに居ても意味はないだろうと思い、戻る道を捜しつつ昇っていった。
戻る道で少し広い場所に出たと思ったらガン首を揃えて兵達が集結していた。
兵の隊長格が前に出ると俺に言ってきた。
「轟様、大変です。シンシヤ様が暗殺されました!」
そう言われた俺は真っ白になり、嘘だろ?と呟くとフラフラと前に行く。
初めて会った時に俺の上でキョトンとしているシンシヤ。
民の生活が良くなっていっているという報告を受けて喜ぶシンシヤ。
俺に幼いと馬鹿にされて顔を真っ赤にして怒るシンシヤ。
俺とした約束が待ち遠しいと頬を染めて微笑んでくるシンシヤ。
様々な顔をしたシンシヤが俺の中でグルグル廻る。
兵達が道を開けたと思ったら後ろからいきなり斬りかかられる。
「お前もここで死んでもらおうか!」
俺の心の中で何かが切れる音がした。
背中を切られるがそれを無視して周囲にいるものをなぎ払う。
俺の思考はすべてシンシヤに埋め尽くされていた。目の前に居る奴らですら、風景でしかない。シンシヤが死んだと聞かされて初めて、自分の気持ちに気付いた。俺はこんなにもアイツに魅了されていたという事に。
だからこそ、シンシヤが死んだとは絶対に認めない。俺はすぐにでもエコ帝国に戻らなければならない。
魔力を全放出させ、500の兵を相手に立ち回りをして、最後の1人の首を刎ねると俺は血の海のようになった場所へと倒れ込み、意識を失った。
意識を失う直前までシンシヤの事だけを案じて・・・
それから、どれくらいの時間が経ったか分からないが俺は目を覚ますと洞窟の奥にいたジジイに介護されていた。
飛び起きようとするが、体が思うように動かず、ベットから落ちただけだった。
「いきなり、動こうとされないほうが良い。長い事、眠り続けていたのだから」
なんとか立ち上がった俺は何日寝てたと聞くと呆れた調子のジジイが言ってくる。
「もうすぐで1年ですよ」
俺は馬鹿を言うなっと叫んで胸倉を掴むが力が入らず、簡単に外される。
「疑う気持ちは分かりますが、外に出て自分自身で調べてきたら良いでしょう」
そう言うと出口を指差される。
俺はふらつきながらも外へ、シンシヤの下へと思い、出口に向かっていると後ろから声をかけられる。
「私は、貴方と初めて会った場所でお待ちしております」
いつまでも待ってろっと捨て台詞を残して、俺は洞窟を脱出した。
外に出るとジジイの言葉を後押しするかのように季節が少し後ろに下がったような気がしたが無視してエコ帝国へと戻る為に歩き始めた。
1週間後、だいぶ体の調子が戻ってきたが、行く先々で、時が流れている事を実感させられる事実が俺を打ちのめす。その中でもシンシヤは生きているという情報は嬉しく思ったが、それに付随してきた話を聞いた時は目の前が真っ暗になる思いであった。
シンシヤが王の指示により公爵と結婚して子を為し、そろそろ生まれると言う話であった。
どうか、嘘であってくれと願い俺は城に忍び込む。
いつも行き慣れたシンシヤの寝室にある手すりに跳び移ると人影が見えた。その人影を見た時、俺はシンシヤだと確信して窓を押すと簡単に開き、入ってくる俺を見て、少しびっくりしたようだが、微笑んでくる。
「やっぱり生きていてくれましたね。良かったです」
俺がここに来るまでに聞いた話をするとシンシヤは辛そうな顔をする。
「全て、事実です。兄、王は私がしようとした政策を全てを認めてやる替わりに王族の義務として公爵の子を生めと交渉してきました。そして、私はその交渉を飲みました」
俺が無事で早く戻っていればとループするが時間は戻ってこない。
「数時間前にその子を産み、初めての授乳も済ませました。私の役目は済んだと思ったらロキが現れて、本当にびっくりしました」
役目を果たしたのなら、もう国にいる必要はない、俺はお前さえ居ればどうでもいい、一緒に行こうと伝えると一瞬嬉しそうにするが涙を流して首を横に振る。
「私は約束を破りました。さすがにアレは怖かったので、これで許してね?」
懐から俺の中指ぐらいの太さのアイスピックのようなものを取り出す。
「約束破ってゴメン、そして、死んでゴメン」
涙を浮かべながらも俺に微笑むシンシヤに駆け寄ろうとするがシンシヤがそれで喉を突くのを止める事に間に合わなかった。
ふらつき、シンシヤに近づくと自分で最後の力で針を抜くと俺に差し出すとそのまま力尽きた。
俺はシンシヤから最後に渡された針を握り締め、夜の首都を歩く。既に誰も道を歩く者はなく、酔っ払いが道端で寝ている者がいたぐらいだ。
シンシヤが頑張った結果、酔っ払う事が出来る程度には生活が向上してきているのだろう。
あんなに優しく見えた世界が今は全てを壊したい物にしか見えてこない。
そう、全てを壊したい、物も人も国も例え神だろうが全てを。
しかし、シンシヤが愛したこの世界を俺が壊す事は許されない。だから、俺は世界を壊す者の手伝いをする事で間接的に壊す事を決める。
世界を壊す者を手伝い、護る。
俺は魔神に手を貸す事にする。
俺は魔神に立ち塞がる者を斬り捨てる。
「世界よぉ、おめぇが俺の行動が間違ってるってぇ言うなら止めてみやがれぇ」
一度、城の、いや、シンシヤがいた場所を振り返ってから、俺は月を眺めて、一言だけ言うと俺の頬から一滴、輝くモノが落ちる。それは俺の最後の良心だと、心に刻むと歩き出した。
俺は振り返る事なくエルフ国のほうへと迷わず歩き続けた。
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