137話 私は・・・リル?
頬を腫らしながらも男前な顔をしつつ、色々育ったテリアが地面に降り立つのを確認したが無重力で降りた感じなのか、揺れなかったのを見た俺は、ちぃっと舌打ちをしてしまう。
『舌打ちなんかしちゃってっ、どうしたの?』
「それだけ育ってるのに揺れない訳がないんだ。魔法による着地などロマンの欠片もないわっ!」
テリアに憑依した謎の人に聞かれて、怯まず俺は言い返す。
「目の前で今か今かと胸がゆれ・・・」
俺がそこまで言うと美紅に右頬を打ち抜かれて、黙らされてしまう。
両頬が腫れ上がってしまった俺は、あの国民的ヒーローの顔を齧られたら力が出ない人のようになってしまって、目だけ相変わらず男前な為、第三者からは哀愁が漂っているのが痛いほど伝わってしまうのが道理だが、ルナ達には効果がなかったようで、俺がジジイを見つめていた時ときっと同じ目で俺を見ている気がする。
「トオル君、今はそんな事を議論している時ですか?胸の事など些事でしょう?違うと言ったら捩じ切りますよ?」
勿論、何を?と聞けるほど俺は勇気がある者ではない。有限の勇気はイザと言う時の為に蓄えておかないとね。
だから、仕方がないんだ。今だけは些事であると認めるしか・・・
「そこを議論しないで生きる楽しみってあるの?俺はないっと言い切るぞ!」
やっぱり俺はオッパイを裏切れない。どこぞの偉い人が言ってた。
『オッパイは人の命より重い』
俺もそう思う、自分の言葉に誇りを持って胸を張るが、正面に立つ2人は、付ける薬はないのかっと苦悩していた。
じゃれ合う俺達を見つめていた、テリアの中の人が不機嫌そうに俺に言ってくる。
『いつまでっ、私をほっとくのかなっ?」
「悪い、悪い。立派なスタイルを見て、思わず、暴走してしまった。わざわざ出てきてくれたという事は自己紹介ぐらいしてくれるんだろ?」
俺にスタイルを褒められて、嬉しかったらしく、あっさり上機嫌になってくれる。かなりチョロイ。
『私はっ!・・・リル、そう、リルって言うの』
明らかに何かを伏せたのが分かるがリルの目が言っている。突っ込むなっと。
『ユグドラシルとノルンと同じと言えば、徹には伝わるよね?徹を見守り、アローラに導くのを手伝った最後の女神よっ』
「つまり、主要人物を除いて俺を見守っていた最後の女神ってことか?」
合計4神いたんだっと俺って凄くない?っとちょっと胸を張りたい気分だった。
リルは、そうじゃないんだなって言ってくる。
『これ以上の神が介入したら不味いから4神に絞られたのよっ。徹を見守っている女神はもっといるわっ』
マジで?俺って人間の女の子にもそんなに注目浴びた事ないけどぅ?自分で考えてるだけでヘコんできた。
『私は徹になんか興味もなかったし、暇な時に眺めるぐらいだったからっ、本当は来たくなかったんだけどぅ、会いに来てあげたんだから感謝してよねっ!』
「来たくなかったのか、すまんな。わざわざ、俺なんかの為に」
俺は内心でヘコんでいるところだったから、本当にヘコんでいると分かるレベルで表情に出てしまう。
慌てたリルが言ってくる。
『ほんのちょっと、そう、ちょっとだけ、私も興味はあったわっ』
指でどれくらいって感じで知らせてくるが、俺はヘコミ中の為見ていなかった。
その仕草を見ていたルナがリルに言う。
「とっても大きなちょっとなの。そんなに指を限界まで開いて、よく、ちょっととか言えるの」
『やんのっ?』
ルナとリルが臨戦状態に突入するかと思われた時に美紅が介入する。
「リルさんがトオル君をどう思っているかというのは、どうでも良いので、話を進めて頂けませんか?その為に出てこられたのですよね?」
美紅はルナに素直になれないならなれない内に話を済ませたほうがいいですよっと徹以外には聞こえないように意図的に伝える。
『やってやるわよっ!』
3人がキャットファイトで済まないレベルの喧嘩を始めようと戦闘態勢に入ったところで殺気による反動で俺がヘコミから我に返った。
えっ?何これ?俺がヘコんでる間に何が起こっているの?
怖いが戦闘が始まってから止めるのは無理だし、この里が消えそう。喧嘩は売られそうだが、まだ売られてない。売られたら買う気ではあるが、未だ不透明であるから、今は守る側に廻ろう。
何より、始まったら、俺にとばっちくりが来るとカンに頼らなくても分かる。
「なんで、喧嘩みたいになってるの?止めて、話し合いを再開しようぜ?」
「ほっといて欲しいの徹。今、私達は女として譲れない戦いをしようとしてるの」
ルナの言葉に美紅もリルも頷く。どうしてそういう所は息が合うのか・・・
なんとなく、止めるの無理そうだなっと思い、避難先を探しながらなんとなしに呟く。
「お前ら、基本的に可愛い顔してるから、今の顔を鏡で見たら引くぞ?女の戦いの為に可愛い顔を犠牲にしてるぞ?」
お、あそこの岩を魔法で強化して避難場所にしようっと決めて、避難すると3人の間に殺気が消えていた。
おや?っと思って、様子を窺うと、
『ごめんねぇ?久しぶりに身内以外の人と接したものだからっ、緊張して酷い事いっちゃって』
「いえいえ、私達も突然出てこられて、びっくりして礼を失してました」
ごめんなのっと美紅の後に続いて、にこやかに頭を下げるルナ。
あれ?俺が避難した、僅かな時間で何が起きた?視線を避難先に固定していたから状況が分からないが、穏便に済むならそれに越した事がないので、とりあえず、3人の下へ帰る。
「なんか分からんが仲直りしたのか?」
「いえいえ、私達は喧嘩なんてしてませんよ?」
美紅の言葉に頷く2人。
嘘付け、明らかに頂上バトル一歩手前だっただろっ!と叫べたら俺は最強の称号を手に入れる事になるだろう。
え?勿論、最強などに憧れませんから要りませんよ?決して怖いからではありません。
「徹、徹、私って可愛いの?」
ルナが可愛さをアピールするように聞いてくる。
「ん?ああ、そうだが、そうやって強調するより、普段の喜怒哀楽してる、素のお前らのほうがいいと思うぞ?」
少なくても、さっきのなしの方向でなっと胸中で呟く。
『徹ったら、正直さんなんだからっ~』
「いや、さすがにリルに言った評価はテリアに向けてるからな?俺はリルの姿を知らないからな」
俺は女心が分からない発言と湿気た導火線に火をくべるような事をする。
しかし、リルは怒った様子はなく、ああっ!っと言って掌を叩いていた。
『私とテリアは、ユグドラシルとティテレーネの関係と同じなの。テリアの成長した姿、つまり今の姿が私の姿と言って間違ってないわっ」
耳と尻尾が違う種類ということぐらいしか違いはないわって言ってくる。
当然、俺は疑問に思った事を聞く。
「どう違うんだ?なんとなくイメージ的に、おお・・・」
『徹?カンが良すぎるのも時と場合により、命を縮める事があるかもしれないわよ?』
抑揚のない声に俺は恐怖した。
ヤバイ、マジで命の危険な香りがするやん!
「とりあえず、話を再開しましょうか。わざわざ出てこられたのですから、何か伝えようとされているのですよね?」
美紅の絶妙なタイミングで会話を噛ませてくれて、俺の命が救われたようだ。
死の香りが遠のいたので、俺はほっとして話を聞く体勢になる。
『残念ながらユグドラシル達と同じで多くは語れないのだけどっ、伝える事が2つあるわっ』
リルは指を2本立てて言ってくる。
指を一本折る。
『まずは補助をした女神に全員に会ったから、徹は主導した者に会えるようになったわっ。会う為の方法を教えるわっ』
ついに俺をこのアローラに呼んだ神と会い、疑問に思ってた事をぶつける機会がくるのかと俺は胸を踊らせた。
勿論、こんな状態のままで帰らせてくれと泣きつく気はないが、魔神の件が済んだ時に選べる選択肢として元の世界に帰るという方法があるのか知りたいと思う。
自分の事ではそれだが、自惚れが過ぎるかもしれないが、相当数の女神に見つめられているというのも何が基準か分からないが好感を持たれているというのもあるのだろうが、きっとそれだけじゃないはず。
それだけじゃない部分の答えもその時に知る事ができると俺は心のどこかで確信していた。
『その場所はエコ帝国の地下祭壇。勇者が召喚される場所です。美紅はどこか分かってますよねっ?そこの魔法陣を破壊すれば会う事ができます』
美紅の表情が一瞬歪むが、頷く姿を見つめる。
まあ、気持ちは分かった為、美紅の頭を撫でて慰める。
「大丈夫です、トオル君。むしろ、破壊する理由ができて、すっきりしてます」
照れた笑顔を見せて強がっていると分かっている俺は、ああっと言いつつも頭をそのまま撫で続けた。
『2つ目ですが、これを詳しく話してあげたいっ。だけど言えなくてごめんなさい。最初に謝っておくねっ」
リルは悔しそうに呟く。
俺は仕方がないさっと苦笑いしながら、話を促す。
『徹がこれから会いに行く、エクレシアンの女王。多分、徹達が思っているような存在じゃないっ。確かに初代勇者が会うのを勧める意味は確かにあるのは間違いはないけど、決して味方だと思っちゃ駄目っ』
会う必要性はリルも認めるところのようだが、味方だと思ったら駄目だというのはどういうことなのだろうか?
ルナ達も難しい顔をして聞いている。
今、気付いたがルナはエクレシアンの女王の事を知らないのはどういう事だろうか?知ってておかしくないはずだと思うが、ルナスペックなら知らなかったと言われたら納得してしまうところが恐ろしいところでもあるが。
知ってたらとっくの前に話しているだろうし、知られている事を隠す必要がなくなるからユグドラシル達も話をしてくれていただろう。
気付くとリルの表情に余裕がなくなりつつあった。
『ごめんっ、そろそろ出ないとテリアの体が持たなくなるっ。徹、心で負けないで、私達はいつでも貴方を見守っている。貴方が描く世界、道を見失わないでっ』
現れた時のように光り輝き出す。
光の中で徐々に縮む体を眺め、手を伸ばすようにして膝を付く。
テリアが元の姿になった時に俺は両手を地面に着けて慟哭する。
「俺のドキドキが死んだっ!!!」
表情が死んだテリアに俺の頭を踏み抜かれた。
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