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134話 いきなり躓く俺達

 華麗な戦略的撤退を決めた俺達は、テリアと合流する為に馬車に乗って予言の一族と言われるテリアの故郷である集落を目指した。

 行く途中でグリードとの対決をした場所を通りかかった時、美紅が馬車を止めてくださいと言うので俺は馬車を止めた。


「まだふっ切れないないか?」


 俺がそう言うと、静かに黙って首を横に振る。


「確かに、あの人は私にとって恐怖の象徴でした。ですが、それをトオル君により削ぎ落とされるとなんてみすぼらしい人なんだろうと思ったのと同時にこの人も虚勢を張って生きてきたんだなって思いました」


 エリートコースに乗ったと思ったら、存在が化け物みたいなミランダの登場により全てを凌駕され、プライドもズタズタにされたのは考えなくとも分かる。が、その後の行動を容認する話とは別物だ。


 美紅は苦しそうな顔をして続けた。


「私も常に虚勢を張ってなんとか生きてきただけな気がします。あの人と違って強気に出るというやり方と違っただけで私とあの人はどれくらい違うのでしょう?」


 その言葉を聞いたルナは消沈している。

 やれやれ、この2人は本当に馬鹿だ。どうせ、ルナは勇者としての召喚云々とかきっと考えて、あれさえ無ければ元の世界でとかというループに入っているのだろう。

 美紅も美紅だ。どこが違う?決定的に違うって事に俺が気付かせないといけないようだ。


「グリードはな、自分の境遇の理由や責任を他人に押し付けたんだよ。それが小さな頃の美紅にしたような事だったり、人を陥れて、そいつより高い位置に自分がいると酔いたかった。だが、美紅はどうだろうか?自分が受けた思いを他人にさせないように歯を食い縛って生きてきたんじゃないのか?」


 よくいる、誰かに苛められたから俺も苛める側になるとか腐った理由と同じようなものだ。気持ちは分かるが、それをやったからといって何が好転するのかという事だ。まあ、グリードの場合、逆恨みという更に残念度を上げる要素があったが。

 そこで我慢したのが美紅だ。そういう事を偽善だと言うが、苛める側に廻れたとして、周りに理解を得ていけるだろうか?転落した瞬間、一気に距離を置かれるのは目に見えているだろう。

 だが、そこで我慢しただけでは、何も変わらないだろう。周りに優しくできて、距離を近づけていけた者だけが認められるチャンスを得られる。

 残念な話だが人の縁を掴み損ねると悲しいが少数はともかく多数の理解を得れない事もあるが、苛める側で失敗して転落した時ほど酷い状況にはならないであろう。

 だが、美紅にはその縁、引き寄せる運があった。

 俺の言葉に美紅は顔を上げないが俺はそれを無視して独白を続ける。


「なぁ?美紅。お前の不幸ってどこからどこまでなんだ?小さい時に境内で俺と会った時か?勇者として召喚された時か?それともルナと出会い、俺と再会した時か?」


 俺の言葉に劇的な反応を見せる。それは激しい怒りに似た激情だった。


「そんな事がある訳がないじゃないですかっ!!初めてトオル君にあったという出来事は幸せに決まってます。トオル君と再会してルナさんと出会い、友達になれて幸せです!」

「じゃ、それでいいじゃないか?」


 美紅の激情をサラッと流すと俺は何でもない事のように言う。

 そんな俺の態度に肩透かしを食らったかのような美紅はキョトンとしていた。


「グリードは美紅のように幸せと言えただろうか?多分、言えなかったと思うぜ?言うとしたら、アイツよりは不幸じゃないって言い方が精一杯だっただろうな。グリードは最低な状態を回避するだけの為に最高を得れる機会を捨てていたんだ。美紅にとって俺の知らない10年はきっと最低だったんだろう。だが、それに耐えたからこそ、幸せといえる機会を得れた。それなのに、どこが違うのだろうだって?俺は大違いに見えるけどな?」

「私は幸せと言える機会を得れた・・・そうですね。私はあの人とは違ったようです」


 涙ぐむ美紅を見つめるルナの後頭部を叩くと、恨みがましい目で睨まれる。


「前に話をしたろ?美紅と友達になったのを後悔しているならって話、もう忘れたか?」


 ルナは、あっと呟くと今、思い出したとばかりに、大きく口を開けて固まる。


「思い出したら、こんなところで指を咥えて見てる前にする事があるんじゃないのか?」


 ルナは頬を赤くして、徹の馬鹿っと言うと美紅の傍に行くと抱き締めると2人して泣き始める。

 俺は苦笑すると再び、テリアの下へと向かう為に馬にムチを入れた。




 それからしばらくすると打ち合わせの時にテリアから聞いてた通りで渓谷に一本のつり橋がある前に関所みたいな場所に到着する。


「話には聞いてたけど、普通に入ろうとするとあそこの関所を越えさせて貰わないと入れないってのはよく分かるな」


 あそこにいる人達を一瞬で殲滅しないと橋を切られたら入れないからだろうなっと思う。まあ、俺みたいに飛べるとどうにもならんとは思うが。


「でも、テリアちゃんから話がいってるはずだから通れるんですよね?」


 気持ち良いぐらい泣いた美紅は立ち直ったようでいつもの感じで聞いてくる。

 俺はそのはずだっと頷くと関所に向かって歩き出した。


 ある程度近づくと兵士ぽい人に止まれっと言われたので敵対する気がない俺はおとなしく止まる。


「そちらの集落に住んでいるテリアという少女の紹介で俺達はやってきた」


 少し離れた所から声を大きめに意識して伝える。

 その言葉を聞いた兵士ぽい人は顔を顰めながら言ってくる。


「テリア様に人の知り合いなどいる訳がないだろう!引き返せ、帰らないというならこちらにも考えがあるぞ!」


 ん??テリア様?、それも疑問に溢れる問題だが、俺達が不審者扱い?テリアから話が通っているはずとばかり来たから対応に困っていると、


「どう言う事なの?徹」


 そう聞かれるが俺が聞き返したい。


「この先は予言の一族と言われる集落がある場所で間違いないんだよな?」

「そうだ、しかし、無理矢理通るつもりならこちらにも覚悟があるぞ!」


 なんであんなに喧嘩腰なのだろうっと俺は困るが、これ以上、下手に言い合っても良い事がないと判断した俺は提案してみる。


「俺達も状況がさっぱり分からなくなってしまったから一旦、この場を離れて状況整理をしてくる。そちらも頭ごなしに知り合いな訳がないと言い切らずに俺の事をテリアに確認してくれないか?俺の名前はトールって言う。また夕方に顔を出すからそれまでに確認してくれないか?」


 返事もせずに剣に手をかけて、こちらを睨む兵士に希望薄だなっと項垂れながらも俺は一旦、この場を離れる。



 一旦、俺達は離れたとこに停めてあった馬車に戻ると、本当に状況確認をはじめた。


「困ったな、こういう感じになるという話はまったく聞いてなかったな」

「徹が場所を間違ってたり、聞き間違いはないの?」


 俺は頭を掻きながら、答える。


「俺も最初はそれを疑って、兵士に聞いてただろ?この先は予言の一族の集落ですか?って、だから、間違いなく、ここが目的地であるのは間違いないと思うんだ」

「そうですね。しかもテリアちゃんも存在するようですけど、様ですか。結構、色んな事を隠しているとは思ってましたが、只の村人じゃないようですね」


 美紅は頬に手を当てて、困りましたねっと呟く。

 勿論、力づくで通るのは簡単だ。しかし、無駄に敵を作る方法からやるってのも問題だが・・・

 正直、あの兵士の様子を考えると嫌な予感が止まらない。


「テリアに確認取って貰えば問題ないの!」


 ルナが何も考えてなさそうな顔をして言ってくる。

 そうあって欲しいが、現状、それが行われる可能性が一番低く感じている俺がいた。


「とりあえず食事でもしてノンビリ夕方まで時間潰そうか」


 2人は俺の言葉に頷くと食事を用意して済ませると夕方までノンビリと3人で過ごした。



 空が茜色になる頃、俺は告知通りに関所に顔を出すとげんなりとする。


「賊めっ!また性懲りもなく戻ってきたな!剣の錆にしてくれるわっ!」


 勢いの乗った先程の兵士が剣を抜いて待っていた。

 待っていたのはその兵士だけではなく、50名ほどの同じような格好をした者が後ろに控えている。


「テリアに確認してくれたのか?」

「わざわざ、テリア様に確認する必要などない!」


 仕事しろっ!っと思わず、怒鳴るとやるのかっとビクつく集団を見て嘆息が漏れる。

 拉致があかないと判断した俺はほんのちょっとだけ目の前の奴らに威圧をかけてみる。

 すると、目の前の集団は蒼白な顔をして腰を抜かす始末。


 あかん、これは、実力差があり過ぎて、下手に手を出したら、魔王降臨のような扱い受けそうだ。

 俺が困っていると俺達に声をかけてくる人物がいた。


「そこまでにして貰おうか!」


 困った顔をしたまま、声がする方を見て、俺は目の前の奴ら以上に困って溜息を吐いた。

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