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128話 謳われる物語

 徹が絶妙なタイミングで落ちていったのを空気の流れから理解したユリネリーはクスっと笑う。勿論、そうなると分かってやった訳ではないが、顔を触っているだけで赤面して頬に熱を持つほど照れる徹が余りに可愛く思え、つい、悪戯心に火が点いてしまった。

 年も徹と1つ違いの16の少女、いくら統治者として振る舞っていても、まったく隙を見せないのは無理な相談だ。

 実のところ、翻弄したように見えて、されてたのはユリネリーの方であった。何度も、統治者としての仮面を剥がされ、年相応の女の子に戻されを繰り返していた。

 徹は、僅かにみせる隙を凄腕のヒットマンのように打ち抜いてくる。狙ってやっているなら防ぎようもあるのだが、本当に天然でやってくるから堪ったものではない。

 その性質の悪さは、されて楽しいと思わされるところにある。


「次はいつ会えるでしょう・・・」


 思わず、呟いた言葉に気付いたユリネリーは聞いている者がいないのにも関わらず、口元に手を当てて、1人で自爆して赤面してしまう。

 全てはトール様が悪いっと呟き、機嫌の悪そうな顔をして人を呼ぶ為にベルを鳴らす。

 入ってきたメイドがユリネリーの機嫌がすこぶる悪そうにしているのを見て、怯えてしまったメイドに必死に言い訳するハメになり、今度は胸中で徹を罵るのであった。

 持ち直したメイドに自分の側仕えをしてくれている2人を至急呼んで貰う。


 そして、やってきた側仕えが来ると前フリを省いて、単刀直入に話を始める。


「貴方達には秘密裏にエルフ国とドワーフ国への使者になって頂きます。すぐに各国への書簡を作成に入ります。手伝ってください」


 そういうユリネリーに一切の疑問も挟まず、跪く2人の青年は、ただ、ハッといい、頭を下げるとすぐに準備に取りかかった。


 それから2時間後、2人は各国へ進路を分かれてユリネリーの書簡と徹の手紙を大事にしまい、獣人国の未来を決める場に立ち会うと知らずに替え馬を用意して出発した。




 使者が各国に向かっている頃、ルナ達はドンドン増えてくる人が起こす事件を時には未然に、時には起きてから真相究明に大忙しの日々を送っていた。



 ルナさんが、ボヤ騒ぎを起こそうとしてたエコ帝国の近衛騎士の工作員を蹴り飛ばしていた。

 段々、打てる手が無くなってきているのか、やり方が強引で、尚且つ、手口が使い回しになってきているように思う。最近だと、火事、口にする物の水や食べ物を使い物にならないようにするという手を交互にやってきている。


「また、火事を起こそうとしてたのぴょん。そんな分かりきった方法で人に不安を煽れるのぴょん?」


 それを丁度、私も思っていた。向こうにしても、もう読まれている手を使い続けても、無駄だと気付いているだろうにっと頭を悩ます。


 ルナさんに昏倒させられた工作員はいつも通り獣人の方が冒険者ギルドへと連行して行くのを眺めていると獣人さん達の言葉の中でルナさんに僕も蹴ってくださいっと叫ぶ人がいたのに気付き、獣人さん達はもう駄目な人達かもと最近思い始めている。

 まあ、冗談ではなく本気で言っている人はいるが、そこは放置するとして、いくら私達が解決にあたってるとは言え、これだけ人による事件が起きているのに不安にはならないのであろうかと真剣に考えてしまう。


 自分達のやっている事は無意味とは言わないが成果が余りないのではないかと疑心暗鬼になりかけている時、城のほうから爆発が起きた事に気付く。

 油断して裏をかかれたのは自分達だったと気付いた私はルナさんを見ると頷かれて、城へと目指し、走り出した。


 城の門の前に到着すると爆弾らしきものを抱えた偽装する気も既にないのか、付け耳も着けずに特攻している姿があった。

 私達は急ぎ、魔法で止めようと思ったが、打てば、門の前で迎え撃とうとしている獣人さん達に当たると攻撃を躊躇っていると特攻してくる人を抱えると城の堀に飛び込む獣人さんがいた。

 爆発は起きるが水の中で起きたので周りには被害はなさそうだが、音による衝撃で犯人はともかく、獣人を心配した。


 ルナさんは最初の爆発に巻き込まれて怪我を負っている人の怪我を癒す為に魔法を唱えに、私は堀に飛び込んだ人を助ける為に同じように飛び込むと意識はあるが思うように泳げないようだが、冷静に浮いて救助を待っていた。


「大丈夫ですかニャ?すぐに助けますニャ」

「ありがとう、助かるよ」


 返事もしっかりした声で返してくるので安心して、抱えて堀を飛び出し、獣人の男性の容体を確認して自分の回復魔法でもなんとかなると判断した。


「有難うございますニャ、おかげでお城に被害はなかったですニャ。ルナピョンほど上手くないけど魔法をかけますニャ」

「待ってくれ、褒めてくれるなら頼みたい事があるんだ」


 私は首を傾げて回復させようと手を掲げたまま、動きを止めて続きを聞く。


「ご褒美にその肉球グローブで殴ってくれないか?」


 爆弾の衝撃で撹乱していると信じたいが自分を騙せない。

 私はやっぱり、駄目な人達だと再認識した。

 白い目で見られていると分かっているのに嬉しそうにしてるこの人はもう手遅れな人だと思い、沈痛な表情をしていると私の対面に大勢の獣人の男性が集まっていた。

 不思議に思い、眉を寄せていると、先程、殴ってくれっと言ってた獣人さんがサムズアップして良い顔して伝えてくる。


「飛び込んだ時にずれたビキニが見えそうで見えない絶妙さがセクスィー♪」


 私は黙って、ビキニの位置を直すと、ニッコリと笑いかけ、躊躇もせずに飛び込んだ獣人を中心に集まってた人達にインフェルノを打ちこんだ。


 トオル君、予定より進行が早そうです。いつまで私達で防げるか分かりません。お願いです。急いでください!

 明後日の方向を見つめ、この場にいないトオル君に届けと願った。


 後ろで阿鼻叫喚の光景のはずなのに、ヒャッハー、ご褒美だっ!!っと叫んでいる人達を見つめるルナさんに見てはいけませんと私は注意をした。




 それから日が経ち、使者の1人がエルフ国に到着すると疲れた体にムチを打って、謁見を求めると、書簡と手紙を見せると特に手紙のほうを見た兵士は目を剥いて、使者である私を放って、中へ走っていく。相方の兵士は事情が分からないようだがフォローのつもりか、「少々、お待ちください」っと言ってきた。


 とりあえず、待つしかない私は、いくらでも待ってやると使命に燃えたが、肩透かしを食らう。

 走っていった兵士が帰ってきたと思ったら、こう言ってきたのだ。


「すぐにお会いになるとのことです。書簡とお手紙をお返しします。案内をさせて頂きますので着いて来てください」


 書簡を開けたのかと失礼な奴らだと思って見るが、開けた形跡もない事に驚く。

 私は疑問に思い、普通は聞く事はない事である事を承知で、歩きながら兵士に聞いてみた。


「どうして、すぐに会って頂ける事になったのですか?」


 ああ、それは疑問に思われるでしょうねっと笑顔を向けられる。


「その手紙を書かれた方が寄こした人を無碍にしたと知られたら、エルフ国では袋叩きにあいますよ。その方は私達にとっての救世主でとても返せない程の恩を受けているのですよ、この国の者は」


 それに下手に敵に廻さなくても侮辱したら、あの悪魔の2人がやってくると思ってますからねっと笑われる。

 余談だが、エルフの子が悪さをすると悪魔の2人がやってくるぞっと脅し文句に使われているという。

 その悪魔の2人が今は獣人国でアイドル状態である事をお互い知らないのは幸せな事であった。


 謁見の間に着くと扉の前の兵士に案内してきた兵士が頷くと開門っと叫んで扉を開けると重鎮達が勢ぞろいしてるのではっと思えるほどの中を歩かされ、真ん中あたりまでいくと膝を付き、頭を垂れる。


「この度は、急な・・・」

「今回は、そんな挨拶は結構です。お急ぎなのでしょう?書簡と手紙を見せて頂けませんか?」


 顔を上げると緑の髪を身長ほどの長さまで伸ばした、オッドアイの少女がエルフ王の隣で座りながら言ってくる。

 あれが宣託の巫女かと見惚れるが我に返ると書簡と手紙を両手で膝を着いたまま掲げると、年の若そうな宰相、あくまで宰相としては若いというだけで既に中年のようだが、私から、書簡と手紙を受け取ると書簡を王へと手紙を宣託の巫女に渡す。


 王は書簡をザッと読んだだけといった感じですぐ読むのを止める。表情も特に変わってないところを見て、困難で繊細な交渉になるかもと戦慄に襲われるがよく見ると王は宣託の巫女が熟読している手紙のほうに興味津々のようだ。


「ティテレーネ、早く私にも読ませてくれないか?」

「もう少し、お待ちください。後、3回読んだら渡してあげます」


 我らの女王の書簡より、誰の手紙か分からないが建前すら無視して優先順位を高くするとは侮辱されたと思った私は意を決して言う。


「失礼、書簡の返事を頂いてもよろしいでしょうか?」


 私の苛立ちを理解したようだがまったく動じた様子も見せずに宣託の巫女は言ってくる。


「あら、失礼しました。宰相。例のモノを使者さんに渡してあげてください」


 宰相は、一礼すると私に書簡を渡してくる。

 私は状況を読めずに、礼を失していると分かっていたが聞き返す。


「これは?どういうことですか?」

「獣人国はエルフ国、そしてドワーフ国と同盟を結びたいと書簡を送られてきたっという事で間違いありませんよね?」


 私はそう聞いてますっと答えると、宣託の巫女は笑顔を向けて言ってくる。


「それはその返事です。同盟の件、了承しました。そして、ドワーフ国の兵士と共にエルフ国の兵士も一緒に伺いますっと書かれてます」


 私は驚愕していると、宣託の巫女と静かに手紙の取り合いをしてた王が締まらない状況で真顔で言ってくる。


「私の愛娘は頭がとてもキレる。特にトール殿が絡むとまさに神がかったかのように先読みが恐ろしいのだよ」


 既にその可能性を考えて、動いておるよっと言われる。


「既にドワーフ国とは話し合いが済んで、エルフ国の兵士500名を既にドワーフ国に駐屯させて頂いてますので、ごゆっくりと帰られても問題ありませんよ?」


 ドワーフ国に使者がきた時点で動くように指示してありますっと言われ、驚愕を通り越えて、呆けてしまった。

 この宣託の巫女が敵じゃなくて良かった、同盟を組めて良かったと胸を撫で下ろしたタイミングを狙った如く、言ってくる。


「これだけは覚えて置いてください。兄様、トール様を敵に廻した時、獣人国の前に私が立ち塞がる事を」


 とても幼い少女がする笑顔とは思えないほど完璧なものを見せられて、形式だけではなく平伏させられた。

 この事実は絶対に女王に伝えて、一考して貰わないと駄目だと自分の命を代償にしてでもっと心に誓うが、それは無駄な努力で終わる事になる。



 使者が出て行くのを見送ると私は手紙をお父様に渡すと、呟く。


「兄様、とうとう、貴方を知らない人がいなくなるほど、有名人になってしまいますね。その有名になるキッカケが自分じゃないのは納得したくはありませんが、兄様のみんなが語る物語の始まりの時です」


 そう、徹は今回の件でアローラの全ての人々と言っていいほどの人達に認識される事になる。一方的なエコ帝国の横暴を阻止した者として世界中から注目されるが、3カ国を纏めた頭の悪い少年が動いた理由が自分の仲間、家族と呼ぶ小さな少女の苦しみを除き、立ち直らせる為に奔走した結果と言う事は歴史の影に埋もれる事になる。


「絶対にキッカケは表に出してなんかやるものですか」


 案外近いところの権力者によって闇に葬られるのかもしれない。

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