125話 バーバラのエルザ
ルナと美紅がバーバラで正義の味方を頑張っている時、俺はバーバラの冒険者ギルドにやってきていた。
中に入るとやはり獣人国だけあって、周りを見渡しても獣人ばかりである。自分に素直な気風があるのか、女の子に積極的に声をかけている男の獣人が目に付く。
最初は気にしてなかったが途中でオヤ?って思ってしまう。
気付いた事を考える前に受付に着いてしまい、どこに並ぶかと見渡す。勿論、俺の基準はアレだ。忙しなく見渡すが一向に目に留まる者がいない・・・
さっき思っていた事が原因かと愕然とする。
獣人は貧乳がステータスのようだ・・・だからルナ達があれほど人気が出ているのかと本人に聞かれたら三途の川に送られるのが確定しそうな事を考える。
そうなるとどこに並んでも同じだと溜息を吐いて、一番空いている場所に並びに行く。
おとなしく並んでいるとやっと自分の番になり、シーナさんから受け取った紹介状を受付嬢に渡したところでいきなり肩を掴まれ、後ろに引っ張られたので後ろを見ると大柄な男、どうやら熊の獣人らしい男に顰め面され、怒鳴られる。
「どけ、俺様の用事を先に済ませる。お前は後ろで待ちやがれ、人間の小僧っ!」
「なんだ?緊急の報告でもあるのか?」
怒鳴られても平気な顔をして返事をしてくる俺を見て不愉快なのか、顔を近づけてきて、威嚇してるつもりかガンを飛ばしてくる。
「駆け出しの小僧がCランクの俺様に楯突くんじゃねぇよ」
「ランクは関係ないだろう?順番は守るのが当たり前だ。それにCランクって低い方だと思うからあんまり誇示すると恥だぞ?」
俺が当たり前の事を伝えるとキレた熊の獣人が殴りかかってくるのを避けて、俺がルナにたまにされているアイアンクローをプレゼントする。
酷い痛みのせいか、悲鳴を上げる、あがががっと言いながら必死に俺の手を外そうとするので、列の後ろの位置に目掛けて投げ飛ばす。
「順番は守れよ、それがマナーだ」
そう言うと俺はその獣人に興味を失くし、頬を赤くしている犬の獣人の(今度はきっと間違ってないはず)受付嬢にさっさと処理してくれっと紹介状の手続きを急かした。
俺の言葉で我に帰った受付嬢は紹介状を確認し出した時、さっきの獣人が再び襲いかかってきた。今度は得物、斧を使って襲ってきたので手首を掴み、斬りかかれないように抑え込む。
「あんまり聞き分けが悪いならこっちにも考えがあるんだぞ?」
少し強めの威圧をかける。熊の獣人はブルブルと震えて、顔を青くして、ついには漏らしてしまう。俺の視界に入っている奴らにも影響が出てしまって、腰砕けになって座り込む輩が出た事に気付き、威圧を引っ込める。
「申し訳ありません、トール様。ギルド長の紹介でこられたお客様であるのに、こちらの冒険者が粗相してしまい、謝罪します。ズンさん、貴方が喧嘩売ってる相手はクラウドでギルド長の覚えも良い、Aランクの冒険者ですよ?」
俺の紹介状を処理していた受付嬢が謝罪してきた。
そう説明されて、周りから羨望と畏怖の視線に晒される。
「あんまりそう言う事を吹聴しないでください。ランクなんて、どれだけ仕事したか、どういう仕事をしたかという意味ぐらいしかないんですから」
俺は困った顔をして言うと受付嬢、いや、この場に女の子から熱い視線を寄せられているような気がするが、きっと気のせいだ。もう俺は以前の俺じゃない、俺ってもててるの?っと言って、理沙にハァ?っと冷たい目で見られたあの頃のように勘違いなんてしない。
自分の黒歴史を思い出して、落ち込みかけるが、気合いで持ち直す。
「とりあえず、被害はないので気にされなくて構いませんよ。それでバーバラのギルド長に取り継いで頂きたいのですが良いですか?」
「はい、すぐに確認してきますので、少々お待ちください」
そう言うと犬の獣人の受付嬢は席を離れると急ぎ足で奥へと向かって行った。
待っている間、手持無沙汰になって周りを見渡すとさっきの熊の獣人が出口を飛び出す姿が見えたがそんなに慌てなくても何もしないのにっと溜息を吐いたと同時にお漏らししたから慌てて帰ったのかもっと気付いて、ちょっとだけやり過ぎたかもと反省した。
眺めていると後ろから声をかけられ、振り返るとオッパイがあった。どうやら、俺はオッパイに声をかけられたようだ。なんて光栄なのだろうか。呼ばれたら近くに行くのが礼儀。
俺は迷わず、立派な渓谷を覗き込む。
「俺を呼びましたか?」
「お前は誰と話をしている?こっちだ」
どうやら見てるところが違うようだ。あ、分かった。もっと深い所に居られるのだっと天啓が閃く。
ちょっと失礼してっと声に出して、柔らかいモノを掻き分けて奥を目指して再び、声をかけるがまた違うようだ。どこだ?っと言いつつ顔を左右に振るととても幸せな感触が包まれる。
もう、自分が何をしたかったとかどうでも良くなってきた頃、上から硬いモノで叩かれ、地面に叩きつけられる。
俺は跳び起きて、辺りを見渡す。
「俺は何をしてたんだ?」
「アタシの肘をまともに受けて、なんともないとか、さすがその若さでAランクになっただけはあるようだね」
再び見るとやはりオッパイ・・・力づくで俺は上に視線を上げさせられ、見ると呆れた顔した姐御と呼びたくなるような虎の獣人の女性が俺を見ていた。
俺より頭1,2個高い身長の女性だったせいで俺の視線の高さではオッパイさんしか見えなかったようだ。
「あ、ギルド長、その方が面会希望されてます」
奥から走ってきた先程の犬の獣人の受付嬢が言ってくる。
なんだと?この人がギルド長なのか?クラウドのギルド長とトレードできないだろうか?こんな素晴らしいオッパイの持ち主がギルド長なら仕事やる気が200%アップ間違いなしなんだが・・・
「ああ、分かってる。ギルド長室で話を聞く為に連れていくからケイトは仕事に戻ってくれ」
はい、と言いつつもちょっと残念そうにしているように見えるケイトさん。
ギルド長は着いてきなっと俺に言って歩き出すのを見て、おとなしく着いて行く。
ギルド長室に着くと扉を開けて、入んなっと言われ、素直に部屋に入る。
中に入るとギルド長は自分の椅子に座るとソファに座るといいと言われ、俺が座ると自己紹介をしてくる。
「アタシがこのバーバラの冒険者ギルド長のエルザだ。よろしく頼むよ。エルフ国の救国の使者さん」
俺は自分の事を知られていると思ってなかったからびっくりしてしまった。それがはっきりと顔に出てしまったようで笑われる。
「正直、素性は自分から伝えないと知られる事はないかと思ってました」
「まあ、報告で聞いている範囲でもアンタはどうやら自分の事を過小評価する傾向があると聞いてたけど本当のようだね。冒険者ギルドと言っても他国の事になると情報に疎いここですらアンタの事は有名だよ」
どんな奴がというところまで分かっているのは国の上層部とアタシらのようにギルドのトップぐらいだけどねっと肩を竦められる。
「エルフ国の危機を救い、ドワーフ国の危機も未然に防いで、エコ帝国で復活した魔神の欠片を倒したアンタが何故、ここに来ている。通りかかっただけなら胸を撫で下ろして終わるが、わざわざ、アタシに会いに来てる理由を聞こうか?」
全体的に短い髪だが一房だけ長い髪を掴みながら撫でるといった動作を繰り返しながら俺を見つめる。
俺が来た理由を考えると頭が痛いと言いたげの顔をしながら顰めている。
「なんて言ったらいいか分からないが、想像通り、よろしくない事が獣人国で起きようとしているんだ」
やっぱりかっと呟いて眉間を指で揉みながら、続けてくれっと言われる。
少し、申し訳ない気持ちになりつつ、続ける。
「多分、ある程度、ギルドでも情報が入っているとは思うが、犯人が分からない事件がそこそこ出てきてるんじゃないか?それも一個人でできないような事件が?」
それと繋がるのかっと溜息を吐いて、聞いてくる。
「全てがとは言わないが、その大半の犯人というか集団に心当たりがあると思っていいのかねぇ?」
「ああ、心当たりという不完全な話ではなく、はっきりと犯人がどこの国が関与してるかまで分かっている」
俺の返事を聞いて、固まるエルザを見て、続けていいか?っと聞くと解凍されたと同時に掌を突き付けてきて、待ってくれと言ってくるので俺は黙る。
エルザは頭を抱えながら何やら考えているようだが、なかなか纏まらないようだ。
「そんな大事になっているのかい?」
「いや、今の段階ではボヤで済むレベルだと俺は思っている」
さすが、国を救った男が言うとイヤミにすら聞こえないねぇっと呆れられる。
俺は苦笑いをして続きを話し出す。
「そのボヤで止めないと本当に大変な事になると思っている。俺の見解を言っていいか?整理の時間が欲しいなら少し待つが?」
「いや、いい。さすがにアンタが相手とはいえ、年下にここまで気を使われるのは沽券に関わる」
どことなく拗ねた感じに見えるエルザが可愛く見えて、思わず笑ってしまった俺を睨みつけて、続けろっと怒鳴られる。
「今の段階では、犯人が特定できないから普通の事件として扱われ、騒ぎにならないだろう。しかし、国が関与してるかもっと思える証拠が出てくるとどうなるだろうか?どこの国がっと他国全てが怪しく見えてこないだろうか?」
「それはそうだろうねぇ、例え、どこの国が一番怪しいと思っても他の国が大丈夫かどうか分からなくなるだろうね」
俺は頷き、続ける。
「そこで獣人国が周りの国を信じられなくなって得をする国はどこだろうか?」
そう俺が聞くとエルザは腕を組み、考えを纏め出す。
ブツブツと呟いているのは話を並び直して、問題を洗い直しているのだろう。
そして、纏まりきったらしいエルザは勢いよく顔を上げると強張った顔をして俺に詰め寄るように聞いてくる。
「相手は、アタシらと、いや、獣人国と戦争、もしくば、自分達の都合の良い取引をする為に孤立させて有利に進めようと言う事かい?」
「ああ、俺もその可能性が高いと見ている。そして、その国が関与してるとはっきり分かる相手が工作してたから間違えようがない」
指を組んだ上に顎を乗せて、間違いはないんだね?っと聞いてくるので俺は間違いないと頷く。
「相手はエコ帝国ってことかい。そんな相手にどうやって立ち合えばいいって言うだい?アンタがここにアタシに会いに来たって事は勿論、絶望させにきたとかじゃないよねぇ?」
苦笑いしつつ、俺は勿論だっと伝える。
「もう既に獣人国に入りこんでいる奴らをこのバーバラにおびき寄せる為の狩りは開始している。そいつらをこの首都で晒して、エコ帝国に糾弾の材料にする。その為に獣人国という国との口裏合わせが必要だと判断した俺はここに来た」
「つまり、アタシを獣人国のトップとのコンタクト取る為に顎で使おうって事かい?」
俺は頭を掻きつつ、お願いしますと頭を下げると嘆息される。
「本当に救国の使者とか色々言われて、増長してもおかしくないのに腰の低い子だねぇ。分かった、このエルザ姐さんに任せな」
快諾してくれたエルザに感謝を告げると手を振って言ってくる。
「アタシ達の危機を救いに来てくれてる側に礼を言われたら立つ瀬ないじゃないかい」
「俺は俺で自分の目的の為にやってるつもりなんだよ」
苦笑いしつつそう伝える。
エルザはアンタって子はきっとそう言いつつも中身を見れば、アンタには直接関係ない事だったりしそうで怖いねぇっと笑われる。
そう言われて、俺は肩を竦めるとエルザに注文を付ける。
「悪いんだけど、伝える相手は王だけにして欲しいんだ」
「何故だい?周りに伝えないとアンタが会えないだろう?」
エルザの懸念はもっともだったので、間者の心配を告げるとなるほどと言われるがどうやって会うんだい?っと聞かれる。
「大丈夫、俺は絶対に見つからない自信がある方法があるから忍び込める」
俺が自信満々に言うと、いつでも救国の使者から天下の大泥棒になれるねぇっと笑われる。
着てる服を一発で脱げるようになったら少しやってみたいなっと思う俺がいた。
「コンタクトが取れたらどうやって連絡したらいい?」
エルザにそう言われると俺は拠点扱いにしている空き家を伝える。そこに冒険者ギルドと分かるようなものを置いといてくれたら、俺は忍び込むっと伝えると了承される。
エルザと別れ、俺は再び、グリードを追い詰めているゴビ達の様子を見る為にバーバラを後にした。
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