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120話 俺はお前の可能性であり続けているか?

 俺は目の前の白髪の男を睨みつけるが、どうやら完全に視野外のようでまったく視線を寄せようともしない。

 もう、目の前にいるんだからサクっとやって後顧の憂いを取り除こうかと思いが殺意を滲ますとやっと俺のほうに目を向ける。


「なんだ?このクソガキ、殺されたいのか?」


 俺を威圧してくるが俺からすれば、そよ風のようなもの。ミランダと比べると悪いと思えるほど空気のような存在だった。

 余りな貫禄なさに俺は肩透かしを食らった気分になり、愚か者を見る目で見ると怒り狂ってくる。


「どうやら馬鹿のようだな。その愚かさが早死の要因だったとあの世まで持っていけ」


 グリードは剣の柄に手を置くのを見ても俺は慌ててず、白けた顔をして見つめているとミランダが失笑して口を挟む。


「貴方は10年経っても相手との力量差を見抜けないのね。目の前にクソガキは貴方がペットと呼んだ美紅と互角、もしかしたらそれ以上の使い手を相手に貴方は本当にその剣を抜くの?」


 ミランダの言葉に目を剥いてミランダを凝視して嘘を言ってなさそうだと思ったグリードは俺を見て硬直しながら汗が滝のように流れる。


「だから、貴方は3流なのよ。弱い相手を精神的に追い詰めて言う通りにするぐらいしかできない屑ね。美紅を引き取る?引き取りたかったらその目の前のクソガキと呼んだ相手を倒してからにするといいわ」


 できるものならねっとミランダは鼻で笑う事で挑発する。

 相手はプライドだけは高そうな相手だから引くに引けない状態になっているようだ。こんな相手に美紅が怯え、俺達の間に亀裂が入る危機を迎えていると思うと呆れと苛立ちが同居するような気持ち悪さに包まれた。


 正直、こんな腐れと剣を交わしたくないが、こいつがいなくなったら美紅の枷がなくなるならいいかという気持ちになってくる。

 本当なら美紅が乗り越えるのが一番なんだが、こんなやつと関わる機会など少ないほうが俺の精神衛生上良いと判断した。


「お前から抜けないなら俺から抜いてやろう」


 俺はそう言うとカラスとアオツキを抜くとグリードは慌てて言ってくる。


「くっ、もしかして、お前が美紅を結界から出したトールというガキか!聞いているぞ、たいした強さもないのに武器の力で強いつもりの馬鹿野郎だってな」

「なんだ?武器が替われば勝てるって言いたいのか?ミランダ、なんでもいいから剣2本貸してくれないか?錆びててもいいから」

「ちょっと待っててね」


 俺が呆れながらミランダにそういうのを見て、更に慌てる。

 報告では剣の力だけで本人はたいしたことないっと聞いてたのにっと呻きながら退路を確認しようとした自分に気付き、苛立ち、クソッっと悪態をついていた。


 もう全てが3流臭がしてうんざりしているとミランダが2本の剣、籠売りされてそうなボロそうなのを選んできてくれた。


「これで文句ないな?」


 俺がそういうとグリードは辺りにある椅子や机を掴むと俺に向けて投げてくる。最初は避けていたが苛立ちから思わず机を両断する。

 両断した机を茫然と見つめるグリードはミランダの上げた声にビクつく。


「トール!アタリもしないものを斬らないでっ!お気に入りなのに!」


 そんなトロ臭い攻撃に何してるのよっとブツブツ怒る。


 俺とミランダに敵としても認識されてない事にくだらないプライドが傷つけられたらしく、プルプルと震えていた。


 そんな時、部屋のほうから3人が何事かと出てくるのを見て、ヤバいっと今頃気付いた。

 眠そうなルナとテリアは目を擦りながら俺達を見つめているが美紅の顔が蒼白になっていた。


「愚図がやっと出てきたか!まあ、いい。俺が退却する為にこのガキとの間に立って俺の退路を守れ!」


 そう言われた美紅は条件反射のようにすぐに俺とグリードの間に入り、俺に向けて剣を抜く。


「美紅、自分を強く持つんだ!そんな屑にお前が命令される謂れはないんだぞ?」


 美紅は何も答えず、その場を動かない。しかし、剣を握る手が震えているのを見て、美紅も恐怖と闘っていると俺は信じた。


「いいぞ、俺が退却したら、後を追ってこい」


 そう言うとグリードはマッチョの集い亭を飛び出すが、ルナによって阻止される。


「逃がさないの。美紅がおかしくなっている原因を逃す訳ないの」

「くそう、助けろ!美紅!」


 お前はそれしか言えないのかっと怒鳴りたくなるぐらいに常にジョーカーを切る事しかできない、へぼプレイヤーを見ているようで腹が立つ。

 美紅は従順に命令通りに駆けつけようとするが、今度は俺が立ち塞がる。


「美紅、自分で止まれないのなら俺が止めてやるよ。腹に溜まっているモノを吐き出すつもりで斬りかかってこい。俺が受け止めてやる」


 泣きそうな顔をしている美紅の前で俺はミランダの剣を放り投げて、カラスとアオツキを抜くと美紅が斬りかかってくる。

 上段から遠慮のない攻撃をしてくる美紅の剣をアオツキで受け流すとカラスの柄で美紅の腹を突くように殴る。


「どうした、普段の美紅なら避けるまではなくてもガードはしっかりしてるぞ」


 腹を突かれて呻く美紅は再び斬りかかってくる。

 2人の剣が交わる度に音が響き渡るが、数合するとまるで音楽を奏でるように、そして、2人は剣舞を踊るように刃を重ねる。

 室内なのにも関わらず、テーブルや椅子に当たることもなく、廻りを傷つける事もなく予定調和のように打ち合う。


「綺麗っ!まるで踊っているみたいっ!」

「ふっふふ、美紅はそんな状況に戸惑っているみたいなの」

「そうね、美紅ちゃんの心は混乱状態だけど体はトールのリードに引きつけられてるみたいね」


 廻りから見るとそんな感じに見えるそうだが、俺はただ、美紅と訓練してるぐらいのつもりでしかない。


 それから、どれくらいそうしてたか分からないが一旦、お互い離れる。


「美紅。お前は前に言ったよな?俺はお前の可能性だと。今日、俺ってヤツをしっかり見せてやる」


 いきなり何を言い出すんだっといった顔をする美紅を無視して俺は天井スレスレまで飛んで美紅に両手を広げて斬りかかろうとする。

 それに反射で反応した美紅は上段から斬りにやってくるのを確認した俺はニヤリと笑うと両手に持ってた剣、カラスとアオツキを明後日のほうへと放り投げる。

 そして、空中で大の字を描いたまま美紅へと落下していく。

 美紅は斬りかかった剣を止めようと反射的にしようとするが完全に止める事ができず、俺を浅くではあるが斬りつける。

 恐慌状態に陥りそうになる美紅を剣ごと抱き締めると俺は頭を撫でながら言う。


「ほら、美紅はちゃんと俺を傷つけたくないと思って剣を引こうとした。自分の意思で動ける人間なんだ。だから、負けるなっ!自分だけでどうにもならないと思ったらいつでも俺を頼れ。何度でも体を張ってでも止めてやる。俺達は仲間であり、家族なんだ。前に言っただろ?」


 俺は息絶え絶えの有様で必死に言いながら、恥ずかしいからあんまり言わせるなよっと泣き事も伝える。

 美紅は泣きながら首を振って叫ぶ。


「分かりました。だから、トオル君、離れてください。そのままではトオル君の命がっ!」


 泣き叫ぶ美紅の頭を一撫ですると抱き締める力を緩めると剣を離した美紅が俺を支えて、ルナを呼ぶ。


「ルナさん、回復魔法を!」


 急いで傍に来て、必死な顔をして魔法を行使するルナにありがとうっと伝える。

 そして、俺は美紅に問いかける。


「なぁ、美紅。俺は今もお前の可能性であり続けているか?」

「はい、トオル君は私の標です」


 美紅はトオル君と会えた事実が私の希望ですっと泣きながら言ってくる。

 俺は大袈裟だと笑うと傷口に響いて、身を捩って更に痛み、泣きが入る。

 そんな俺を見て、みんなが笑う。美紅も泣きながら笑みを見せてくれて俺は痛い思いをした甲斐があったっと微笑んだ。


「あの~言い難いんだけど、気付いたら、あの白髪男がいなくなってるんだけどっ?」


 テリアが申し訳なさそうに言ってくる。

 ちぃ、あの野郎、逃げやがったかと舌打ちしたくなるが堪える。


「大丈夫よ。行き先はきっと獣人国よ。あそこにアイツの部隊があるからそこに逃げ込んでると思うわ」

「じゃ、すぐ追いかけよう!」


 立ち上がろうとすると胸の痛みでうまく起き上がれない。


「トール、慌てなくても魔法で完治してから行っても帝国に逃げ帰る時間なんてないわ。それなりの人数だからすぐには動けないし、動けない任務をしてるようなの。まだ掴みきれてないけど、私の予測では、獣人国へ何やら裏工作をしてるわね」


 そう聞いた美紅が腰を上げようとしたので俺は手を掴んで止める。


「自分でケジメを付けたい気持ちも分かるが俺にとっても他人事じゃないんだ。せめて、俺の目の届く範囲で決着を付けてくれ」


 美紅はごめんなさいっと言って思い留まってくれる。


「とりあえず、トールはルナちゃんに介護を受ける事。美紅ちゃんは一眠りしてちょっと落ち着く事。いいわね」


 ミランダにそう締められる。

 勿論、異論を出す理由もない俺達は各自部屋へと戻っていく。俺はミランダに個室を用意して貰い、ルナに肩を借りて連れて行って貰った。


 部屋へと戻っていく面子を見送ったミランダはテリアの様子が獣人国の話が出た辺りでおかしくなったのに気付いていた。


「一難去ってまた一難かしらね。まだ美紅の事も小康状態だったわね」


 ミランダは疲れたように肩で溜息を吐くとグリードによって放り投げられたテーブルや椅子を直し始めた。



 俺をベットに寝かせつけたルナが回復魔法を唱えようと動作を止めると話し始めた。


「ねぇ、徹。今回、美紅が希望って言ったのを聞いて、今後、役に立つ話しか分からないけど、聞いて欲しい事があるの」


 ルナが神妙そうな顔をして言ってくる。


「勇者を召喚する基準って言ったらいいのか分からないけど、選定方法ってやつなの。まずは、勇者としての資質。これは絶対必要だけど、実は異世界人なら高い確率で持ってるものなの。むしろ、徹のようにないほうが珍しいの」


 なんだ?地味に俺をえぐってるのかっと聞き返したくなるが真剣そうに言っているからグッと耐える。


「このシステムを構築した人が無差別に呼ぶのは気が引けるから、自分の世界に未練がない人の中から召喚するの。猶予を5日持たせて、その間に気持ちが変わったらキャンセル、変わらなかったら、その2日後に召喚するシステムにしたって言ってたの」


 美紅とは1回だけ会ったらいなくなっていた。ということは・・・


「美紅に前に聞いた時、徹と会った日に召喚されたっと言ってたの。つまり、徹と会うのが後ちょっと早かったら美紅はこの世界に来てないかもしれないの」

「つまり、初代勇者や2代目勇者も同じだと?」


 ルナは黙って頷く。

 確かに、落ち着いて考えれば、和也にしろ、轟にしろ、普通なら抵抗して帰る手段を捜すなりしただろうと思う。あれだけの力があれば、誰も邪魔などできなかっただろう。

 捜さなかったのではなく、捜す気がなかったのかとある意味、すっきりする。


 俺はすっきりしたが、ルナが言いたい事はそれではないと俺は気付いてた。


「なぁ、例えそうでも、お前が美紅に申し訳ない気持ちになる必要はないんだぜ?巡り合わせさ。もし、ルナが美紅と会った事に後悔しているっていうなら話は変わるがな」

「そんな訳ないのっ!美紅と会えて、友達になれて本当に良かったと思っているの」


 じゃあ、いいじゃねぇーかっと俺はルナの頭を撫でやると顔を赤くしてベットに寝かせつける。


「徹のクセに生意気なの。回復魔法だけより寝て自然治癒も加わるほうが効果が高いの」


 プイっと横を向きながら器用に回復魔法をかけてくるルナを見て、笑みを浮かべると眠気が襲ってくる。


「悪い、じゃ、寝かせて貰う。後は頼むわ」

「お休み。徹」


 ルナの笑みを見つめてから俺は瞳を閉じて眠りに就いた。

 感想や誤字がありましたらよろしくお願いします。

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