119話 乙男(おとめ)の過去
ルナ達と別れた俺はザウスのおっさんに会う為に山を駆け上がっていった。来た当初は降りるだけでも3,4時間かかっていたのに今じゃ、たいした時間も掛からずにやってこれる。
おっさんのログハウス(自称)が目に入ると、ログハウス前で剣を振っているおっさんを発見する。
俺が前に来た時に言ったセリフを意外と気にしてたのかと思うと笑みが零れる。
しかし、眺めている時間はないと気持ちを切り替えて俺はおっさんに近づいて声をかけた。
「よぉ、おっさん」
「ん、トールか、どうしたなんか用か?」
普通に挨拶しただけで俺が遊びに来た可能性を考えないおっさんに疑問を覚え、つまらない事かもしれないが聞いてみた。
「なんで、遊びに来たとか思わないのか?」
「はぁ、遊びに来るならルナや美紅を連れてくるだろうしな?それにな、男が締まった顔してる時は遊びになんぞいかんだろ?」
敵わないなっと俺は呟くと、本題に入る事にした。
「おっさん、百歩譲って、以前、近衛騎士をしてたんだよな?」
「譲らんでも、元近衛騎士じゃ」
似たような問答をログハウスでイノちゃんを食べている時にした事を思い出し、男同士で笑い合う。
「だったらきっと知ってると思うから教えてくれ。グリードって誰だ」
俺にその名前を出された時、体が一瞬硬直して溜息を吐く。
「動いたのか?」
そう、おっさんが聞いてくるから俺は、らしいと答えた。
「グリード、アヤツは最年少で近衛騎士隊長になると騒がれた男じゃった」
おっさんは遠い目をするようにして語り出す。
「じゃが、その夢は儚く散った。歴代最高、最強と言われた人物の登場にアヤツは情報戦、人脈、そして、騎士としての戦闘力の全てを上をいかれて、元々、性格が悪いやつではあったが、人を物扱いするようになり、人としては最悪でも将としては優秀と言われるようになった。そして、美紅の教育係についたと言う話を聞いた。トールが聞きたいのはこれじゃろ?」
そうだっと前のめりになりながら聞こうとするが、おっさんは溜息を吐くと首を横に振る。
「教える気がないではなく、知らんのじゃ、本当の一部の重鎮が知っている事らしいと事は聞いた事があるが・・・」
「誰か知っている人はいないのか?」
教えてくれるなら土下座をする覚悟があると目で訴えると、呟くように言ってくる。
「美紅と入れ違いで辞めて出ていった近衛騎士隊長なら何か知っていると思う。辞めた後に来た美紅の事を気にして情報を集めていたと聞いた事がある」
おっさんは余計な事を言ったような顔をして頭を掻いている。
その様子を見ていて、前から聞こうと思ってた事をおっさんに問う。
「おっさん、ミランダとはどこで知り合ったんだ?」
「クラウドで美味そうな匂いに釣られて入った店がそうだったんじゃ」
おっさんはバツ悪そうに言ってくる。
「おっさん、後ろに言葉が抜けてるんじゃないか?『思わぬ、再会に驚いた』がな」
おっさんはアチャーっと言いそうな顔をして手で顔を覆っている。
どうなんだ?おっさんと詰め寄ると渋々、おっさんは答えてくれる。
「やれやれ、絶対に秘密にしろって言われた訳じゃないから話すが、あの方はな・・・」
「という訳で、おっさんに吐かせてきた。教えてくれないか?ミランダ?いや、ミランのほうがいいのか?」
ミランダでいいわっと答えるとミランって名前の響きが嫌いだったのっと言うので何故か聞くと、
「元々、あそこで長いする気がなかったから適当に付けた名前だったんだけど、可愛くないのよね、あの名前じゃなかったら美紅と遭遇して、すぐに辞めなかったかもしれないわね」
と苦笑していた。
俺は疑問に思い、何故、すぐ辞めるつもりで近衛騎士隊長になったのか聞くと片目を瞑って人差し指を揺らされた。地味に怖い。
「トールが聞きたいのはその事なの?それとも美紅の事?」
どうやら、今日のミランダは意地悪のようで1つしか答えてくれないようだ。
なら、俺が取る選択肢は決まっている。
「グリードと美紅の事を聞かせてくれ」
「どうしても聞きたいの?聞いて気分が悪くなる話かもしれないわよ。その結果、美紅と向き合えなく覚悟はあるかしら?」
俺を覗き込むように探るように言ってくるミランダに俺は笑いかけ言ってやる。
「そうやって探るフリするのはミランダの悪癖だぜ?俺がなんて答えるか分かって言ってるんだから」
「ふふっふ、じゃ、美紅ちゃんをお嫁に貰う覚悟で聞いてね?」
えっ!そういう話なの?っと慌てる俺にしてやったりと笑うミランダが嘘よっと言ってくる。
俺はミランダに心臓に悪い冗談は止めてくれと言うとごめんねっと笑うと笑みを仕舞い、真剣な顔をして言ってくる。
「でも、聞いてて楽しい話じゃないし、美紅にとっても傷口を抉るような話なのは本当。その覚悟はして聞いてね」
そして、俺はミランダから美紅がグリードから受けていた教育という調教を聞かされ、胸糞が悪くなる。
「美紅ちゃんが誰よりも早く起きるのってその名残なのよね。ずっとグリードに囚われている」
「グリードはそんな事をして何をしようと!」
俺は目の前に今、グリードが現れたら問答無用で切り刻みたいという怒りに包まれていた。
ミランダに落ち着いてっと肩を叩かれ、答えてくれる。
「グリードは隊長の座を私と取り合って破れたわ。そして、抜けた私の後釜に座れると思っていると私と比較されて見劣りし過ぎると言われ、なれず空席にされた。そんな時、美紅が現れたわ」
当時の事を思い出すようにミランダは遠い目をする。
多分、すれ違いになって美紅を助けてあげられなかった事を後悔しているのだろうと俺は思った。
「トールも聞いた事はあるかもしれないけど、今までの召喚ではそれなりの年で能力の覚醒も早かったから来たらすぐに結界の触媒にされていたけど、5歳の女の子。それを知ったグリードは王にこう囁いたの」
『勇者の力で大陸に覇を唱えてみませんか?』
「そう言われた王の反応は劇的だったそうだわ。確かに、グリードは死を恐れない部隊を作って評価を受けていた。美紅にしていたような事をしてね。でも、失敗した。ギリギリのところで美紅はグリードに抵抗したのよ」
「それが戦わない事か?」
ミランダは、ええっと答える。
確かに、出会った時に戦うのを忌避してるように見せたが、俺がカーババードに襲われてピンチになると意外とあっさり攻撃していた。そこから少しづつ慣れて違和感がないように戦闘をするようになったが・・・
「だから、美紅は恐れている。戦闘への忌避がなくなっている、今、グリードに会って命令されたらトール達に刃を向けるのじゃないかと怖がっているのよ」
俺はまだ見ぬ、グリードに強い怒りを覚えて、叫びたい気持ちを抑えるのに大変な気力を必要とした。
そんな俺の様子に嘆息するミランダは言ってくる。
「改めて、こう見せつけられるとトールのカンって凄いわ。でも、怒りで廻りの状況を分からなくなってるのは減点ね」
ミランダにそう言われて、俺は顔上げて廻りを見渡すと、白髪の髪をセンター分けにしている糸目の年齢不詳の男が扉の前にいた。
俺はミランダに言われるように注意力散漫になっていたようで、いつ入ってきたか分からなかった。
その男は俺に一瞥すらせずにミランダに近づいて行くと話しかけてくる。
「ここに私が捨てたペットがいると聞いて引き取りに来ましたよ。ミラン元近衛隊長」
厭らしく笑う、その男を見て俺はコイツがグリードだと確信した。
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