表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
124/242

116話 シンシヤと轟

 少し遠い目をしたコルシアンさんは外を眺めながら呟いたと思ったら口を湿らせるような紅茶の飲み方をすると話を再開し出した。


「轟とシンシヤの時代は魔神の爪跡が深くまだ残る不安定な時期だったのだよ。しかも、封印はいつ解けるかも初代勇者は伝えずに姿を消して死んだと噂が流れて微妙な世の中だった」


 和也はオルデールと色々やっていた時の話なのだろうとアタリをつける。そういえば、何故そのあたりの話を廻りに伝えなかったのであろう。今のエコ帝国と同じように腐った感じだったのだろうか?


「聡明で気が強いとされたシンシヤの側面にそんな世の中で苦しむ民の重荷を減らしてあげたいという気持ちの裏返しが重鎮達にきつくあたるといった姿から誤認されがちだったと伝えられていたそうだよ」


 まあ、実際に気も強かったのも事実でかなりヤンチャだったそうだよっと楽しそうにコルシアンさんは笑う。

 そんなご先祖様に誇りを感じているのかどことなく嬉しそうに語った。


「そんなある日、民の事ついての話が重鎮達が上げてくる報告に疑問を感じたシンシヤは独自の情報網と言っても所詮、王の妹でも女のシンシアにお付きの情報員が居た訳じゃないので、なんと自分で調べに王都に行こうと城からの抜け出しにチャレンジしたんだよ」


 凄いよね、っと言ってくるコルシアンさんを見て本当にっと俺は思った。

 俺からすればクリミア王女も大概、ヤンチャだと思っていた。しかし、普通ならまず信頼できる情報を挙げる人物を捜す事をしそうなのに、このシンシヤさんはきっと迷わず自分から動いているような感じの人に感じた。


「城を脱出しようとした初日の事だよ。2階の窓から脱出を計ったシンシヤだったが女である事と王族でたいして動けもしない体だったことからシーツを利用して降りようとしたら、すぐに耐えれずに落ちてしまったんだ」

「想像すると簡単そうに見えるけど実際は結構、力がいるんですよね。自分の体重って意外と馬鹿に出来ないから」


 俺がそう言うとコルシアンさんがそうなんだよ、もしかして君も経験者かい?私もやった事あるんだよっと笑いかけてくる。


「ほとんど降りてない所から落ちたから大怪我、もしくば最悪の可能性があったんだけど、シンシヤは運が良かったのか、落ちた先で寝ている者がいたんだ」


 それがもしかしてっと俺が言うとコルシアンさんは頷く。


「そう、そこで寝ていたのが轟だった。既に勇者としての力に覚醒が進んでた事と元々のスペックが高かった事が良かったらしく怪我らしい怪我はせずにシンシヤのクッションになったらしい。そして、そこでどんな話をなされたかは分からないが、シンシヤはどこをどうやってか轟の協力を取り付ける事に成功するんだ。しかも、対価は一切なしで。轟は基本、胸の大きな女が好きだったそうだが女であれば見た目さえ良ければ蹂躙したと言われているがシンシヤだけは例外だったそうだよ」


 そう聞いた俺はシンシヤって人はどんな凄い人だったのだろうと夢想するがまったくイメージが沸かない。


「強力な協力者を得たシンシヤは轟に頼み、街の様子、魔神の欠片から至る色んな事を知る為にこき使ったそうだよ」


 なんて恐ろしい人なんだ。あの轟を顎で使っていたとか本気で信じられない。


「轟に集めさせた情報を見たシンシヤは自分の考えが間違ってない事を知るんだよ。重鎮達が自分の都合の良いように改竄された情報を上げていたことにね。そして、少しづつ城の中で協力者を募り、治水工事や住民の食糧事情の改善から色々手を付けていき、着実に成果を上げていったようなんだ」


 理屈の通じない相手には轟に威嚇させて言う事を聞かせた事もあるらしいという話を聞いて、轟にも頭が上がらない相手がいたんだとしみじみと思った。


「だが、相手が誰であれ、頭角を現す者が居れば叩く者が現れるのも必然だったよ」


 先程まで少し楽しそうだったコルシアンさんは悲しみに彩られた表情を見せる。


「重鎮達からすれば自分達の利権を潰されているようなもの、また兄である王からすれば縁組で国の中の関係強化の為に重鎮の誰かのところに嫁に出したいのに特に女の事で評判が最悪の轟と一緒にいる時間が長いと勘繰りされるという危惧したという思いが一致して2人を引き離そうという動きが裏で進行することになるんだ」


 悲しそうな表情をしてたのは短い間で今は表情を読み取れない半笑いの顔で固まりながら続きを話す。


「そして、勇者としての力の覚醒の試験替わりにエルフ国のある洞窟に行く時に計画は発動された。轟は数百名の兵士ともに洞窟に向かい1人で中に入っていくという話だった。中に入ってる時にある知らせが入ったそうだよ。シンシヤが何者かに殺されたという話をね。外で待っていた数百名の兵士はそれを知らせる為に中に突入したそうだが、生きて帰って誰もこなかったと生き残った非戦闘員の者の証言で伝えられたそうだよ」


 轟はその数百名の兵士に中で襲われたということでしょうねっとコルシアンさんに言うと頷かれる。


「私もその見解だよ。で、シンシヤは勿論、私が存在してるのが証明するように殺されてなどなかった。それはそうだよ。王としては縁組で使うつもりだったのだから」


 肩を竦めて溜息を吐く。


「そうして、轟が行方不明になった事を知らされたシンシヤは1週間呆けたように自分の部屋に閉じ籠ったそうだよ。そして、自分の部屋から出てきたシンシヤを見た者は皆して口を揃えて言ったそうだよ。まるで別人のようだったっと」


 長い間、まともに食事をしてなかった事もあったそうだが、何か覚悟をした顔をしてたという記録が残っていると。


「そして、王の進めるままに縁組で政略結婚をして男の子を1人産むと王族としての役目は済ませたとばかりに轟の後を追うように自殺したという話だ」


 伝え聞く話だけだからその隙間にどんな話があったかは想像するしかないが、分かってるところだけ見ても轟とシンシヤの間にはただの恋愛感情だけでは説明ができない何か絆めいたものを感じずにはいられない。

 国を想い、民を想った、シンシヤさんは轟の協力を得て毎日が充実してたという絵が見えるようだ。

 良かれと思いやってた事に巻き込んでた轟は自分のせいで帰らぬ人となったと気付いたシンシヤさんはどれほどの苦しみに耐えたか想像する事も俺にはできなかった。


 だが、自分は王族。民の為に国を盤石にする為に身を捧げないといけない。全てを飲む込む覚悟で縁組を受けたと思う。


 例え、体は許しても心は轟と共にと示す為に王族の役目を全うすると命を断ち、轟を追いかけたのであろう。


 なんと苛烈な人なのであろう。きっと轟もそんな彼女だから協力を惜しまなかったのであろう。おそらくこれは勘違いではないと思う。轟もシンシヤさんを愛してたと俺は思う。



 廻りを見ると直接、轟と接したルナと美紅は複雑な表情をしているがテリアは涙目でスンスン言わせている。

 確かに轟には同情を禁じ得ないが今やっている事を肯定してやる訳にはいかない。


 それを差し引いても疑問が残る。どうして、当時のエコ帝国に牙を向かなかったのであろうと俺は思った。間違いなく、加護を受ける前の轟ですら時間はかかっても滅ぼせたのではないだろうかと美紅を眺めながら俺は思う。


 話を終えたコルシアンさんはこれで私が知る全部だよっと言われる。


「有難うございます。話難い内容もあったと思いますが話をしてくれて本当に助かりました」

「知って何か得るモノはあったかな?」


 俺はそうですねっと呟くと苦笑いをする。


「得るモノはありました。ですが、轟と戦う時に刃に鈍らず戦えるか不安にはなりました」

「君が鈍らせたら、轟がシンシヤを失ったように君も失うんだよ?」


 コルシアンさんはルナ達を眺めながら言ってくる。

 俺は肝に命じますと絞り出すとコルシアンさんは俺の肩を叩いて頑張れっといってくれた。



 そして、俺達はコルシアンさんの屋敷から辞する時がきた。


「キーワードのほうは頑張って解読して出来次第、連絡を入れるよ」

「有難うございます。吉報を待っています」


 うんうん、頷くコルシアンさんに、では、またその時にっと挨拶して帰ろうとした時にコルシアンさんは美紅を呼び止める。


「ごめん、言い忘れてた事があった。美紅が結界から出ている事はエコ帝国の重鎮はもう知っている。そして、美紅、グリードが動くそうだよ」


 コルシアンさんにそう言われた美紅は蒼白を通り過ぎて真っ白になってガタガタと震えだす。


 美紅がここまで怯えるグリードとは誰の事なんだろうと美紅の肩を抱き締めながら俺は思った。

 感想や誤字がありましたら気楽に感想欄へお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ