115話 召喚された轟
テッドとピクセル見てきました。バイブル的にはピクセルが好みでしたね。とても面白かったので良かったら映画館に足を延ばしてみるのもいいかもしれませんよ?
次の日の朝、ミランダに用意して貰った朝食を緩慢な動きで食べていると眉を寄せたミランダに注意される。
「朝からだらしないわよ、トール。まだ起きてないの?」
「起きてないのっというか寝たのが日が昇ってからだったから寝たうちに入らないというか・・・」
ミランダはヤレヤレっといった顔をして苦笑するが俺からしたら苦笑で済まない。
俺は昨日の冒険ギルドでシーナさんの胸を触ろうとした事を日付も替わっている時間なのにも関わらず、美紅の説教がスタートした。まだ実際にシーナさんの胸を触って怒られるなら受け入れる用意はあった。だが、現実はミランダの胸を触って泣きたい心境で説教はどうなのであろうという切実に恩赦を期待したかったがどんどん美紅の胸への拘りが酷くなってきてるような気がする。
それが自分が原因であることに気付けないうちは美紅の説教が減る事がないと周りの者は気付いているが徹が気付く日が来るかは分の悪い賭けになりそうである。
「普通、そう聞くと色っぽい話に聞こえるはずなのに、貴方達から聞くとまったくそうは聞こえないところがなんとも言えないわね」
会話の内容では苦笑してそうなのに本当に楽しそうに笑うミランダがいた。
4人で同じ部屋でいるのにどうやってそんな空間を生み出せると言うのだと俺は溜息を吐こうとした時に、気付く。和也ならきっと何もなくてもこの空間を満喫してたのだろうな・・・っと。
どうせなら立場を交換して欲しいと一瞬思ったが、なんだろう?今、凄く面白くないって思っている自分がいるのに気付いた。
きっと和也を喜ばすのが悔しいと思ったのだろうと自己完結する。
「眠いから本当は朝飯食べたら寝に戻りたいところではあるんだけど、なるべく早めにコルシアンさんと話がしたいから頑張りますかね」
ここ最近、自分の思っている通りに予定が進んだ試しがない。詰めれる予定はすぐにでもやるべきであるというのが最近得た教訓である。
ルナは寝惚け眼なのにミランダの食事を食べながら蕩けそうになるというまさに神業を発動させていた。
きっと昨日の財政問題も忘れているだろう。問題があれば俺から話があるとでも適当に思ってそうで怖い。
ルナの将来がとっても心配で仕方がないっというのが俺の思いである。
俺はアローラにきてから激しく溜息の数が増えていると最近思う。
しかし、さっさとアローラから元の世界に帰りたいとも強くは思わない自分にも気付いていた。勿論、元の世界には大事なモノが沢山ある。
俺は周りを見渡す。美味しそうに朝食を食べるルナ、静かにお茶を飲んでいる美紅。ミランダにテリア、この場に居ない者も沢山いる。ここにも俺が大事にしたいモノがある。それをほって帰るなんて俺にはできない。
俺が帰るかどうかはその時まで考える必要なんてない。今、この世界に迫る終焉を回避させてからゆっくり考えればいい事。中途半端な状態で帰ったら悔いが残るし、俺の馬鹿なダチはきっと許してくれないだろう。
やれる事から頑張っていこう。
「ルナ、そろそろ出るからいつまでも寝惚けて食べるなよ」
俺の言葉を聞いたルナは慌てて食事を進める。
別に掻っ込む勢いで食えと言ったつもりはなかったんだがっと苦笑して見守っているとお約束を守るルナは喉を詰まらせて慌てて水を飲む姿を見てヤレヤレっと呟いた。
ルナの食事が済むのを確認すると俺達はコルシアンさんの屋敷に向かう為にマッチョの集い亭を後にした。
コルシアンさんの屋敷に着くと庭の掃き掃除をしている先日、名前が判明したセシルさんがいた。
落ち着いて考えたらメイド長と肩がきがあるということは他にもメイドがいるんだろうと思うのだが他に見た事がないと気付く。
ついでに聞こうかと思ったが止めて普通に声をかけることにした。
え?なんでだって?出てくるメイドが全部♂だったらどうするよ?
みんなセシルさんみたいに見た目で分からなかったら俺、女性不信になる自信があるぜ?
「おはようございます。コルシアンさんはおられるでしょうか?」
「おはようございます。はい、旦那様はトールさんが来られるのをお待ちになられてます。ご案内しますので着いて来てください」
挨拶に深く礼をされた後、箒を邪魔にならないように足元に置くと俺達を案内して、前にも来た事のある部屋へと案内されて扉を開けると確かにコルシアンさんがいた。
両手の人差し指を前に突き出し、ガニ股の中途半端な空気椅子をしてるような格好で俺達を見て固まる。
セシルさんは何事もなかったかのように扉を閉める。
「すいません、この部屋ではありませんでした。どうやら私の勘違いで書斎に通したら呼ぶように言われてたような気がしてきました」
「えっ?今、コルシアンさんがいたような・・・」
「いえ、居られませんでした。いるとしたら手に負えない変態が居たかも知れませんがお気にせずにお願いします」
ささっ、っと俺達を何事もなかったかのように案内を開始するセシルさんに逆らう気も起きずにおとなしく着いて行った。
書斎に案内されてソファに座っているとコルシアンさんがやってくる。
「やあ、よく来てくれた。待たせたようで悪いね」
「いえ、こちらの我儘でお時間を取らせて頂いている身ですので、気にされないでください」
何もなかったと話を進めるのが大人のやり方と俺は思い、触れなかったが触れちゃった人が現れる。
「というかっ、さっき会った時にそのまま話をしなかったのっ?」
匂いは嗅ぎ分けるが空気は読めなかったテリアは聞いてしまう。
俺は第2陣を発しそうなテリアの肩を掴んで首を横に振る。
「で、何の用?」
コルシアンさんは流すと選択したようで俺もそれに乗って答える。
「はい、2代目勇者、轟について知ってる事をお聞きしたくて寄せさせて貰いました」
俺が2代目勇者と言った時は普通だったが轟という単語が出た時、びっくりしてたのが印象的であった。
「うーん、なるほどね。誰から聞いたのかは聞かないけど、2代目勇者の名前を知っていると言う事は煙に撒けないね。でも、どうして知りたいと思ったんだい?初代勇者とは違う意味で謎とされてはいるが、わざわざ興味本位で知りたいと思うような君じゃないだろう?」
コルシアンさんに腹を割って貰う為にはこっちも割る必要があると俺は思った。
「はい、実は2代目勇者の轟と俺は会い、コテンパンにされました」
俺のその言葉を聞いて、コルシアンさんは驚きのあまり立ち上がった。
「トール、冗談なら今のうちに言いなさい。これに関しては私も流す事はできないよ?」
思わず背筋が伸びるが嘘を言ってないので続ける。
「いえ、冗談ではありません。本人が自分の名前を轟と名乗り、俺が2代目勇者と断定すると遠回しではありますが認めました」
「だとして、500年近く前の2代目勇者が生きていたというのだね」
轟の反応から自分が導きだした答えですがっと伝えてから言う。
「どうやら魔神の加護を受けて、不老不死に近い存在になっていると思われます。そこで俺は気になっていたのです。そんな存在なのに今まで息を潜めていたのは何故なのであろうかと」
コルシアンさんは腕を組んで目を瞑って続きをと促す。
「そうこうしていると轟の過去の話を1つ聞く機会を得ました。それがエコ帝国の王の妹との恋物語があるという話です。その妹の直系がコルシアンさんだとも聞きました。もしかしたら、まったく関係ないのかもしれません。ですが、手かがりがまったくないのです。話し辛い内容なのかもしれませんがどうか話して頂けませんか?」
ふぅっと溜息を吐くコルシアンさんは俺を1度見つめると美紅に視点を合わせる。
「分かった。知ってる事は話してあげるよ。でもその前に先に言っとこうか。お互いの距離を計り合う事になりかねないからね。美紅、君が勇者ということは会った時から知っていたよ」
美紅はビクっと体を揺らすが、コルシアンさんは大丈夫だよっと言うと続きを言う。
「私は勇者をああいう使い方するのは嫌いでね。王に聞かれても知らん顔するつもりだったから安心しておくれよ。まあ、勿論、やり方が嫌いってのもあるんだが、これから話す2代目勇者の話も関係あるんだよ」
指を組んで顎を乗せると静かに語りだす。
「どこまで知っているか分からないから最初から話すね。2代目勇者、轟で通すね。轟は召喚された時からとても強かったそうだよ。記録に残っている言葉では喧嘩上等っとか良く言ってたそうだよ。アローラに来てどんどん勇者としての力に目覚めると誰も手に負えない存在になったそうだ」
まあなんとなく見た目と喋り方から不良ぽいとは思ってたけどガチだったようだ。しかし、和也の時も思っていたが年代の開きが思ったよりない事が気になるが今は気にするところではない。
「本当に好き勝手やったそうだよ。住民だろうが貴族だろうが気に入らなければ力で捩じ伏せる、好みの女がいれば問答無用に蹂躙したと言われているよ」
本当に駄目勇者の見本みたいな奴だったようだ。
「そして、本来ならもっと早く接点があってもおかしくなかった2人が出会う時がきた。それが私の祖先の王の妹のシンシヤとの出会いがあったんだ」
ついにここからがまったくの未知の話に突入する。俺は聞き逃さないとばかりに座り直す。
「シンシヤは美しかったそうだが、スタイルに恵まれなかったようで・・・」
ルナと美紅をチラっと見るコルシアンさんの態度を見て俺は得心する。
ルナはクエッションマークに彩られているようだが、美紅は理解して憮然としていた。
「シンシヤはとても聡明ではあったが気が強い事でも知られていた為、轟と接点を持つと揉め事を起こすのは必然とされ、周りの努力により、半年間、接点を持たずに過ごしていた」
いくら努力をしたと言っても同じ城で生活していてよく遭遇しなかったよねっとコルシアンさんは苦笑する。
「いくら努力しても王の妹と勇者だ、どうしても会わないといけない時がくると分かっていた王の廻りに居る者も分かっていたので色々、準備をしてたそうだが、物事というのはいくら計画を立ててもその通りにはいかないとばかりに考えもしない理由で2人は出会ってしまったんだ」
そこでセシルさんが紅茶を運んできたので一旦中座してコルシアンさんは紅茶を一口飲むと、外を見ながら呟く。
「そう、出会ってしまったんだ」
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