110話 初代、2代目の足跡
次話で幕間挟んで、次章に進みます。
俺はフライパンを叩く音で目を覚ました。目を覚ました場所は昨日と寝た場所と同じの独房であることに気付くと夢であって欲しかったっと呟く。
「昨日はこってりやられたみたいでねぇか?あの子らもどことなく満足気な顔しとったよ」
フライパンとお玉を握り締めたサラさんがガッハハハっと笑いそうな顔をしていた。
アンタのせいで俺は逃げれなかったっと怒鳴ろうかと思ったが優しさと心の広さで俺は流してあげる事にした。決してやりあったら負けそうだとか思ったという事実は存在しない。
昨日の事は轟と会った以降はなかった事として俺の脳が処理を済ませていた為、昨日の事は一切合財なかった、なかった事になっているのだよ。きっと辛い事があったんだろうとご理解を頂きたい。人とは辛い事を忘れて前に進む生き物。だから同じ失敗してしまうという言葉は受け付けてません。
呆けてブツブツ言ってる俺を見たサラさんがフライパンの底で俺の頭をゴンと叩く。
頭を押さえてサラさんに恨みがましい視線を送ると、鼻で笑い飛ばされる。
「ぐだぐだ男がいってんだい。さっさと顔を洗って目を覚ましてきな」
もう飯はできてると言うと俺をほったらかしにして去っていく。
きっと朝は主婦にとって戦場で愚図ってる俺なんか相手にしてられないのであろう。
確かにグダグダしててもいい事はないから俺は顔を洗う為に洗い場を求め彷徨いだした。
顔を洗った俺は匂いに釣られるようにして廊下を歩くと俺以外のメンバーが既にテーブルに着いてる部屋に到着する。
一斉に視線が来たので一瞬逃げそうになったのだが何故だろう?考えたら駄目だと俺の何かが叫んでいた。
分からないものは分からないと諦めて、近寄ると既にフォークとナイフを持って臨戦態勢に入ってるルナが俺に食い付いてくる。
「遅いの徹!もうお腹がペコペコなの!」
ルナの背後でニャンコがニャーーって荒ぶっているイメージが見えた気がした。
荒ぶるルナを諫めてくれた者が現れる美紅である。
「まあまあ、ルナさん、来てくれた事ですし、昨日の事を考えたら多少は寝坊は致し方ないかと・・・それから、えっと、なんですか、勉強になりました」
顔を真っ赤にさせる美紅。それが伝染するかのように残りの3人も頬を染める。
轟を前にした時より震える体を持て余しながら4人から一番遠い席に座ろうとすると再びサラさんと登場により、男が情けないっと本当にケツを蹴られてテリアの隣に座らされる。
食事が開始され、頬を染めながらチラチラ見られるプレッシャーのせいで朝食を何を食べて、どんな味だった分からなくなる食事をする羽目になったとだけ伝えておこう。
食事が済んで俺達はクリミア王女に今後どうするのかという質問を受ける。本当なら嫌々、和也と修行の続きと言いたいところだったが、向こうからしばらく来るなっと言って来ている以上、行く気もないし行く方法ない。
美紅はお茶を飲みながら口を出す気がないのか俺に全部任せるつもりなのか分からないが何もリアクションを起こさない。
ルナは、ねぇ?どうするの?っと俺に聞いてくる。お前は一応、女神だよね?本気でよく忘れるけど導く立場じゃないの?っと思わない訳ではないがルナだしなっと思うと全ての疑問が氷解する思いだが、本当に良いのだろうか・・・
「次の手がかりが見つかるかどうかではあるが、あのクソ野郎が残している足跡を追いかけるのを再開したいと思っている」
クリミア王女が、く、クソ野郎?っと戸惑っていると美紅が初代勇者の事ですっと疑問に答えてあげると、はぁっと溜息を吐かれる。
「どうして初代勇者の足跡を追いかけるのですか?」
「これまで見た情報と俺のカンが混じる話だが、まず事実として初代勇者は魔神を封印などせず、消滅させる事ができたらしいがわざわざ分割封印という面倒な事をやっているんだ」
俺が話す内容は世に出回ってない事なのでクリミア王女は驚き過ぎて声が裏返り気味で聞いてくる。
「ど、どうして、そんな事を?」
「さあな?それを理解せずに魔神を倒せる力を手に入れて戦うと取り返しがつかない状況になる気がするんだ」
和也の強さは身をもって知っている。元々から魔神とやり合う気なら知る必要があると思っていたが、今は絶対に知っておかないと思わされる。あのメッセージの一部は俺の胸に仕舞っているメッセージがある。
神を殺す覚悟はあるか?である。
魔神と戦おうとしている以上、その可能性があると誰でも分かるだろうにあえて、その呼び掛けがされているところに疑問を覚える。
和也が差す、神とは魔神の事ではないのではないかという可能性が出てくる。
俺はルナをチラっと見る。途中で前に聞いた話だと思って食後のケーキと格闘しているマヌケな女神を和也は・・・例えそれで救われるとしても俺は別の答えを捜しあてて実現させてみせる。しかし、その可能性にあの馬鹿が気付いたら、どうするかと考えるだけで思わず自分の拳を力一杯握ってしまった。
「絶対に俺が望む結末にしてみせる、何があろうともだ!」
ルナを見つめながら俺は力み過ぎて声が大きくなってしまう。
そんな俺の溢れ出た激情にみんなが息を飲む。
俺の様子に驚いたルナは話も聞かずにケーキを食べてた事を怒ってるのだと勘違いしてフォークを慌てておくと背筋を伸ばして視線をこっちに向けずに汗を掻いていた。
そんな、微笑ましいルナを見て、表情が緩む。
「ああ、絶対に俺がなんとかしてみせる」
少し、落ち着きを取り戻した俺が仕切り直すように今後の予定を話す。
「まあ、とりあえず、クラウドにいる貴族のコルシアンさんと連絡を取ろうかと思っている。意外ともう帰ってきてるかもしれないしな」
「クラウドのコルシアン?もしかしてコルシアン公爵の事を言っているのですか?」
公爵?っと俺は固まる。横を見ると美紅も固まっているがルナとテリアはピンときてないようだ。
「えっと、ピンクの作業着を着て、初代勇者の第1人者と呼ばれるコルシアンさんって公爵なの?」
否定して欲しくて聞き返すがクリミア王女はあっさり打ち砕いてくる。
「ええ、少々曰く付きではありますが400年以上前の王の妹の血筋の先がコルシアン公爵です」
やっと俺と美紅が固まっているのかルナも分かったようで、ウソっ!っと叫んでいる。気持ちは分かるがそこまではっきり言ってやるなっと俺は心で思った。
公爵っといった風の偉そうな雰囲気はまったくなかったが・・・あっ、でも、時折、別人のように威厳を感じさせる瞬間あったっけ?
「で、曰く付きというのはどういう意味なのですか?」
俺より復帰が早かった美紅が俺も聞きたかった事を聞いてくれた。
美紅の言葉に一瞬の迷いが生まれたが、あっ、っと呟くと苦笑する。
「コルシアン公爵の家系の話は王族と高位の貴族以外、禁忌とされてたのですが、王族と決別してるうえ、特に貴方達に話すのを躊躇う理由などない事をうっかりしてました」
習慣というのは簡単に抜けませんねっと笑うとすぐに納めて話出す。
「私も詳しい話は知らないのです。おそらく正確に知っているとしたら、お父様、王とその側近、当事者であるコルシアン公爵だけでしょうが、私が知っている事は、コルシアン公爵の祖先、王の妹は2代目勇者と恋に落ちたと伝えられてます」
その言葉を聞いた俺達は椅子を蹴って身を乗り出した。
これは何が何でもコルシアンさんに会わないといけない理由ができたと俺達は顔を見合わせて頷いた。
クリミア王女もそれ以上の事は知らないらしい。初代勇者もそうだが轟の事も謎だらけで困っていたところで思わぬところで手に入った情報を無駄にはできないとばかりに、クリミア王女に礼を言うと俺達は戻る為の準備を始める。
昼前に準備を済ませると俺達はクリミア王女に見送られる形でモスの街の外にいた。
「来た時も突然ですが帰るのも突然なんて酷いです」
クリミア王女は笑顔で俺にそういうと手を取る。
「必ず、貴方が立つ時、その後ろには私がいます。きっとです。その日までお体を大事に無茶されないでくださいね」
俺を下から見上げる。あの勝気な目が縋るような視線でそれはかなりヤバいので勘弁してください。主に勘違いしがちな思春期の少年には辛すぎます。
俺からそっと手を離すのを見て内心、ホッする気持ちと残念な気持ちに挟まれた。
「美紅、ルナさんも次会う時までお元気で・・・」
そう言うとルナ達に近づいて何やら言っているようだ。すると3人の笑みが黒い事になっていた。はっきり言って怖い。
そして、仕切り直すようにしてクリミア王女はテリアにまたねっと女の子らしい可愛い挨拶をしていた。何故、ルナ達ともそれができない?
そして、クリミア王女と別れ、俺達は馬車に乗り込み、クラウドへと進み始めた。
「お姫様、良かったのかねぇ?一緒にいかなくてもぉ?」
私の後ろからサラが現れると声をかけてきた。
「まだ、私はやらないといけないこともありますが、何より、少しでも近づいたと思った背中がまだまだ遠いところへと進んでいました。まだ、あの人の隣は勿論、着いて行く事すらできません」
「そっかな~、男なんて単純なもんだぁ。バッチっと一発接吻して好きだぁって抱きつけば、お姫様相手だったら誰も首を横には振らんっしょ?」
それを自分がしてるところを想像しただけで顔が真っ赤になるのを自覚して両手で顔を覆う。
サラは、はぁっと大袈裟に溜息を吐くと言ってくる。
「かっけー事言ってて、お姫様が恥ずかしいだけだべ?他のみんなが今のお姫様見たら・・・」
「あ、言ったら、ただで済ませんからねっ!」
私は逃げるサラを追いかけながらポカポカと殴る。
「お姫様、痛いってば、アタシが悪かったよぉ。だから、勘弁!」
私とサラはそのままモスの街へと帰っていった。
トール、私は絶対に貴方という旗を追いかけて走り追い付いてみせます。
貴方はまさに私の未来そのものなのですから・・・
サラを追いかけながら高い空を眺めた。
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