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高校デビューに失敗して異世界デビュー  作者: バイブルさん
6章 運命の三叉路、それぞれの道
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102話 ルナの選択

 クラウドの南門を抜けて、私は徹と一緒にアローラに降り立った場所を目指して歩いていた。

 別に帰るだけなら人目のない場所であれば、時間をかければどこでも帰れたが考え事をしたかった事と徹と一緒にした事などを思い出したかったから来た道を戻る事をしていた。


 しかし、それは失策だと早い段階で気付く事になる。

 徹と楽しく、馬鹿をした事などを思い出すと今、自分が1人だと余計に感じられて寂しくなってしまったからである。


 寂しさからすぐにでも戻ろうかとも考えたが、それはそれで嫌だった為、森に入ると木の枝に飛び乗るとショートカットして直線的に目的地にしていた場所へと急いだ。

 疾走するルナは風のように跳び進みながら呟く。


「徹、寂しいよ」


 それを聞いてくれる徹は居らず、その言葉を聞いて慰めてくれる友もそこにはいなかった。

 ルナは孤独を小さな胸に収めきれずに風に流れる雫が後方に消えた。



 目的地としてた場所に着くと私は静かに元の世界への扉を開く言霊を紡ぐ。向こうからこっちに来るのは簡単なのであるが、逆に向こうに戻るのが難しい。その為、どうしても精神集中と時間がかかる。

 だが、今は何も考えずに集中するしかない状況は歓迎していた。


 集中していると時間は過ぎるのが早いらしく、扉の接続が完了する。

 私は渋るように扉を開けるとゆっくりと扉を潜った。


 扉を潜るとそこは真っ白で何もない世界が私を迎えてくれたが、少しも懐かしいと思う気持ちが沸いてこない。むしろ、よくこんな場所で500年1人でいたなっと過去の自分を馬鹿にするように褒めた。

 この世界を出てアローラに行って本当に良かったと今の私は思う。

 ここで徹に会った事を思い出しながら廻りを見渡すと徹がこの世界に来た時に跨ってた物がまだある事に気付く。自転車である。


 私は近づくと徹が跨ってたのを思い出しつつ、見よう見まねで跨ってみる。跨ってみるとなんだが徹の近くにいるような気分になって嬉しくなってくる。

 ここに現れた時に徹がしてた事を思い出して真似てみる。

 ハンドルの上に肘を置くと視線を前から後ろへと流す。


「徹の車窓から・・・自転車に窓ねぇーよ!」


 徹は自分の中だけでの会話だと思っていたようだが実は声に出していた。

 あの時の事を思い出し、徹と別れてから初めて笑う。そう、こんな感じで突然現れたから私は目の前で起こっている事が現実と受け止められず呆けてしまったんだと思い出した。


 そして、ここでお互いの情報交換をしつつ、お互いの事を知っていった。その時、あの忌々しいモノと出会った事も思い出し、暗い気持ちになる。しかし、それは美紅と共に一緒にこの世から消滅させたと暗い笑みを浮かべた。


 今の自分の心の動きに気付き、苦笑いをしてしまう。

 私は徹の一挙一動で喜び、悲しみ、楽しく、泣くといった感情が溢れだしてしまう。


 やっと、私は美紅が、ミランダが言ってた意味の一端に気付く。今までの私だったら徹の傍に入れればそれで良かったと思っていた。でも、自分でも気付かないままに徹の笑顔をもっと自分に向けて欲しい、頭をもっと撫でて欲しい、そして・・・優しく抱き締めて欲しいと願っていた。

 私はそれに気付けてなかった。不幸か幸か、徹と離れる事で自分で見えなかった自分の気持ちが表に出てきた。だから私は寂しかったのだと気付く。


 そう、この感情を私は言葉では知っていた。独占欲だ。正直、綺麗な言葉ではない。しかし、この感情を爆発させて徹を独占しようとして徹に引かれたら私はきっと壊れてしまう。そうか、美紅もこの感情と常に戦いながら徹の傍にいたのかと理解する。それなのに私があんな甘えた事を言っているのを見ればキツイ事の一つも言うだろう。いや、私だったらあそこまで抑えて言えたか分からない。美紅のあのセリフは私に対するエールだったと私は思う。


「私にはルナさんがどれほどのモノに躊躇されているのか、まったく分かりません、そして、分かろうともしようと思ってません。結局はルナさんが決める事であって、選ぶべき選択です。ただ、選択次第では私はルナさんの前に立ち塞がる事を辞さないつもりです」


 あの時はああ言う美紅を少し恨んでしまっていた。でも、違うと気付いてしまうとやはりあの時の私は甘えていたんだなっと反省する。

 私はそっと自転車から降りて、音も立てずに静かに置くと少し前に進む。


 再び、言霊を紡ぎ出す。先程とは違う扉を開く為に私は唄うように奏でた。そこに納められた、このアローラを最後に見限って去っていった女神、私にとって姉であり、母であったその人が置いていった物を取り出す為に・・・


 今からやろうとしている事は私にとって禁忌を破るに等しい行為だ。その為、言霊を唱えながら嫌な汗が噴き出してきている。その最中、私は500年ほど前に最後に去った女神との会話を思い出していた。



「さあ、ルナ。もうこの世界は救うに値しません。一緒に新しい世界にいきましょう」

「そ、そんな、まだこの世界は終わってません。なんとかできるかもしれないの!」


 必死にそう言う私を残念そうに見つめながら首を振ってくる。


「貴方も私の隣で見てきたでしょう?あれほど手を尽くしても勇者召喚システムをただの結界媒体召喚ぐらいにしか考えずに使う子らを。そして、廻りを見渡しなさい。あれほど緑溢れた場所だったのに既に私達がいる周辺以外、真っ白な世界に飲み込まれています。すぐに召喚もできなくなり滅ぶのを待つだけです」


 それでも、私は、でも、でもっと子らを擁護する言葉を必死に探す。


「私が愛した人ですら、私を裏切った。もう何も信じられないのですよ」


 それを言われると私はでもっと言えなくなる。


「さあ、もう分かったでしょう?一緒に行きましょう」


 私は辛かったけど首を横に振るとあの人は悲しそうな顔をする。


「まだ、助けられるかもしれないの。最後まで諦めたく・・・ない!」

「落ちこぼれの貴方1人で何が出来ると言うの?」


 歯を食い縛って泣くのを堪える。そんな私の様子を見て、あの人は嘆息する。


「分かったわ、最後まで足掻きなさい。私が全力の念を込めて造られた弓を置いていきます。諦めたら、その弓を媒体に私を追いかけてくるのよ?でも、忘れないで、その弓をこの世界から例えばアローラに持って行けば私の下に来れなくなると言う事と、その弓の力は使いこなせば絶大だわ。でも使い方を間違えれば護ろうとしたアローラすら滅ぼしてしまうモノである事を忘れないでね」


 そう言うとあの人はこの世界から姿を消した。



 言霊を唱え終えると目の前に思い出してた通りの黒と銀で装飾された弓が現れる。それを見つめつつ私は呟く。


「ごめんなさい。私は貴方より徹を選ぶの。これからも徹と共に居る為に私は貴方と決別するの」


 私は迷いを捨てて弓を握った。


 私はあの人から卒業する時が今だと思う。これからは自分で決めて、後悔すら飲み込んで進もうと握り締めている弓に誓った。


 軽く弓を引いてみる。しかし、あの人のように上手に使える気がしない。徐々に慣れていくしかなさそうだが、もう諦めないとだけ決めた事が全てだと思った。


 そう、自分の腹が決まると無性に会いたくなってくる。あの馬鹿に少しでも早く会おうとアローラに戻ろうとした時、嫌な気配がエコ帝国を包んでいる事に気付く。その悪意の塊といったモノがある場所を目指して動いているのを察知した。この世界にいなければ決して気付く事はできなかった。これが良かった事かは分からないが急ぎ、そこに行かねばと自分の背中を押す存在を感じたような気がする。


「きっと、あの馬鹿もあの場所へきっとくるの!」


 ほっといても渦中に行ってしまう。愛しい馬鹿と合流する為に私はアローラへと帰還を急いだ。

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