101話 主従関係、やっぱりアンタが最強
私は恥ずかしさで死にそうになりながら私を見ながら遠慮なく笑うフレイドーラを睨みつけていた。ひきつけを起こしかけている状態から私の怒りの視線に気付いたらしく必死に笑いを抑える。
「今代の勇者よ、汝の思いの丈しかと受け止めた。我を使うがいい・・・ぷっ」
どうやらツボに入ってるらしく抑えきれなかったようでそれを皮切り再び、爆笑し出すフレイドーラ。
私はその様子を冷めた目で見つめ、そっと自分の得物を抜こうとするとおじ様が柄を押さえて止めてくる。
「ワシは何も聞いとらんし、何も見とらん。そうじゃろ?嬢ちゃん」
真摯な表情で言ってくるおじ様を見た私は声に出して聞きたかった。
どうして、顔を真っ赤にして肩が震えているのですかっと・・・
しかし、おじ様がなかった事にしてくれるなら暴れるのは得策じゃないと唇を噛み締めて耐える事にした。
「では、早急にクラウドに帰って、フレイドーラさんを武器に変えて色々、証拠隠滅しなくちゃならないので帰りましょうか?デンガルグのおじ様」
「ああ、ワシも腕が鳴る」
私の気迫に押され気味なおじ様と完全に押されたフレイドーラは反対意見はなかった。
「今代の勇者よ、決して特に徹には漏らさないので優しくお願いしたいのだがどうだろうか?これからの相棒と上手くやっていく為に必要な事だと思うのだが?」
私はニッコリと笑い、相棒に告げる。
「ええ、そうですね。クラウドに帰るまでにどれだけ誠意を見せて頂けるか次第でしょうか?」
私の言葉を聞いた何故か2人が固まる。
固まった2人が顔を寄せるようにして小声で話し出す。
「なんと恐ろしい娘なのであろう。さすがというべきか我が友は一緒にいて平気とか器の大きさを感じるぞ」
「ワシも小僧と馬鹿にしていたがこれからは敬意を払って対応したほうが良い気がしてきたぞ」
我が身を守る為に盾が必要だとお互いの意見の一致をみた。
情けない男同士の相談事を聞き逃さなかった私は2人に声をかける。
「ちゃんと聞こえてますよ。おじ様は1人でその核を持って来てくださいね?」
「ちょっと待て、嬢ちゃん。それは余りに無体ではないか?」
ほんのちょっとだけ殺気を込めて言う。
「お願いしますね?」
「わ、分かった。任せろ」
恐怖に震える2人はお互いの目を交わしただけで同じ事を考えている事に気付けた。
「「徹のいないところで美紅は絶対に怒らせてはならない!」」
2人の間で不文律が生まれた瞬間であった。
再び、馬車で2日揺られる間、フレイドーラの土下座により和解に至り、おじ様の作業場で鍛冶を始める事になったのだが、今回は私専用で尚且つ、エンシェント級のフレイドーラの核を使うとあって、通常の方法でできないので私に説明を始めた。
「まず、核は火などで熱したところで何も変化させる事はできん。だが、魔力を火種にして熱し続ける事でやっと加工ができるようになるんじゃが、ここからが厄介なのじゃ」
顎鬚を撫でながら言い渋るおじ様に先を促す。
「今、言ったように魔力を火種にして加工はできる。が、しかし、魔力の供給が途絶えると固まってしまうのじゃ。しかも一度途絶えさせるともう加工が不可能になってしまう。嬢ちゃんなら1人で賄える量だが普通なら何十人の魔法使いが交代をしながらやらないといかん。そのうえ、加工には時間がかかる。嬢ちゃんの魔力が持つとしても何日かかるか分からない長丁場に耐えれるか不安じゃ」
おじ様の言葉を聞き、私は状況整理をする。
まず、魔力量は私1人で大丈夫なようだが、何日もかかる作業中、魔力を切らす訳にはいかず、かといって交代要員もいない、ルナさんが居れば話は変わったのかもしれないが、ないモノ強請りというものだ。そんな状況下、一発勝負の作業をする事におじ様は不安を感じているようだ。
しかし、私の答えは決まっていた。トオル君が言っていた言葉を実現させる為に私は動く決意を貰ったあの言葉を思い出す。
「俺達の時間は終わらない、終わらせない為にやるべき事をやろう」
そう、私達の時間は2代目勇者や魔神に潰される訳にはいかない、もっと言えば私達に振りかかる理不尽を全て払う為の努力と賭けから逃げる気はない。
「おじ様、何も悩む事はありません。すべき事は見えていて立ち止まるは愚者の所業です」
私の迷いのない発言を聞いたおじ様は目を剥いて私を見つめていた。
「我の相棒はどうやら、徹並にチャレンジャーのようだな」
くっくくっと笑うフレイドーラに会心の笑顔を向ける。
私はおじ様、怖気付かれるならガンツさんにお願いしにドワーフ国に行ってきますが?っと言うと目の色を変えて答えてきた。
「馬鹿モン!誰が怖気づいたじゃと?ガンツにこの核を打ちきれるものかっ!」
おじ様は肩をいからせて奥に行くと道具を掻き集め始める。
その様子を見ていたフレイドーラは私に聞いてくる。
「本当に良いのか?汝、1人で何日かかるか分からん作業中、寝る事も許されないのだぞ?」
「覚悟の上です。それぐらいしないと私の親友に顔向けできないぐらい罵倒しちゃってるんで」
掴みどころを求めてたルナさんを振り払って追い払うようにして決断を迫った自分を許せない気持ちが私に覚悟を決めさせた。
「そういう不器用なところまで徹の真似をする必要はないだろうに、馬鹿だな」
「褒め言葉ですよね?トオル君を友と認めている貴方の言葉なのだから?」
そんな私を見て嘆息するフレイドーラ。
「どれだけ徹が好きというのだ。まあ、だから、汝はそれが過ぎて・・・なんでもない」
微笑んでいる私から思念体なのに冷や汗を流し視線を反らしつつフレイドーラはペコペコと頭を下げてくる。
動かぬ笑顔のまま、私は優しく言う。
「次はありませんよ?これは最終勧告です」
「分かった、我の肝に命じておく」
私はもう肝がなかったという冗談は好きではありませんよ?っと先に釘を刺すとフレイドーラは、うぐっと唸り声を挙げて固まる。どうやら、うっかりした時に使う予定だったようだ。
もう、どっちが上で下か確定したと言えるだろう。おそらくフレイドーラは美紅に逆らう事は無理と思われた。
道具を集め終わったおじ様が戻ってくる。
「さて、先程の話が途中だった事を捜してる間に思い出したから、まずは続きからじゃ」
やれやれ、嬢ちゃんに上手い事のせられておるなっと愚痴りながら説明を始める。
「核から打つ鍛冶というのは傍目から見てるとただ、槌を同じ所を叩いているだけに見えるんじゃが、実はイメージを叩きつけておるのじゃ。イメージが魔力に反応させて形にしておるのじゃが」
ちなみに素人が同じ事をやっても無理らしい。通常の鍛冶を一定以上の腕を持ち、作業の工程を何も考えなくても自然な流れで出来る事が条件だと伝えてくる。それができるのは、この世でワシだけでガンツには無理じゃっと主張するがきっとガンツに聞いても同じ事を言いそうな気がする。
「まあ、そこで終われば通常の核から造る武具のやり方なんじゃが、でっかい口を叩いた嬢ちゃんはもう1段階上を目指そうではないか?」
「それ以上の武具を作る事が可能なのですか?それならやらないでどうするのです」
私はおじ様の言葉に食い付く。
そんな私の様子を見てヤレヤレとばかりに溜息を吐く。
「簡単な話だったら最初から勧めておるわい。これはワシと嬢ちゃんのイメージをピッタリ合わせるのは勿論の事、嬢ちゃんが魔力を放出しながらブレないイメージを常に送り続けるという苦行じゃぞ?しかも中途半端なイメージや核と相性の悪いイメージだった場合、通常のものより劣る事にもなりかねない」
そう言うおじ様の言葉に私は確認する。
「ですが、その方法が上手くいけば、通常のものより優れた物ができるのですね?」
「比べ物にならんものができるが、いっとるように一瞬でもブレたら終わりだと・・・」
「おじ様が1段階上をって言ったんですよ?それを私に言ったらどうなるかなんて分からなかったはずはないです。2度目ですが、すべき事は見えていて立ち止まるは愚者の所業です」
敵わんなっと頭を掻いたおじ様が小さな棒を渡してくる。
「灯火棒っと言ってな、強くイメージしたものを近くにいるものに伝える事のできるアイテムじゃ、1発勝負じゃ。ワシは決して見たイメージをブレさせん。後は嬢ちゃんが魔力を放出しながらブレさせなければ失敗なんぞないとワシは鍛冶生命をかけて断言する」
私は受け取ると迷うそぶりも見せずにイメージし出す。
白く、穢れを感じさせない純白。邪を払う強き白。振れば白き火花が散り、振り抜けば白き閃光が貫く。自分の身の丈ほどある刀身は軽く反っている片刃のバスターソートタイプ。
そのイメージがその場にいるものに伝わる。
おじ様は、むぅっと言うと目を瞑りイメージを反芻しているようだが、フレイドーラは楽しそうに笑いながら言ってくる。
「あの白き炎は我が徹に最後に放った炎をイメージしたな?」
「ええ、とても綺麗で相手がトオル君じゃなかったら消滅してそうな純粋な炎と光を感じました」
あの炎は破邪の力であった。とはいえ、充分威力はあったのでトオル君もかなり危ない戦いをしていたのは間違いなかった。
「ふんっ、では始めるぞ。嬢ちゃん」
私は、はいっと答えるとおじ様の後ろについて歩き出した。
トオル君、私はきっと貴方の隣に戻って見せます。そう覚悟を改めてする。
作業を開始した。
そして、武器は完成する。時間にして丸3日という時間を費やしてついに完成を迎えると私達はその場で意識を失う。きっとトオル君がいたらトオル君が寝るまでは必死に耐えただろうがいない今、あっさり意識を手放した。
それから数時間後、ミランダの使いと名乗る人物から渡されたミランダ直筆の手紙を読むと私は完成した武器を手に取ると、おじ様に挨拶をするのを忘れて身一つでクラウドを飛び出した。
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