93話 手探りで進む分かれ道
今日、散髪にいってきました。
(^○^) どうされますか?
(゜-゜) 男前にお願いします
(;一_一) ごめんなさい無理ですよ~
徹の気持ちが痛いほど分かる瞬間でした。バイブルが頑張ってカッコ良く書いてやるからな!
と馬鹿な事を考えながら髪を切られてきました。
早朝、俺は起きると静かに身支度をすると廻りのベットで眠る、いや、誰一人として寝ている者がいないのは最初から気付いていたが気付かないフリをしたまま静かに部屋を出た。
食堂に来ると死屍累々といった有様で高いびきを奏でる者が多数といった状態を見て苦笑してしまう。今、クラウドでは明るいニュースがなかったそうだから騒げて楽しかったのであろう。
実は、クリミア王女が頑張ってるせいか、色んなところで帝国に反旗を翻す者が現れ始めているらしい。その結果、帝国寄りの者は疑心暗鬼になって雰囲気が悪くなってるという実態らしい。
俺達が帰ってきた時の門番の様子も帝国に逆らう者ではっという疑いの目を向けられていたのだ。
「トール行くのね」
店の外に出たところを後ろから声をかけられる。
「護りたいモノを護り、なんとかするという言葉に説得力を持たせる為にね」
俺は驚きも振り返りもせずに答える。
なんとなく、きっと見送られるだろうなっと分かっていた。
「帰ってきた時からなんとなく感じてて、昨日の夜のルナちゃん達を見て、やっぱりっとは思ったけど、大丈夫なの?」
「大丈夫じゃないって言ったら止めるのか?」
そこで俺は初めて振り返り、ミランダを見る。苦笑しているミランダが答える。
「覚悟を決めた男の子の野暮をするような腐った女じゃないわ」
うん、違うよね、腐った男だよねっと言わない優しさは今日の俺は持ち合わせていた。
ミランダは以前に1度だけ美紅の正体を告げ、俺の覚悟を確認した時の鋭く強い視線をぶつけてくる。
「ただ、ルナちゃん達をこれ以上泣かせる結末にしたら覚悟はできてるわね?」
俺はその視線にも動じず、肩を竦める。
「泣かせたら、その時は涙を止めに行くさ、何を差し置いてもな」
俺は大きな笑顔をミランダに返す。
ミランダはクスクスと笑い、言ってくる。
「そこは普通、絶対泣かせないとか言うところでしょ?泣かせるかもしれない前提で動かないの」
「仕方ないさ、その可能性を考えて悩んだ末の決断だ。だが、その結果になろうとも必ず救ってみせると俺は決めているんだ」
情けなさから笑えてくる自分を抑えられない。本当は初代勇者の手助けも受けたくはない。でも、みんなを護る為に俺は余りにも無力だ。しかし、ノルンにも言われたが、俺にとって大事なのはプライドではなくルナ達を代表に俺と触れ合ってきた人だ。だから進むしかないんだ。
「そう、なら何も言わない。でもこれだけは何度でも言うわ。貴方達が帰ってくるのはここよ。決して迷わないでね」
優しく笑うミランダに俺は頷くと店の奥から走ってくる存在に気付く。
「待ちなさいっ!私もついていくわっ!」
店の奥から飛び出してきたのはテリアであった。
「昨日のアンタ達の様子がおかしくて様子窺ってたら別行動するって言うじゃないっ、空気読んで邪魔しちゃ駄目かな~って思ってたっ。さっきまでねっ、落ち着いて考えたら私はアンタを見極める為に来てるのに空気読むとか有り得ないからねっ?だから、私はついていくわっ!」
思わず、ドウドウっと言いたくなるほどテリアは興奮気味だった。言ったらきっと大変な事になりそうだったので止まれて良かった。
俺は溜息を吐いて、諦める事にする。昨日、ルナ達を振り切るのに気力使いすぎててテリアの相手する余力などなかった。
「好きにしろよ、ただ、どうなっても知らないからな?」
「好きにするわよっ!」
フンっと鼻を鳴らすと西門の方へと歩き出す。
「テリア~行くのは東門の方なんだが?」
顔を真っ赤にして振り返るテリアを見て苦笑する。
「馬鹿!もっと早く言いなさい」
そういうとズンズンと東門へと方向転換する。
それを俺は見つめ、苦笑いしながらミランダに言う。
「いってきます」
「いってらっしゃい、トール」
離れた所からテリアが早く来いと急かす声に俺は歩き出した。
私はルナさんと一緒に部屋の窓からトオル君が出ていくところを見ていた。正直、このまま追いかけてトオル君に着いて行きたい。でも、それが最善でなく、私達の未来を閉ざす要因にすらなると理解している、がしかしっと何度ループする思考のせいで長い夜を過ごした。
トオル君の姿が見えなくなってもトオル君が向かった先から視線を反らさないルナさんに声をかける。
「ルナさん、私も辛いですが、トオル君を信じて私達も動きだしましょう」
しかし、ルナさんの反応は芳しくはなかった。トオル君と別行動するのが寂しいというのもあるだろうが、きっとまだ元の世界に置いてきた物を取ってくる事に躊躇しているのだろう。
「ルナさん、また迷い始めましたか?私に取りに行くと言った物の事を?」
そこでビクっと肩を揺らす。やはり迷いが生まれていたようだ。
「トオル君は私達の為に、私達を信じて先に進む事を決められました。信じた私達がすべきことをしなくて、次、トオル君の前に出た時、どんな顔をして出迎えてくれるでしょうか?」
ルナさんは唇を噛み締めて目を伏せる。
「私にはルナさんがどれほどのモノに躊躇されているのか、まったく分かりません、そして、分かろうともしようと思ってません。結局はルナさんが決める事であって、選ぶべき選択です。ただ、選択次第では私はルナさんの前に立ち塞がる事を辞さないつもりです」
目を見開き、私を見つめる。きっと、どうして?っと思っているのだろう。
「ルナさんの選択次第でトオル君の足を引っ張る事になるからです。もう忘れたのですか?2代目勇者の恐ろしさを?これも忘れてませんか?魔神の欠片はまだ2つ残ってるのですよ?おそらく残りの2つは結界にいたヤツよりもきっと強い」
私の説明にルナさんは沈黙する。
「私はトオル君のヒロインになりたい。でも、後ろでキャーキャー言ってるだけで護られるヒロインにはなりたくないし、なるべきでもない。私はトオル君と共に歩けるヒロインになりたいのです。ルナさんはどんなヒロインになりたいのですか?」
ライバルとして塩を送り過ぎたかと思い、苦笑が漏れるが私は言いたい事を言って部屋を出て、行くべき場所へと歩き出した。
美紅と入れ替わりにミランダが入ってくる。
「恋の修練では美紅ちゃんに惨敗しちゃったわね。ルナちゃん」
腕組みをしながら笑いかけてくる。
「私は負けたの?」
「そうね、正確に言うとまだ勝負の場にすら上がれてないと言うのでしょうね?まだルナちゃんは恋を理解できてないから」
そんな事はないちゃんと理解してるし、徹の事を好きだと思っている。
「その顔はトールの事を好きと思ってるから恋じゃないの?って思ってそうね。でもそれって家族として好きと1人の男性として好きに区別ついてる?」
勿論と答えようとした時、自分の中の境界線が曖昧である事に気付く。
私の様子から解答を拾ったらしいミランダは私の肩を掴む。
「盗み聞きするつもりはなかったけど、ルナちゃんは何かを取ってくるか悩んでいるのよね?とりあえず目的地に向かいながら考えて、着いてからも悩んでからどうするか決めたらどうかしら?考えてから移動したら答え次第じゃ間に合わない恐れあるわよ?」
確かに答えが余計に見えなくなったように思う。今の状況だけ見たらミランダは更に迷わせ、足を引っ張りに来たように見えるがそんな事する人じゃないと私は信じている。きっと通らなけらばならない道なのであろう。
「ルナちゃん、最後に言う言葉だけを覚えておいて?『失くしたものは取り戻せないモノばかりで、思い出す事しかできない』ルナちゃんが失くしたくないモノがそうならないように私は祈るわ」
そう言うとミランダは出ていった。
私はどうしたらいいと悩み続けた。
それから数時間後、ルナは南門を抜けて歩く姿を南門の門兵のピーターに見送られていた。
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